エピローグ(3/3)
泣き叫ぶ声、道行く死体と、苦しむ人々を掻い潜り、俺は二号館の屋上へと突っ走る。
今回の変異は体中から翼が生えて来るもので、背中のみ成らず腹や目からも生えてくるみたいだ。御陰で周りは羽毛が舞い上がり、まさに終末を彷彿とさせる光景だった。
俺は電話でカオルと小倉からサポートを受けながら、ある場所に向かう。
「カ、カツヤ君……あ、あの、こんな的に、言うのも、その……アレなんだけどさ……」
「好きだ」
「……へ?」
「カオル、俺もお前のこと大好きだ」
「え、ええええええ!?」
「愛してるぞ」
「あ、あああ、愛して、てて……」
「だから、絶対救ってやる、安心しろ!」
「は、はははは、はひ!」
俺はカオルとの電話を切る。
カオルと小倉のサポートもあって、俺は息を切らせながらも、すぐに屋上へと到着する。
屋上には、やはり彼女が一人佇んでいた。
背中には綺麗に二枚の羽を生やし、付け根から血が滴っている。
「梅沢」
名前を呼ばれた彼女は振り向く。
「……松本さん?」
羽が生えたせいかもしれないが、まるで空から舞い降りた天使に見えた。
「また……懲りずに来たんですか?」
「お前に言われたくねぇよ……まだ、こんなことを続けるのかよ?」
そう言うと、梅沢は悲しそうな表情を浮かべる。
「こうしなきゃ、皆の犠牲が意味のないものになってしまいますから……」
本当に真面目な奴だな……
「……あの」
梅沢は不安そうに尋ねてくる。
「アナタの被験体……どうしますか?」
恐る恐る尋ねられる。
俺は少し、間を置いて、
「……殺さないで、やってくれ」
と、答えた。続けて――
「アレが俺の覚悟だ。もう、逃げたりしない。俺の意志なんだ」
俺は言い切った。
梅沢は、複雑そうな表情を見せ、
「だから……関わらせたくなかったんです」
そのまま、彼女は俯く。
「アナタは本当に、自分を……犠牲にしたがるんですから、この世界のカオルさんが泣いちゃいますよ?」
梅沢は、こういう結果になること予想して、俺を関わらせないようにしていたのだろうか?
だとしたら、何というか……
「お前が言うなよ……梅沢……」
と、言葉を投げ返す。
しばらく、沈黙してしまうが、そんなことをしている暇はなかった。
「……梅沢。いや、ユキ」
「え?」
梅沢は驚いた表情でこちらを見る。
俺は、少し照れつつ、
「あー……今度から、お前のこと下の名前で呼ぶことにしたんだよ。お前も時々俺のことを下の方で呼んでただろ? 下の名前で呼びたかったら呼べよ」
と、ぶっきら棒なフォローを入れてしまう。気を取り直して、真っ直ぐユキの目を見つめ、
「俺は、この世界の外に出る。この空の上へ、壁の向こう側に……カオルを救う為に」
「そう……ですか」
おずおずと、ユキは聞き返す。
「どうやって外に出るんですか? 出たとしても、いったいどうやって?」
その問いに、
「分からん」
簡潔に答える。
「どうやって出るのかは、これから探す。出た後のこともこれからだ。とりあえず外に出たら……」
俺は決めたんだ。
「あのバカを助けに行きたい」
そして、俺は左ポケットの中に折り畳んでしまっておいた紙を一枚取り出す。
「だからユキ、お前も一緒に来てくれ!」
梅沢ユキと名前の欄に書いておいたマルチ制作研究部の入部届けの申込書を差し出す。
「本当の未来の為に……」
それにユキは、驚いた表情を浮かべる。
「……非現実的ですよ」
ユキは俯く。
「そんな根性論で、世の中上手く事が進む訳ないじゃないですか……」
だが、彼女は笑顔を俺に見せる。
「でも、暴走されるのは一番困ります」
改めて、ユキは俺に向き直る。
「なので……カツヤさんは、この箱の中に異常がないか調べてもらいます。ぜひ、私達に協力して下さい!」
彼女は満面の笑みで、入部届けを受け取った。
「……ったく」
思わず俺も口元が緩んでしまう。
どいつもこいつも、素直じゃない奴ばっかりだ。
まあ、俺も人のことなんか言えないか。
こうして、世界が終わり、
そして、また新しい世界は始まる。
この世界は五分前に……
いや……
この世界は、五秒前に俺達が作ったのだ。
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