エピローグ(2/3)

 しばらくして夕方となる。

 今度は、俺が大野に呼び出されることになった。場所は、以前も話し合いをした喫煙所である。

 以前程の緊張感はなく、俺も中村に押し付けられた仕事を片づけ脱力しきっている。

「今まで申し訳ないことをした……そして、ありがとう……ようやく目が覚めた」

 大野は俺に頭を下げてくる。

「俺じゃなくて、アイツ等に言えよ。お前のこと、本当に心配していた奴等にな」

 俺は、マルチ制作研究部のある部室に目線を送る。

「ああ……ちゃんとしないとね」

 大野はタバコを口にくわえ一息着く。

 あの一件以降、一番変わったのは大野だった。

 どうやら、彼が行っていた救済は止めたみたいだ。俺は少しだけ安堵し訪ねてみる。

「それにしてもアンタって見かけに寄らず積極的というか、人望が厚いんだな。ちょっと以外だったよ」

「……そんなことないよ」

 謙遜する大野。

「そんなことはない、ことはないだろ? 小倉をあの部に勧誘したのもアンタなんだろ? カオルも、あの中村からも、アンタのこと相当信用をしていた。アイツ等が動かなかったら、俺もここまでしなかった」

「彼女達がそこまで……」

 大野は照れているのか、自分の頬を掻く。

「僕の考え方を変えてくれたのは、元々は彼女なんだ……昔も、今回もね」

 タバコを吸い終わり、話し始める。

「僕には……今まで夢がなかった」

「夢がない?」

 彼は頷く。

「自慢じゃないけど、僕は昔から一通り何でも出来た。勉強も、スポーツも、信用を得るのも、喧嘩に勝のも、何でも出来た。僕は人並み以上に物事をこなせたんだよ」

 大野は、せせら笑うよう。

「聞こえは良いかもしれないけど、僕自信は何事に対しても努力しようと思わなかった。一番になりたいという気持ちもなかったんだ。いわゆる器用貧乏だって自覚してたんだよ」

 あれだけのナイフ裁きを見せて、器用貧乏だと言えるなら、俺はいったい何なんだ?

「だから、自分が何をしたいのかこの大学に入学するまで分からなかった。将来何をしたいのか分からなかったんだ」

 そういうもの……なのか?

「でも、今は違う……トモミの夢を応援している……いや、叶えてやりたいと思っている」

 中村の夢って言うと、やはり小説家だろうか。

 そんな感じで訪ねると大野は頷く。

「今はゲーム制作に力を注いでいるけど、いずれ皆にあっと言わせる作品を作りたいって言ってたよ……実現出来るかはさておき、彼女のその真っ直ぐに未来を見つめる姿に憧れたんだ。彼女の手助けをしたいって思ったんだ」

 確かに、そんなことを考えてそうだな、あの人は……

 俺は悪戯心でニヤケながら訪ねる。

「で、惚れた女の夢を叶えてやるのが自分の夢って言いたい訳か?」

「……」

 大野は否定もせず、肯定もせず、黙り込んでしまう。

「ま、俺自身も中村は、一本筋が通った良い女だと思うよ。性格に難があるけどな……」

 いろいろな思いが駆け巡り、最終的に疲れの溜まった溜息が漏れてしまった。

 俺は続ける。

「人の夢を叶えたいっていう考え方は、俺も嫌いじゃない。中村もあの調子なら、いずれ良い小説を書いてくれそうな気がするしな」

 あれだけ勉強して努力しているなら、是非叶えて欲しいものだ。

「……ありがとう」

 大野はまるで娘が誉められている父親の如く、照れくさそうに微笑む。

「……ところで」

 だが、彼は急に真面目な表情になる。

「あの後……どうなったんだい?」

 あの後?

 いったい何のことを言っているのかと聞こうとしたが、すぐ大野は続けた。

「前回の世界の終わりの後……君は梅沢さんと一緒に外の世界に持っていかれはずだ」

「……」

 あの時の恐怖がフラッシュバックし、身体が強ばってしまう。

 寒い。

 怖い。

 辛い。

 記憶がどんどん蘇ってくる。

 俺の表情をそれを大野は悟ったらしく、

「……思い出したくないなら良い」

 と、言ってくれた。

「君は、これからどうするつもりだい?」

 これからか……

 大野はさらに続けて、

「君は……結局彼女達に協力をするつもりなのかい? それとも……」

 彼の言葉に、俺は答える。

「……まあな」

 俺は、考えをまとめていく。

「アイツ等に協力はする。だが、アイツ等の言いなりになる訳じゃない」

 そして、正直な答えを出した。

「具体的どうするのか、とかはまだ考えてない。だが、目的は決まった。現実世界の人類を再生させ、カオルを……ついでに人類も救うことにしたんだ」

「……」

 大野は、いつもの無言と共に、俺を睨む。

「まるで……物語の主人公みたいな発言だね」

 そうだな、本当に都合の良すぎる妄言だと自分でも思うよ。

 呆れられるのは覚悟していた。だが、大野はふと握手を求めるように手を差し伸べる。

「な、なんだよ?」

「図々しいのは分かっている……だが、お願いがあるんだ」

 彼は、さっきより真剣な表情になる。

「僕も君と同じことを考えていた……世界を救うのに協力して欲しい。今度は救済なんかじゃない。この世界を変える為に、皆の未来を創る為に……戦いたい」

 俺は何だかなあと思いつつ、

「「協力させて下さい……だろ?」」

 と、大野の手を取る。



 突如、夕焼け空の橙色から血のような真っ赤な色に染め上がり、遠くからは悲鳴が聞こえて来る。

「……またかよ」

「そうみたいだ……」

 俺と大野は、溜息混じりに言葉を交わす。

「僕は皆の安全を確保した後、もう少しこの世界に何かないのか探ってみるよ。君は?」

 大野の問いに対して俺は、

「……会いたい奴がいる」

 と答え、お互い違う方向へと走り始めた。

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