第11話 世界の終わり(3/8)
辺りは例の如く、地獄絵図となっていた。
今回の変異は上半身が突如爆発四散し、そこから無数の触手が伸びてくる、結構えげつない奴だ。
さらに残った下半身は尚も動き、触手を蠢かせながら周囲に向けて攻撃をするから質が悪い。
あんなのを見せられていたら、大野が仲間を殺してでも変異を止めたい気持ちも分からなくもない。
少し時間を食ってしまったが、何とか立て直し走り続けている。
すると携帯のコール音が響く。すぐさま開くとカオルからの着信だった。
「もしもし、カオル?」
「カツヤ君! 大変! 中村先輩が外に出て行っちゃった! ど、どうしよう!」
今更過ぎる報告に溜息を漏らしたいところだが、そんな暇はなかった。
「落ち着け、とりあえず小倉は無事か?」
「う、うん、大丈夫! 作業も順調みたいだよ!」
それなら良かった。
後は、梅沢を見つけるだけだ。
「梅沢は、今何処に居る?」
「今、カツヤ君が向かってる建物の中に居るよ! エレベーターに乗ろうとしていたのをマキマキが阻止したら、階段で上っていった!」
やはり、そうか……
彼女は、大学の中で一番高い建物である二号館に向かっていた。
「そこの何階に居るんだ?」
「えっと……今、三階に居るみたい……あ! た、大変だよ! 触手お化けに道を阻まれてて立ち往生している!」
梅沢も安全という訳ではないみたいだ。襲ってくるタイプの変異体は、梅沢も例外なく狙われるということらしい。
急いで建物へ向かっていく。
建物中に入ると鉄の臭いが漂う。肉片が所々に散らばり、吐き気を催す程気色の悪い空間であった。
「右にあるエレベーターに乗って! 早く!」
電話越しのカオルが焦りを隠しきれない様子で、指示をする。すると、待っていたと言わんばかりにエレベーターのドアが開く。
「梅ちゃんがピンチなんだよ! 早く! 早く!」
「分かってる! アイツは今どんな状況なんだ?」
「さっきカメラに映ったんだけど、触手お化けに追われてたんだ! 早くしなきゃ!」
とにかく急がなくては……
「何階だ?」
「四階等辺だよ! 階段の辺り!」
エレベーターに乗り、梅沢はとにかく上を目指しているので五階へ向かう。
降りた先も凄惨な状況で、所々イソギンチャクが二足歩行しているような、おぞましい化け物がのさばっていた。
ゆっくりと歩くそれは、こちらに向かって歩いて来るものの、動きは遅く簡単に撒けられる。
だが、奇妙な触手を伸ばして来るので迂闊に近寄れない。
「何なんだよコイツ等……」
今までの中でダントツの気色悪さだが、さらに今までにない程邪魔である。
梅沢が居るはずの階段に向かわないと……
「は、放して!」
叫び声が響く、梅沢の声だ。
「梅沢!」
俺は呼び掛ける。
何処に居るんだと、階段の吹き抜けをのぞき込む。
すると、上の方で触手が蠢いているのが見えた。
もしやと思い、急いで駆け上ると、そこには左手、左足を触手に捕まれた梅沢が居た。
「ま、松本さん!」
「オラ! 離れやがれ!」
俺は触手人間を蹴り飛ばすと、触手人間も怯んだようで触手を緩めた。
「梅沢! こっちだ!」
梅沢の腕を無理矢理引っ張り、この場から離れる。
「ちょ、ちょっと!」
成されるがまま、梅沢は俺に引っ張られる。
そのまま、彼女を連れて階段を下りるが、
「待って下さい! 何処に行くんですか!」
「お前に話したいことがあるんだ」
腕を振り払おうとする梅沢だが、俺は腕を強く握る。
「俺は記憶を継続させたいんだ。やっぱりこんなこと、忘れる訳にはいかない」
何とか言うことが出来た。
「……」
それ聞いた梅沢は、暗い表情を浮かべる。
「……何でですか」
「何でって……」
記憶を継続したところで、俺に出来る事なんてたかがしれている。
それなら記憶を継続せず、これ以上苦しむ必要がないと、すでに答えを出したはずだ。
俺はただの実験に使われているモルモットにすぎない……
でも、俺は言う。
「……偽物でも、俺は俺だからだ」
「え?」
小声で自分に言い聞かせる。
梅沢も聞き取り辛かったらしく、きょとんとした表情を浮かべられる。
俺が何をやっても、結局何も変わらないかもしれない。
俺は所詮偽物なんだ。
だが、偽物でも、自分の未来の為に抗ったって良いだろう。
「俺は……お前達に協力したい」
俺は、全て事実として受け止める。
この世界が、小さい箱の中の実験場であることも、
本当の世界は、すでに人類が住める世界ではないことも、
俺が本物を模して作られたクローンであることも、全部受け入れる。
だからこそ、俺に出来ることがある。
何故か、記憶を引き継ぐことが出来るのだ。
「……外の世界に居る奴に会わせてくれ、俺もこの実験に協力したいだ」
その言葉に梅沢は言葉を失い、暗い表情になる。
「貴方はそうするんですね……」
「……どういう意味だよ?」
そのまま悩むように彼女は黙り込んでしまう。
「その実験がどれだけ少人数制の方が良いとしても、梅沢を入れて二人だけなんて少な過ぎやしないか? まして、人類の存亡が掛かっているんだろ?」
「そ、それは……」
彼女は少し戸惑った表情を見せる。俺は空かさず、言葉を続けた。
「具体的な実験内容は知らないけどな、俺はお前と同じく記憶の継続が出来るんだ。お前の変わりぐらいにはなれるんじゃないのか?」
「……」
俺は、考えていることを有りの儘伝える。
「俺が梅沢の変わりになれれば、お前の負担も減らせる。そうじゃないのか?」
「……」
梅沢は非常に悩むように顔をしかめる。
黙ったまま止まってしまった梅沢を待つ訳にもいかず、
「で、どうなんだよ? 協力させてくれるのか?」
「……私一人では決めかねます」
これは、梅沢にとって良い提案だったからこそ悩んでいるのだろうか。
そんなことを考えていた矢先だった。
「うわっ!」
「きゃっ!」
突如、建物自体が大きく揺れ始めた。
俺と梅沢は壁に手を突き、その場から動けなくなってしまう。
しばらくして、揺れが収まる。
「来たか……」
揺れの正体には見当が付く。
まさに今、俺が会いたいあの大きな腕だ。
屋上に行くのも下に降りるのも、同じぐらいの位置に俺達は居る。このまま建物を上って行った方が早く会えるか?
ふと梅沢はを見た時、彼女は壁を見つめていた。何となく俺も見てみると、壁には薄くだが亀裂が生じていた。
「……一旦降りましょう。下の方が安全かもしれません」
梅沢は言ってくる。
時間は惜しいが、大野の件もあってやり直しが出来ない状況だ。
俺は梅沢の提案を飲み、二人で下に降りることにした。
「私は……」
下に向かおうとした時、梅沢は呟いた。
「アナタが、私の代わりになって欲しくはないと思っています……個人的な意見ですが……」
そう言うと彼女は先に階段を降りていった。
どういう意味なのか分からないが、その答えは後で聞こう。
俺も彼女の後を追う。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます