第11話 世界の終わり(2/8)
部室練の廊下を走り抜ける。
ただただ、遺伝子暴走で野垂れ死なないように祈るばかりだ。
俺はもう逃げない。
もう、真実から目を背けない。
梅沢に会って、記憶継続を無くさないように頼む。
そして、
そして……
「その後……どうすれば良いんだ……」
記憶を継続出来たとして、その後俺は何をすれば良い?
結局俺には何も出来ない。
「いや、駄目だ……考えるんだ」
何ネガティブになっているんだよ俺は、
もう止めるんだろ、そういうこと
俺は必死に考えながら、部室練を出た時だった。
「居たか……」
誰かが呟いたと思った途端、勢い良く俺の腹に蹴りが入る。
「……!」
余りにも突然の出来事に、不避けることが出来ずに、俺はその場で崩れ落ちる。
「うっ!」
痛みを感じる間もなく、大野の腕が俺の襟首を掴む。そして、そのまま顔面に膝を入れられるてしまう。
「……っ!」
一瞬目の前が真っ白になり、意識を失い掛ける。
「……また、君は邪魔しに来たのかい?」
大野は俺を見下ろす。その瞳は何を考えているか読み取れない程濁って見えた。
「今日が最後の日なのに……君も諦めが悪いんだね」
大野は次いでと言わんばかりに、俺の脇腹に蹴りを叩き込む。
「うっ!」
痛みから逃れようと、体をくの字に曲げる。
蹴られた部分を押さえ、懸命に息を整える。
こんな時に……畜生……
「君が何をしようと構わない。だけど、邪魔だけは、許さない……」
そう言いながら、大野は俺にナイフ向ける。
「これは救済なんだ。皆をあんな醜く死なせたくない。彼女達には何も知らず、何も関わらずに生きていて欲しいんだ」
大野が障害になること少しだけ予想はしていた。
だが、ここまで敵意を持ってくるとは……
ここで殴り合って口論になっても時間の無駄だ。この場で謝り、今回だけでも見逃してもらった方が得策かもしれない。
だが……
「……格好悪いだよ……お前」
俺は息を整え、やっとの思いで声を出す。
大野の一方的な意見に、俺は黙っていられなかった。
「アイツ等が……この状況でも、生きようとしていると言ったらどうだ?」
脇腹を押さえ、立ち上がろうとする。
「こんな状況になっても、仲間を守りたいって、自分達の未来を守りたいって思っていたらどうだ! お前の救済は、ただのエゴだ! クソったれが!」
言葉を吐き捨てながら立ち上がろうとする俺を、無慈悲に大野は蹴り飛ばす。
「ぐっ!」
後ろへ転び、何とか受け身は出来たが、再び地面に倒れ伏す。
「やはり……彼女達に話したのか……」
大野は、少し驚いた表情を浮かべる。
「……ああ」
俺は静かに頷き、そして話を続ける。
「ずっと前から、アンタの様子がおかしいって、アイツ等も気付いていたんだよ……だから、何が起こっているのか教えろ……ってな……うっ!」
言葉の途中で、大野に蹴り込まれる。
「余計なことを……」
息が上がり、意識がもうろうとする。
「君に……僕達に何が出来る。理不尽な死が訪れるこの世界に何があるんだ?」
大野は、今までにない程ハッキリと俺に向かって言い放つ。
「足掻いても結果は変わらない。いくら協力を仰いでも、なかったことになる。僕達は詰んでいるんだ……」
詰んでいる。
ああ、その通りだ。
そんなの嫌と言う程、理解したさ――
「……だからって」
手に力を入れり、
「俺達まで諦めちまったら、本当にこの世界は終わっちまうだろ!」
そのままゆっくり立ち上がる。
俺の持つ希望は、まだこの世界の全て知らないという無知から生まれたものだ。
そんな物に頼ったところで、待っているのは理不尽な現実なんだと思う。
俺も、大野も、梅沢も、皆同じ答えに辿どり着いたはずだ。
けど、俺は……
「俺は、終わらせたくない」
このまま、俺達の人生を、未来を、この小さな世界で……このクソッタレな世界で終わらせたくなんかない!
「お前は、仲間の未来がこのままで良いと思っているのか?小倉も死に、カオルも死に、お前のことを一番心配していた中村も死んじまう世界で、死んだことすらなかったことになる理不尽な世界で、お前は耐えられるのか! なあ! 大野!」
「良い訳……ないだろ」
大野の雰囲気が変わった。
憎しみの籠もった瞳、それを真っ直ぐ俺へ向けてくる。
だがその感情は、決して俺に向けたものではないことは分かる。もっと別の大きなものに対して向けているのを感じた。
「止められるものなら止めたい。救えるものなら救ってやりたいさ……」
大野は、持っていたナイフを構え直す。
「でも、どうやったって死ぬ……何処へ逃がしたとしても、どんなに守っても、皆死んでしまうんだよ」
非常に冷たい殺意を大野から感じる。
「やはり君は邪魔だな……殺した方が良いのかもしれない」
ヤバいと本能で察する。
明確な悪意を向けられているのだ。
大野はナイフをくるりと回し、逆手に持ち変えてゆっくりと近づいて来る。
「……君を殺すよ。この世界の終わりの後も、今後の世界の終わりでもだ。これ以上、君の好き勝手にさせる訳にはいかない」
手に持ったナイフを掲げ、振り下ろす。
「くっそ!」
俺は咄嗟に避けようと体を動かすが、思うように体が動かない。
このままじゃ本当に殺られる。
最悪だ。
最悪の結果だ。
これじゃあ、記憶の継続が出来なくなる。
何も変えられなくなる。
皆の気持ちも……
この世界も……
全部……
「くそおおおお!」
無理矢理体を動かそうとする。が、間に合わない。
ここで殺されたら、本当に終わりだ。
「止めて!」
俺が身構えた時には、すでに俺の前に誰かが居た。
庇うように、俺を前から抱きしめ、非常に存在感のある柔らかい物が、顔全体を覆った。
驚いたのもあるがとても息苦しく、窒息死を避ける為に抱きついて来た誰かを理矢理身体から引き剥がす。
すると、その人物はすんなりと解放してくれた。しかし、そのまま地面にひざまずきそうになる。
「お、おい!」
とっさに身体を支えてやると、俺はようやく正体に気付いた。
「何つまずいてるのよ……アンタ……」
「な、中村……」
中村だった。
彼女の背中にはナイフが刺さっており、血も滲み出ている。
俺をナイフから守ってくれたのか?
中村はマルチ制作研究部の部室で立て籠もってるはずだったのになんで……
彼女の身体は脱力しきった身体は、俺一人では支えきれなかったのだが、目の前の人物が一緒に支えてくれた。
「ヒロ……」
「……トモミ」
大野は目を大きく見開き、すぐさま中村を抱き抱える。
正直、大野に彼女を預けたくはなかった。
だが、中村は力を振り絞って、彼に近づこうとしているのを感じ取ってしまい、思わず俺は手を離してしまう。
「何で……ここに……」
大野は途中で言葉を止め、取り繕う。
「トモミ……これは夢なんだ……だからすぐに目が覚め……」
「アンタ……本当にバカ!」
中村は生き絶え絶えに、大野の言葉を切った。
「全部聞いたわよ……何か……悩みがあったら……アタシに、相談……しろって……いつも……」
ゆっくりと、中村は腕を伸ばし、大野の顔に触れる。
中村は吐血しながらも、彼に微笑み、
「次の、アタシには……ちゃんと……言いなさいよ……待ってる……から……アタシ……は……」
彼女の腕は、そっと大野の顔から離れた。
「……」
大野は中村を抱き抱えたまま硬直する。
表情も変えず、ただぼーっと中村を見つめていた。
俺はそっと、その場から立ち去る。
中村が来たのは想定外だったが、何とか切り抜けた。
「ありがとう……中村先輩」
大野には、あのまま動かないで居て欲しいのだが、果たして上手く行くだろうか……
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