第10話 存在証明(2/4)
「……ん?」
眠りに就こうとした時、何かを握り締めたことに気づいた。
それは小さく、そして堅い物である。俺は、その物の正体を確かめる為に目視する。
「……USB?」
手に持っていた物は、パソコンに繋ぐUSBメモリだった。
「これは……」
見覚えのあるそれが、いったい何なのか記憶を整理する。何気なくUSBの表面を確認すると、「ハルマゲドン」と書かれた紙テープが貼られていた。
「……ああ……あの時の」
マルチ制作研究部の部長、確か中村という隠れ巨乳の部長から、カオル伝いに受け取った物だ。確かゲームのシナリオが入っている……らしい。
そう言えば、中身は全く見ていなかった。
こんな時に、あんなつまらない内容の物を見たくはないが、やることもない。
まあ、気分転換にどれ程の酷い内容なのかを確認しておくのも良いかもしれない。
俺は体を起こして、手に持ったUSBメモリを自分のパソコンに差し込む。
[危険なプログラムが検出されたっす]
「……は?」
USBメモリを差し込んだ途端、画面中央にウィンドウが表示される。
何で急に?危険って何だよ?って言うか、何で急に俺のパソコンが下っ端口調になった?
ツッコミどころが多過ぎて、俺は硬直してしまう。
すると、画面の中にウィンドウが、いくつも開かれていく。
「お、おい! ちょっと待て!」
画面がウィンドウで埋め尽くされたと思った瞬間、ディスプレイは真っ青になり、白い文字が羅列する。
「嘘……だろ?」
キーボードを叩いても反応しない。
仕方なく、パソコンは再起動する。もちろん、USBは引っこ抜いてだ。
再起動を試みるが、反応しない。
俺は、さらに絶望した。
「クソ……ふざけんな!」
俺は、勢いで手に持っていたUSBを壁に投げつけた。
逃げ道すら絶たれた……
ここまで、いくと逆に笑えてくる。
……この感情を何にぶつければ良いのだろうか。
そう考えていると、行き着く先は自ずと見えてくる。
USBを渡してきた張本人。
「中村か……」
パソコンが壊れた犯人にするには、まだ早いかもしれないが、USBを差した瞬間に出たウィンドウの中の下っ端口調を考えると必然的に答えに行き着く。
「小倉のプログラムか……」
そう、ちびっ子エンジニアである、あの小倉の口調である。
俺は携帯電話を掴み、カオルの通話履歴から電話番号を押し込む。呼び出し音が、何度か鳴り響き、電話の向こう側からカオルが出る。
「カツヤ君! もう、何で大学に来ないの!あ! べ、別に心配してた訳じゃないんだからね!」
「おい……」
カオルのいつも通りの対応に、俺は怒りを逆なでされた気がして目眩を覚える。
「カオル、中村の電話番号を教えてくれないか……」
「中村? ああトモミ先輩か! トモミ先輩なら今横に、へぶぅ!」
電話越しからでも聞こえる打撃音と共に、カオルは悲鳴を上げる。
「お、おい? カオル?」
カオルに呼びかけるが応答がない。だが、電話の向こう側で何か争いでもしているのか物音が響き続けている。
しばらく経った後、電話の向こう側から応答が来る。
「もしもし?」
それは、カオルの声ではない、聞き覚えのある女の声だった。
「中村……先輩か?」
「アンタは……えっと、名前忘れたけど、アンタでしょ? この前部室に来たカオルの幼馴染みの」
やはり、声の主は中村で間違えない。
俺は直球で電話を掛けた理由を話す。
「ゲームのシナリオの入ったUSBを挿した途端に俺のパソコンが壊れたんだが?」
「だって、ウィルスを仕込んで置いたんだから当然じゃない」
「弁償しろおおお!」
堪忍袋の尾が簡単に切れてしまった。
隣の住人には申し訳ないが、心からの叫びを携帯電話の受信機にぶつける。
「五月蠅いわねぇ。良いわよ。直してあげるから、これからこの前来た部室に来なさい」
「何で俺が出向くんだ! お前のせいなんだから、お前が来い!」
「はぁ? 調子乗ってるんじゃないわよ! 良いから来い! 嫌なら買い換えることね!」
そのまま電話が切れる。
俺は怒りのあまり、携帯を壁に投げつける。
「くそがああああ!」
俺は壊れたノートパソコンを掴み外へ出た。
自転車で走り抜け、大学に到着する。
この理不尽さに、中村にありとあらゆる辱めを与えないと収まりが付かない程、俺の妄想は狂喜乱舞していたが、全力でペダルを漕ぎ過ぎたせいで息が上がり、到着した頃には頭に上った血も少しだけ下がっていた。
勢いでここに来てしまったが、よく考えるといろいろ不可解だ。
何で中村は、ウィルスを仕込んだUSBを渡したんだ?
しかも、間違えた様子もなく、意図的に仕込んで置いた物を渡してきた。
もしかして、誘導されてる?
いや、でも何でだ?
何でこんな回りくどいことを?
誘導しているとするなら、アイツは俺に何の用があるんだ?
考えれば考える程、意味が分からない。
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