第10話 存在証明

第10話 存在証明(1/4)

 小学生ぐらいの時、俺は映画が好きな少年だった。

 休日には親に連れられ、カオルと一緒に映画館に行くことが多かった。

 特に、主人公が大活躍する洋画が大好きで、それに憧れてその主役になりきって遊ぶバカで活発な小学生だったと思う。

 しかし、中高生に上がる頃には、ごっこ遊びなんか出来る環境ではなかった。

 仲良しグループで絡み、大人の真似事をして遊ぶ奴等ばかりで、小学生みたいな真似をすれば、集団で虐める詰まらない環境だった。

 それを悟った俺は、虐められないようにすぐさまごっこ遊びを止め、適当なグループに入り、大人の真似を始めた。

 カオルとは違うクラスになり、何故か忙しいと言うことであまり話さなくなった。

 その分、世の中と自分の考えを見比べる時間が多くなったと思う。

 世の中は、俺の求めているのと違う。

 映画やマンガにはヒーローがいるが、ここにはいらない。

 そして俺も、世の中を変えるだけの力も知恵もなく、ただのモブキャラなんだと気づいた。

 なにより、そんなネガティブなことを考えている俺が、ずっと嫌いだった。

 無力で無気力で、何もかも無関心になっていく自分が……



「本当に……くだらないよな……」

 俺は自室の蛍光灯を見上げながら呟く。

 こんな記憶も、数日前に作られたものなら、今思っているこの感情は本当にどうでも良いものなんだろうな……

 梅沢と大野、あの二人と別れて一週間ぐらい経っただろうか……

 たぶん、梅沢は言ったタイムリミットの日……だと思う……たぶん……

 その間、俺は必要最低限しか外に出ていない。

 大学にも行っていないし、バイトも休んでいる。

 出る気力がない。

 いや……出る意味がなくなったのだ。

「もう……どうしようもないな」

 俺は、レンタルビデオ店で借りてきたDVDの山に埋もれ、大の字で寝そべっている。

 あれから、どうも体に力が入らない。

 何か考えようとしても思考が停止する。

 胸に大きな穴が空き、脱力感で体が動かない。

 借りてきた映画をノートパソコンで再生し続けた。

 今日まででもう、何十本という映画を見続け迷走し続けている。

 映画の中に答えがあるのではないかと甘い期待を寄せ、いつの間にか現実逃避になり、引き籠もるようになったのだ。

 カオルからメールや着信が何通か来たが、全く手を着けていない。

 俺が借りているアパートの前にも、カオルが訪れた。しかし、追い返し続けた。

 完全に腐りきった俺は、毎日パソコンの前で映画を見て、全て見終わったらまた新たに借りてきて、カップラーメンを啜りながらまた視聴する。そんなことを繰り返す毎日を送っている。

 このままじゃ、いけないとは思っている。

 しかし、これ以上先に進めないのだ。

 自分の中で、もうすでに答えが出てしまい、何も出来ない。

「もう、このままで良いのかな……」

 俺は体を伸ばしながら欠伸を一つする。

 たぶん、ここで俺の物語はクレジットが出て来るのだろう。世界は救い切れなかったバットエンドだろうか。いや、誰も死んでないし、最初から解決してました的な、最近多い投げっぱなしなエンディングじゃないのか。

 主人公いらないじゃん、みたいな良くある失敗しているタイプの話だ。

 いや、寧ろ俺っぽい終わり方で丁度良いかもしれない。

 この煮え切らない中途半端さで、自己満足的な終わりは、まさにB級映画だ。

 いや、B級には名作が多いし、もっと酷い物かもな……

 とにかく、これで終わりだ。

 梅沢や大野が言っていた通り、俺が関与する余地なんてないし理由もない。

 何をどうやっても、無理なものは無理なんだ。

 それに誰も困っていないし、俺が我慢すれば良いだけの話だ。

 もう、止めだ。

 俺は目を閉じ、考えるのを止める。

 何も起こらなかった。

 そう、思うことにしよう。

 目が覚めた時には、全てを忘れている。

 また、あの何も事件のない、平凡な日常に戻ろう。

 それが良いんだ。


 俺は全てを忘れる為、眠りに就く。

 これで、俺が体験した不可解な現象の謎は全て突き止め、解決の道が見つからない為見なかったこととし、幕を閉じることとなったのだ。

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