第9話 箱
第9話 箱(1/3)
しばらく車酔いの止まらない俺と泣きじゃくる梅沢、そして煙草を吸いたい大野は、各々の体調を整える為に車の外へ出た。
青空の下、周りは草木に覆われ、鳥のさえずりと風で葉がさざめく音が聞こえてくる。休日に来るには相応しいのどかな場所だ。
だが、自然溢れるこんな所に不自然な存在が目の前にある。
俺は改めて、その大きな存在に触れてみる。
「やっぱり……ここにもあるよな」
本当はあってほしくはなかったが、現実はそう甘くなかった。柔らかい布のようで、反発してくる不思議な感触だ。
やはり、ここにも見えない壁がある。
この先は、例え道が続いていたとしても先へ行くことが出来ない世界の境界線だ。
「……それで、この壁は何なんだ?」
後ろを振り向き、俯いて黙り込んでいる梅沢に話しかける。
車の中で、壁のことを知っているかのように叫んでいた。予想通り、彼女は俺や大野よりも多くのことを知っている。世界の終わりも、この壁のことも、俺等のこの現状も……
もう、梅沢は言い逃れ出来ない。
しようとしても、させる気なんてない。
梅沢が逃げようとしても、俺はどこまでも追いかけるつもりだ。
「……」
大野も煙草を吸いながら、ジッと彼女を見つめている。彼もこの世界のことを知りたいと思っているのであろう。
「……」
梅沢は、黙り続ける。
だが、決して無表情ではなく、何か思い詰めるように口を噤んでいる。
しばらくの沈黙が流れるが、耐えかねたのか梅沢は重々しく一言呟く。
「ついに……ここまで気付いてしまったのですね?」
梅沢は目を伏せる。
「聞いたら……もう後戻りは出来ません。たぶん、日常には戻れなくなりますよ?」
「これ以上、何に驚けばいいんだ?」
今までの異常な出来事を思い出し、呆れと脱力感が、溜め息と共に漏れる。
俺の言葉に、梅沢はゆっくり目を開く。
俺と大野を見比べた後に、彼女はゆっくりと話始めた。
「この壁は、2020年に作られ、改良された特殊形状記憶合金と電子の薄い膜で覆われている物です」
「……は?」
「それとこの電子の壁には、画像の出力装置としての役割も持っています……つまり、この壁の向こう側に続く道は、全部背景なんです。全部張りぼてなんです」
未だかつてない程に、俺は混乱している。
「ちょっと待て! まず、2020年ってなんだ? 今は2016年だろ? 何で四年後の話が……」
「いいえ、今は西暦2031年です。この箱の中の時代背景は、確かに2016年に設定されていますけど……」
箱ってなんだよ……
彼女から、また新たな単語が出てくる。
「ああもう! 2031年って何なんだ! 箱ってなんのことだ! 俺達は……ここはどうなってんだよ! もう訳分かんねえよ!」
「全部……お話します」
頭を抱える俺に、落ち着いた声色で、梅沢が話し出す。
その表情は暗く、とても悲しそうであった。
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