第8話 ハルマゲドン

第8話 ハルマゲドン(1/3)

 立ち直った俺は、さっそく次の日から大学の講義に参加することにした。

「あ! カツヤ君、おっはよー!」

「おう、時間的にはこんにちはだな……」

 カオルに挨拶しつつ、俺達は講義室の後ろの席に座る。今は昼休みの最中で三十分後には教授が来る。だが、講義室には人が多くて騒がしい。

 俺は何となく自分より前の席に目線を向けると、騒がしい生徒の中に、誰とも話さず黙って座っている梅沢の姿を見かけた。

 梅沢を気に掛けていると、俺の隣に座っているカオルが話を振ってくる。

「クックック、貴方にこれを授けるわ! 感激しなさい!」

 カオルは、筆記用具入れからUSBメモリーを取り出してきた。

「何だこれ?」

「U! S! USBイイイイ!」

「五月蠅い知っとるわ!」

 カオルを制止させ、とりあえず、話を聞く。

「トモミ先輩から渡してくれって、昨日言われたんだ」

 ああ、そう言えばそんなことを言ってたな……

「ゲームの設定資料とシナリオのプロットだって! ねぇねぇ! 昨日部室に居たってことは、やっぱり入部するつもりじゃ……」

「しねぇよ!」

 と、言いつつ、USBを受け取る。

 まあ、中村には恩がある。気分転換位に見せてもらおうじゃないか。

「……ん?」

 USBメモリーを見てみると、紙テープが張られており、何か書かれている。

 読んでみると……

「……ハルマゲドン?」

 と、書かれてあった。

「なあ、カオル? 何か張ってあるんだが、何なんだこれ?」

「ん?」

 カオルも覗き込み、考える素振りを見せる。

「あれじゃないかな! 昔見た、地球に近づく巨大隕石を石油採掘のおじさん達が、壊しに行く奴! あれは感動したよねー」

 と、的外れなことを言ってくる。

「いや……あれと、微妙にタイトル名が違うからな……」

 一応突っ込みを入れておくが、結局何のことなのか分からない。カオルとしばらく考えてみたが、マルチ制作研究部との関連性が見つからず、

「たぶん、何かの拍子に引っ付いちゃったんじゃないかな?」

 カオルの意見で、とりあえず収まった。


 一区切り付いた所で、カオルはまた話を持ちかけてくる。

「部活に入部しないにしても、悪い部活ではないってことは分かってくれたんじゃないかな?」

 確かに悪い部活ではないと思う。部長が一生懸命にサークルを運営していて、皆で一致団結して一つの物を作り上げようとしている。

 良い青春を送っていると思うよ。

「……部長が怖くなければ良かったかもな」

「うん、部長が怖くなければ最高なのにね……」

 たぶん今の俺とカオルは、同じ中村の般若顔を想像している。

「でも、カツヤ君は随分先輩に気に入られてたよね」

 そうなのか? 随分なじられた覚えしかないのだが……

「トモミ先輩は誰にでも厳しい人で、男性には特にそうなんだよ。初対面なんて話さないどころか、唾を吐きかけるレベルなんだけどね」

「どんだけだよ……」

 確かに顔は整っているし、俺の目測では胸がデカいし、言い寄る男もいない訳ではないだろう。

 正確な理由なんて分からないが、極端に男を嫌うのは男女関係のイザコザか何かがあったのではないかと思う。

「まあ、顔とスタイルは良いからな……」

「うん、顔とスタイルは良いんだよね……」

 思うところがあるのか、ゲンナリした顔をするカオル。しかし、すぐさま表情を明るくし、

「そ、それでも凄く頑張ってるのが伝わってくるし、優しいところもあるからツンデレキャラだと思えば、多少は可愛く思えて来るよね! それに頭も良いし、人を見る目もあるから、中村先輩に気に入られたカツヤ君は何かの才能があるんじゃないかな!」

「才能ってなんだよ?」

「うーん、社畜とかかな?」

 殴ろうかと思ったが、今の台詞でふと前の席に座る梅沢が気になった。ちなみに「社畜」という部分ではなく、「才能」という単語だ。

 もしかしたら、梅沢とカオルは馬が合うんじゃないかと思ったのだ。

「……」

 ……試してみるか。

「なあカオル。確かお前って絵が上手かったよな?」

「いやーそれ程でもないよ! あ、ちなみに上手かった、じゃなくて上手くなり続けているんだよ! 現在進行形ね!」

 俺は席を立ち、

「なあ、席を移動しないか?」

「え? 別に良いけど?」

 鞄を持って、一人俯いて座っている梅沢の元に向かう。

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