第7話 救済者(7/7)
部室を出てすぐのこと……
「ちょっと待って!」
部室棟の廊下で突然呼びかけられ、後ろを振り向くと、中村が急いで追いかけて来た。
「な、何だ?」
俺は立ち止まり、中村が追いつくのを待った。中村は俺の前まで来ると、息を整える
「アンタに……確認したいことがあるの……」
「確認したいこと?」
息を整えた中村は、真っ直ぐこちらを睨む。
「世界五分前仮説って……聞いたことない?」
「……え」
いきなり、そんな話題を持ちかけてきた。
俺は恐る恐る尋ねる。
「……何で、急にそんなことを?」
何か意図があるのか、ただ単に俺の話した世界の終わりに関して、何か思い当たる節があったのだろうか。
「いいから正直に答えて、アンタは世界五分前仮説をどう思うの?」
「……」
何て答えるべきなんだ?
俺に取って、世界五分前仮説はタイムリー過ぎる話題だ。
あまり、真面目に答え過ぎてしまうと、変に見られるだろう。だが、相手は察しの良い中村だ。
どう言うか迷ったが、俺は不安を振りきり、思ったことを伝える。
「俺は……そんなものないと思ってるし、心からそう願ってる」
言葉を探し、そして中村の目を見る。
「そうじゃなかったら全部意味が無くなる……俺が今まで生きてきた経緯や、アンタが頑張って作ったゲームなんかも、全部嘘にされちまう。そんなの嫌だろ?」
俺は素直に、自分の思っていることを伝えた。
「……」
中村は、俺を睨みながら硬直する。
俺の目を真っ直ぐ見つめ、何も答えない。
「あ、あの……」
何か不味いことを言ってしまったのかと不安に刈られた俺は、尋ね返そうとする。
だが、それと同時に中村は少し考える素振りを見せ、
「……明日、カオルに渡しておくわ。だからもらっておいて」
と、言ってきた。
「え? 何を?」
俺は何のことだか分からず、聞き返すと、
「アタシが書いたシナリオ。さっき部室で話したでしょ」
彼女は答えた。
そう言えば、そんなことを言われていたな。
正直、読みたいとは思わないが……
「それじゃ、明日ちゃんと受け取るのよ」
そのまま踵を返して、中村は部室の方向に戻る。
「アンタのその言葉……信じるからね」
「え?」
最後に彼女は、捨て台詞を残していく。
聞き直す間もなかった為、とりあえず彼女を見送る。姿が見えなくなった後に、俺は溜め息を一つ漏らした。
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