第6話 ループものの主人公(2/3)
しばらくファビョる中村を小倉が
「私は中村トモミ、三年よ。このマルチ制作研究部の部長、企画運営件シナリオ担当よ」
中村は手を組み、足を組み、偉そうなに自席でふんぞり返る。
「それで? アンタ誰?」
会社の女上司を連想させる見下した視線を俺に突き刺す。非常に話し辛い空気だ。
「ああー、えっと……二年の松本カツヤです」
「松本カツヤ?」
中村は、眉間にしわを寄せながら俺を睨む。
「どっかで聞いたことがあるわね……誰だったかしら?」
中村は、考え込む。
俺のことを知っている? もしかして、この人も記憶を受け継いでいる人間なのか?
……なんて都合の良い話はさておき、中村に俺のことを話したであろう人物の名前を出す。
「俺は、竹人カオルの友人です」
そう言うと「ああ!」と思い出したように中村は納得する。
「カオルの幼馴染みね。どんな鈍感で主人公補正の掛かった男かと思ってたけど、ただの茶髪のチャラ男じゃない……事実は小説よりもって言うの本当ね。ガッカリだわ」
よく分からないが、とりあえず罵られた。
中村が続ける。
「で? 何か用?」
険しい顔をする中村に圧倒されながら、当たり障りの無い言葉を探す。
「あー……中村さんは、小説とか書いているんですよね?」
「……そうよ」
何か俺を警戒した表情で中村は睨み続ける。
異常に話し辛い空気で「アンタの作ったシナリオ、あんまり面白くなかったよ」なんていう、シナリオの感想から親しくなる作戦も取れそうに無い。
「何なの? さっきから黙って? 用件は何?」
本当はお前に用なんかねぇよ! と心の中で叫びたくなるが、とりあえず、何かを話そうとした時、横に居た小倉が、
「え、えっと! この方は、友人の友人さんが書いている小説を読んで、評価採点をしているらしいっす……つ、ついでにこの前、自分達が作ってるゲームもテストプレイしてもらったっすから、ちゃんとした評価してもらって今後の参考に出来ないかと思って連れてきたっす!」
と、有り難い補足を入れてくれる。腹も痛くなってきた。
「ふーん……小倉がね……」
「え、あ、いや……その……」
小倉は怖ず怖ずと一歩後ろに引く。
そして、眉間にしわを寄せて、さらに凄んでくる中村に思わず俺も思わず後退さってしまう。
もう、逃げるに逃げられないようだ。
メンドクサ過ぎて話の段取りとか、もうどうでも良い。俺は一つ、気付かれることのない程の小さな溜め息を一つ吐き、直球で聞くことにした。
「……空が赤くなる現象って知ってます?」
「はあ?」
突然何を言っているのか、といった中村の表情を無視してさらに聞いてみる。
「じゃあ、世界の終わりとか」
「……何言ってるのアンタ?」
やはり、この人も現状を知らない人間か……分かってはいたが、やはり残念である。
なら……
「すみません、なら先に俺の友人の友人が作った話を聞いてくれませんか?」
俺は以前起きた世界の終わりに関する出来事を中村に話した。
ただ、今回は漠然と話すのではなく、作り話として伝えたのだ。
世界の終わりは俺の友人の友人が作った創作話で、それについて考えてもらうのだ。どうせ信じてもらえないなら、いっそ開き直って作り話にしてしまえば良いと思ったのだ。
餅は餅屋と言えば良いのか、小説を書いている人物に作り話を話せば、ある程度乗ってくれるのではないか、という浅はかな甘い考えである。
とにかく、俺は目の前にいるムスッとした顔の中村に全て話した。
急に空が赤くなり、人々が死に、大きな手が出て来て、死んだかと思いきや何事もなかったように周りの人々が日常を送っていた。
そこで出会った大野は……一応名前を伏せAということにして、梅沢はBとした。
そいつらに接触していく内に、この街の周りには壁があることを知り、この世界の人間達は宇宙人か何かに研究される為に閉じ込められているのかもしれないと、
「……それで?」
「え? それで?」
「続きは?」
「つ、続き!?」
中村は、俺を未だに睨み続けている。そんなに睨まれても続きなんてない。俺の横で、非常に心配そうな顔をしている小倉を後目に中村へ伝える。
「い、今の所ここまでしか出来てないそうなんですけど……」
「はあぁ?」
何もそこまでキレなくて良いだろ、と思う程の形相を浮かべる中村。
「ま、まだ、この続きは考え中なんですよ!」
俺の弁解を聞き、中村トモミは呆れ顔になる。
「未完成で、しかも文章にすら書き起こしていない物語を聞かされて、アタシにどうしろって言うのよ……馬鹿じゃないの?」
と、当然のことを怒られる。
「一応、読み手の引きを考えてインパクトを意識しているみたいだけど、引きが弱いわね。無理してグロにしようとしているのも見え見えで寒いわよ。出直して来なさいと伝えて!」
俺の架空の友人はボコボコである。
やはりこんな思い付きでは、まともに取り合ってなんかくれなかった……
「まあ聞いた感じ、構成としてはループものって感じかしら?」
「……ループもの?」
ほぼ諦めていた所で、中村から謎の単語が出てきた。聞き返した俺に中村は、またさらに呆れた表情を見せる。
「アンタ、それも知らないでシナリオの評価しているの? ちゃんと勉強してきた?」
してる訳ねえだろ!
……なんて、そんなことは言えないが、俺が困惑しているところで、横に居た小倉がオズオズと話し出した。
「ル、ループものって言うのは、なんて言うか……何回も同じことを繰り返しながら、も、物語を進める形式の話っすよ……」
「……って言われても、想像出来ないな」
俺の察しが悪いせいか、ぱっと思い浮かばない。
「て、定番なのは、や、やっぱりタイムマシンっすよ! SF代表! お、男のロマンっすよ!」
それに続けて中村が答える。
「タイムマシンにしろ魔法にしろ、何回も同じ時間や状況を繰り返し体験しながら、主人公が少しずつ謎を明らかにして、最終的には解決に導いていく形式のことよ」
何となく二人の言いたいことは分かった気がする。
要はタイムマシンやら、何やらで過去に行って、やり直しをするみたいな話だ。昔見た洋画に、写真や日記を見たりすると過去に戻るというものがあった気がする。要はそういった繰り返しを行う話だろう。
「それじゃあ、俺の体験……じゃなくて友人の友人が作った話は、その時間を巻き戻したりしているループものって奴なのか?」
そう言うと中村トモミは、溜め息混じりに肩をすくめる。
「何聞き返してんのよ? そこはアンタが一番理解してなきゃ駄目でしょうが……」
続けて、中村は俺から目線を反らし考える仕草をする。
「だけど……ループものって考えると、時間跳躍はしている訳じゃなさそうね……」
「と、言いますと?」
「ループしているみたいな演出があるけど、実は違うのかもってこと」
いったいどっちなんだよと、中村に突っ込むと彼女は俺を睨むが、
「アンタの友人がちゃんと考えているか知らないけど! ミスリードを誘ってるのかなって思っただけよ!」
刺されたら死ぬんじゃないかと言わんばかりに、俺の額辺りを勢い良く指を突きつけられる。
「ミ、ミスリード?」
「そうよ! 間違った考えに誘導して、実は違う答えを用意してるかもってこと!」
怒鳴る中村。
ヤバい、頭がこんがらがってきた。すると、小倉がいつの間に菓子の袋を抱えながら中村に尋ねる。
「何がミスリードなんっすか?」
それに俺は便乗して、
「素人にも分かりやすく説明して下さい!」
お願いする。中村は頭を抱えながら溜め息を吐き、「これだから男は……」と呟くのであった。
しばらくの沈黙後、中村は腕組みをし直して、偉そうに語り出す。
余談だが、中村が腕組みをした時、ダボダボな服で分からなかったが、胸の膨らみが異様にデカいことに気づいた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます