第6話 ループものの主人公
第6話 ループものの主人公(1/3)
小倉と共に、俺はまたマルチ制作研究部の部屋の前まで来た。
小倉の頼みとは、この前読ませてもらったノベルゲームのシナリオのことだった。あの面白くないゲームはこの部の部長が中心で作成している物らしく、ゲームの大元であるシナリオは全部その部長が書いているそうだ。
小倉自身、あのシナリオは面白くないと思っているらしい。だが、シナリオ作成の知識や経験に乏しく、書いている人物が自身の先輩であることもあり、面白くない部分を指摘出来ないそうだ。
それで小説を書いていると言った俺に、部長へのアドバイスをお願いしたいのだという。
カオルに頼めば良いのではと聞いたものの、カオルも小倉と同様、知識不足だそうだ。それと、やはり先輩が怖くて指摘をすることが出来ないそうだ。
俺はカレーの件もあるので、愛着は無いが可愛い後輩の為、嫌な汗を垂らしながら此処まで来てしまったのだ。
「言っておくが、俺もアドバイスが出来る程の実力はねぇからな?」
「だ、大丈夫っす。しょ、小説どころか、ちゅ、厨ニ病を馬鹿にしてる自分なんかより、ずず、ずっと頼りになるっす……ついでに、大野先輩に気があるとか言えば、狂喜乱舞するかもしれないっすよ? あ、で、でも、トモミ先輩の許容範囲は二次元までだった気がするっすけどね。フヒヒ」
薄気味悪い笑みを浮かべる小倉はとりあえず突っ込まないことにしよう。
小説も書いたことなんかないけど……まあ、良いか……
しかし内心、そこまで嫌々来た訳ではなかったりもする。あのつまらないシナリオを指摘することも、何かゲーム制作に関わっている気がして悪い気分ではない。
それと、さっきの小倉との遣り取りで、一つのある考えが思い浮かんでいる。結構恥ずかしい思い付きなのだが乗りかかった船だ。その考えを試してみたい。
俺は覚悟を決め、部屋に入ることにした。
部室の中はドアを閉め切っていたこともあり、モワッと蒸し暑い空気が流れ出てきた。相変わらず散らかった部室に、見たことのない人物がそこに居た。
濃い茶色に染めた長髪に、サイズの合わないダボダボの服を着ており、この部員共通の特徴である眼鏡を掛け、顔立ちは割りと良い女性が居た。
俺達が入って来たのもお構いなしに、彼女は社長椅子に腰を掛け、ノートパソコンに向かい、真剣な表情で作業を行っている。
「あ、あれが、うちの部長のトモミ先輩っす……」
と、小倉が教えてくれる。
小倉は、トモミ先輩と呼んだ女性に向かって声を掛ける。
「せ、せんぱ~い。お、お客さんを連れてきました~」
その言葉に反応し、トモミ先輩はこちらを向く。彼女は目を細めこちらを凝視する。
やがて――
「ぎゃああああああ! 男おおおおおお!」
椅子から飛び退いて絶叫する。
この女もメンドクサいタイプだと、俺は直感した。
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