第5話 空の区切れ目(3/4)
翌日の午後。俺は大学の食堂の定席で、ぼーっと備え付けのテレビを見ていた。
こんな状況になっていながらも、週明けの大学に来てしまう生真面目さに自画自賛したくなる。実際のところ何も考えられず、とりあえず大学に来てしまったというのが正解であるのだが……
来たは良いものの、授業もまともに受けないまま、こうして無駄な時間を過ごしていた。
「……」
昨日、とりあえず家族に電話を掛けてみたが、普通に通じた。
親は出なかったが、妹が電話に出て元気そうであった。特に変わった様子もなく、世界の終わりなんて認識してもいないし、大きな壁の存在も知らなかった。
そんな質問を妹に投げかけていたら、最終的には正気を疑われてしまった。
「クソ……何なんだよ……」
昨日触った壁の感触を思い出す。布を触ったように柔らかく、そして反発力のある不思議な感触。あれを思い出す度に頭の中が真っ白になる。
大野は、見たこと全てを忘れれば良いと言った。
梅沢は、夢だったことにすれば良いと言った。
アイツ等の消極的な考えにムカっ腹が立つが、ああなってしまうのも無理はないと思う。現に俺も今こうして項垂れているのだ。
「……はぁ」
溜め息を吐き、机に突っ伏し、これからどうしたら良いのか考える。余りにも非現実的なことが起こり過ぎてどうしようもない。このまま首を突っ込んで行ったとしても、俺一人でどうにか出来る話ではなくなっているのは実感している。
正直どうしようもない。
また、あの世界の終わりとやらが来るかもしれない。だが死んでもどうせ生き返り、何事もなかったかのように日常を繰り返すだけなのだ。
「……」
あれ? やっぱり俺は、何もしなくて良いのではないだろうか?
誰かが死んでも勝手に生き返る、覚えているのは俺と大野と、たぶん梅沢ぐらいだ。その二人も諦め気味で、俺はアイツ等を助けてやる義理なんかない。
やってやろうという理由なんかないし、責任もない。
世界を救うぞ! なんて正義感があるかどうかも微妙な所だ。
ちょっと気持ち悪い体験を我慢すれば、そこには平和な日常が待っている。
何もしなくても、この世界は平和じゃないのか?
「何を考えているんだ俺は……」
こんなネガティブなことを考えていたら、大野みたいになっちまう。
俺は一つ深呼吸を行い、気持ちを落ち着かせる。
とにかく、これからどうするべきかを考える。このままでは、絶対に良くない。それだけは何となく分かってはいるのだが……
「……ん?」
そんな感じで一人悶えていると、見覚えのある人物を目撃する。
上下白い生地の半袖短パン、前髪で顔を隠しぎみのちびっ子がフラフラと学食に入ってくる。確かこの前マルチ制作研究部にいた小倉マキだ。そのままキョロキョロと挙動不審に周囲を警戒しながら学食を注文しているのが見える。
今は昼の二時ぐらいだ。ずいぶん遅い時間だが昼食なのだろうか?
三百円のカレーライスを食堂のおばちゃんに注文しているみたいで、カレーライスが乗ったお盆を持って、こちらに近づいてくる。
「……よう」
手を軽く上げて挨拶する。
が、こちらに気づいていないのか、小倉と目線が合わない。
「……おい!」
強めに呼んでみるが、すぐ近くで手を挙げているのに、まったく気付かず通り過ぎる。
「おい待て! 小倉!」
無視されるのが癇なので、俺は前に跳び出し制止する。
「ひゃおおおおおおお!」
奇声を上げながら、小倉は持っていたお盆ごとひっくり返る。
「あ……」
予想外のオーバーリアクションに俺も驚く。
ひっくり返ったカレーと小倉に周りの人達もこちらを注目するのであった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます