あとがき

あとがき

 六季をお読みいただき、ありがとうございます。いかがでしたでしょうか? なんか変な話だったなあと思われたかもしれませんね。でも、変な話を書きたかったのです。


 海岸にぽつりと落ちていた、ジグソーパズルのピースが一つ。拾って、それがはまる絵を考える。六季は、そういう描き方をしました。語り部も変わるし、キャストが入れ替わっていく。少々読みにくかったかもしれません。


◇ ◇ ◇


 全ての過去を忘れてやり直したい。時にそう思うことがあります。しかし本当に過去を失ってしまうと、その中に大事なものがあったかもしれないと悩んでしまうんじゃないでしょうか。そして、未来はもともと誰にも見通すことが出来ません。すでに流れている時の真ただ中にいて、過去も未来も見えないとしたら、わたしたちはどうするんだろう? そんなの、今を生きていくしかないでしょ。ええ、確かにそうなんですが……。


 まあ、そんなことをちらりと考え、リファという小さなピースを手にして、それぞれの時間軸上にいる意味を問う状況設定にしました。それが『島』です。たぶん、みなさんも『島』におられるのだと思います。心の容積は有限ですから。たゆたう時の流れの中で心に何が刻み付けられ、代わりに何を失うのか。そして、それは自分をどのように変えて行くのか。それを、お読みくださったみなさんにほんの少しだけでも思い浮かべていただければ、とても嬉しいです。


 素直で泣き虫のリファ。寡黙で意思の強いダグ。感情表現は地味だけど、どこまでも愛情深いクーベ。群れからはぐれた寂しがりやのリロイ。やんちゃで真っ直ぐなトマス。これから心の傷を癒していく臆病なメイオ……。みんな、いろいろな形で『今』と訣別し、島を去りました。あなたは誰の背中を、どのような気持ちで見送りましたか?


◇ ◇ ◇


 本話で、孤島の人間関係がどろどろになるのを回避するために、ちょっと変わった役割を担わせたのが、リロイ(魚)とクーベ(アホウドリ)です。本来群れで動き、繁殖行動がダイレクトで、人間には懐かない小魚。刷り込みでペーターとシエロを親と認識し、生存戦略を学んで性成熟を待つアホウドリ(大人になるのに五年前後かかるそうです)。彼らが人間の体を得た時、果たしてどういう感情を持ち、どういう行動を取るのか。それを人間がどう捉えるのか。わたしもいろいろと想像を膨らませながら、話を組みました。彼らにとっては、迷惑だったかもしれませんけどね。


 なお。島の具体的モデルはありません。探さないでください。時代考証も、科学的整合性も、全ていい加減です。と言うか、わざとそういう風にしました。島が、どこからどんな風に誰を呼ぶのか。あえてそこを制限したくなかったからです。いっぱいある隙間は、みなさんの想像で埋めてくださると嬉しいです。


◇ ◇ ◇


 最後に。拙い長文を読了してくださったみなさんに、改めて御礼申し上げます。本当に、ありがとうございました。



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六季 水円 岳 @mizomer

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