旅人の「私」が興を惹かれて訪れたのは、雨の国だった。
人々は岩肌の崖に穿たれた洞窟に住み、滅多に外に出ない。
雨に閉ざされて暮らし、年に数度の晴れ間は祝福の時である。
食は採取と保存に依るため貧しく、人々は痩せこけている。
厳しい環境に暮らしながら、人々はなぜその土地を離れないのか。
残酷な風習によって生存の調整をおこなわなければならないのに、
誰もそれに異を唱えもせず、改革を起こそうともしない。
異邦人の目に、彼らの暮らしぶりは不思議で悲しく映る。
架空の土地を舞台にした旅行記風の物語。
会話らしき会話のないひっそりとした文章が、
洞窟の中で声を潜めて暮らす風土を描き出す。
不思議なリアリティに誘われ、情景が思い浮かぶ。