第一節 三 「初めての講義」





「大きい、な」


 空へ向かって突き立つのは、見上げる程の高さの尖塔。その頂点には、羽を広げた孔雀が描かれた旗がはためいている。

 孔雀の紋章は、多くの色彩を持ち八方へ広がる羽の様子から、分野を問わない見識の幅広さの象徴とされている。多方面の知識を学ぶ『総合科』の科旗に相応しい、とは一般事務棟の受付嬢の言である。


 左右対称、四階建の学舎。尖塔以外には目立った装飾が見当たらない石造りの建造物。実用性、機能美を優先した作りなのだろう。

 並の民家や商店数件分はあろうかという間口に、奥行きも間口同様の広さがある様に感じられる。その大きさは、学舎というよりひとつの城のよう。

 万人を学生を抱える王立学園に相応しい規模の建物だと言えるだろう。その巨大さにクレールが呆然としていると、隣に立つリナが口を開いた。


「これが第三大学舎だよ。総合科のおっきな講義はだいたいここか、城を挟んで北にある第七大学舎でやってるから、覚えといてね」


「……大学舎、ということは、中や小もあったりするのだろうか」


「中小とかそういう名前は付いてないけど、大学舎じゃない学舎自体は結構な数があるね。そこそこ長いこと学園にいるボクでも、総合科と魔法科以外の学舎はあんまり知らないし」


 第三学舎までの短い道中にリナが語ったことであるが、彼女は『魔法科』の学生であるという。


 魔法科はその名の通り魔法を専門に扱う場所であり、実践的な魔法行使科目を始め、錬金や調合などの魔法を利用した技術や、自然現象や人間の心理の仕組みなど魔法を用いる上で重要になる知識を習得する学科である。


 では、なぜその魔法科所属のリナが総合科についての知識を有しているのかと言えば、過去に彼女が総合科に在籍していたからだ。

 この王立学園において、入学直後の学園生は例外なく総合科の所属となる。先ずは幅広く様々な事を学び、そこから自分の極めるべき道を選び取ってほしい、という学園の意向による措置である。

 リナは入学から一年の間は総合科に属し、その後魔法科に転科したようだった。


「あと、ボクが総合科にいたのって二年前までの話だから、正直なとこ総合科の学舎についてはうろおぼえというか……小さいとこだと二つくらいしか場所覚えてないんだよね」


「……そんなに幾つも学舎があるのか」


「うん、小さめの学舎なら一科につき五個は絶対あるし。学園の広さと学舎の多さは、新入生が一番初めにぶち当たる壁だよ」


「なるほど。……気を抜くと迷いそうだな」


 現在クレールには十四日の『予備期間』というものが与えられている。これは所謂『お試し期間』であり、十四日間は時間割を問わず好きな授業に出席できる。

 これは色々な体験ができそうだ、と喜んでいたクレールであったが、よくよく考えてみればやりたいことの数だけ学舎の場所を覚えなければならないのだ。中々に骨が折れそうだな、とクレールは内心冷や汗を掻く。


「そういうのも勉強の内、ってやつだよ。んじゃあ、そろそろ行こっか。入り口の前でいつまでも立ってるわけにはいかないし」


 さらりとリナに促され、クレールは歩き出す。風に舞う旗の孔雀は、静謐ながらも優しき眼差しで、学徒たちを見守っていた。




 ◇




 第一教室、と書かれた扉を開いた先には、大きな部屋が広がっていた。


 壁際には教壇と巨大な黒板が設置されており、その教壇を起点として放射状に学生の席が並んでいる。席には既に学生の姿があるが、数はまばらである。講義の開始時刻にまだ余裕があったようだ。


 そうやって周囲を見渡すクレールを余所に、リナは一直線に教壇へと向かっていく。

 そういえば、授業の初めは教壇に向かわなくてはならなかった。一般事務棟で聞いた決まり事を思い出したクレールは、やや遅れてリナへと付いていく。

 教壇の上では、黒いローブを着た仏頂面の女性が、不機嫌そうに腕を組んで授業の開始を待っていた。


「おはようございます、ゼナイド先生! 久々に『魔法学基礎』受けに来ました!」


 リナの挨拶に、きっ、と目線を飛ばす仏頂面の女性。艶やかな金髪に凛々しい顔つきと、優れた容姿をしているが、眉間に寄った皺と鋭い眼光がプラスの印象を帳消にしている。

 あの様子では、言外に『自分は気難しい人間だ』と喧伝しているに等しい。……中々難易度の高い教員に当たったらしい、とクレールは瞬時に現状を悟った。

 仏頂面の教員が、リナを睨んだままに口を開く。容姿にぴたりとそぐう、女性にしては低く鋭い声であった。


「……貴様、何故ここに来た。総合科に油を売りに来る暇があるなら、さっさと『魔法薬学』の課題を仕上げて提出しろ、戯けが」


「あー、それは今絶賛頑張り中だからもうチョイ待っててください! っていうか、ホントにこの講義に用があるのはボクじゃないんですよねー」


 そう言うとリナはクレールの方を向き、掌で彼を示す。直後に、女性教員の鋭い眼差しがクレールの双眸を貫いた。


「誰だ、貴様」


「クレール、と言います。本日付で王立学園の生徒となりました。よろしくお願いします」


 内心の怯えからいつもより背筋を伸ばし、機敏な動作で一礼するクレール。ともすればミシュリーヌとの邂逅時よりも彼は緊張していた。

 リナにゼナイドと呼ばれたこの女性教員、明らかに偏屈な性質の人間である。下手に反感を買うのはまずそうだ。クレールは小さく唾を呑む。

 当のゼナイドは、頭からつま先までクレールを睥睨した後、目を細めて「ふん」と鼻を鳴らした。


「編入の異界人か。……今年の『魔法学基礎』担当教員のゼナイドだ。中途編入と言えども容赦はせんからな、そのつもりでいるように」


「はい、わかりました」


「ちなみにゼナ先生の専門は『人体に影響を及ぼす錬金・調薬術』だよ! ボクが一番お世話になってる先生なんだ!」


「……世話になっている相手の名を略すな、戯けが」


 どすの利いたその声に、直接言葉を掛けられた訳ではないクレールが縮み上がる。

 一方のリナは、直接がんを飛ばされているにも拘らず「あっはは、ごめんなさーい」と平然と笑っていた。クレールが、信じられないものを見た、という様子で瞠目する。

 肝が太いのか鈍感なのか、はたまたゼナイドとの親密さゆえのこの態度なのか。リナを見るゼナイド女史の顔付きは、依然として険しく恐ろしいが……と、クレールは肝を冷やす。

 リナはと言えば、そんなクレールの心配を余所に、朗らかな様子でゼナイドと喋っている。


「それよりゼナイド先生、このクレールなんですけど、最近こっちに来たばっかの異界人なのに、もう魔法が使えるんですよ! 凄くないですか?」


「何? ……おい、貴様」


 話を振られたクレールは「はい!」と自分でも驚くほどにはきはきとした返事を返す。隣でリナが含み笑いを浮かべているがそんなことなど彼は気にならなかった。

 ゼナイドが、他を震え上がらせるほどに鋭利な目付きのままに、クレールに問いを投げる。


「魔力についての基礎知識はあるか? 魔力や属性についてのことだ」


「ええ、その辺りのことなら、ある程度は」


「ほう。……成程、確かに異界人としてはかなり稀な例だな」


 口では驚きを示しつつもゼナイドは、その厳しい表情をぴくりとも動かさない。クレールの置かれた状況が特異であることには違いないが、そのことに対してそもそもゼナイドは然したる感想を抱いていないのだろう。

 稀ではあるがそれはそれとして、と言外に滲ませて、「ではクレール」と鋭い声色で言うゼナイド。クレールが溌剌と返事をしたのは言うまでもない。


「今日の授業で軽く基礎の基礎を復習する時間を設けてやる。そこでの内容が全て理解できていれば、この講義に途中参加しても十分ついていけるだろう。

 ただし、少しでも理解できない箇所があれば────」


 そこで一層、ゼナイドの顔付きが険しさを増す。元々から既に恐ろしかった形相に拍車がかかり、クレールは思わず息を呑む。

 何だ、分からないところがあればどうなる、何か酷い目に遭わされるのか────


「特別に、補講を設けてやってもいい。この講義を本気で修める気があるならな」


 一瞬の間が開く。しばしクレールは呆然とし、返す言葉を見つけられなかった。

 ……案外普通のことを言ってくださった。というよりもゼナイド先生、実は親切な人ではないか。クレールの抱いていた畏怖が、少しばかり和らぐ。

 見た目に反して思い遣りの籠ったゼナイドの言葉に、普段の調子を取り戻したクレールは、頭を下げた。


「は……はい、ありがとうございます」


「ふん、一先ず返事の良さだけは認めてやろう。精々励め」




 ◇




 ゼナイドと一通り話した後、クレールは出席確認を済ませて、リナと共に席に付いた。

 出席確認で早速の出番となったのは、例の学生証である。教壇横に置かれた箱、その天板に空いた細長い穴に学生証を差し込めば、かちりと音が鳴って押し戻される。それだけで出席確認は終了した。


「あの箱ね、ちゃちな感じに見えるけど魔道具なんだよ。学生証の番号読み取って、出席記録してるの」


「なるほど。……で、君は出席確認をしなくてもいいのか?」


 素朴な疑問をクレールが投げると、リナはあっけらかんと「ああ、へーきへーき」と大らかに応える。


「ボクこの授業登録してないし、そもそも一昨年に修了してるもん。今日は一限入れてなくて朝一ヒマだったから、付き添いついでにもぐってるだけ。だから何もしなくってだいじょぶなんだよん」


 語尾に適当さの滲んだその言葉にはしかし、彼女なりの優しさが十分に籠っていて。

 申し訳なさげに、しかしそれを言葉に出すまいとクレールが選んだのは「ありがとう」の一言と微笑であった。「あは、どういたしましてー」とリナは朗らかに返す。


「……それはそれとしてさ、クレール。ゼナ先生に随分びびってたね?」


 リナのにやつきながらの言葉に、クレールはぐっと息を詰まらせる。否定しようも無く図星であった。その反応を見てリナは可笑しげに笑う。


「ゼナ先生はね、顔と口調が怖いだけで、案外優しい人なんだよ。難易度低めのツンデレさんなんだ」


「つん……? 良くわからないが、学生思いだということか?」


「まあ、そんな感じ。ただ、努力しない人とかサボってばかりの人とかには、流石に厳しいけどね」


 その時、談笑していたリナとクレールを含めた教室全体へ向け、ゼナイドが「静粛に」と一言告げる。二人とも、その言葉を受けて即座に口を閉ざした。

 クレールの方は未だにゼナイドの険しい表情に委縮が抜けていない、という理由があったのだが、その彼が少し驚いたのはリナの態度の切り替えの早さである。

 先ほどまではいつもと変わらず朗らかに笑っていた彼女であるが、ゼナイドの一声が聞こえた瞬間に、顔つきが凛々しいものに変化した。日頃は柔らかさの絶えない吊り目がちの双眸が、今は真剣みを帯びている。……リナという少女は、クレールが思っていたよりもけじめのある人間のようだった。


 クレールは鞄からメモ帳と鉛筆──ミシュリーヌから支給されたものだ──を取り出す。教壇に立つゼナイドが、教室へ向けて改めて言葉を放った。


「今日は中途編入生がこの講義に出席しているため、少しばかり復習の時間を設ける。

 今まで学んだことを数分で軽くさらうだけだ。講義の進捗には影響せんから余計な心配などしないように」


 相変わらず眉間に皺を寄せて淡々と語るゼナイド。

 言っていることをよく吟味すると彼女の思い遣りを読み取れるのだが、如何せんそれを語る表情が険しいために一語一語に威圧を感じてしまう。

 だが、そのおかげとも言うべきか、教室内は実に静かな空間と化している。勉強に励む環境としてはこれもありなのかもしれない、とクレールは一考する。


「そも魔法とは何か。そうだな……リナ、答えてみろ」


 そう言ってゼナイドが目線をやった先は、クレールの隣に座る少女であった。リナは一瞬ばかり呆然とした表情を見せた後、「うぇ!?」と激しく反応する。


「ここでボクに振ります!? ここは他の子に振って学習度合を確認するとこじゃあ──」


「口答えするな、殺すぞ」


「すみません言います! 魔力を使って何かを起こすことです! それ以外はよくわかりません!」


 半ば脅迫に近いものを受けて起立したリナはしかし、焦りながらも簡潔に返答をする。

 その様子に、なにかこう、学生というよりむしろ見習い兵士という言葉が似合いそうな態度だ、とクレールは頬を引き攣らせた。

 他の学生もゼナイドの態度に恐怖を覚えたのだろう。殺すぞと言った辺りで肩をびくっ、と弾ませている学生が数名はいた。

 気になるのは、そんな中で嘲笑交じりの笑いが幾つか聞こえたことだが……はて、とクレールは首を傾げる。先の答えに、何かおかしな点でもあったのだろうか。


「さて、今の答えを鼻で笑った奴には特別課題を出すとして。……正解だリナ。座ってよし」


「ハイ! ありがとうございます!」


 元気で潔い返事と共にリナが着席する。右肩に流した長い黒髪が慣性でふわりと浮く程、その着席の動作は機敏であった。

 そんなきびきびとしたリナがいる一方で、教室の所々から、ぐっ、やげっ、といったかすかな呻きが上がる。恐らく特別課題とやらを課された学生の声だろう。

 どうやら、指名されているいないに関わらず、誤った答えを示した場合にはペナルティがあるようだ。自分も用心せねばならない、とクレールは気を引き締める。


 講義が始まってから数度、ゼナイドと視線が重なっていた。……これは、いつか当ててくるつもりなのだろう。クレールはそのように感じながら、警戒をしていると。


「魔法とは、『魔力の活動に起因して発生する全ての現象』とされており、それ以上の定義など無い。……というよりも、今以上に厳密な定義を立てることが出来ない。それは何故か。……では次、クレール。解るか?」


 やはり来たか、とクレールは直ぐ様に反応した。反射的に起立したのは先のリナの様子を鮮明に覚えていたからだろう。

 問われたことに関する答えは、確かにクレールの記憶の中に存在していた。……相変わらず、その記憶の出どころは定かではないのだが。


「魔力の応用幅があまりにも広すぎるから、ですか」


「うむ、正解だ。座ってよし。……魔力とは、それを生み出す生命体の意志によってありとあらゆる種の熱量・存在になり得る万能の力だ。この『万能』という謳い文句は、伊達や酔狂では断じてない。

 火や水の発生、物質の性質変化、肉体の治療、精神への干渉、特定対象の探知……数え上げればキリがない。魔力を上手く利用すれば──即ち魔法を用いれば──、思いつく限り実現不可能な事はほぼ無いだろう。

 真実、万能なのだ。なんでも出来る。故に、魔法というものは厳密な定義が出来ない」


 着席したクレールは一先ず安堵の溜め息を吐く。この『講義中に指名される』という感覚は、中々に緊張するものであるらしい。

 顔の怖いゼナイドが教鞭を取っているからというのもあるのだろうが、講義に集まった者全員が注視する中で何かを述べるというのは、思いの外肝が縮む。クレールは無意識に己の胸へ手を当てていた。

 鼓動が速い。息もやや荒い。なるほど、これが緊張というものか。狼と睨みあった際の緊迫とはまた違う、初めて味わうその感覚の余韻にクレールが浸っていると。


「その中で、だ。魔法によって引き起こされる事象の傾向や、個々人の魔法技量に関する得手不得手などの情報を蓄積・分析した結果、定義は出来ずともある程度『魔法の系統分け』が可能となった。これを一般に『魔法属性』という。……ではクレール」


 思わず肩が跳ねた。流石に二度目が来るとは予想して居なかったクレールは「は、はい」と若干慌てた様子で起立する。


「魔法属性について簡単に説明してみろ」


 先程まで余韻を残すだけであった緊張が、再びその存在を高らかに主張する。……話はかろうじて聞いていたものの、もう少し集中が乱れていれば危うく聞き逃すところであった。

 ゼナイドの形相を前に「聞いていませんでした、もう一度お願いします」などと言えるはずもない。クレールは九割の緊張と一割の安堵を抱きつつ、口を開く。解答はやはり、彼の頭の中に刻まれていた。


「はい。……『物質』『運動』『肉体』『精神』『現象』『環境』。この六つが所謂『魔法属性』であり、大抵の魔法はこの属性のどれか、あるいは複数属性に跨って分類されています。

 ただ、あくまで統計的な分析結果を踏まえた便宜上の分類でしかなく、正確にこの属性に当てはまらない魔法も存在します」


 恐らくではあるが、先ほど失言で特別課題を食らった学生の、魔法に対する認識の中には、『六つの魔法属性で分類される』という文言が入り込んでいたのだろう。

 実のところ魔法属性の分類は、定義に使える程に厳密ではない。分類の根拠が『出力の見た目』と『個々人の才能傾向』という曖昧なものだからだ。

 クレールが一通り答え終わると、ゼナイドが仏頂面のまま「ほう」と感心したしたかのような声を出した。


「良く知っているものだな。正解だ、座れ。……どこかの阿呆は地水火風に光と闇、などと糞的外れな解答を投げてきたことがあったが、それとは大違いだな」


「ぐっ!? ゼナ先生め、人の黒歴史をぉ……」


 クレールが座ると同時にリナがぼそりと呻いた。どうやら彼女は、過去にこの授業で恥をかいたことがあるらしい。

 異界人は本来、魔法に関する前知識を持たない。故にそういった間違いもある意味必然なのだろう。ならばそこまで気にすることではないのではないか。そう思ったクレールは声を絞り、リナを励ますつもりで言葉を掛ける。


「その、なんだろう、知らなかったものは仕方ないと思う」


「…………ほーう、初めっから知ってる人は余裕だねえ。ひょっとして嫌み?」


 口の端を吊り上げてそう言ったリナに、クレールは自身の言葉が失言だったかと焦りを見せる。

 聞き様によっては無神経だったかもしれない、リナを怒らせてしまっただろうかと、クレールは自身の焦燥に追い立てられるかのように口を開いた。


「ああっ、いや、そういうつもりでは」


 焦りから思わず声を張ってしまったクレールは、拙い、と思ったものの時既に遅く。


「クレール! 無駄口を叩くな、殺されたいか!」


「す、すみませんっ」


 血相を変えたゼナイドから強烈な喝が飛び、クレールは竦み上がる。教壇から「二度目は無いぞ、気を付けろ」との声が届き、彼は声ならぬ呻き声を上げた。

 今後は気を付けないと。と自戒の念を己に刻むクレールの隣から、何やらくつくつという声が漏れている。まさか、と思いその含み笑いの方へ顔を向けたクレールの目には、実に愉快そうな表情で板書を取るリナの横顔があった。


「うへへ、怒られてやんの」


「……わざとか」


「はてさて、何のことやらー」


 おどけた様子で、しかしながら鉛筆を持つ手を止めずにニヤつく黒髪の少女の顔に、思わず少年がこめかみをひくつかせたのは致し方の無いことであった。 




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