第7話 最速の決着

 翌日、第二試合当日。

 私はいつも以上に包帯をぐるぐる巻きにして観客席で竜也師匠の闘技を観戦する。

 別に怪我がひどくなったわけではない。補欠代表の参戦は代表が戦闘不能の時しか許されないため仕方なくこうしているのだ。

 先生が闘技場の左側から現れると大きな歓声があがる。

「最弱最強ころせー」

「ぶーーぶーぶー」

「ぼこぼこにしてやれ」

「一体いつになったら店のツケを払うんだクソ野郎ー」

 訂正、ブーイングと大きな罵声があがった。

 本人はそれらを歓声だとでも思っているのかこちらに向かって口パクで「声援ありがとう」などと言いながらニコニコしておおきく手を振っている。

 反対側からも前の様子が嘘のように元気な大又が歩いてくる。

「高慢ちきやろー」

「田舎に帰れー」

 両者共にブーイングも罵声も同じくらいだ。

 闘技をしているときにはわからなかった観客の声が聞こえてくるのはなんだか面い。

 大又の方はよくわからないが、やっぱり先生は周囲の人間から嫌われているらしい。まぁ正直、闇討ちされていないだけマシだと私個人は思っている。

「それでは闘技開始っ!」

 ピィィィ!

 審判の笛と共に先生はわざとらしく大声をだす。

「相対してみてわかる、わかるぞ!これほどの強者とはっ!もはや究極奥義ファイナルディシジョンを使う他あるまい」

「な、なにぃ、あ、あのファイナルテンションをつかうだとぉー」

 先生にあわせて大又も大げさにリアクションをとるが技名が違っていた。

 打ち合わせくらいしっかりやれ。

「ヤバいぞ、また最弱最強の必殺技だ」

「いっつも一撃で終わっちまって見ててつまんねーんだよなぁ」

となりの席からの声を聞いたところ、この演劇は今回に限ったことではないようだ。

「ふぁーーーいーーーなーーーるーーでぃめんしょーーーん」

 言い終わる瞬間に大又の巨体に先生の拳が当たり、大又は「ぎゃー」と叫ぶと後ろにバタリと倒れる。

 審判は大又が倒れるのを見るやいなや赤い旗を上げる。

「大又清、戦闘不能。勝者、最弱最強の男 栖鳳竜也っ!」

「ぶーぶーぶー」

「つまんねーぞ、ころしあえー」

「店のつけはらえーゴミむし野郎ー」

 二人の試合の最中は観客からブーイングと罵声が終始発せられている。

 先生は闘技場の真ん中でガッツポーズを決めるとそのまま奥に戻っていく。

 試合は呆気なく終わった。

 観客達の帰り際に話す声が聞こえてくる。

「試合はつまらんが、やはり最弱最強…恐ろしい強さだったな」

「あんな大男を一発で伸してしまうなんてなぁ、とても真似できねぇ」

 私は名称し難い感情に心の中を支配される。

 これは私が事情を知っているからこそ思うのだろうか。観客はなんであんなのに騙されるんだろうか。あと技名になぜ統一性がないのか。

 もやもやしていても仕方ない。

 思いの丈を誰もいなくなった、閑散とした闘技場内にぶちまけるとしよう。

「私は絶対みとめなぁぁぁぁい!」

 




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闘技場 @mikan69

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