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「納得できません!」

 突然声を荒げたのが阿部タケルだった。アフレコを行うためのスタジオの打ち合わせルームでの出来事だった。主役や声優陣はもちろん勢揃いしているし、主要なスタッフもその場にいる。真由香もそこに顔を出していたが、つかつかと阿部は真由香の顔を見るなり、こちらにやってきてそう言い放ったのだ。

「ある人から話を聞きました。長門監督降りたってマジですか? どういうことなんですか!」

 阿部のその反応は意外でもあったが、なるほどとも思った。彼は長門清志郎の秘蔵っ子だった。

 真由香はつとめて冷静に、首を横に振った。

「大人にはいろいろな事情があるから」

 阿部タケルはぶるんぶるんと大きく首を横に振った。

「話をぼやかさないでください。俺だって大人です。ガキ扱いしないでください。選挙権だってある。きちんと理由を説明してくれないと、明日からの仕事はしません!」

 一部のスタッフには昨日に長門降板決定の報を伝えていた。いずれはその理由も伝わるのだろうけど、詳細までは教えなかった。噂によると、どうやら多くのスタッフやキャストが大喜びしたのは事実のようである。しかし、同時に降板を残念がった人達も多くいたという。

 どうやら、スカイブラック役の阿部タケルは後者のようだった。それも心底残念がっていることは感じ取れた。その場にいるほかの主演組は皆何とも言えない表情をしていた。それだけでは彼らの真意は読めなかった。

 これははぐらかすことはできないな、と肚を決めた。真由香は理由をその場にいる全員に伝えた。皆、その意外性のある理由に戸惑った表情を見せた。阿部タケルも何とも言えない表情になった。

 しばらくその場はなんとも気づまりする異様な雰囲気になった。



 真由香はいまだにショックを引きずっている。

 東光本社でのあの日の出来事。自分が長門を殴ってしまったこと……。

 長門はその後すぐにその場を去った。それが老監督との別れとなった。

 あの時老監督が言い放った言葉はどうしても自分の中では看過できなかった。なぜ、そんなことを長門清志郎はしたのか……悔しくて、しばらく立ち直ることができなかった。

 一部のスタッフには撮影所まで出向いて真由香直々に事情を聴いた。裏どりは確認できた。どうやら、長門の言い放ったセリフは真実のようであった。長門とその人物がやりとりを交わした現場を数人のスタッフが目撃していた。

 気が重いが、プロデューサーとして多くの人々の生活を預かっている以上、次の行動に移すしかなかった。

 真由香は槇に相談を持ちかけようと思った。



●●●●●●●●●



 ある人物は、今日も元気いっぱいに『飛翔戦軍スカイフォース』の撮影現場で走り回っていた。今現在は、春ごろ放送予定の阪口組の撮りだった。主役の五人も拙い演技が日々成長していっており、その成長を見守るのも楽しかった。まだまだ寒い現場だが、彼らはある人物と同様、今日も元気いっぱいだった。

 昨日放送の『スカイフォース』第三話の視聴率は4.2%だった。

 番組最高視聴率を更新! 

 わずか0.1ではあるが、上回った。ネットや巷やお子様のあいだでは番組人気はわりと好評なのだが、なかなか数字は上向きにならないと現場でもひそひそ話題になっている。

 そういえば昨日放送の第三話は長門演出回だった。長門は更迭になり、すでに撮影分の長門組の演出はチーフ助監督の鹿島忠司が引き継いでいる。今日は鹿島がそちらの作業があるということで現場を離れて、阪口組のチーフ助監督は山口純平が担当している。

 長門と撮影中よくぶつかり合っていた撮影監督の植田章弘は無言で黙々とキャメラのレンズを覗いていた。彼が一体何を考えているかどうかは分からない。

 長門清志郎降板については、ある人物も残念に思っている。性格は難あり、しかし実力は折り紙つき。もっと一緒に仕事をして、彼の経験値を自分のものにしたかったと心から思う。そういう思いがあったからこそ、家まで遊びに行かせてもらったこともあった。それに、あの夜ああいうことまであったというのに―まあこれはこれ以上どう思っても仕方がない。東光の上層部には頭のお固い連中がいて、今回の浦志郎の一件は看過できなかったということなんだろう。宮地真由香がどういった考えだったかまでは、まだ現場までは伝わってきていない。

 夜の十九時を回ったところで、セットでの撮りが終わり、本日のノルマが終了した。

「おつかれさまでした!」

 しかしこれですべて終わるわけではなく、まず主役の五人組はアフレコのため、撮影所内のスタジオに現場を移動、残ったスタッフは撤収作業、また明日の撮影のための準備を進めていかなければならない。

 本当に過酷な現場である。

 ある人物も、撤収作業を開始したがそこにアシスタントラインプロデューサーの北島衣里が「お疲れ様です」といってニコニコしながら近づいてきた。

「なんですか?」と冷たくある人物は問い返した。北島はたまに仙台訛りが口調に混じる垢抜けない田舎のドジ娘といった印象で、波長が合わないタイプの人間だった。だが向こうはある人物のことを気安く思っているのか、わりといつも話しかけてくる。

 そういった感情に気付かず、北島は「あのですねえ」とやけに間延びした声で言う。

「今、宮地さんと槇さんがやって来て、何故かは分かんないんですが、すぐに事務所に戻ってほしいって」

「へえ、そうなんですか」となんとか受け応えできたが、ある人物の心の中では遂に来たか、という思いでいっぱいになった。思えば、最近は派手に動きすぎたと反省していた。

 あとで行きますから、と言ったが「それがですねえ」と途端に北島の眉毛が八時二十分になる。

「今すぐ連れて来いって言うんですよ。何か急ぎの用事があるらしくって。なので、ここの片づけ、こっちでやっておきますんで、事務所に戻って貰っていいですか? 場所は小会議室ですからね」

 北島衣里が「お願いしますねえ」とお気楽に言った。

 ふうん。

 ついに年貢の納め時か……ある人物は何故か天井を見上げた。照明が白く眩しく、いつまでも白光が目を惹いた。



21



―一月二十七日月曜日、夜の二十時前。

 東光テレビプロの小会議室で真由香と槇はその人物を待ち構えていた。暖房が利きすぎていて、いささか暑い。それでも、槇はジャケットを脱いでいない……それには理由はある。

 あの時、長門の言った人物の名前を聞いて、真由香は些か困惑した。そりゃ挨拶もするし多少の交流もあるが、ほとんど接点のない人物だった。もし、その人物が例のネタバレ犯とするなら真由香に相当の恨みを持つ人物ということになるが、どこからどう脳味噌をシャッフルし尽くしても、何も恨まれる理由なんてない。槇も「うーん、わからない」と首を捻っている。

 今のところ状況証拠くらいしかなく、本人に否定されればそれまでだった。ただ、確認するだけなら問題はないだろうと法務部の部長のお墨付きをもらった上で本日は槇に同行してもらい、大泉に乗り込んだ。撮影が終わる時間帯を見計らい、真由香は北島衣里にその人物を連れてくるよう依頼している。衣里には事情を説明していない。

 依頼から四十分経過。その人物はどうも、と小会議室に入ってきた。

 季節は冬なのにまだ夏の頃の日焼けを引き摺っているのか、もともと地黒のせいなのか、肌がこんがりと焼けている。また短い髪も相変わらずだった。

 槇は背広の内ポケットに手を差し入れた。打ち合わせどおりである。

「すみません、お仕事大変なのに。少し確認したいことがあって。そこに座って貰っていいですか?」

 真由香は目の前の椅子を勧めた。その人物ははい、と小さくいって椅子に腰を下ろす。

 手短にこれまでの経緯を述べた。昨年夏頃からの同一人物と思しき24ちゃんねるでの「魚」名義のネタバレ書き込みについて、それに付随しての真由香に対する中傷と攻撃、長門清志郎の別名義での仕事の暴露について―。

 目の前のその人物は伏し目がちになって、黙って真由香の話に耳を傾けている。

「長門さんが心当たりのある人物としてあなたの名前を挙げました。あなたが、長門さんの家に行ったときに、DVDラックを見て気づいたんじゃないかと―単刀直入に伺います。一連の書き込みを行っていたのは佐脇さん、あなたですか? 魚はあなたなんですか?」

 サード助監督の佐脇侑はゆっくりと顔を上げた。目が合う。真由香には、特に目の前のこのサード助監督が一連の犯人であるという確信がまったくない。

 佐脇はふう、と大きく息を吐いた。「仕方ないですね。―認めます」

「ナニ?」

 素っ頓狂な声を上げたのは隣に座っていた槇だった。メガネがずり落ちそうになっている。「認めるってどういうことだよ、佐脇、お前が一連のネタバレ犯ということなのか」

「そうですよ。全てあたしがやりました。あたしが魚です。ネタバレも、宮地さんを中傷したのも、長門監督の裏仕事をウィキペディアに暴露したのも全てあたしです。動機は……今、この目の前にいらっしゃる、宮地真由香プロデューサーに対する怒り、恨みですね」

 真由香は言葉も出なかった。あっさりと目の前にいるこの女助監督―佐脇侑―は自分の行為を認めたのだった。

 佐脇侑は真由香と同年代で、四年前まで医療の仕事(看護師と聞いている)に携わっていたが一念発起して東光テレビプロの門を叩いたという。現在はサード助監督で、セカンドで現場に就くことである。二十代後半での業界入りだから、これは異例の遅さである。テレビの撮影現場は最近は少しずつ女性のスタッフが増えてきたとはいえ、まだまだ現実は男社会。特に演出部はほとんど男性で占められている。そんな中、佐脇は女性ながらバリバリと日々の業務をこなすとの噂を人づてに聞いていた。当然外での仕事も厭わない訳だから日焼けもしているし、シャワーを浴びる時間も惜しいからと髪まで短く切り……。

 それなのに。

 どうして?

「わからない」

 ゆるゆると槇は首を振った。当然彼も真由香と同じような疑問を抱いているはずだった。「それはつまり、宮地さんに対する嫉妬が原因ってことなのか?」

「槇プロデューサー」

 佐脇侑が違う違う、といって苦笑する。「そんな単純な言葉で片付けられるもんじゃないんですってば。とりあえずあなた、少し黙っててもらえますか」

 ななな、といって結局は口をもごもごとさせる槇だった。とにもかくにも、サード助監督がプロデューサーに対する言葉遣いとしてはあまりに不適切であった。

 佐脇侑は真由香を真正面から見据える。「―真由香ちゃん、あたしのことホントに覚えてないの?」

 頭の中にハテナマークがいっぱい浮かぶ。覚えてないの、ってどういうこと?

「見覚えない? もう二十何年以上も前になるけど」

 そう言われたので、懸命に佐脇侑の顔を真正面から見据える。じっと見つめる。小顔で短い髪。印象深い目と眉。遠い昔の記憶……。

 いや、と真由香は首を振る。懸命に過去の記憶の糸を辿りよせたが、自分の歴史に佐脇という知人も友達もいなかった。

 ただ、いや待てよ。侑。侑。

 ゆう。ゆうちゃん?

 ユウちゃん?

 ユウちゃんの名字は……確か。

「小林……さん?」

「あーあ、やっと思い出してくれたかー」

 佐脇侑はからからと笑いだした。「あの時は小林って苗字だったもんね。でも、父親の事業が失敗しちゃってやむなく都落ち。学校も転校して私立から公立。挙句両親は離婚して、苗字も母方の佐脇姓に変わっちゃったということ……小学校以来だから、もう何年振りになる?」

 両親の教育方針で、真由香は女子児童ばかりの幼稚園を経て、小中高一貫の女子ばかりのミッションスクールに通学していた。その学校には女子大学もあり、自動的に大学進学も可能ではあったが、真由香自身の希望で津田塾大学に入学した。もっともこちらも女のコしかいない学校だったが。

 今思い出したが、小林(佐脇)侑は同級生だった。真由香はユウちゃんと呼んでいた。真由香自身はこういったヒーローものには幼少の頃からあまり興味もなかったが、彼女はヒーロー番組に夢中の女の子でそういった話をちらと何度か聞いたことがある。しかし結局ユウちゃんは確か家庭の事情で公立の学校に転校を余儀なくされ、それ以来会っていなかった。

 それが今こうして数十年ぶりの時を経て、こうして相見えることになるとは……。

「あたしはすぐに気付いたけどね、真由香ちゃんだって」

 佐脇侑は続ける。「去年の五月に真由香ちゃんと、このテレビプロの入口でぶつかったよね。あ、真由香ちゃん、と思ってあたしは慌てて走り去った。慌てていて、謝まる余裕もなくて」

 隣の槇は黙って真由香と佐脇侑のやりとりを見つめている。

「そもそもね」女助監督は愉快気に笑う。「あたしが東光の門を叩いたのは、真由香ちゃんの作ったホラー映画がきっかけなんだ」

「―わたしの? ホラー映画?」

「ほら、『サイコパス・ロマン』の第一作目。あれをたまたまCS放送で見て、この業界に憧れを持ったわけ。あの作品からあたしは勇気を貰った」

 『サイコパス・ロマン』のシリーズ第一作目はとある田舎の病院が舞台。主人公は若い新米女性看護婦。殺人鬼は次々と入院患者、医者、同僚看護婦を理不尽に毒牙にかける。最後に生き残った女性看護婦は何とか生き延びようと、殺人鬼の手から逃れようとする……そういうストーリーだった。

「わからないよ」真由香は首を振る。「自分でも面白いものを作れたという自信はあるけど、申し訳ないけど、あれで人に勇気を与えたとか、感動を与えたとか、そういう手ごたえはまるでないんだけど」

「……あたしは当時看護師の仕事をしていて。母子家庭で手っ取り早くお金が稼げて、将来くいっぱぐれしない職業に就きたいと思っていたから」佐脇侑が続ける。「でもやっぱり仕事は想像以上にハード。過酷で、自分がどんどん追い詰められて、もういっそのこと自殺でもしたら気持ちが楽になるんじゃないかと毎日ずーっと同じことばかり考えて……そんな時、CS放送でたまたま『サイコパス・ロマン』を見た。あたしはね、ぼんやり見ているうちにのめりこんだ。作品自体が面白かったのもあるし、なにより主人公の新米女性看護婦に感情移入してしまったわけ。殺人鬼から逃れながら、なんとしても生きてやろうとするその執念に心打たれた。見終わったあと、涙が流れたよ。ヨシ、あたしもこの看護婦みたいに強く生きてやろう、死ぬなんてバカなことは金輪際考えない。絶対に生きてやるって。そしてやがてエンディングロールが流れて、あたしはまたびっくりした。プロデューサーに小学生の同級生の名前が流れてるって。わりと珍しい名前だから同姓同名なんてありえないし、真由香ちゃんの名前が流れてるってあたし自身が嬉しくなって。ああ、真由香ちゃん、女プロデューサーとして頑張ってるんだなあって」

 真由香には予想もつかない話のオンパレードだった。まさかスプラッターシネマの『サイコパス・ロマン』が知らないうちに人を励ますドラマとして受け入れられてることも予想外だったし、まさかそれを子供の頃の同級生が見ていたことも、尚想定外。

「同時に、ああこういう映像の現場っていいなあって漠然とした憧れを持つようになった。真由香ちゃんのおかげだよ。ただ、病院の仕事は辞めるに辞められなかった。当時お母さんが病弱であたしかが大黒柱だったから。そんなフリーで保証のない仕事に転職することなんて絶対ありえなかった……でもね、四年前にお母さんが病気で死んじゃった。悲しかったけど、こうなったら誰かのために仕事をするというのでもなくなったし、自分の人生を、自分の好きな仕事のために捧げたいと考えて思い切って東光の門を叩いたの。昔からヒーローものは大好きだったし、戦軍の現場につけたのは願ったり叶ったり。仕事は無茶苦茶大変だったけど、毎日充実した人生を四年間送って来れた」

 わからない―真由香はますます混乱した。今までの話を聞いている限り、特に真由香が佐脇侑に恨まれる要素は何も見つけられない。いったい、何が彼女の心を歪ませたのだ?

 そして気が付くと、佐脇侑の目が徐々にこれまでとは近い凶気を帯びてきているのがだんだんにわかってきた。真由香は嫌な予感を抱いた。女助監督は引き続き、まくしたてる。

「そんななか、真由香ちゃんが二〇一四年の戦軍のプロデューサーに就くという噂が現場に流れた。あたしは嬉しかった。真由香ちゃんと一緒に仕事が出来る……そう思って、心が躍った。忘れもしないよ、去年の七月一日。真由香ちゃんが『サンダーフォース』の烏山のロケに同行してきたとき。真由香ちゃんとも何度も目が合ったし、いつのタイミングでこちらも挨拶に行こうかと思っていたんだけど……真由香ちゃんは醒めた視線でただ、現場を傍観しているだけだった。ただ、ぼおっと現場を観察しているだけ。あたしは真由香ちゃんに何となく苛々してきた。……そして挙句の果てはあの日傘だよ。日焼けも厭わずせっせと現場を走り回ってるあたしを嘲笑うかのように、ずーっと日傘を翳してのほほんとしていた!」

 去年の七月一日―いやもう昔の遠い記憶なので思い出すのに悪戦苦闘したが、ようやく思い出した。初めて真由香が戦軍の撮影ロケ隊に同行した日だ。確か『稲妻戦軍サンダーフォース』の山根組、栃木県烏山ロケ。その日は確か日差しの眩しい日で、夏はいつも真由香は皮膚の病気を気にして日傘を持ち歩いてるから、そういえばそんなこともあったような気がする。またあの日は背後から痛烈な視線を感じたこともあった。あれは佐脇侑の視線だったのか……。

 でも、ちょっと待ってほしい。それは本当に誤解である。

「あの日わたしは初めてロケ隊に参加したし、まだあの時は東光の人間とはいえ、本当の部外者だったからああいう立ち位置になるのは仕方がないでしょう。その日は傍観者に徹しようと思って。日傘だってわたしはいつも夏場は……」

「お前は女優気取りか!」

 テーブルを掌でバンと叩くと、急に佐脇侑が大きな声で激昂した。躰を震わせ、心底怒りに打ち震えているかのようだった。

「自分は特別な存在とでも周囲に見せつけたいってわけ? あの日傘はあたしに対する皮肉? 自分は選ばれし者、そして他の人間はその他大勢ってハナから相手にしていなかったんでしょ? そういえばあんた、小学生の時から目立ってたもんね。家は超がつくお金持ち、あの天下の宮地食品のご令嬢、血統書付のお嬢様でカワイコちゃん。かたやあたしの父親は成り上がり零細企業の社長だからハナから格が違う。心の底でどうせいつもバカにしてたんでしょ? あたしが休み時間にヒーローものの番組について力説したとき、ころころとあんた笑ってたし。よくわかんないよーって。あの頃から、あんたはあたしのことをバカにしていたんでしょ!」

 本当に誤解だ、誤解だ、誤解だ……。そりゃ微かに小林侑の記憶はあるし、彼女がヒーロー番組について力説していたのも遠い昔の想い出として残っている。ただ、その感情は決して彼女をバカにしたものでもないし、そこに自分の家庭のコンプレックスを持ち込まれても困惑するしかなかった。

 しかし女助監督はもう、止まらない。

「とにかく、あの日傘が決定打になった。あたしはあんたが憎くて憎くてたまらなくなった。そして台本を見るたびに、あたしはまた憎しみをより募らせるようになった」

 どういうことだ?

「―自分はプロデューサーだからトップに名前がある。それにひきかえ、あたしはただの三番手の助監督。ああ、この関係図はずっと昔から変わらないんだなとも思ったし、永遠に縮まらない差だと思い悲しくなった。あとエンディングテロップであんたの発案で全員の名前を出したというのを聞いたとき、日本全国にその関係図を知らしめるために、おそらく計算した上でわざとやったことなんだと思った。自分は主人公、天下無敵、才色兼備のスーパーヒロイン、ピーチ姫。それにひきかえあたしは三十越えたしがない女助監督、踏み潰されておしまいのクリボー、ただの雑魚キャラ。……あんたの考えがよーく、わかったよ!」

 もうダメだ……真由香は槇と顔を見合わせた。完全に佐脇侑の言葉は支離滅裂だった。自分でも矛盾している内容を口にしているのが分からないのか。

 ただ内容はほぼ理解できた。とにかく佐脇は真由香に対して相当の恨みを抱いていることだけはよくわかった。

「ひとつ言わせてもらっていいかな?」

 それまで黙っていた槇が落ち着いた声で割り込む。「―そろそろ落ち着こうか」

 佐脇はふっと息を吐く。槇の言葉により、先程からの激昂はややクールダウンした模様だった。

「……聞いていい? どうして真由香ちゃんは、あたしに目をつけたのかな。正体を特定されないようにいろいろとネットカフェを転々として、工夫はしたつもりなんだけど」

「さっきも言いましたが、きっかけは長門監督の一言です」真由香は淡々と続ける。「佐脇さん、あなた監督の家に行ってますね。その時に監督の家の演出作品のコレクションを見ている。監督は自宅に自分の作品しか置かないと対談でも明言している。そのときにたまたま浦志郎名義のDVDを見てピンときた。多分、監督が目を離している隙に、手に取って確認もしたんでしょう。持って帰るわけにはいかないから、家に帰ってDVDを確認すると、それが長門監督が別名で手掛けた作品であると映像を見て確信した。そこで、ウィキペディアの編集を行い、ネット上に書き込みもした」

 先週の金曜日。東光本社で長門は心当たりのある人物として、しぶしぶ助監督の佐脇侑の名前を挙げた。彼女の名前が唐突に出てきたので、真由香をはじめ一同は大いに戸惑った。

 老監督はこう言った。

「確かパイロット組の終盤の撮影が終わったあと、佐脇が声を掛けてきた。俺がデビューしたピンク映画に興味があるという。フイルムが俺の家にあることを雑誌の対談記事で読んで知ったらしい。で、その日の撮影がたまたま早く終わったから、二人して俺の家で鑑賞会となったわけだ……まあ、その後のことはここでは言いたくないな。大体察してくれよ」

 男と女が一つ屋根の下にいてそういう映画を見る。そしてそのあとは察してくれ―真由香はどうしても許せなかった。衝動が抑えきれず、つい老監督の頬を打ち据えた。現場の監督が撮影中に自分の部下に手を出したというなら、軽蔑するに値する行いとしか言いようがなかった。いくら独身同士とはいえ。

 佐脇侑は軽く目を臥せると、「ふーん、やっぱりそうか」と腑に落ちたように溜息を吐いた。

「長門組の下に就いてるうちに、長門清志郎という演出家に興味を持ったのよ。そこでわざわざ家にお邪魔して映画を見せて貰った。デビュー作品から質の高いシャシンだった……見終わったあと、何となくこのカントクに自分の身を任せたくなった。あたしも女だし。まあいろいろ思うところがあるわけよ。あの人の腕に惚れたのかもしれない。たとえ還暦過ぎたジジイであったとしてもね。仕事が忙しくてすっかりご無沙汰だったし、ピンク映画を見て知らないうちにムラムラしていたのかもね」

 真由香は首を振りながら、話の続きを遮った。「―それ以上は聞きたくないから」

「成り行きで、カントク今夜一緒に寝てくれませんか? ってあたしから誘ってみた」

「やめなさい!」

 真由香は冷静でなくなっていたかもしれない。つい声を張り上げてしまう。

 佐脇は掌で自分の頭をゆっくり撫でた後、ぽつりと言った。「……断られたんだけどね」

 真由香は何も言えずに何故か槇の顔を見た。槇も真由香を見返す。

 どういうことだ?

「……あの人はこう言った。俺は仕事仲間とはそういう関係は持たない。ちゃんと一線を引いてる。それがポリシーだからってね。今夜のことは水に流してやる。夜も遅いから、泊まっていってもいいし朝になって帰るもよし、好きにしろってぶっきらぼうに言われたのよ。あたしはそれでも引き下がらなかった。何故か意地になったのかもしれない。女性としてあたしって魅力ないですかと粘ってみたけど、そういうわけでもないと首を振られた。宮地を裏切ることは出来ないからってね。―そこまで言われたら、こちらも引き下がるしかないよね」

「ちょっと確認したい……じゃあ、監督とはその夜何もなかったということなんだね?」

 槇が口を挟む。

「あたしがいまここで嘘を言う理由がないでしょう。こっちはそういう関係を望んだけど、あちらに拒絶された……それだけの話よ」

 真由香は何も言えなくなった。

「カントクはそのまま二階に上がっていった。あたしは暇つぶしにDVDラックを見るうちにあの作品を見つけて、ひょっとしてと思い、わざわざツタヤで借りて観てみた。すぐにあの人の作品だと確信した。多分誰も知らない爆弾だって喜んだけど、それが結局墓穴を掘ったみたいね」

 はあ残念、と佐脇は大袈裟に肩を落として見せた。

 槇は咳払いを一つした。

「―とにかく今回の一件、こちらから正式な処分が出るまで自宅謹慎してもらう。ちゃんと今夜の会話、録音もさせて貰ったから」

 背広の内ポケットからペンサイズのボイスレコーダーを掲げてみせる。何となく芝居がかった仕草のように思えた。

 佐脇侑はぷっ、と噴き出した。

「随分用意周到なんですね。でもそんなわざわざまどろっこしい真似なんて結構ですよ。このまま撮影現場で黙って働けるなんて、ゆめゆめ思ってませんから。今日で終わりです。四年間、お世話になりました」

 そう言って、女助監督はにっこりと笑うと、真由香を見つめてぺこりと頭を下げる。

「……さようなら、真由香ちゃん」

 複雑な思いで、真由香はかつての同級生の挨拶を受け止めた。

 そういえばユウちゃんはあの頃、髪はここまで短く切ってなかったなと今頃ぼんやりと思った。



 真由香と槇は大泉学園駅に向かって疲れた足取りで歩いていた。結局佐脇侑はその夜のうちに自分の私物を纏め、東光東京撮影所を去って行った。事務手続きの後処理についてはテレビプロの祖父江功という総務部長に依頼したが、彼も今回の一件に戸惑いを隠せないようだった。

 今夜もまた、実にいろいろな出来事があった。

 夜も二十二時を過ぎていたが、まだ撮影所には多くの人間が活動していた。本当にみんな、お疲れ様としか言いようがない。

 真由香の心は全く晴れなかった。これまで自分を悩ませていたネタバレ犯「魚」の正体は分かったものの、自分に対する悪意はそこまで歪んだものだったのかと思い、茫然としていたのかもしれない。こんな重い足取りで撮影所から駅まで歩く事なんて、いまだかつてなかった。

 槇が「腹減った。ラーメン食べない?」と言って、駅前のラーメン屋を指さした。あまり食欲はなかったものの、先輩プロデューサーに付き合うことにした。

 小奇麗なラーメン屋のカウンターに落ち着き注文を済ませると、またどっと疲れが押し寄せてくる。明日もアフレコ立会い、編集の打ち合わせなど予定が目白押しだった。そういえば鹿島と監督引継ぎの件で細かく話を詰める必要もあった。

「……小学校の友達なんて顔も思い出せないな」

 先に届いたギョーザを頬張りながら、槇がそんなことを言う。わたしだってそうだよ。まさか小学生の同級生の女の子が戦軍の現場で助監督をしているなんて全く想像もつかなかったよ―真由香は小皿にラー油を垂らす。

 そして、現在撮りを行っている阪口組の『スカイフォース』の台本をパラパラと捲る。冒頭にスタッフ・キャスト一覧表がある。トップにはプロデューサーである真由香の名前、そして何ページか捲って助監督のところに佐脇侑の名前を見つけることが出来る。

 番組のエンディングで毎回スタッフ全員の名前をテロップに載せるアイデアは、これだけ多くの人間が一本のヒーロードラマに日夜情熱を傾けているということを、改めて視聴者にわかってもらいたいという思いからだった。ただ、佐脇侑の歪んだ心は真由香の思いを悪意として受け取った……その点もボディーブローのようにじわりじわりと効いてくるのだった。

「間違いだったのかな、わたしの考えは。みんなの名前を最後に見せる手法って間違いだったのかな」

 別に槇に答えを求めたわけではないが、知らず自分を責める口調になってしまっていた。

 槇は二個目のギョーザをぱくつきながら「うーん」と唸った。そして箸を置く。「間違ってはないかな。僕には逆立ちしても思いつかない発想だった。少なくとも、この件に関しては、宮地さんの考えを支持する」

 他のどの件は支持しないのか気にはなったが、「……ありがとうございます」と真由香はとりあえず頭を下げる。

「それはともかくさあ」槇は再び箸を手に取る。「なんで監督、あんなふうに言ってたんだろ。大体察してくれ、なんて言ったらみんな誤解するじゃん。よくわかんないよ、あの人の考えることは」

 それは真由香も同じ気持ちだった。長門の真意がいまだわからない。

「ただ冷静に考えてみれば、監督は独身。佐脇も独身。そういうことになっても別に悪いことじゃあない。それでも監督は誘いをきっぱりと断った。変なところで律義というか、何というか」

「……律義な性格というなら、AV撮ってほしくなかったというのが率直な気持ちです」

「そうなんだよな。……うん、そうなんだよ。でも長門清志郎は根っから監督という仕事が好きだったわけだ。だからそれがAVであったとしても、映像の仕事である以上は全力で取り組んだと思うな」

 うーん、と真由香は小さく唸った。

 ラーメンがやってきた。槇は味噌とんこつ、真由香はしょうゆ。

 槇は「ココのラーメンはなかなかイケるんだよ」と言って早速麺を啜り始めた。メガネのレンズが湯気でだんだんと曇ってくる。

 そしてふと思った。―よし、この男にあの質問をぶつけてみるか。

「一つ聞いていいですか」割り箸を割りながら真由香は訊ねる。「―槇さんにとって、ヒーローとは何ですか?」

「急にナンなんすか。まるで東條さんみたいなこと訊くね」

 レンゲでスープを掬いながら槇が応える。

「ラーメン覚めちゃうよ」

「簡単で結構なんで。……槇さんにとって、ヒーローとは何ですか?」

 この男はもともとヒーローオタクのプロデューサーだった。おそらく夢とか、希望とか、未来とか、浪漫とか、憧れとか、人生そのものだとか、そんな類の答えが返って来るんじゃないかと想像しながら。

 うーん、と唸ると槇憲平はレンゲを置いた。「仕事、かな」

 え? と思わず間抜けた声を上げる。箸をぱらりと落としてしまう。

「仕事だよ、仕事。……クリエイターの手合いによくこういうのがいるじゃない、私はアニメが大好きだからアニメの仕事を頑張るとか、漫画描くのが大好きだから漫画を描くのを頑張るとか……そうじゃねえだろうって。仕事ってそんなもんか? 金貰ってやる以上、そこに自分の好き嫌いや思想を持ち込むんじゃねえよって。そりゃ、好きだよ、こういう特撮モノはね。でも、こっちはそのヒーローもののプロデューサーをやらせてもらっていて、決して安くはないサラリーを得ている。だったら手を抜かずに汗水垂らして四の五の言わずにやるだけだろうって。そう思いながら毎日仕事をしてる。だったら答は必然だよ。……ヒーローものをずっと作っているわけだから、僕にとってのヒーローとは、仕事。これしか答えようがないじゃない。でしょ?」  

 真由香は黙って、しょうゆラーメンを啜った。少し伸びていた。

「熱くなりすぎちゃったな。ホットになっちまったよ」槇はへへへ、と笑う。「―で、宮地さんにとって、ヒーローって何なの?」

 真由香は苦笑する。

「……また、今度言いますんで」



22



 二〇一四年二月十四日木曜日―。

 関東地方は大雪に見舞われていた。いや、大雪というよりは豪雪かも。首都圏の交通アクセスは大混乱を来たし、多くの人々の足が乱れていると聞く。

 しかし東光東京撮影所は今日もまた、普通に撮影がある。本読み合わせもある。立ち回りの稽古もある。アフレコもある。編集作業もある。雑誌のインタビューもある、スチール撮影もある、特撮カットの新撮もある。ホン打ちもある……。

 『飛翔戦軍スカイフォース』の撮影はいつもどおり、行われている。

 三日前の第六話阪口組のオンエアーの視聴率は、4.7%で、『スカイフォース』の現時点での、最高視聴率を記録している。番組の数字自体はだんだんと盛り上がってきた。しかしシリーズ全体で見通すと数字はまだまだ低調。三か月の数字の結果いかんによっては、日曜夕方枠を明け渡さなければならない訳で、まだまだ予断を許さない状況だった。

 ただ一般の視聴者の人気は悪くないよ、とメインスポンサーのMANDEIの宣伝担当者からはお褒めの言葉をいただいている。玩具の売上などのマーチャンダイジングの成績もまずまずの結果なので、それを受けての評価らしい。

 真由香や槇、小曽根といったプロデューサーズは大雪もなんのその、必死こいて大泉までたどり着き、現在四月末放送予定回のホン打ちの真っ最中だった。脚本家の能勢朋之もたまプラーザから何とかやって来てくれていた。最近は東條はこういった打合せに同行せず、本社でもっぱらデスクワークに徹していた。もう作品采配を任せてくれているのか、ただ単にほったらかしにしているだけなのか。

 今回の組の監督は、山根正幸に依頼した。戦軍にはおよそ五カ月ぶりの復活となる。長門の降板により、監督ローテーションの欠員が生じたとき、内部昇格やら新規招聘などいろいろとシミュレーションを立てた。しかし、以前入院先の病院で槇が言っていた「戦軍のような長期シリーズには給水ポイント的な組として、サンコンさんが必要」という言葉が頭に残っていたこともあり、テスト登板という形で招いたのだった。当の山根はカラカラと笑い、「もう二度とお声がかからないかと思っていましたよ」と呑気に言った。腕はない、どちらかというと凡庸な画作りをする監督といった印象は相変わらず変わらない。だが、サンコンさんの人柄や魅力が『スカイフォース』の現場に、どういうテイストで溶け合うのか……それを一番楽しみにしているのは真由香なのかもしれない。

「こんにちは、アリス急便です!」

 テレビプロの片隅のリフレッシュルームで打ち合わせをしていると、宅配便のドライバーが一礼しながら荷物を持ってきた。段ボールを二箱持ってきた。ジャンパーに粉雪が纏わりついている。こんな大雪なのにお仕事お疲れ様。頭が下がる思いである。

 そのうちの一つは真由香が手配した荷物だった。段ボールのガムテープを引っぺがすと、中身のものを次々と取り出し、皆に振る舞う。

「はい、バレンタインの義理チョコめしあがれ!」

「ナニ、その色気もそっけもない渡し方」簡単な包装紙に包まれたチョコを受け取りながら、能勢朋之が苦笑する。「どうもどうも、ありがとうございます」

 仕事が忙しすぎてデパートで品定めする余裕もなかったので、インターネット通販で大量発注した。いまどき義理チョコで喜ぶ男なんているんだろうか。

 いやいるんだろうな、と思い直す。ただ、それは真由香からの義理チョコではない。『スカイフォース』のヒロインである松下桃や安木梨央、アシスタントラインプロデューサーの北島衣里も真由香と同じように今日は大量のチョコレートを用意していると聞く。オトコどもは彼女たちからの義理なら喜んでハイハイと受け入れるのだろう。

 バレンタイン―そういえばあの人は今日が人生の新しい出発の日なのか。最後の電話のときのあの人の言葉を思い出す。

 ……君はよく言えば純粋で真っ直ぐな人だ。ただ悪く言えば直情径行、ただの暴走機関車だ。プロデューサーという職業の人に対してこういうことを言うのは釈迦に説法かもしれないが、広い視野で仕事をしてもらえたらと思う。見落としていたり、些細な事柄であったとしてもそれが意外に大事だったりする。

 耳の痛い話だった。些細な事柄が意外に大事だったというのは、佐脇侑の一件とリンクしているように思えてならない。―この東京東光撮影所に彼女はもういない。表向きは躰を壊して助監督の仕事を辞めたということで決着したのだ。別段彼女は悪質な情報漏洩を行っただけで、何も犯罪を行っていないわけだからある意味当然の結果ではあった。

 今頃、彼女はどこで何をしているのだろうか。

 真由香は首を振ると、その内心の思いを断ち切った。

「……甘いモノ食べて、脳内活性化させて、いいセリフ書けるようになるといいですね」

「チョコレート食べてそうなるんならこっちだって苦労しないよ」

 真由香は後輩の小曽根卓に「この箱、あとでスタジオに持っていくの手伝ってちょうだい」とお願いする。後輩は「了解っす」と軽く頷いた。

 制作は同時進行で進んでいる。

 第八スタジオでは北村組の本編撮影。第十二スタジオでは津島律夫率いる特撮チームの撮影。撮影所敷地内の編集スタジオでは二週間後のオンエアーに向けて、長門清志郎の残した映像素材を監督補の鹿島忠司が完成品に仕上げる最終作業の真っ最中―。 

 鹿島は意欲的だった。三十も半ばを過ぎた角刈りのガタイのいい男で、その仕事ぶりは脂が乗っている。チーフ助監督の職務で多忙であるにもかかわらず、『スカイフォース』の脚本とプロットを何本も書いてきては「読んでみてください」と真由香にアピールする。出来が良ければ採用したいところだが、今のところメインライターの能勢朋之の筆さばきには遠く及ばずリライトが必要なため、採用するかどうかはまだわからない。ただ、その意欲は大いに買っている。

 先週は長門監督×鹿島監督補の第八話・第九話のラッシュ試写だった。鹿島のがんばりは随所に見られたものの、正直編集における『長門の魔術』ほどの出来栄えではなかった。こういうとき、あの還暦を過ぎたサングラスの老監督の腕を今更ながらに懐かしく思うのだった。

「そういえばさあ」能勢が早速マロングラッセに齧りつく。「どうしてホン打ち、今日はいつもの会議室でやんないの?」

「ああ、面接なんですよ」ラインプロデューサーの天野正典が、チョコの箱を撫で撫でしながら言う。「これから夏の映画の撮影もあるし、各現場でもいろいろとスタッフの補充が必要なので、朝からずっとやってます。直雇用だけじゃあ足りないから、人材派遣会社にも連絡したりして。とにかく人の手配が大変です」

 欠員補充だけじゃない。この業界、やっぱり夢だけでは食っていけないから、入れ代わり立ち代わり、常に人の出入りが非常に激しい。安定しない仕事だった。時間給に換算すると切なくなるし、溜息が出る。そして休みは少ない上に激務で、将来も不安になる。入口は大きく開かれているが、同じ分だけ出口が開かれており、なおかつ知らないうちに落とし穴もどこかで待ち構えている。

 それが現実。どうしようもない現実。

「そうそう、面接で思い出した」能勢がパンと手を叩いた。「いつぞや利根川さんが言ってたけど、結局宮地さんはむかし最終面接で何て切り返したの? 結局その答、あのままになってんじゃん」

「何すかそれ? 聞きたいなあ」

 『長門監督を囲む会』に不在だった小曽根もそんなことを言ってくる。槇も黙って真由香を見て、山根はニコニコのんびりと笑っていた。

「―別に大したことは言ってないんですよ」

 またその話かよ、と内心溜息を吐いた。「最終面接で自分で美人って思ってるでしょ、っていきなり聞かれてそりゃ答に困りますよね。ありがとうございます、って言ったら面白みがなくて自意識過剰かってバカにされる。違いますよ、って返したらその役員の台詞を否定することになる。美人ってどういうイミですか? なんてトボけたら周りがシラけてしまう。美人とかけまして! なんて謎かけを始めたらお前は落語家か! って突っ込まれるのがオチだし……」

「だからさあ」焦れたように槇がトントンと指で突く。「結局なんて答えたのよ」

 だからあの時―と続けようとしたところ「お話の途中申し訳ないんですけどお」と遠慮がちに東光テレビプロの中澤さんという事務の女性が割り込んできた。軽い、大阪弁のイントネーション混じりの口調だった。

「―天野さん、長門監督宛ての荷物が戻ってきたんですけど」

 皆が急に静まり返った。長門監督……その言葉を聞いた途端に。

 長門信者だった能勢朋之に長門降板の報を知らせたとき、彼は何とも言えない複雑な表情をした。「そうですか」と無念そうに嘆いた。ただ、プロデューサーサイドの立場にも理解を示した。最後には「しょうがないですね、残念ですが」と一応納得はしてくれた。

 また先日、東光本社へ真由香あてに草加と名乗る男から電話がかかってきたこともあった。草加なんて知り合い聞いたことがないなあと折り返し連絡すると「―ピンクロダンの草加隼人と申します」とおどおどした男の言葉が返ってきた。ああ……と真由香は腑に落ちた。長門清志郎を裏仕事に引っ張り込んだ張本人からの電話だった。

 草加は「誤解ですよ、あんなの」と捲くし立てた。

「ネットの一部では浦志郎イコール長門監督、なんて思われてるようですが違います。浦志郎というのは二十代後半の若僧監督なんです。誤解ですよ、ほんとうに誤解」

 長門さん自らがお認めになりましたと伝えると「ああ……」と何とも言えない声が返ってきた。次いで草加は東光さんが悪いんですよ、と真由香を糾弾してきた。

「あなた方がロートルを追放してあの人は仕事がなくなったんだ。その人が何撮ろうが勝手でしょ? 僕はあの人の働き場所を提供しただけなんだ。長門清志郎は天才です。実力があり、カリスマがある。AV撮った監督は子供番組撮っちゃいけないんですか!」

 そして急に落ち着いた声色に戻ると「……何とかもう一度、東光で長門監督にメガホンをとらせてもらえないですか」と寂しげに言うのだった。その懇願に真由香は何も言うことが出来なかった。

 長門清志郎のシャシンに魅せられた人たちが大勢いた。能勢朋之も草加隼人も、いま長門清志郎にどういった思いを馳せているのであろうか―。

 天野が頭を掻きながら、立ち上がる。

「どうしてかなあ、別に受け取り拒否とかじゃあないよねえ」

「わかりませんよ。戻ってきた荷物、もう一回送っときますか?」

 お願いします、と天野は頭を下げる。中澤さんがすたすたと戻っていった。

「カントクの荷物ってなんですか?」と能勢。

「サングラスとディレクターチェアですよ。監督の私物。発払で先週送っておいたんですが」

 天野の言葉が素通りする。ただ単にどこかに旅行に出ていて、受け取りできなかったんだろうか……。



23



 番組の人気自体はじわりじわり上昇している手ごたえを真由香は感じるようになっていた。視聴率は相も変わらず5%付近をウロウロしているが、第一回目の視聴率である4.1のラインを割り込まずに何となく持ちこたえていた。

 先日、池袋のトイザらスにMANDEIの岡崎という販促担当者と市場視察に出ると、『スカイフォース』の変身グッズやロボットの玩具が品切れ状態になっていた。もうすぐ入荷予定! とのポップが貼られている。やった、と思わず手を叩いたが、岡崎が「前年度の戦軍の売上が渋かったんで、出荷が抑えられてるみたいです」と言ったので、喜びも半分になった。ただ、「それでも去年よりは売上アップしてます。そう報告が各所から上がって来てますね」とも言ったので、とりあえずほっとした。

 またママから嬉しい電話もあった。戦軍に興味を示していなかった姪っ子の純ちゃんが、作品をブルーレイにとって何度も見返しては、返信ポーズを懸命に真似っこしているという。また両親に「変身グッズを買ってほしい!」とせがんでいるとも聞いた。

 やったね、と真由香は内心小躍りした。



 真由香の仕事はますます多忙を極めている。来月には夏の劇場版がクランクインするため撮影チームがテレビと同時に二班体制で動く。またそろそろ新しい六人目のヒーローが登場する時期なので(最近の戦軍作品では五人のヒーローだけでなく、六人目の新戦士が中盤で登場するのが通例なのである)、それに合わせて再びオーディションを開催する必要もあった。

 主役に選ばれた五人の若者は日々成長しているように思えた。真由香の目には、その五人の輝きがとても目映く、そして頼もしく感じられる。パイロット組の撮影の時には些か頼りなかった彼らも、作中のヒーロー同様、着実に成長を遂げている。

 真由香にとっては、この『スカイフォース』に携わるスタッフキャスト全員がヒーローに思えた。 



 三月九日、第九話「もえあがる闘志」(脚本能勢朋之、監督長門清志郎)がオンエアーされた。長門最後の演出回でもある。

 翌日午前に、ビデオリサーチから送られてきた視聴率結果は7.0%だった。

 7.0!

 『スカイフォース』始まって以来の最高視聴率だった。ここ最近の戦軍シリーズでも久々の高アベレージだった。プロデュースチームはやった! と思わずガッツポーズした。裏番組の日本テレビ『笑点』には遠く及ばない数字ではあるが、それでも一矢報いた格好だった。

 大喜びした槇がぽつりと呟いた。「これも長門監督が遺した財産かもしれないね」

 真由香はそうですね、と頷いた。心から同意した。

 このままテレビ太陽の大澤の意向通りに、放送枠変更や打ち切りになどなって堪るか。あと数回のオンエアーの後、戦軍の時間枠変更がどうなるかが正式に決定される。まだまだ油断はできないし、結果がどう転ぶかはわからない。しかし、ひとまず戦軍の今の時間枠は死守できたのではないか、と多少なりとも安堵できる数字でもあった。

 第九話の撮影の際も大いに長門は粘っていた。そして、スタッフキャストが懸命に監督の注文に応えていた。チームが一体となった結果、見事な映像へと昇華していた。

 喫茶「ジャンヌ」で一人になって落ち着くと、真由香はしばし思いを巡らせていたが一大決心し、携帯電話を取り出した。長門に電話を掛けようと思ったのだ。二か月ほど前のあの時以来、一切連絡を取っていない。ただ、第九話の視聴率について報告を行わなければならないと思ったのだが……。

『おかけになった電話番号は、電波の届かない場所におられるか、電源が入っていないためかかりません』

 そのアナウンスの繰り返しだった。何度か電話したものの、同じガイダンスが流れるだけ。

 世間話の流れで、確か長門は携帯電話を業務用と私用とで二つ持っていると聞いたことがある。私用の電話番号を聞いたこともあるが「プライベートの方は言いたくない」と拒否された。まあそれでも業務用携帯があるならと別にこれまで不都合は感じなかったが……フリーの職業監督にとって、携帯電話は仕事を依頼する側とをつなぐ糸のようなものだ。しかし、連絡しようにも繋がらない。

 真由香は何となく嫌な予感を抱いた。



24

 


 三月十一日火曜日、東日本大震災から三年目の日。

 忙しい仕事の合間を縫って、真由香は大泉にある長門宅を単身訪問することにした。事前に長門宅の住所は東光テレビプロの天野正典に電話で確認していた。長門の電話には日を改めて何度かコールしたものの、やはり繋がらなかった。ただどうやら解約までは行っていないようだった。

 電話が繋がらないんですと天野に報告すると、「荷物がまたこっちに戻ってきたんで、私からも電話したんですが繋がらなくて。なんだか心配になってきました」と不安そうだった。真由香同様、天野も長門の私用携帯番号は把握していないとのことだった。

 穏やかな春の陽気の中、真由香は教えて貰った住所を探り当てようと何度も地図とにらめっこして歩き回った。真由香は少し方向音痴気味だったので、少々不安を覚えながらの訪問だった。

 狭い道の角を何度か曲がる。東京東光撮影所からは歩いて一五分程度の場所に件の長門邸はあった。ちゃんと「長門」と表札が掲げられてはいたが、別に豪邸といったわけではなく、小さな中古の建売住宅だった。庭もなく、誰か人のいる気配も感じない。

 おそるおそる、玄関のチャイムを鳴らす。しばらく反応を待つ。向こうからの反応はない。またチャイムを鳴らす。またしばらく待つ。やはり誰も出てこない。

「長門さーん!」

 思わず真由香は、家の中にそう呼びかけた。少し嫌な予感がしていた。飛躍した考えになるが、仕事をクビになったことを悲観し、思い余って自ら命を断っているのではないかと思い―。

「いらっしゃいますか、長門さーん!」

「……長門さんなら、今お出かけされていますよ」

 そう後ろから声を掛けられたので、真由香が振り返ると、主婦らしき中年女性が立っていた。髪はショートカット。スーパーの袋を手にしている。

「もうすぐ帰ってきますか?」

 真由香がそう訊き返すと、「ああ、そういうのじゃなくて」と主婦は首を振った。「あの人、随分暇が出来たから、ちょっと温泉巡りにでも行くわって三週間ほど前から旅行に出たんですよ。旅行が趣味でね、ほら、あの人確かドラマか何かの監督さんですよね。休みが不定期だから、纏まって長い休暇が取れたら、ぶらりと一人で出かけるんですよ。私はこの家の隣に住んでるんですけどね、うちにも律義にお土産持ってきてくれたりするんですよ。一か月ほどの予定と聞いているから、また来週くらいにでも戻って来るんじゃないですか」

「そうなんですか」

 真由香はほっと胸を撫で下ろした。そして、あんなアクの強い男、とても自殺するキャラじゃないなと思い直した。

 長門の趣味が旅行というのも初めて知ったし、隣人にお土産を買ってくるような性格の男であるということも初めて知った。そうか、一か月も一人旅か。だったら荷物の受け取りが出来なかったことも理解できる。ただ、携帯電話が繋がらなくなっている理由についてはいまだ分からないが―。

「でも一か月って長くないですか?」

「そのへんはよくわかりませんけど。日本一周するって。ローカル路線バスを乗り継いで東京起点に時計回りにぐるり一周するんだって。テレビの番組に影響されたみたい」

 長門清志郎はあの太川陽介と蛭子能収の番組のファンだったのか……。知られざる老監督の一面に触れた思いだった。

「写メ、見せましょうか?」

「は?」

「定期的に送って来てくれますから、写真。長門さんとわたし、ご近所付き合いが活発なんで」

 主婦は腰ポケットからガラケーを取り出すと、ごちゃごちゃと操作する。「三日前に届いたんですけどね」と言って、画面を見せてくれる。

 湖をバックに自撮りしている長門の変わらぬ顔がそこにはあった。サングラスはかけていない。小さくて、つぶらな瞳だった。

 なんだか力が抜ける思いだった。妙な心配をして損した……。

「秋田の十和田湖にいるみたいですよ。だから、今頃東北のどこかにいるんじゃないですか。よくわかりませんけどね、適当なことを言いました」

 ということはこの主婦は長門の私用携帯番号やメールアドレスを知っているのか……。

「あの人ね、今新作の映画の構想を練ってるって言いましたよ」

 思わず、え? と聞き返した。映画の構想?

 主婦は続ける。

「事情はよくわかりませんけど、最近までテレビの仕事をされてたんですよね。そこで、久々に自分が燃えることのできた若者たちと仕事ができたと喜んでいて。いつになるかはわからないけど、予算を掻き集めて映画を一本撮りたいと心から思うって。だから今、日本一周しながらアイデアを練っているんだ……そうメールに書いてましたね。もしよかったら電話番号教えましょうか?」

「え?」真由香は戸惑う。「いいんですか、見ず知らずの他人に?」

 主婦はふっと柔和な笑みを浮かべた。

「あなた、宮地さんですよね」

「はい」

「プロデューサー、の」

「……そうですけど」

 戸惑いながら、真由香は返事する。

「いや、実はね」主婦が苦笑いする。「もし自分が不在の時に三十過ぎの女性が訪ねてきたらそれはたぶん宮地さんという女性だから、自分の電話番号を教えてやってくれってあの人から頼まれてたんですよ」

 そういって主婦は電話番号を携帯を見ながら真由香に教えてくれた。真由香はスマホに慌てて番号を登録した。

「じゃあ失礼します。宮地プロデューサー」と言って主婦は自分の家の中に入っていった。

 真由香はぼんやりと長門邸の玄関を見つめた。

 映画を一本撮りたい、か。



 長門邸の近くにある公園のベンチに座ると、早速真由香は主婦の教えてくれた電話番号に連絡してみた。平日の午前中なので人はおらず、辺りは閑散としていた。

長門は果たして電話に出てくれるのだろうか。

「あ、もしもし」

 あっさりと老監督は電話に出た。真由香は思わずずっこける。

「おう宮地、元気か? 久しぶりだな」

 随分呑気そうな声で応えられる。「ということはお前家まで来たのか。わざわざご苦労なこった。意外とプロデューサーも暇なもんなんだな」

 いったいなんなんだ、この呑気さは。こっちはわざわざ心配になって、あんたの家までやってきたのに!

 そう思うと自然に怒りが込み上げてきた。

「カントク、どうして電話に出ないんですか!」

 久しぶりなのに、挨拶らしい挨拶もせずにそういってみる。

「地面に落として壊してしまった。ついそのままにしまってるというわけだ。まあ今の俺には、仕事用の電話なんてなくたって平気だろ?」

 そういって自嘲的に老監督は笑う。そういう理由だったのか、と腑に落ちた。

 真由香は溜息を吐いた。

「心配したんですよ」

「そりゃ申し訳なかったな、としか言いようがないな」

 ハハハハ、と屈託なく老監督は高笑いする。

 真由香はゆっくりと唾をのんだ。

「……この前は申し訳ありませんでした」

「何のことやら。日本一周している間に忘れたな」

 長門は恍けたように言う。

「監督を殴ってしまったことです」

「女に殴られるのは初めてだったよ。いい経験になった」

「どうしてわざわざあんなことを言ったんですか。察してくれ、なんてわざわざみんなを誤解させるようなことを」

「……そりゃ、男としての見栄だよ。還暦過ぎた枯れ男でも、そういった艶っぽい話の一つや二つ欲しかったからな」

 そんなことのためだけで、あんな思わせぶりな台詞を吐いたのか。やはりこの監督はただのややこしいおっさんだと改めて認識した。呆れるようにわざと聞こえるように、大きなため息を吐いてみせる。

「……で、今はどちらにいるんですか?」

「岩手だよ。ここに来るのは俺も初めてでな」

 しかし随分懐かしいやり取りだとも思った。ほんの二か月前までは毎日のようにこの男と電話でも対面でもポンポンと言葉のやり取りをとしていたのだった。そうしていると懐かしさも自然にこみあげてくるのだった。

「映画の企画を練られておられるんですよね。隣の奥さんから聞きました」

「ああ。俺はまだまだ死なんよ。長門清志郎ここにあり、というシャシンを一本撮り上げてみせる。まだまだ青春真っ盛りだ」

 エネルギッシュな人だな、と思う。もっとも、こういうパワーがないともあれだけの大所帯を率いて、あれほどの作品を撮り上げる事なんてできないのだろう。長門清志郎という人物は根っから、監督という生き物そのものだと思った。

「番組のほうはどうだ?」

「ようやく軌道に乗り始めた感じです。監督のおかげです。心から感謝しています」

 心からお礼を言った。間違いなく『スカイフォース』という番組の恩人だった。もう長門が戦軍に復帰することは不可能なのだが……。

「俺の第三の青春だったよ」

 そうしみじみと長門監督は言う。「第二の青春はピンクロダンでの仕事だな。……お前たちから若さを貰ったよ。番組の成功を祈る」

 真由香はつい背筋を伸ばした。

「ありがとうございます」

「お前は東光の役員になって偉くなれ……あばよ」

 そういって唐突に電話が切れた。まるで最後は柳沢慎吾のような挨拶だとも思った。長門清志郎ここにあり、といった電話だとも感じた。

 電話をもう一度かけ直すこともできる。しかし敢えて今はこちらから掛け直そうとは思わなかった。また時間のある時に改めてゆっくり、老監督と話がしたいと思った。そしてまた直に会って、話が出来たらなと思う。長門が構想する映画のアイデア、ぜひ自分に披露してくれたらと思う。

 心の中で真由香は長門にこう語りかけた。

 ―ありがとうございました、長門カントク。スタッフもキャストも皆頑張ってくれていて、番組はちょっとずつですが軌道に乗りつつあります。ここからが本当の勝負です。長門カントクのおかげです。本当にいろいろとお世話になりました。カントクとはよくぶつかったり、いろいろな気苦労も絶えなかったのですがこの半年間、多くのことを勉強させていただきました。ほんとうに感謝しています。そしてできることなら最終回まで、カントクと一緒に『スカイフォース』、完走したかったです。

 空を見上げた。

 三月の寒空だが、空は青々と雲一つなかった。

 この後、東光テレビプロに出向いて撮影スケジュールの打ち合わせがあった。春の陽気で、気温がさっきに比べて上昇したように感じられた。

 真由香はゆっくりとベンチから立ち上がる。



 まだまだ戦いはこれからだ。



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