REBORNS
@inaken
第1話 死は突然に。
衝撃――――それは一瞬のできごとだった。
だけど僕にとって、その衝撃から地面に倒れるまでの一瞬はとても長く感じられた。
それでも事態の把握は地面に伏し、全身に今まで体感したことのない痛みが走ってからだ。
激しい痛みと徐々に薄れゆく意識の中、身体の至る所から血が溢れていることがわかる。
いや、それだけじゃない。
全身に力を入れようとしても、動かない。さらには感覚のない部分もあった。
僕は死ぬんだ。意識が薄れながらも、非日常的状況下で妙に冷静だった僕の思考はそう直感した。
そう……僕はこの日一度死んだ――――
―――――――――――――――――――――――――――――――――――――
「なあ知ってるか? 最近この辺で通り魔がででいるみたいだぜ」
時刻は16時半を過ぎた頃、高校のホームルームを終え、皆が各々の予定のため教室を後にしていくなか、僕の悪友・
「どうしたの急に。 というか今日サッカー部の活動日でしょ? 2年生なってサボり癖でもついた?」
「すぐに行くよ。 ・・・…ユッキーさ、一人暮らしじゃん? 通り魔の被害者、ひとりでいるところを襲われてるみたいだからさ、優輝も気を付けたほうがいいぜ」
明人は心配そうな表情で僕に語りかける。
ちなみにユッキーは僕の愛称で、本名は
僕と明人は悪友とはいうものの小学生からの幼馴染だ。今が高校の2年生だからざっと9年ほどの付き合い。小学6年生のころに母親を亡くし、父も単身赴任で家を空けてからは何かと気にかけてくれている。
「ありがとう、気を付けるよ。 明人も部活頑張ってな」
「……おう! んじゃ、また明日なー!」
僕は明人と別れ、教室をでると、下校途中にある本屋に立ち寄った。
「お、あったあった。 待ちに待った最新刊!」
僕は漫画の最新刊ゾーンにおいてあった漫画の一冊を早々と手に取る。
「明人には、ああ言われたけど、漫画の発売日におとなしく家に直帰なんてできるわけない…… んん?」
会計に向かう途中、一冊の雑誌が目に入った。
雑誌はどこにでもあるような週刊誌で、普段なら興味を示さないはずなのだが、今回はなぜか目に飛び込んできた。
雑誌のタイトル下にある見出しには『都市伝説は存在した! 人智を超えた異能の力を操る
人間は死ぬと、生き返ることはめったにない。もちろん医術によって蘇生することもあるが、完全に死んでしまえば生き返ることはほぼないだろう。
しかし人間には隠された力があり、その力は一度死亡することで稀に覚醒するというのだ。そして、力の覚醒したものは不思議な力を身に付け
だが、実際に
まだ色んな説や話があるみたいだけど、僕が現状で知ってるのはこれくらいだ。むしろこの手の話に何故か詳しい明人から聞いて知った情報だ、他の人たちよりもちょっとだけ詳しいかもしれない。
別にオカルトなんてそんなに興味ないんだけど、ふと目がいってしまうこともあるんだな、なとど思いながらも雑誌から目を離し、目的であった漫画を購入すると、僕はそそくさと店をでた。
その後、早く帰って新刊を読みたいという欲求を抑えながらもスーパーで夕飯の買出しをした。買出しが終わった頃には日も落ちだし、薄暗くなってきていた。
本屋やスーパーは学校から僕の家までのほぼ中間地点に位置している。本屋やスーパーがある区域は比較的人通りが多く、学校付近までその活気は届いている。しかし逆に僕の家までの区間は工場や空き地、少々ボロ目のアパートや団地が立っている区域のため人通りが少なく、夕方になるとより一層暗い雰囲気を醸し出す。
ホラー映画などなら平気な僕だけど、実際に身近で起きている事件は別物だ。帰宅中、明人から聞いた通り魔の話が今になって微量の恐怖を産んだ。
ガシャーンッ!!
本屋のある区域を抜け、家の付近にある工場区の一本道を歩いていると、道横にある路地裏へと続く道から何かが壊れるようや音が聞こえた。僕はその音にビクッと身体を反応させると、ゆっくりと路地裏への道を覗き込んだ。
「な、なんの音だ……それになんか焦げ臭い」
路地裏へと続く通路からは少量の煙が流れてくる。
こんな時、真っ先に消防に通報するのが1番なのだろう。だが僕はじりじりと道の奥へと進もうとする。怖いという気持ちはもちろんあった、しかし好奇心、怖いものみたさ、そして誰かいるのかもしれないという気持ちからか不思議と身体は路地裏に進んでいった。
僕は途中、購入したものを通路横の物陰に隠し、ゆっくり、ゆっくりと道を進んでいく、建物の間の狭い道のためさっき歩いていた一本道よりも暗い。しかし徐々に進んでいくにつれ、煙の焦げ臭さとともに別の臭いがすることもわかった。
「!?……これ、鉄の臭い? それに……」
僕は気づいた。何かが這いずるような音が聞こえる。
もしかして、通り魔に襲われて出血しながらも逃げている? もしくは通り魔が被害者を引きずっている?
そんな思考が僕の頭の中で瞬時に浮かぶと、僕は走るように路地裏にでた。
「ッ!!……なんだよこれ」
路地裏についた僕の目に映ったのはあまりにも日常からかけ離れたものだった。
左腕から血を流しながら、壁にもたれる少女。よく見ると彼女の服装は僕の通う高校の女子の制服だった。
そしてその少女の真正面には、大柄な男が立っており、愉悦を感じているよな表情で彼女を見ている。
さらにこの二人の周りは壁も地面も何かが叩きつけられて様な跡と、燃えたような痕跡があった。先ほどの煙はこれによるものだろう。
「へへ、ガキが俺の邪魔しやがってよぉ……潰れて死ねや」
大柄な男は僕にまだ気づいてはいない。しかし、とんでもなくマズイ状況なのは考えなくてもわかった。
だが事態はさらに悪くなった。大柄な男が右腕を横に伸ばすと、腕の周りに岩石が生成され、腕を覆うように巨大化し、まるで石で造られた巨人の腕となった。
なんだよあれ、化け物?怪物?死ぬ?逃げる?
混乱する僕の意識、だが男の巨大化した腕は今にも少女を殴りかかろうとしていた。
「あああああああああああああああああああああ!!!」
意識はまだ混乱していた。
だけど気がつくと僕は全速力で駆け出していた。
そして僕はそのスピードを緩めることなく、少女に横から飛びくと、振り下ろされた男の巨大な拳を回避した。
ズゥゥゥゥン
重々しい音をたて、先ほどまで少女がもたれていた壁の部分はボロボロに砕ける。ほんの一瞬でも駆け出すのが遅れていたら、彼女や僕はあの拳に潰されていたかもしれない。
「!?」
僕に飛びつかれ、共に横に倒れこんだ少女は驚いた表情で僕を見る。
「間に…あっだぁ!!!」
息を切らしながらも僕はすぐに起き上がると、座り込む少女に背を向け、大柄な男の前に立ちふさがる。
「なんだてめぇ新手か? こっちは今ムカついてんだ。邪魔するってんなら、そこの女と一緒にてめぇも潰すぞ」
「……ふぅーー……げろ」
「あぁん? なんかい―――」
「僕が時間を稼ぐ!! 逃げろっ!!!」
身体中が震えているのがわかる、それでも僕は精一杯の大きな声で、少女のほうを振り向くことなく叫ぶ。
本当に馬鹿な行動だ。僕は漫画やアニメにでてくるヒーローなんかじゃなくてただの一般人、凡人だ。
手も足も生まれたての小鹿ように震えているし、ましてや相手は腕が巨大な石になってる化け物だ。同い年相手なら何度が喧嘩したことはあるけど、こんな化け物相手にするなんて馬鹿げてる。
それに今まで正義のために生きてきたわけじゃない、なのになんで今更正義ぶるんだ。
「…ありがとう」
少女は僕にそう告げると怪我をした左腕を抑えながらも、先ほど僕が通ってきた道を駆け抜けていった。ほんの少しだけ自分の行動が報われた気がした。
「……ぶっぶははははははっ! なんだなんだ正義のヒーロー? 白馬の王子様かぁ!? 今日の獲物はあの女の予定だったが、いいぜお前を殺してやるよ!せいぜいお前も能力使って俺を楽しませてくれよな!!」
男はそう言うと、再び巨大化した岩の腕を振り下ろす。
ドォォォォォォン
僕は紙一重で攻撃を避ける。当然ながらさっきまで立っていた地面は巨大化した腕によってのめりこんでいた。
早い、腕が大きいから早く動かせないだろうって思ったけど、今の攻撃とさっきの攻撃を見る限り、それは関係ないみたいだ。
「こんな状況なのに冷静な自分が怖いよ……いやあの化け物のほうがよっぽど怖いか」
アドレナリン?興奮が一周まわっておさまった?意識の混乱が治ったからか?とにかく僕は冷静だった、それもいつも以上に。きっと生命の危機に瀕しているからなのかもしれない。
おそらくあの男の攻撃を一撃でもくらったら終わり、そう直感した。
だが、幸いにもこの路地裏は小さな工場にも面しているため鉄パイプなども転がっている。男は腕のみが岩石により巨大化しているから、その攻撃をよけて攻撃できればなんとかなるかもしれない。
僕は足元に落ちていた鉄パイプを手に取った。
「いい反射神経してるじゃねぇか。だがなぁ能力使わずに俺をどうにかできるわけねぇだろう!!」
巨大な岩の腕による正拳突きが放たれる。突きは頬を掠めたもののぎりぎりで避け、その拍子に男の右腕側に立ち回る。
岩石で巨大化した右腕はまだ突きの状態のまま、今なら攻撃できる。
「一般人だっつーの!!」
僕自身鉄パイプで人を殴ったことがないからどの程度の力で相手を死に至らしめるかはわからない。それでも相手はただの人間ではないし、一歩間違えれば僕が死んでしまう。
僕は全身全霊の力を振り絞り、鉄パイプを男の顔に振りかざす。
ガィィィン!!!
硬いもの同士がぶつかり合う音が響く。
鉄パイプは確かに当たっていた。しかし、当たっていたのは男の顔の表面に石によって形成された装甲にだった。
「うぐぁ!!」
痛みと痺れが手から腕へと走り、鉄パイプを落とす。
それと同時に全身から嫌な汗が噴き出した。
「残念だったな、何も腕だけじゃねぇんだよ」
男はにやりと微笑むと、岩石で巨大化した腕で僕を壁へと薙ぎ払った。
「がっ……なん…だよ…これ…化け物」
「化け物だぁ? 俺は
「はぁ…はぁ…
「ま、それを知ったところで意味ないわな。潰れろや。」
男は大きく巨大化した岩の腕を振りあげる。
避けなければ、死ぬ。そうわかってはいるものの身体は動かなかった。
刹那、巨大な拳が真正面から叩きつけられた。
すさまじい衝撃が全身を襲う。身体中の骨が折れ、筋が切れ、血が噴き出す。
そして僕の身体はその勢いで壁に叩きつけられると、ゆっくりと地面へと倒れこんだ。
そして――――――僕は、一度死んだ。
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