第19話 乙女の涙

 私は地下室で作業机の前に座って溜息を吐いた。

「さっぱり分からん……」

 机の上に置かれた水槽の中には一匹のスライムが漂っている。

 工房兼物置と化している地下室の天井には採光窓があり、窓の下だけは日が差し込む作りになっていた。

 日の光に透ける紫色が美しい。しかし、沼から攫ってきた時と比べるとだいぶ小さく、色も薄くなった。


 なんとか、まだ生きてるけど……


 明らかに弱っている。

 沼に怪物が現れる前に私が沼で採取してきた新種のスライムのことだ。あれから暇を見つけてはこのスライムの正体を探ろうとしているのだが、尻尾すら掴める気配がない。

 

 いや、正体とまでは言わない。

 せめて、栄養源としているものが分かれば。


 あの汚水の沼で生きていたのだから、私の作ったスライムや父の作ったスライムと同じように汚水を糧にするはず、そう考えて台所の排水など汚れた水を与えてみたのだが、何も変化はなかった。

 何日経っても水槽の水が生ごみ臭いままなのに辟易して、結局私の作った黄緑色のスライム達の水槽に汚水を移し替えるはめになった。

 私の作ったスライム達は水槽の中でせっせと汚水を浄化し始める。


 うーん、愛い奴ら……


 和んでもいられない。こうしているうちにも、新種のスライムはどんどん弱ってきている。

「おーい、元気出せ! 君、一体何が好きなの?」

 呼びかけてもスライムはただ静かに漂うだけだ。水槽には私の顔が映り込んでいる。吹き出物だらけの顔だ。

「はあ……」

 気が滅入る。思わず水槽に手を突いて自分の顔を隠してしまった。


 まあ、私なんかに言われたんじゃ、君も元気出ないよね……。



 今朝はクベタの町まで買い出しに出かけてきた。出掛ける時、ウルバーノはまだ寝ていた。起こすのも悪いと思って声を掛けずに一人で買い物に出たのだ。

 沼に怪物が現れて、結果的に沼の浄化が大幅に進んでから初めての買い物だったので期待に胸を膨らませていた。


 もしかしたら、普通に買い物が出来るかも……!


 グアルディオラが帰って来たのは大勢が目にしている。沼の水が今までよりもずっと綺麗になった事も知れ渡っているだろう。

 きっと、私の悪評も少しはましになっているはずだ。


 今日からは小売店の安い野菜を買いに行っても毛虫を投げられたりしないで済むんだ。

 今まで悪かったねえ……とか言って、おまけしてくれちゃったりとかしたりして……


 そういえば、あんた、魔法機械工なんだろ? うちの仕入用の転送機の調子が良くないんだ。見て行っておくれよ。

 お安い御用です! 

 あら、悪いね。今度来たら言っとくれ、代金はいらないよ……

 とか、とか!


 都合の良い妄想と繰り広げ、えへへ、と怪しい笑い声を立てながら朝の商店街に出向いた私を、許されるなら今から過去に遡って張り飛ばして来たい。


 ああ、馬鹿馬鹿馬鹿!


 思い出すだけで顔が熱くなる。作業机の前で私は頭を抱え恥ずかしさに身悶えした。


 商店街の入り口にある八百屋は密かに私の憧れだった。

 全ての商品が安いわけではないのだ。日替わりで出される数種類の目玉商品以外の値段は他の店とそう変わらない。

 しかし、抜群に品が良い。

 もしも許されるなら、野菜は迷わずここで買うだろう。みな考える事は同じようで、買い物時はいつも賑わっている店だった。しかし、私は一度もここで買い物をした事がない。ビジャ湖の畔に越して来たばかりの頃に値段と品の良さにつられて店の中へ入った私は、罵声とともに痛んだ菜っ葉を投げ付けられ追い出された。


 沼を汚した張本人が何しに来たんだい!?

 ここにゃ、お前に売る野菜はないよ、とっとと帰りな、魔女が!

 地元野菜農家のみなさんに土下座してから出直すんだね!


 あれ以来怖くて店に近寄れなかったのだ。


 しかし今日こそは!


 今日も店は混みあっていた。広い間口、威勢のいいおかみさんの呼び込み、色とりどりの野菜。今日の特売は蓮根と李だ。蓮根は好きだった。何より歯ごたえがいい。カーサス地方の蓮根は肉厚で物も良い。蓮根は何となく割高感があるので、ぜひとも安く仕入れたい。

 背伸びをすると人と人との間から太くて立派な蓮根が見えた。美味しそうだ。

「ごめんくださ…………っうぶ!?」


 ……!?


 恐る恐る、しかし期待を隠しきれずに半笑いで八百屋に入った私に投げつけられたのは腐った玉ねぎだった。

「う? ……え?」

 汁が飛び散って服と髪の毛が汚れてしまった。つんとする匂い。

 状況が掴めずぽかんと立ち尽くす私に、店のおかみさんが逞しい腕を捲り上げ、指をバキバキと鳴らしながら近づいてくる。

「よくもその汚い面を見せられたもんだね、魔女!」

 ざわざわと店の中の人達も私に気が付いて口々に罵り始める。

「あ、あの沼地の……!」

「この気持ち悪い女がそうか」

 私は自分の勘違いに気が付いて真っ青になった。


 うそ、全然、私に対する印象変わってない! むしろ、悪くなってる……?

 どういう事?


 なぜだろう。トリスタンからは住民達は立ち退きの訴えを取り下げたと聞いていたのに。

「コルテスの奴らは化け物に襲われて腑抜けちまったらしいが、あたいらはそうはいかないよ」

 怒りの形相で近寄ってくるおかみさんの迫力に、思わず後じさりする。

「こ、コルテス……?」

「そうさ、この間、あんたのとこに押しかけた連中だよ。樵の元締め、コルテス。知らないのかい? あいつが不動産屋と樵仲間を集めたんだ。あたいらも誘われたけど不動産屋は信用ならないからね、商店街の人間は加わらなかったよ」

 樵……という事はこのあたりで林業を営んでいた人達の元締めという事か。そういえば、ダフネに聞いた事があるような気がする。この辺り一帯の樵達の信頼を一身に背負う若き元締め、だったか。

 皆、瘴気から身を守ろうと顔を何かで覆っていたし、本格的な話し合いをする前に化け物が出てきてそれどころではなくなってしまったので、どんな人々がやって来たのか実はよく分からないままだったのだ。

 正直言って、今、知った。

 かなりの大人数だったので、なんとなく私を訴えている住民達のほとんどが来ているものだと決めつけていたが、どうやらやって来たのは一部だったらしい。

「あんた、スライムの化け物を呼び寄せてあいつらを殺そうとしたらしいじゃないか!」


 なんですと!?


「……!? ち、違います!」

 いつの間にそんな事になっていたのだろう。あの状況をそんな風に曲解されていたとは、私の印象はどれだけ悪いのだろうか。とんでもない勘違いにぶんぶん首を振って否定するが、勿論聞いてはもらえない。

「しらばっくれんじゃないよ! 主様とあの狼のSランク傭兵が居なかったらみんな死んでたって聞いたよ!?」


 えええええ!? そこだけ事実!?


「た、確かにウルバーノさんやグアルディオラに助けてもらいましたけど、私はみなさんをどうにかしようとして化け物を呼び出したりなんか……」

「言い訳するんじゃないよ! どうせあんたがあの沼を汚してあんな化け物を作ったんだろ!?」

「……っ」

 沼を汚した件に関してはいろいろと言いたいこともあるが、確かにあの化け物が生まれた原因は私だ。私がリボンを沼に捨てたからだ。エンリケにしてやられたとは言え、注意を怠った責任は私にある。

 何も言えずに俯く私に次々と罵声が降って来る。

「卑怯な手使いやがって!」

「地獄に落ちろ!」

「優雅にお買い物か? ふざけんな! まずは賠償金払え!」

「死ね!」

 店の客達はおかみさんと一緒になり店の戸口に立つ私を目がけて、野菜くずを投げ付け始める。

「い、痛っ! ちょっと、やめて、話を……!」


 ここで逃げたら今までと同じだ。きちんと説明をしないと。


 気力を振り絞って上げた顔にざっと泥水が掛けられた。

「……っ!」

「とっとと帰んな。でなきゃ、あたいもこいつらも何するか分かんないよ?」

 買い物のためにもってきた籠や服まで全て濡れた。髪の毛からぽたぽたと滴が落ちる。泥と、そしてかすかな野菜の臭い。静かな声音で言われて彼らの本気を悟る。私をぐるりと取り囲む町の人達の冷たい目。


 これ以上ここに居たら危険だ。


 私は緩慢な動作で踵を返した。泥水が八百屋の床に広がる。足元の白菜にも泥がかかってしまっていた。


「帰ります……お店、汚してすみません」

「とっとと帰れ! 二度と来るんじゃないよ!」

「夜道は背中に気を付けな!」

 追い立てられて八百屋を後にした。顔を隠しながら早足で商店街を抜ける。


 仕方ない。

 いつのも量販店に行こう。

 あそこなら、店員もドライだし、今みたいな騒ぎにはならない。

 大丈夫。いつも通り。


「はぁ、はぁ……」

 そのはずだが、私の足は量販店へは向かわず、暗い路地へと入る。

「……っ」

 ほとんど表通りから見えない場所まで来たところで、耐えきれなくなり崩れるようにしゃがんだ。膝に顔を埋める。


 ああ、もう私、馬鹿だったなあ。

 ウルバーノさんの評判が良くなったって聞いたからって勘違いしちゃって。

 そりゃそうだよ、だって、ウルバーノさんが私達を助けてくれたんだから。

 確かに私は何もしてない。

 沼が少し綺麗になったからって、主が帰って来たからって、町の人の生活が元通りになったわけじゃない。

 私の罪が償いきれたわけじゃない。

 おかみさんの言う通り、あの化け物は私が作ったようなもんだし。

 考えればすぐ分かるのに、本当に駄目だなあ。


 路地の汚れた地面に手を突いて何度か深呼吸する。

「……ぅ……」

 息が震えた。


 何、凹んでんの。凹む理由ないよ。いつも通りじゃないか。

 だって、状況は変わってないし。慣れてる、こんな事。

 ていうか、死ななくて良かったよ。うん。

 おかみさんの目、据わってた。やばかった。


「危なかった、あははは……やっぱ賠償金が払われない限り駄目か。世の中、お金だなあ!」


 ただ、私、結構頑張ったなって、実は思ってたんだ。

 結局何も役に立たなかったけど。

 だから、私の事ちょっとは見直してくれたんじゃないかって期待しちゃったりしてたから、恥ずかしいのと悲しいので、なんか今は……

 なんだか、今は……っ


 しばらくそのまま俯いて、感情の波が過ぎ去るのを待った。

 服を絞り、涙と泥水をなんとか拭って路地を出て、誰とも目を合わせないように買い物だけして逃げるように帰ってきたのだ。


 とにかく一人になりたくて、ウルバーノには声をかけず、地下室へ駆け下りた。

 今、ソファーは空だ。シャワーから水音がする。ウルバーノは起きて入浴中らしい。顔を見られたくなかったので好都合だ。急いで汚れた服を洗濯機に放り込み証拠隠滅をはかる。

 食料品を仕舞って、必要な物を机に並べる。最近のスライムに関する報告を読んで仕入れた情報を元に、スライムの栄養源となりそうなものを集めてみたのだ。中にはふざけているとしか思えないものもあったが、試してみないよりましだろう。

 昨日ウルバーノには散々馬鹿にされたが。


「えっと、まずキャベツ」

「芋虫じゃねえんだから」

「あとは……豚の肝臓」

「怖えよ! 急に肉食系だな!」

「羽毛」

「マジか」

「蓬の燻製」

「灸? 腰でも悪いのか?」


 などなど。髑髏や乙女の涙なんていうのもあったのだが、人間の髑髏なんて手に入りそうもない。次々とスライムの傍へ持って行くが、どれも駄目だった。やはりウルバーノが正しかったという事か。

 そして、地下室で独り溜息を吐いているというわけなのだ。

「乙女の涙ならいくらでも出せるけどね。要る? ただ単に処女ってだけの乙女だけどさ」

 自嘲気味に笑うが、もちろんスライムが返事するわけもない。

「ま、要らないよね!」

 今度こそやけくそ気味に大笑いだ。さっき豚の肝臓を掴んだので手は血塗れ、傍から見たらまさに悪い魔女、だろう。

 馬鹿らしくなってきて、溜息を吐く。


 笑ってる場合じゃないよ、どうしよう……


 先日、グアルディオラと二人で沼のゴミを片付けていた時に、沼の畔で高級木材のガトス杉にそっくりな木が生えているのを見つけた。

 濃い瘴気のために沼が魔の山ガトス山と似た環境となっていたため、木々が環境に適応して変化した結果だろう。

 これをなんとか金銭に替えられないかと画策しているのだが、全くと言っていいほど上手く行っていない。

 材木を売るというのは想像以上に難しいようだ。素人が半端に手を出してはいけないものだという事が嫌と言うほど分かった。

 伐採したそのままの木、原木をまず自然乾燥させ、その後にしかるべき業者に頼んで原木市場まで運び、競りにかけ、競り落とされる。そこから工場へ運ばれ、皮剥き、切り分け、材木が歪まないようにさらに乾燥させた上で、今度は木工店や材木問屋へ運ばれる。

 ここで家具や建築材に加工され、ようやく商品としての価値を持つ。

 本来ならば競り落とされた段階で伐採者である私に対価が支払われるはずなのだが、この競りにかけるまでが容易ではない。

 まず、原木市場までの材木の運搬には専用の重機と台車が要る。地元の材木運搬業者に頼む事も考えたが、おそらく問答無用で断られて終わりだ。

 運搬業者も林業の衰退にともなって大きな被害を被っているはずで、当然私への風当たりはきつい。

 よしんば競り会場まで辿り着けたとしても、この木はおそらく高くは売れない。いや、安くても売れればまだしも、売れない可能性すらある。

 ガトス杉の例を引くまでもなく、木材の品質は産地に依存する。このあたりは昔から林業で栄えていたとはいえ、産出していた木材はクベタ杉である。耐久性や硬度は中等度であるが、木目の美しさと直立する木の形状から使いやすい良材として親しまれてきたものだ。ブランド価値のあるのはカーサス地方産のクベタ杉であって、どこの馬の骨とも分からないガトス杉もどきではない。

 どんなに銘木のガトス杉と似た性質を持っていようとも、家具や建築材として使用された実績のない木を誰が高く買うというのか。ガトス杉と似た性質を持っていても実際に加工すると思惑とは違っているというのもよくある話だ。

 高級材として材木を売る、というのは名の通った産地で名の通った樵が代々築いてきた信用があって初めて成り立つのだ。当たり前だが、一回の魔法機械工がぽっと出て材木を高く売りさばくなどという事は夢のまた夢だった。

 そこで、正規のルートで木材を売るのは諦めて、木工店と直接契約を結び、新しい木材を使った家具として売り出してもらうというのを考えついた。そうする事で世の中にこの木材が認知され、ゆくゆくはブランド化が出来るかもしれない。

 ダフネに頼んで木工店を探してもらっているが、見通しは暗い。この辺りの木工店は材木運搬業者と同じ理由で私に対して良い印象を抱いていない。遠くの木工店になると今度は運搬に金がかかり過ぎて儲けにならない。

 永い時間をかければこの木の商品化も可能かもしれないが、はたしてそれまでに、この木を安定供給出来るようになるのか、はっきり言って自信がない。

 木の性質が変化した理由が瘴気だとすれば、沼をもとの魔窟に戻せばいいのかもしれないが、もちろん論外だ。そうこうしているうちに、この特殊な性質の木々が清浄な空気に慣れて、普通の杉に戻ってしまうのではないだろうか。

 いくら物が良くても売り出す手筈が整えられなければ無意味だ。正直言って、ここまで大変だと金儲けに繋げようという気力すら失せてくる。

 借金を返す手立ては全く思いつかなかった。

 半ば現実逃避も兼ねてスライム達を調べる事を思いついたのだが、買い出しに行った先で現実をこれでもかというほど思い知らされる羽目になった。

 逃げを打っても仕方ないのは自分が一番良く分かっているのに。


 駄目だ。暗くなってる。


 私は手についた血を拭い、地下室の奥の倉庫からこの間捕まえて来た父のスライムを入れたバケツを取り出した。

 この個体はまだ瘴気とヘドロを生み出す能力を持っている。そのまま、水槽に入れて飼うと地下室が、場合によってはこの家全体が悪臭でとんでもない事になるので、今までは私のスライム達を飼っている水槽の中に入れられなかったのだ。

 そこで、今日は買い出しに行ったついでに、臭いを閉じ込めるための覆いを買って来た。本来は生ごみを入れるのに使うものだ。脱臭機能も付いている。瘴気は少し漏れるかもしれないが、もうここまで瘴気を出す能力が弱まっているのだから、人体への影響は少ないだろう。しかも、今から移す水槽の中にはヘドロを浄化するスライムがうようよしているのだ。みんな餌を待ち構えている。

 この中に入れれば、このスライムもそのうち元の有益なスライムに戻るはずだ。幸いな事に今は瘴気を出していないようだ。さっさと移し替えてしまうに限る。

 あの化け物が生まれた経緯を考えると本当はあまり同じ水槽に入れるのは良くないのかもしれないが、背に腹は代えられない。こうしなければ、このスライムはいつまでたっても公害の元だ。

 バケツからスライムを流し入れようとしたその時だった。


「ったく、帰ったんなら声ぐらいかけろよ」


 呆れたような調子の低い声。

「ウルバーノさん」

 音も気配もなく、ウルバーノが背後に立っていた。いつもの様に人型、そして上半身は裸だ。

 この家に越して来てから彼が家の中で獣型をとっているのを見た事がない。さすがに気まずいので服を着てくれと何度も言っているのだが、いくら言っても改まる気配がないので諦めた。

 振り返ると鋭い銀色の目が不機嫌そうにこちらを見下ろしている。

「すみません」

 なんだか、見上げるのが辛くなって下を向いた。

「どうしたんだよ?」

 掬い上げるように覗き込まれて、どうする事も出来ない。きっと酷い顔をしているに違いない。

「なんでも……」

「なくはないよな。腐った玉葱投げ付けられた後で泥水ぶっかけられた臭いがする」

「……?!」

 ぎょっとして端正な顔を見上げる。 見ていたのかと思うほど言い当てられた。そんなに臭うのだろうか。思わず、身を引く。

「やっぱな、そんな事だろうと思ったぜ。町に行ったんだろ?」

 ウルバーノは苛立たしげに頭をがしがしと掻き毟って溜息を吐いた。

「凄いなあ……何でも分かっちゃうんだ」

 顔を合わせないようにしていた自分が馬鹿みたいだ。考えてみればウルバーノはこの家に越してきてからも、傭兵としての用事でもあるのか、ちょくちょく町に出向いている。私の悪評が全く改まっていない事くらい、もう知っていたのかもしれない。

 肩の力が抜け、思わず乾いた笑いが混じる。きっと私が落ち込んでいる理由も分かっているに違いない。

「や、なんか、ちょっと勘違いしちゃって……別に大した事じゃないんです。考えが足りなかったっていうか、浮かれてたっていうか……」

 クベタの住民達をただ憎むことが出来ればどれほど楽だろう。こっちはお前達のために臭いヘドロと瘴気に塗れながら必死で沼を浄化してきたというのに恩知らずめ、寄ってたかって苛めるなんて、この人でなし! そう喚き散らすことが出来たなら。


 けれど、私は知っている。


 今日、私に浴びせられた泥水はきっと野菜を洗った水だ。目玉商品の蓮根を洗ったのかもしれない。蓮根は丁寧に白く洗い上げられていた。

 それでなくたって、店頭に並ぶ野菜を見れば、あの八百屋がどれだけ仕事に誇りを持っているか分かる。

 その彼らが野菜に泥水がかかるのも構わず、私を店から追い出した。

 樵達だってそうだ。

 彼らが怒り狂っていたのは、単純に収入源を減らされたからではない。自分達が愛し、守り育てて来た森を台無しにされて、酷く悲しかったのだ。


 人里離れた場所に住んでいても肌で感じる、当たり前の人の営み。それを滅茶苦茶に壊してしまった私達親子。

 ビジャ湖の浄化が進み、主のグアルディオラが帰って来たとは言っても元通りになるまで、まだまだ時間がかかる。

 彼らの日常が返って来るまで、あとどのくらい待たせればいいのか。


 彼らが善良で勤勉である事が、彼らが人であることが……

 それが、何よりも耐え難い。


 また、俯きそうになった私の額をウルバーノの大きな手が抑えた。

「あた……っ!」

 ぐっと首が後ろに突っ張る。これでは俯く事が出来ない。

「俯くんじゃねえよ」

「い、痛いですよ」

 目を開けると驚くほど近くにウルバーノの顔があった。真上から覗きこまれ、いつの間にか腕は腰に回されている。逃げられない。前掛けとスカート越しにもウルバーノの鍛え上げられた硬い腹筋の感触が伝わってくる。

 相手が私だからいいようなものの、普通、女性に対して半裸でこんな事をすれば勘違いされてしまうと思う。場合によっては訴えられる。

 ウルバーノも相手が私だから、どうでもいいと思ってやっているのだろう。そんな私の心のざわめきなど知らぬ顔で、彼は強い眼差しで私を見据える。

「……っ」

 美しかった。

 面差しが端正というだけではない。

 何より彼の高潔な精神が。

 真っ直ぐに人を見つめて、「俯くな」と言えるその強さが。


 きっと……


 普通ならば、胸をときめかせる場面なのだ。憧れの人、見目麗しく、若く、逞しい男に抱きしめられているのだから。

 私といえば、そんな美しい彼と見つめ合っていても、何かを期待する事すら許されない。美しい彼の目の前に、自分の醜い吹き出物だらけの顔が無防備に晒されているこの状況から逃げ出したいと、そんな事ばかり考えている。


 さっき、私を『臭う』って言ったんだから、近付かなきゃいいじゃんか。

 いやだな。臭い上に顔も汚くて。

 私だって女なんだから、臭いとか汚いとか本当は思われたくない。

 離れてくれればいいのに。


「酷でぇ顔」

 こんな台詞を優しく言うなんて反則だ。泣きたくなる。

「やっぱり、お前、住民どもの噂知らなかったのか……ったく、馬鹿が」

「……まさか私があの人たちを殺すために化け物を呼び出したって事になってるなんて……」

「あの悪魔も言ってたろ、あいつらは今まともじゃねえ。あえて言う事じゃねえかと思って黙ってたんだが、言えば良かったぜ。まさか一人で行くなんて思わねえからよ……声かけろよな」

「寝てましたし……」

「んなの叩き起こしゃいいだろが」


 あの寝起きの悪さを見せつけておいて何を言っているんだ。


 それに、もう彼は私の助手でもなんでもないのだ。家賃払いの良過ぎる店子(彼が私に払っている金額なら町の高級住宅街の屋敷が借りられる。食費を差し引いても完全に黒字だ)に買い物を手伝わせる大家がどこに居る。


 しかも、威を借られる虎として? 冗談じゃない。


 この上、私のせいで彼の評判がまた悪くなりでもしたら、今度こそ私はお天道様の下を歩けない人間になる。むしろ、こうなると知っていたら彼が起きていたって意地でも連れて行かなかったに違いない。

「起きてたんだぜ。お前が起こしに来るかと思って……待ってた」


 嘘を吐け。Sランク傭兵の地位よりも睡眠を取る男が何を言っている。


「信じてねえな、まあ、いいけどよ」

 銀色の目が剣呑な光を放つ。それは見間違いかと思うほどの刹那の間だったが、それだけで本能的な危機感を感じて身体が震えた。

「……っ!」


 え、なに、今の。

 彼はその気になれば一瞬で私の首の骨を折る事が出来るから?

 いや、なんだか微妙に違う気がする。なんだろう。


 自分でも今一瞬感じた眩暈がしそうな危機感が何に由来するものなのかよく分からなかった。それはともかくとして、あれだけ助けてもらっておいて怖がるなんて、なんて失礼な態度を取ってしまったんだろう。

 だが、後悔しても、やってしまった事は取り消せない。野生の獣よりも気配に敏い彼は私の怯えなどお見通しだ。

「おい、怖がるなよ」

 そう言いながら、ウルバーノは捕食者そのものの顔で嗤う。

「す、すみません……」

 怖がらせる気がないとはとても思えない表情だ。人型の彼には牙などないはずなのに。心なしか腰に回った腕にも力が籠ったような気がする。

 実に楽しそうだ。怒ってはいないようだが、逆に怖い。

「お前が奴らに酷い目に遭わされるって決まったわけじゃねえし、一人で行きたいならまあいいか、と思ったが」

 そう言って、彼は目をうっとりと細め、私の額を撫で上げて前髪を持ち上げる。

「やっぱり、俺が駄目だな。意地張らずについて行けば良かったぜ。ボロボロになりやがって……」

 ウルバーノはそう言って傷付いたような顔をした。


 なんでウルバーノさんがそんな顔するんだ。


 そして、彼はもう一度溜息を吐いて舌打ちする。

「ちくしょうドロテア、てめえ、たまには俺に何か頼めよ」

「え?」

 急に変わった話題について行けず、聞き返す。一体、なんなんだ。

「そうじゃなきゃ、なんか寄越せ」

「えええ!?」

「あ、うん、いいなそれ。今思いついたにしちゃ上出来だ。そうだぜ、俺にご褒美をくれ!」

 楽しげにぐいぐい顔を近づけてくるウルバーノに焦った。高く尖った鼻先が触れそうだ。意外と長い銀色の睫毛が楽しげに瞬く。

「なんでですかっ?」

 何をどうしたらそんな話になるのだろう。さっぱり分からない。

「なんでもさってもねえ。てめえ、俺がこの家に来てからどれだけいろいろ我慢してるか知ってるか? 知らねえよな、まあ、知ってたらこんな体勢許すわけねえな! ああー、ちくしょう。むかつく。分かんなきゃ、ほらあれだ、お前が頼むからこの間も面倒臭ぇSランク任務やってやっただろ? その褒美」

 私が逃げられないように拘束した上で、何かくれ、としきりに繰り返すウルバーノを見ていたら、ふいにやりきれなさが押し寄せてきた。


 なんだそれは……

 強くて、格好良くて、優しくて、何でも持っているくせに、どうして私にそんな事を言うんだ。

 私だって、出来る事なら何かしてあげたい。

 いつもいつもそう思っている。

 そう思ったから、早く仕事から解放してあげようと思った。

 ランク昇格試験にも協力しようとした(結局勘違いだったが)。

 気まずいけど、同居もさせてる。

 けど、ちっとも恩返しになってない事くらい私にも分かる。

 逆に助けて貰ってばっかりだ。

 ウルバーノさんと毎日話せる事がどれだけ救いになっているか。

 私がウルバーノさんに何かあげられるものがあるのなら教えて欲しい。

 そんなものがあったら、とっくの昔にみんなあげてる。

 私がいつもどれだけウルバーノさんに感謝していると思ってんだ。

 世話になった回数なんて、恐ろしくて数えたくもないくらいなのに。


「何かって、なんですか……」


 自分が本当に何も持っていない事を改めて実感した。一人では何一つまともに出来ない。沼の浄化すらも結局、他人の力と偶然に助けられて成し遂げたに過ぎない。

 住民達にもまだ恨まれている。貧しいし、借金もある。外見も心も醜い。

 その上、弱い。

 俯きたくてもそれすら出来ない。醜い顔をさらに醜くするだけだから泣きたくなんてないのに涙が止められない。


 ああ、駄目だ。

 醜いだけならまだしも、ウルバーノさんは優しいからこんな風に泣いたら心配させてしまう。


「お、おい!? どうした?」

「何もありません……あげられるものなんて!」

 気が付くと泣きながら叫んでいた。逆切れもいいところだ。ウルバーノを慌てさせて。どうしてこう、自分勝手で意気地がないのだろう。次から次へと負の感情が押し寄せてきて、もう自分ではどうにもならない。

 ぼろぼろと涙を零しながら情けない言い訳を繰り返す。

「本当に、何にも、何にもないんです……どうしろって言うんですか? ウルバーノさんが喜ぶような事なんて、全然……思いつかないしっ、何やっても上手く行かないし、町の人には嫌われたまんまだし、借金だって全然返せる気がしないし、それでも一人でなんとかしなきゃって分かってるけど、何をどう頑張ったらいいのか、もう……」


 最悪だ。


 こんな風に泣き言を言う資格なんて私にはないのに。それを、本来なら恩返しをするべき相手に憤りをぶつけて。顔を伏せる事も出来ずに、みっともなく泣きわめく私をウルバーノはただ見ていた。

 きっと、呆れているだろう。私だってこんな酷い姿は見せたくなかった。

「うっ、う……す、すみません、ウルバーノさんは何にも悪くないのに。私、臭いでしょう? もういい加減、離して下さいよ……」

 額に置かれたままの大きな手をどうにかして引き剥がそうともがくが、逆に強く押さえ込まれた。


 だから、首が痛いって!


 おもむろに手をずらされ目を覆われて、視界が真っ暗になる。

「わ……何するんですか?」

「欲しい物か、勝手に決めつけんなよな。お前から欲しい物ならある」

「え?」

「嫌になるほどたくさん、な。全く不公平な話だぜ」

 見えないので、どんな表情かは分からないが、静かな声音だった。いつものウルバーノの様子とは違う。

「ダフネの婆ぁも町の奴らもみんな俺にいろいろ頼むが、正直、面倒臭くて敵わねえ。なのに、何だってやってやりたいと思う奴に限って、俺には何も頼まねえと来たもんだ。いつも、俺ばっかり欲しがっててよ……」

 何だってやってやりたい奴? 誰だろう。恋人か誰かだろうか。

「お前、どうせ、分かってねえんだろうな。馬鹿らしくなってくるぜ。……ドロテア、お前が一言頼めば、たぶん借金を帳消しにする方法なんていくらでもあるんだ」

 そんな方法があるというのか。ウルバーノが何を考えているのか相変わらずさっぱり分からない。

「あの悪魔だってそれは分かってるんだろうな」

 あの悪魔、エンリケの事か。エンリケがなんだというんだ。どうして急に彼の名前が出て来る。

「あのカマ野郎もそれを待ってるのかもしれねえ……けど、俺だってそれは同じだ。好きにさせてたまるか」

 歯ぎしりする音が聞こえてきそうな調子で低く唸ると、ウルバーノはさらに私を強く抱き寄せた。

「なあ、貰うものは俺が決めていいよな。決めたぜ、これを貰う」

「これ?」

「これだ……」

 私の目を覆う彼の手が少し動く、親指がそっと私の頬を撫でたような気がした。吹き出物に触られている気がする。


 うわ、汚いですよ、指が汚れますよ、本当に勘弁して下さい……!


 などと呑気に考えられていたのはそこまでだった。濡れた生暖かい感触が頬を這いまわる。

「涙、お前の涙……」

 心なしか上ずって掠れた声。まるで、興奮しているかのような。

 暖かな吐息と水音……。

「俺のだ……」

 耳の近くで聞こえる息遣いは水音とあいまって獣じみている。それがぞくりとするほど艶めかしい。

 いつの間にか、目を覆っていた手は首の後ろに回り、完全に抱きしめられている状態だ。


 なんだ、何をされているんだ。


 光を取り戻した私の目は妙に冷静にウルバーノの銀色の頭を眺めている。頭では分かっている。


 私は今、ウルバーノに……


 ついにぬめる舌先が私の目じりにまで到達する。


「うわああああああ!?」


 自覚した途端にとんでもない羞恥心が襲ってきて、ウルバーノを突き飛ばしてしまった。

 ウルバーノも今度は素直に私から離れる。

「な、ななななな、なに、何すんですかあああ!?」

 我ながら凄くうるさい。


 だけど、許されると思う!

 絶対許されると思う!


「ちょっと泥の味するな、やっぱ」

 ウルバーノの口からちろりと赤い舌が覗く。いやらしい生き物のように。

 かぁっと顔に熱が集まる。

「かっ、感想とか、いらないし……!」


 ていうか、それなら舐めなきゃいいじゃんか!

 泥はまあ置いておくとして、私の吹き出物舐めるとかちょっと頭おかしいんじゃないですか!?


 怒りと羞恥とその他もろもろのせいで、立っていられなくなり、ついにしゃがみこんで頭を抱える。

「もう、信じられません。何がしたいんですか……! ホント、なんなんですか!?」

 きーっと叫んで、頭を掻き毟りたい衝動に駆られる。

「知らないのか? 傭兵ウルバーノの好物は魔法機械工ドロテアの涙って論文にも書いてあるぜ?」

「ウルバーノさんスライムなの?!」

「お前、ほっとくと本気にしそうだから一応言っとくが、冗談だ」

「分かりますよ! そのくらい!」


 また、からかわれたんだ!

 なんなんだよ、むかつく!

 人の気も知らないで!

 私、あれですよ。ウルバーノさんに憧れているんですよ!?

 勘違いした私に迫られでもしたらどうするんですか!?

 困るのはそっちですよ!?

 ……勘違いなんかしないけどさ。


 そこで、はっと気が付いてしゃがんだままウルバーノを見上げる。

「うがい……そうだ、うがいして! 口濯いで下さい、早く!」

「何でだよ」

「だって、汚いじゃないですか!」

「それを言うならお前だって顔洗わなきゃだろ」

「私の顔はいいんですよ!」

 ウルバーノは私の言葉に目を丸くする。なぜか、口元を手で覆い、目じりを赤く染めて俯く。

「いいのか? 他人に顔舐められたんだぞ?」

「ウルバーノさんの唾より私の顔の方がよっぽど汚いです。それにどうせすぐにシャワーに入るし」

 帰って来てから本当はすぐに身体を洗いたかったのだが、ウルバーノがシャワーを使っていたので、仕方なくそのまま着替えたのだ。本当はすぐにでも身体に付いた汚水を流したい。間髪入れずに返すと、ウルバーノはがっくりと肩を落とした。

「そういう意味じゃなくてだな……」

「吹き出物には変な細菌がうようよしてますし、腐った玉葱の汁も付いてるかも! お腹壊したらどうすんですか。お願いですから、うがいしましょうよ」

「ああ、もう、うるせえな」

 ちっと舌打ちしてがりがりと頭を掻く。もうすっかりいつものウルバーノだった。不機嫌そうなのに、なんとなくほっとする。

 立ち上がって、台所まで水を取りに行こうとする私の腕をウルバーノが無造作に掴んだ。

「……っ!?」

 さっきされた事を思い出して身体が勝手に逃げようとする。びくりと身を竦める私をウルバーノは楽しげに見下ろした。

「はっは! いい様だ! そうやってもうちょっと俺を警戒しろよ」

「え……」

 まだ何かされるのかと身構える私にウルバーノは顔を寄せる。


 近い、近いです……!


「覚えとけ。これからお前の涙は全部俺が貰う」

「な……!?」

「そうだ、いくらお前でも分かるよな? 今度、泣きたくなった時は……覚悟しとけよ?」

 そう言って、にんまりと意地悪く笑うウルバーノは、悔しいが、凄まじく男前だった。

「……」


 ……たぶん、泣くな……という事なんだな、これは。


「分かりました。もう、泣きません」

 やり方は激しく間違っている気がしなくもないが、おそらく彼なりの叱咤激励なのだろう。


 励ましてくれたんだ。


 思い切り泣いて騒いだせいだろうか。憑き物が落ちたような爽やかな気分だった。


 そうだ、沼の浄化が進んだ事は事実だし、もう沼の周りで怪物達に怯える事もない。

 状況は前より良くなっているんだから。悲観することない。

 後は、前に進むだけだ。


「やってやります」

 ようやく真っ直ぐ立って彼を見つめ返す事が出来た。

「えへへ、すっきりしました! ありがとうございます」

 笑って言うと、今度はウルバーノが不安そうな顔になる。

「いや……え? ありがとう? 泣かないって…………なんでそうなるんだよ!」

 今度は一体なんだというのか、まだ言いたいことがありそうなウルバーノに怪訝な視線を向ける。


 その時だ。


「……っ!?」

「……うぐっ?」


 強烈な悪臭に全ての思考を奪われる。

「……っなんだ、これ? もう沼のヘドロはなくなったんじゃねえのかよ……っ!」

 さすがのウルバーノも急に悪臭にさらされるとつらいのだろう。眉をひそめて鼻に手をかざしている。

「すみません! 忘れてました!」

 急いで先ほど床に置いたままにしていた父のスライムが入った水槽に駆け寄る。

 思った通り、父のスライムがヘドロと瘴気を生み出しているところだった。

「うわあ、まずいまずい!」

 慌てて私のスライムを飼っている大きな水槽に移し替える。

「わっ!」

 慌てたせいでヘドロが跳ねてしまった。


 ああ、もう!


 吐き気を堪えながら蓋を閉じて嘆息する。

「ふう……」

「お、おい、ドロテア、何か光ってんぞ?」

「え?」

 見ると私の机の上の水槽がぼんやりと紫色に光っているではないか。


「……!」


 駆け寄って水槽を覗き込む。やはり、そうだった。あの新種のスライムが光っている。生き生きと、嬉しそうに。


 そうだったのか!


 これで全てがつながった。

「どうしたんだよ」

 ウルバーノも私の横から水槽を覗き込む。

「……これは!」

 ウルバーノも事情を察したのか、真剣な目で水槽の中に見入っている。さすがはウルバーノだ。その間にも急速に悪臭と瘴気が消えていくのか分かった。


「瘴気を魔力に変換するスライムか!」


 今度こそ、今度こそ、これはお金になるかもしれない!


 私達は固唾を飲んで美しい紫色の光に見入った。

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