番外編 前向きな任務 (フロントミッション)
妻は昔からあまり物事を気にしない。大抵のことは大らかに前向きに捉える素晴らしい人だ。
以前に一度、僕は結婚指輪を紛失したことがある。指輪自体は大した金額ではなく、また、妻も物や形で夫婦の絆にこだわる人ではないことは重々承知していた。しかし、それでも夫婦の誓いと思い出の品を無くしたことを申し訳なく思い、僕は妻に正直に謝った。
さすがの妻も少々は怒るか呆れるものかと思ったが、笑いながら、「指輪だけあって、あなたが居なくなるよりよっぽどいいわよ」と、許してくれた。指輪はあとで無事に見付かったが、あの時、僕の気持ちは凄く救われた。
ある日の仕事の昼休み。自席で愛妻弁当を食べようと思ったら、弁当箱に箸が入っていなかった。仕方がないので僕は、近くのコンビニへと買い物ついでに箸を貰いに行った。
夜、仕事から帰宅した僕は、妻に「今日、弁当に箸が入ってなかったよ」と冗談混じりで伝えた。もちろん、気にしていた訳でも怒っていた訳でもないが、せっかくなので夫婦の笑い話にしたかったのだ。
すると妻は、笑いながら、「お箸だけあって弁当がないよりよっぽどいいじゃない」と、答えた。
妻は昔からあまり物事を気にしない。大抵のことは大らかに前向きに捉える素晴らしい人だ。
(終)
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