第5話 つないで消すのがソルジャーだ
『枯れつつある情報を水平展開して最大限に活かす』
そんな経営戦略か哲学を何かで読んだ気がしたが、それが鯨武 由美という彼女との様々なキッカケとなった携帯ゲーム機、
◆
WSは白黒画面の携帯ゲーム機ながら定価5千円という超安価で、ゲーム業界の度肝を抜くとまでは言わないが大きな衝撃を与えた。時代はCDロムによる大容量のCGゲームが氾濫する中、カートリッジ方式とドット絵で新規参戦で勝負する博打に出たのだ。
以前も話したが、このメーカーはアニメや特撮などの版権物の玩具やグッズ、ゲームソフトで業績と規模を拡大し続けた成功者である。しかしながら、プラットホーム(自分の会社から出したゲーム機)では常敗を積み重ねており、ゲーム史においては表裏の意味で台風の目となっているモンスターな会社だった。
1999年6月24日(木)
彼女と出会ってしばらくが経った頃、僕は最寄のゲームショップでWSを買った。カラーはピンク色である。憧れの思い出のヒロインのメインカラーと言えば聞こえはいいが、何店か回っての数あるカラーバリエーションの中、この色しか売れ残っていなかったのだ。とりあえず今のうちに 『思い入れ』なる理由や記念を準備しておくあたりが、自分らしいとなんと言うか。最悪の思い出カラーとなる可能性もあるが…。
もちろんWS対応ソフトも数本購入済である。各店内では見渡すとラインナップは充実しており、売れ筋ランキングなるポップや貼り紙、試遊機を置いている店もあった。どうやらWSは自分が思うより売れ行き好調であると初めて知った。
ちなみに僕が期待して購入、愛用しているニューフェイスの
買い物後、帰宅した僕は自室の机に向かってWSを開封する新品の匂いが放たれる瞬間、その素材や化学合成品の匂いも心地よいのだから不思議である。
本体に電池を入れて、そしてお店の袋からガサガサと、箱にすら傷がほぼ無い滑らかなソフトも取り出す。最初に開封したソフトはもちろん、ミステリアスなゲーム少女である鯨武 由美さんに関わる、あのソフトだ。
WS本体もゲームソフトも、互いに新品特有の素直で乾いたフィット感とセット音が小さく自分の耳に聴こえるほどの音量で響く。これこそゲーマーの至福の瞬間である。
【
一見するとアクションかシューティングに思えるタイトルだが、ジャンルはパズルゲームである。そして、これが鯨武さんが屋上で遊んでいたWSのゲームだった。
『縦:10列、横:5列』の将棋盤のような見下ろした型のフィールド画面。そこに奥行き上空視点から物資として落下して、その場に配置される ”銃身” と呼ばれるパイプ・筒状のアイテムパネルたち(通称:銃身パネル)。
銃身パネルの形は『/』『\』『∧』『∨』『>』『<』など様々である。
プレイヤーはその銃身パネルをカーソルで自由に移動させることが出来るので、どんな形でも良いので、フィールドの左右の端を銃身パネルでライン上に繋ぐのがゲームの基本である。
左右に繫がった銃身パネルには、左端からエネルギーが装填されて、右端10列に備わった砲台からビーム弾が発射される。
ストーリーモードでは、敵軍の戦艦や要塞などの巨大物体が徐々に自軍領域に迫り来る緊迫した戦況が展開される。
制限時間内に一定の得点(ダメージを与えれば)を達成すればステージクリアである。斜め型の銃身を駆使して、エネルギー距離を長く稼ぎ、右端の二つ以上の砲台から同時攻撃となれば連続攻撃、コンボが成立して得点(ダメージ)が通常より上乗せされるというルールだ。
対戦モードやCPU戦モードも基本ルールは同じ。違うのは、銃身パネルを繋げて発生した砲撃の威力(コンボ)などに応じて、相手のフィールドにスクラップや残骸などが降り注ぐ、俗に言うお邪魔キャラとなる障害物パネルが発生するのだ。
その障害物を排除する方法は二つ。銃身パネルを繫いで砲撃が発生すれば、その銃身パネルの上下左右に隣接する障害物パネルは、エネルギー熱で蒸発する。もしくは連続砲撃を決めれば、その間に障害物パネルをランダムで片付ける味方キャラが発生するなど、より多くのチャンスと救済に恵まれるのだ。
どのモードもいずれにせよ、時間切れになったり、自軍の耐久力がゼロになったり、銃身パネルと砲台までの経路が障害物パネルで完全に絶たれることでゲームオーバーとなる。
SCORE:000000
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┠━╂━╂━╂━╂━┨■ 砲台
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『/』『\』『∧』『∨』『>』『<』etc…
左端から右端に銃身パネルを一直線に繋げば砲撃だ!
※ 説明書より抜粋した基本画面
僕は本来、パズルゲームは苦手である。特に瞬間的に計算力や動体視力が求められる連鎖タイプのものは、初心者レベルでもCPU相手に苦戦することが多い。
しかし、この
ラインの成立や連鎖を重ねる毎に、WSからは『OK!』『ナイス!』と陽気な音声が流れる。また、戦争をテーマと世界観にした作品ながら殺伐としていないのにも好感が持てた。
常に指を動かすスピード操作とアクション性は、逆に僕にとっては心地よかった。気が付けば僕は、3時間以上も机に向かって
◆
―――「確かに、
妻は納得の表情を浮かべながら反応した。
実は
「色違い銃身パネルのコンボ攻撃とか、属性のダメージ相性とか、段々と機能が追加されたんだよね」
妻はシリーズ別の特徴を少しの間、淡々と語った。
「でも、結局は最初のWS版が一番シンプルで良かったかな」
由美さんが語る、本作シリーズの評価はいつも最後にこのひと言で締め括られる。もう何度も聞いたけど、今でも忘れた頃に夫婦の話題のひとつとして水平展開されていた。
(つづく)
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