第3話 アタックできない学園のアニマル
同級生やクラスメイト、仲の良い者同士で時に花咲く『恋話』
それはハイリスク・ハイリターンな青春のジャッジメントであり、成就すれば皆から、からかわれつつも賞賛の言葉で話題のヒーローとなり得るが、失敗したり振られようものならば、周囲から哀れみと蔑みのスペルが、心身ともに纏わり付く。
とまあ、このネガティブで曲解した解釈は、僕の言い訳に過ぎないんですけどね。実際は自分に自信もなければ、フラれるのが怖かったりとコミュニケーションが苦手な者特有の『縛り』が発動するのである。
勉強もスポーツも駄目、容姿だって四人の審査員が行う合計40点満点レビューだったら多分、4、4、6、3の17点が限界(同情点含む)だろう。
僕が唯一自慢できるのは、十人並みのゲームの腕前と十年分のゲーム雑誌と攻略本のコレクションぐらいだ(でも、これは僕の親父曰く「貧乏性をこじらせているだけ」らしい)。
1999年6月16日(水) 午後12時39分
昼休み。気が付けば勝手に僕は再び屋上へと足を運んでいた。
あれから分かったことだが、鯨武さんの授業の選択科目は僕とは大きく異なり、教室移動を含めてすれ違うことがない。
僕が通う高校は少し変わっていて、普通科、商業科、工業科、体育科などが複合された学科となっている。それらの学科から『自分の好みと学びたい授業を選んで』カリキュラムを組む仕組みとなっており、僕は主にパソコン授業や簡単な英語や数学授業など、そつない選択で気楽な学業ライフを送ってきたのだ。
幸い、自分の身の丈以下レベルの勉強をやってきたおかげで、三年生になった春には既に進学先の推薦枠を頂いている。受験勉強の冬を過ごさなくて済むのだけは気楽である。
気が付けば、ゲーセンでワンコインクリアを果たして、したり顔でスタッフロールを眺めるような心の余裕から一転。現実に戻った僕は、屋上の出入り口のドアノブを握っていた。
そもそも鯨武さんはいるのだろうか。ここに来たところで、彼女にまた遭遇できる保証などどこにもないのだ。僕は静かにドアを開けながら内心で「確かこんな演出のホラーゲームがあったよな」と呟いた。
うん、天気は快晴。絶好の洗濯日和!など、よくわからない何かのキャッチフレーズの勢いで自分の動揺を押し殺しながら屋上を見渡す。彼女は昨日と同じ場所にいた。少し離れているが、間違いなくWSで遊んでいると思われる。
彼女が遊んでいるゲームは何なのか。そして何より、彼女とお話というものをしてみたかった。
……だが、ここにきて大きな問題が発生した。それは『彼女の近くを通る理由』 である。昨日は彼女の持つゲーム機を調査するという、大義名分があったからこそ、後先考えずに近付くことができた。今の僕には頭を空っぽにして、自然に行動することができなかった。
僕はそのまま、屋上をあとにすることにした。正直、これ以上の行動をとる勇気も選択肢もなかった。別にこんなシチュエーションは今日、初めて味わった訳でもない。
だけど僕は何とか、散歩をするふりをしながら、昨日の様に彼女が急にこちらを見て驚かない距離をキープしつつ、屋上をゆっくり一周してその場を立ち去った。そう、あくまで散歩をしただけなのだ。
◆
―――「できたはずの同じ行動がとれないってのは、よくあることだよね」
そう言いながら、妻の口元は小さく微笑んでいた。
「アクションゲームとかでも、初めてのプレイでは問題なかったのに、慣れるほど苦手が浮き彫りになって、上手く遊べなくなる作品とかなかった?」
僕は妻に同意を求める。
「それが恋愛シミュレーションってのは珍しいよね。女子に近付くだけのことがトラウマイベントになるのは」
妻は笑いを堪えるように答えた。
「由美さん。二次元と三次元を一緒にしないでよ。でも、随分昔だから、はっきりとは覚えていないけど、あの時の僕は性欲が溜まっていたのだと思う」
「え?」
正直に白状した僕を、妻はあっけにとられた顔で見つめる。
「あの時の僕は、エロ漫画やエロアニメビデオはあっても普通のアダルトものは持っていなかったんだ。つまりは二次元にしか興味がなかったんだよ」
「それは反対に言えば、私のことをそういう対象で見て近付いたと…?」妻はおでこに拳を当てながら怪訝そうに答える。
間違いだけど正解である。もちろんその時点で、妻との出会いをCERO-Z(18歳以上)のカテゴリーで見ていた訳ではない。だが、それまで『童貞、オタク』のコンプレックスだった自分に『最後の高校生活、ゲームで遊ぶ少女』という
「あなたはすぐに顔に出るタイプだから、もしその時に顔を合わせていたら、二度と屋上に上がっていなかったかもね」
妻はさらりと言った。
つくづく運が良かったと思います…。
(つづく)
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