番外編 うしろに立つ小心者
男は自宅のリビングで、パズルゲームが映し出されたテレビ画面と、それを遊ぶ妻の後ろ姿を、少し離れたソファーからコーヒーを飲みながら眺めていた。
男の妻は昔からパズルゲームが大好きで、特に計算力と想像力を兼ねた、連鎖とスピードで勝負する作品にはめっぽう強く、その実力は彼では到底、足元にも及ばなかった。
ルールや形は作品によって異なるも、テレビ画面に映し出された、色とりどりのオブジェクトたちはいつも賑わい豊かさを見せる。
それらを俊敏かつ優雅に操りながら移し替えて、次々と消してゆく様と妻の背中を男は何年も見続けてきた。
あるとき、妻は特に『機嫌が良いとき』、パズルゲームをより一心に遊ぶ。そのプレイには目を見張るものがあり、それはまるで、今の幸せをゲームで表現した芸術家のように見えるかもしれない。
耳を澄ますと、軽快に流れるBGMとともに、その音に合わせながら、何かを呟く妻の小声が男の耳に届く。妻はコントローラーを通じて、晴れ晴れとした気持ちを綴っているのだろう。
あるとき、妻は特に『機嫌が悪いとき』、パズルゲームをより一心に遊ぶ。そのプレイには目を見張るものがあり、それはまるで、今の不快をゲームで発散する荒くれ者のように見えるかもしれない。
耳を澄ますと、軽快に流れるBGMとともに、その音に合わせながら、何かを呟く妻の小声が男の耳に届く。妻はコントローラーを通じて、叫びあげたい気持ちを綴っているのだろう。
心の拠り所にせよ、心の捌け口にせよ、妻にとってパズルゲームは欠かせない習慣であり、男にとってもバロメーターだった。
ただひとつだけ、男には悩みがあった。
それは、今日の妻は『どっちなのだろうか』である。こればかりは妻に話しかけてみないと分からないことだった。概ねは前者なのだが、後者の可能性も無きにしも非ず…。
男は自宅のリビングで、パズルゲームが映し出されたテレビ画面と、それを遊ぶ妻の後ろ姿を、少し離れたソファーからコーヒーを飲みながら眺めていた。
(終)
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