第2話 アナザー
昔は他の誰かになりたかった、今じゃ違う自分になりたいようになった。
昔そんな歌があったなと、口ずさみ夜眠りにつく準備をぺたぺたとつめたいフローリングに音を鳴らしながらはじめる。
東京は夜の7時。テレビから流れて来たそのメロディが頭をもたげる。
東京に居て良かったことなんか一つも思い出せない。
不安を解消させるようにお腹を満たして目を閉じる。真っ暗な世界の中で、彼女は意識がなくなるまでいつも高校の入学式の瞬間に戻る。
裏技はいつも後だしじゃんけんのようなもので、ゲームの攻略本だって、同時に発売はされない。それはいつだって少し遅れてやってくる。
だから彼女はせめて、暗闇の中でもう知った世界をちょっとだけやり直す。自分の好きなように。自分が思い描いたように。
地方の有名な進学校だった。スカートの丈が身長が高い分とっても長くて、引きずるように学校に向かった。制服は身長に見合わない体重のせいで、袖丈にあわせれば、肩が80年代ばりのパワーショルダー制服になり、肩に合わせれば、袖丈は膝下あたりになり七分どころか五分丈だ。丈からはみ出た真っ新なシャツが割烹着みたいだった。前髪は眉毛の上、校内移動のさいは風呂敷に包んで物を持ち運ぶ。靴下は三つ折り。すべてを生真面目に守った最初の彼女の姿は、まさしく地方のダサい新入生の姿だった。
今だったらきっとうんと前髪を短くして、大きな目を強調させたヘアスタイルにしたろうし、変に抵抗してちょびっとだけ髪を茶色になんかせずに、真っ黒とした髪を誇らしげにみんなに披露しただろう。制服は既成ではなく、入学祝いで仕立ててもらう。
もともと色白なのだから、意味もわからず周りに合わせてファンデーションなんかぬらず、素材を大切にしてたろうし、ファーストキスだってわけのわからない子にビルの間であげちゃうほど何も考えずにはしなかっただろう。
これからの大半をかけて好きでいつづける彼に出会ったときだって、もっとスマートにことを運べたはずだ。
そんなことを考えながら意識が遠のくのをいつも彼女は待った。
毎日毎日繰り返し、スタートは高校の入学式、自分の思い描いた自分が校門をくぐって、みんなの脚光を浴び、運命の彼と出会って、それから。
いつもそこらへんで意識が遠のき、気がつけばいつもの学芸大の朝を迎えていた。
アイスグリーン @taira3000
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