一章:エイセス、全てを奪った者の名を
一章01:ソレユ・ドミニ、刻まれし白夜の史
――
帳の無い夜から始まったこの暦は、それ自体が人と魔との、絶え間ない戦いの歴史でもあった。
かつて魔の者はみだりに人の世へは足を踏み入れず、星そのものから見れば、彼らは増えすぎた人類を間引きする、バランサーの役割でしかなかった。
だが
突如として人の世に舞い降りた魔王は、その手から眩い光を夜に走らせ、一つの王国を地図から消した。
それから極北の地コキュートスを漏れ出した魔族の軍は、徐々に少しずつ時間をかけ、人の世界に侵食を始めたのだ。
魔族が自然界のバランサーを放棄した時、星の循環を司る人外なる調停者たちは頭を抱えた。
魔に抗う者、人の世を再興すべく立ち上がる者。――彼らは暴走したバランサーをもう一度コキュートスに封じ込めるべく、対策を取る必要性に駆られたのだ。
沈黙を続ける無光闇の
これが俗にいう「
しかし戦争の終焉による魔族の消滅は、引き換えに人の無尽なる増殖を示す。 ――これを
つまり魔の隆盛に合わせて
――風の
剣術と魔術、いずれにも秀でた戦士にして、前線の帝国エスベルカの皇帝でもある若き王。
キュイラス――、白銀のライトメイルと赤い鉢巻がトレードマークで、風の加護を纏う神剣「デルフィナス」を構えるその勇姿は、正に弱きを守る正義の体現と呼ぶに相応しかった。
――地の
質実剛健。武を絵に描いた様に寡黙な男で、義に篤く悪を嫌う。
大陸全土の武術評議会を束ねる長でもあり、その武勇伝は枚挙に暇がない。
鍛えぬかれた筋肉の上に重ねた脂肪を鎧に、自らの身体を投げ打って戦う姿は武神そのもの。地の加護を纏い膨張させた両腕から繰り出される必殺の一撃は、如何なる巨敵をも屠り去ると言う。
――水の
青い長髪を靡かせる、理知的で細面の、ともすれば女性にすら見えかねない長身の賢者。白の法衣を纏うその姿はプリンスとも形容され、女性のファンも多い。
戦闘スタイルは強力な魔法を駆使した後方からの援護。
――火の
火の国はエルジア生まれの侍。赤い長髪をオールバックで固め着物を纏う、
その抜刀術は神速とされ、腰に携える「
曰く。
生ける伝説。
神話の代行者。
人類の救世主。
そうだ。僕は信じていた。
伝え聞く彼らの英雄譚を。間近で見た彼らの強さを。投げかけられた偽りの微笑みを。
そして安直に思った。
また戻ってくる日々の平穏を。繰り返す日常を。僕の手の届く所にある幸せを。
それが逆に奪われてしまうとは微塵さえも疑わず。
全てはあの雪の降る夜。魔物たちが僕の街を囲んだ――、帳の後の忌まわしい記憶の追憶。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます