十二章04:触手は、増す色欲を苗床に

 M2機関ムラクモ・ミレニアの問題を半ば丸投げした僕は、ブリジットの元へ向かっていた。――というのも、彼女こそが今任務で同行する、ベルカ側の最後の一人だったからだ。


 ブリジット・S・フィッツジェラルド。平民出でありながら、自らの努力と才覚でグレースメリア聖騎士団の副団長まで上り詰めた出世頭。貧乏子沢山を絵に描いたような十二人の兄妹を持つ彼女の実家は、いつだって笑顔が絶えない。


 そんな天真爛漫なブリジットだが、彼女にも一度だけ生命の危機が訪れた。それは勇者エイセス来訪の折、随行する一人として選ばれそうになった時だ。その際にソルビアンカ第一皇女が手を差し伸べ、ブリジットを地下に隔離し彼らから遠ざけたという経緯がある。

 

 その事に恩義を感じたブリジットたっての願いで、この度はソルビアンカ姫救出作戦の一端に加わる運びと相成った訳だ。




「お疲れ様、リジィ、調子はどうだ?」


 ――かくて僕がやってきたのは厨房の隣。ブリジット専用に設えられた個室食堂だ。彼女はとかく、たらふく食う。かつては常人の数倍程度だったが、魔力で強化されてからは数十倍とでも言ったところだろうか。


 すると、だ。いかんせん人の目が厳しい。職務中の騎士の食事は、当然ながら公費で賄われている。ただでさえ高い俸給を貰っているグレースメリアの副団長が、大飯食らいの公金泥棒とでも噂されては余りに悲しい。そこで僕は、厨房の側にブリジットだけが入れる個室を設えたのだ。


「はいッ!!! あっ先輩ッ!! じゃなかった陛下ッ!!!!」


 と、食事を喉に詰まらせながら振り向くブリジット。口の周りには大量のご飯粒がついていて、僕はそれを手で拭いながら続ける。


「ここなら先輩でもいいさ。どうせ僕らの二人しかいない」


 すでに声をかえる時点で仮面を外していた僕は、完全に皇帝ではなくララト――、すなわちブリジットにとっての「先輩」として接していた。


「ふあッ……ほ、ほんとだ……ていうか、そ、そうですよねハハハ……」


 その大飯食らいと原始的な思考の所為か、彼氏というパートナーに巡り会えなかったブリジットは、にも関わらず性欲は人一倍だ。そんなブリジットの「本命」が見つかるまでの繋ぎかりしとして、僕は彼女とのランチやらディナーやらランチやらディナーやらに付き合っている。こういう時、周囲に素顔がバレていないというのは便利だった。


「今日はリジィに任務の言付けがあって来たんだ。ソルビアンカ・M・メザノッテ――、つまりはソルビアンカ第一皇女の救出に、リジィにも同席して貰おうと思ってね」


 もちろん、それがルドミラの提案であった事を僕は付け加える。眼下で腹をぽっこりとさせたブリジットが、それに負けじとばかりに目を丸くする。


「えええええええッ!!! ついにッ! いくんですかッ!! 姫様の救出にッ!!! それもあたし同伴でッ!!???」


 ああ、ブリジットは、とかくいちいちリアクションが大きい。いや、余人より多くのカロリーを摂取している訳だから、消費も多めにしなければ今頃肥え太っているのではあろうが。この部屋を防音仕様にしておいて正解だったと僕は内心でため息をつき、彼女に返す。


「そうだ。エメリアとユーティにはこれから話すが、確定事項だ。僕たちは三日後、早朝にベルカを発ちオーレリアへ向かう。首都の防備は将軍たちドゥーチェスとグレースメリアに託し、オーレリアで一泊、翌日に姫君を解放し、さらにオーレリアで一泊し戻ってくる予定だ」


 だから準備を怠らないように、とまで付け加えた所で、我慢しきれなくなったのかブリジットが抱きついてくる。


「やったあああッ!!!! 姫様にも会えるッ! 先輩とも一緒ッ!! そして温 泉 旅 行ッ!!!! サイコーッ!!」


 大食で増した体重は、しかし苛烈な訓練によって削ぎ落とされ、胸と尻だけがひたすらに巨大化を続けている。絞れば母乳が溢れ出そうな豊乳の圧力は、シンシアの蕩けそうな柔らかさとは違い、強化ゴムで設えられた制圧兵器のように暴力的だ。


「おいおいはしゃぐな……まあ今回は姫様の警護も兼ねるからな、魔力の注入も済ませておこう。ひと目も無いし、ここがちょうどいいだろう」


 ブリジットに対する魔力注入。それは一つの戦争でもある。並外れた三大欲求が解放されるからには、こいつの頭には子作り・セックス・飯飯飯しかなくなってしまう。生半可な覚悟で臨めば、手痛い反撃を受けるのはこちらなのだ。


「えッ……シテくれるんですかッ?? ここでッ?!! わあッ…………だ、大丈夫です……あたし、今ならダァイクォンぐらいなら入るようになりましたから、先輩のぶっといナニソレだってッ!!!」


 ほら見ろ。言わんこっちゃない。ダァイクォンとかベルカの市場に出回る食材でも、かなり太めのアレじゃないか。あんなものをぶち込めるんじゃ男のナニ程度じゃ満足できねえだろうと思いを巡らしつつ、僕は一計を案じる。


「仕方がない。リジィは本当に性欲過多だからな……そんなに欲しけりゃくれてやるよ」


 無論、ヴェンデッタを纏う僕には、ナニだったりソレだったりだけを都合よく露出する術はない。だが先般、都合よく手に入れてしまったのだ。フランシスカ、もといアンフェールから引き継いだ、魔界の触手というぶっといアレを。


「ふわわわわッ!!! お、おっきい……そ、そんなの……ダァイクォンより全然……」


 だいたいダァイクォンが婦女子の腕一本分、腕から撚り合わせた触手は、一応手加減はしたもののダァイクォンの二倍程度は太さがある。これならさしものブリジットも音を上げるだろうと、僕はそこに魔力を集中させながら近づいていく。


「この先端に魔力を集約する。リジィの強化に別段必要なプロセスではないけど、リジィが特別に淫乱である以上、仕方ない」


 うねうねと畝る幾重もの触手の群れ。それらは極めつけにグロテスクでありながら、見つめるブリジットの瞳は輝いている。なんというか……別の意味で怖い。


「せ、先輩のなら……いいですよ……だってずっと……あれからずっと、毎晩えっちな本を読んで……一人でシテたんです……もう、もう我慢ッできませんッ!!!!」


 言うやスカートの裾をめくりあげるブリジット。するとそこは、まだ手を触れてすらいないのに大洪水だ。なるほど安産型の女性は濡れやすいと記憶を辿るが、それにしたって状態異常。となればやむを得ずと、僕の触手は秘部目掛け一斉に吶喊する。かくなる上は殲滅あるのみだ。


「んああっ……しゅ、しゅごッ……こ、こんなのッ……」


 僕の操る触手は、陰茎を模しながらも先端に向け尖っており、それらが回転、振動する事で膣内に数パターンの衝撃を生むことができる(らしい、というのも扱うのは初めてだからだ)。そのため一時に同時多発的快楽を受けたブリジットの身体はびくびくと震え、あたりには四散した体液が乱れ飛ぶ。


「処女膜は自分で破ったか……だが初めてでこの有様、いくら僕が仮氏でも、ここまで乱れられちゃあ引いてしまうなあ!」


 まあ引くというより、実際に家なんかでしたら後処理が面倒くさそうだなあと思うだけだが。仮に布団なんかでシタ日には、朝まで付き合わされた上、シーツからマットまで、総じて全取っ替えになるであろう結末は目に見えている。もしヴェンデッタで強化された肉体でもなければ、あっという間に絞りカスにされる事だろう。


「い、イグッ……!! せ、先輩、引かないでッ……あ、ンッ……だ……さいッ……」


「なんて言ってるか分からないなあ。下の口だけじゃないか、ペチャクチャペチャクチャ音立ててるの」


 仕方がなく抽送を止める僕に、息を切らせながらブリジットが言葉を紡ぐ。


「ハァ……ハァ……しぇ、しぇんぱいに引かれたら、あたし……しぇんぱいは、食べてるあたしを見て……かわいひいいッ!!!???」


 折角だが会話の途中で動き始める僕。なるほどこの触手とやらも、使い方次第では相手を平和的に黙らせる事ができるらしい。呪いも様様というか、まあ食ってしまったからには活用するしかないだろう。


「やっぱりなんて言ってるか分からないなあ。まあでも大丈夫、大丈夫。イキ散らかしてるリジィもかわいいから」


 もうこうなるとただの作業だ。ブリジットがイキ、呼吸も整わぬ間に次の責め。性欲の桁違いはわかりきっている訳だから、容赦をすればこちらが負ける。いや負けないにせよ、大幅に時間を取られ、次の行程に支障をきたす。そうしない為には、一気呵成にブリジットをイキ散らかせ、この茶番に終焉を齎すほかないだろう。




*          *




「あひ……いひッ……しぇんぱい……も、もうだめれす……」


 四半刻は過ぎたろうか。流石に息も絶え絶えのブリジットと、そろそろ時宜かと触手を引っ込める僕。ぼちぼちケイとアンフェールの様子を見に行かないとマズいと判断した僕は、一連の作業の締めにかかる。


「どうだったリジィ? 少しはストレス解消になった? いつでも、ってのは無理だけど、たまのご褒美なら」


 いやあ使うのが自分の身体じゃなくてよかったと胸をなでおろす僕は、ブリジットの体液でビチョビチョになった自分の顔を、思い出したように拭う。見渡せば個室内はひどい有様で、早急に体裁を取り繕わなければ、掃除係が何事かと目を剥くのは自明と言えた。


「しゅ、しゅごかったれす……うう、しぇんぱいの子種……ほひい……」


 まあ、これでブリジットが日頃の仕事に精を出せるなら安いもんだろうと思い直した僕は、彼女の身体を優しく拭き取り服を着せ、とりま掃除だけは済ませるようにと言付けて部屋を出た。なお、そんな僕に答えたブリジットの言葉は、いかのようなものだった。


「はいッ!!! でもちょっとおなか空いちゃったので、食べてからお掃除しますねッ!!!!」


 仮面を被った僕は、周囲に聞こえないため息を大きく、されど精一杯吐いた。元気な便器とは、こういうのを言うのだろうか。そんな事をふと思いながら。

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