十二章05.隊長は、己が力で勝ち給う
「なるほどね……ボクの力も
「まあ……陛下の力を得ているとすれば、そうでしょうね」
ブリジットと別れて尖塔に戻った僕を待っていたのは、ケイと
録画された魔眼の観測によれば、いつも通りの全力で試合に臨むケイを、アンフェールの
「驚くべきはキミの素の戦闘力です。
「はは……生身で
「
会話の応酬を繰り広げる間にも、ケイは魔力の消費量が多い黒弓、ナイトレーベンを放り投げ、代わりにダガーを取り出して臨戦態勢に入っている。それは先日、フィオナから託された
「ボクはね……アンフェール。もともと天賦の才なんてない人間だ。好き勝手に闘ってたら、すぐに魔力なんて尽きちゃう。だからね……ボクの戦い方は、常に、引き算で考えられてるんだ。もしアレがなくなったらどうしよう。その前に、まずなくならないように、どうしよう……ってね」
そこまで語り終えたケイは、スニーキングの術で風景に溶け込む。魔力そのものが減ったことで、大仰な技の行使はできなくなったが、一度覚えた術自体は扱える。たとえばこのスニーキングなら、持続時間は短いものの、僅かな小競り合いの間なら十分に保たせることができるだろう。
「なるほど、スニーキング……サラの術ですか。これはあのユリシーズ卿より厄介かも知れませんね。臆さない為に臆病な人間は……強いですから」
アンフェールもまた、
「そこですね!!」
やはりというべきか、アンフェールの獲物、フラジールが孤月を描き空間を断つ。使用者を中心に円状の結界を作り上げる彼女の鞭は、
「!?」
だがフラジールの一閃は空を切る。否、正確には断ち切ったのはメイド服だ。細切れになった黒い布が宙を舞う頃、上空で声が響く。
「発現せよ――、
――ケイ・ナガセは空にいた。先程放り投げたナイトレーベンを構え、三本の魔弾を放つ。それはアンフェールをどこまでも追い詰め、必ず仕留める必中の魔弾だ。
「魔力を服に乗せましたか……!! ですが、それだけです。今のキミには、魔弾を連射するだけのストックはない!!!」
「――誰もさ、魔弾で仕留めるなんて言ってないよね」
魔弾を放った直後、再度のスニーキングで身を隠したケイ。フライクーゲルが奥の手と踏んだアンフェールが、総力で以って迎撃を試みた時、それは訪れた。
「なっ――」
「負けないんだよ、ボクは。エメリアみたいに勝てないけど……ボクは――、負けない」
暫しの沈黙の後、ペストマスクから血を零しながらアンフェールが体を起こす。
「なるほど……強い……強いですね……キミは。僕なんかより、はるかに」
「頑丈なだけさ。それに勝てなくても負けずにいれば……さ」
僕は立っていた。二人の試合の終わりを見届け、そして拍手を漏らす。
「――先輩が来てくれる。いつだって、絶対に」
対
「よくやった、ケイ。それからアンフェールも」
ちょうど決着のタイミングを見て駆けつけた僕に、満面の笑みを浮かべ、ケイが抱きついてくる。もう
「ごめんね先輩。メイド服、ボロボロになっちゃった……まあ予備は……あるけど」
「気にするな。そんなものまた買えばいい。お前が無事なら、それでいい」
囮に使ったメイド服がなくなった手前、今のケイはスポーツブラにスパッツ姿だ。僕は僕の外套をケイに被せ「今日は一緒に寝よう」と耳打ちする。全員に背中を向け赤面する彼女の肩を叩き、僕はアンフェールに声を掛ける。
「息災か? アンフェール」
「え、ええ……醜態を晒しましたが……問題はありません」
壁に体を預けながら僕たちのほうを見ていたアンフェールは、ペストマスクを被り直すと咳き込んで答える。
「ファンタズマ、ユリ、今日の稽古は無しとしよう。アンフェール……休め」
「……はっ」
「「はっ!」」
半ば不服げに答えるアンフェールと、ファンタズマたちの声が重なる。
「ルドミラも、付き合って貰いすまなかった。共に食事を摂ろう。一息ついたら、午後からの公務も、よろしく頼む」
「はっ」
かくて為すべき事は為したとばかり、背伸びをして寝室に向かうケイ。肩を落とし部屋を出るアンフェール。その背後で抜刀し修行に励もうとするファンタズマとユリ。僕は僕でルドミラを連れ立って、こうしてそれぞれの午前が終わった。
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