十一章03:挺身は、愛しき幼女の為に
かくて鍛錬場に集うは、レオハルトを筆頭とする
「――という訳だ。私は来る全面戦争を前に、火の勇者バートレット・オヴニルの釈放、およびエスベルカ帝国軍編入を考えている」
ともすれば突拍子も無いと思われかねない僕の発案に、レオハルト、アマジーグ、マクスロクの三人は複雑な表情を浮かべながらも、確固たる反対の声はあげようとしない。
「はっ、陛下。しかしてバートレット・オヴニルの戦術的な有用性は率直に認めるとしても、万が一の謀反に際してはどのような策を講じておられるので?」
ただし反対と明言する代わりに、脇腹から抉ってくるレオハルト。なるほどこの辺りは智将ならではと言った所か。――端的に言えば、既に
「その点については問題ない。先の決闘でも用いられた、対
既にレオハルトの娘、ユーティラ・E・ベルリオーズの同意を取り付けている手前、論理武装で言いくるめれば向こうは白旗を上げる他ない。事実、僕の望む方向に議論は進んでいった。
「でありますれば、私から申し上げる事はございますまい。不肖レオハルト・E・ベルリオーズ。これからもベルカの剣として身命を賭す所存であります」
一礼し引き下がるレオハルトに場を譲られ、マクスロク・セロ・ローゼンタールも頷いてみせる。
「エメリア様が善しとされる以上、私は今後とも職責に微力を尽くすのみでしょう。既に
エスベルカの法。義のローゼンタールを率いるマクスロクは、粛々と持論を述べる。この男、エメリアを女神のように崇拝しているがゆえ、いざとなれば彼女を引き合いに出せば全てが決する。潔癖かつ面倒ではあるが、そういう意味では扱いやすい存在だ。
「だがヴェニデ卿。貴方はどうなのです? バートレット・オヴニルと言えば、貴方の腕を削いだ本人。禍根もやむ無しと推し量りますが」
ここで話題を振られるのは、褐色の肌の偉丈夫、アマジーグ・M・シリウス・ヴェニデ。色白であわや文官といった様子のマクスロクの、真逆とも見える
「いやいや、俺っちは別にいいぜ? アレは純然たる果し合いの末の敗北だ。正々堂々一騎打ちで負けたとあっちゃあ、それに私怨を抱くのは
しかして意外とも言うべきか、あっけらかんとアマジーグは応じている。曰く
「なあ陛下。むしろ俺っちとしては、アレの釈放は願ったりってヤツなんだ。ほら、勝ち逃げされたままってのは、男として心底の負けって気がするだろ?」
こうしてそれぞれがそれぞれの意志の元、火の
* *
「まさかお前の腕を奪ったのがバートレットだったとはな……」
散会して後、ちょうどフィオナの
「ハハ……まあ言う必要も無いんで、黙ってたってだけなんですけどね。男にとって傷なんざ勲章じゃあない。負け恥と生き恥のただの証明みたいなもんで」
短髪をぼりぼりと掻くアマジーグ。レオハルトからマクスロクに至るまで、どちらかと言えば
「それだけのらりくらりと出来るお前が、なぜわざわざ
だからゆえにこそ、意外中の意外でもある。この飄々としたアマジーグが、なぜフランシスカに次ぐ罰を受け野に放たれたのか。バートレットを釈放する前に、その辺の事情は聞き取っておくべきだろう。
「ハハハ……陛下は知らねえかも知れませんが、昔
アマジーグの曰く、フランシスカ・D・グリーンファミリアへの陵辱を見かねて割って入ろうとした所に、火のバートレット・オヴニルが立ちふさがったのだという。
「いい女でした。背丈なんか俺っちの胸元しかねえ癖に、剣の腕はべらぼうに立つ。――惚れてたのかも知れません。俺っちは、アイツに」
柄にも無いですねとアマジーグは破顔する。なるほど確かに、小柄で貧乳のフランシスカは、ロリコンたる彼の眼鏡には十分適う外貌だったろう。だがそこまで命を懸けられるのであれば、ロリコンとて賞賛を送るに吝かではない。
「いや知っている。フランシスカ・D・グリーンファミリア。彼女の足跡は、私としても追っている最中だ」
「無事だと――、いいんスけどね」
ぼそりと呟くアマジーグの横顔は、どうやら悲歎に暮れていた。無精髭の残る男らしい顔立ちが、いつになく弱々しい。
「身体の半分が機械になって、男の俺っちだって結構キツい時があるのに……アイツは……」
――いや、湿っぽい話はやめにしましょう。と慌てて笑い直すアマジーグは「これからフィオ所長のメンテっスからね」と力こぶを作ってみせる。
「フィオ所長の力添えもあれば、俺っちもいつか
――次こそはアイツみてえな女を守ってやれるように。今の俺っちに出来るのはこんぐれえの事ですよ。そう呟いたアマジーグの瞳には、確かに力が漲っていた。
「その心意気だなアマジーグ。フィオナも聞けば喜ぶだろう」
「マジっすか? あはは陛下、フィオ所長、カレシとかいるんですかね」
言うや途端ににやけた表情になるアマジーグ。まったくつくづくロリコンだと思いつつも、とは言え惚れた女の為なら命も張れるいっぱしの騎士ならば、義妹の未来を預けるのも悪くはないと、僕はふとそう思った。
「どうだろうな。一度聞いてみたらどうだ? 最もあいつは、研究が伴侶みたいな女だがな」
「とは言うものの、どうも俺っち、フィオ所長には心に決めた人がいるような気がするんですよね……トホホ」
――が、
* *
「い、いててて……すみません所長……変なこと聞いてごめんなさい……あばばばば!!!」
「ほらほらここ弄っちゃうぞロリコン野郎!! 大好きなアタシにこんな事されてうれしーだろー!???」
アナトリアを後にする僕の背中には、罵倒され愉悦を漏らすロリコンの悲鳴だけが響き渡っていた。まあフィオナもフィオナで嫌がってはいないようだし、当座の間はこんなものでいいのだろうと、僕は仮面の奥で少しだけ笑った。
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