十一章02:天才は、報仇に身を焦がし
――フランシスカ・D・グリーンファミリア。
それは嘗て、天才剣士として名を馳せた
不動の頭目にしてエスベルカの剣、レオハルト・E・ベルリオーズに次ぐ刀術の使い手。他人以上に自らを律し、
類まれなる武芸の才覚に加え、女傑とは思えぬほどの端正な風貌は、言うまでもなく好色なる
だが彼女の性格は、努力を怠らぬ天才であるがゆえに苛烈でもある。
「――アレが流れ着いた時は、酷い有様だったもンさ」
思い起こすようにリザ・ヴァラヒアは、狭いトイレの個室の中で、周囲に色香を撒き散らし呟く。仕方なく乳首を捻り上げる僕に、リザは上ずった声をあげると、気色めいた笑みを浮かべた。
「サルバシオンの剛力で両の手はぐちゃぐちゃ。ユークトバニアに受けた呪いは蛇のように身体を畝って、自然治癒なんざ見込みようもない。――おまけに薬物調教まで受けてるから、自慰も出来ない半狂乱のままで、あいつはイントッカービレに来たって訳さ」
――それからが地獄だったさ。とリザは続ける。粉々になった骨の代わりに竜骨をあてがい、破れた皮膚には強引な外科手術が施された。テルメ・レリアの薬効で膿の漏出こそ抑えられたが、それでも残るケロイドだけは、消し去ること能わなかった。
「それで、フランシスカはどうなったんだ?」
「――
問う僕に、シリアスな面持ちで返すリザ。というやり取りの最中も、尻やらASSやら責め立てざるを得ないというのだから、これほど話題と行動の乖離している状況もないだろう。
「――
「そんな事もあったか? ……だが元
遠い記憶を探る僕だが、確かエルジアへの道中。エメリアがリザの挑発に乗って敗退を喫した後に、そんなセリフを聞いたような気がしないでもない。ともあれ、今のところトラブルにあたる文脈が見当たらないだけに、困惑を隠せない所でもある。
「だから復讐の鬼なンだよ、今のフランシスカは……
リザ・ヴァラヒア曰く。帝都に戻り合流を果たすと語ったフランシスカは、途中でロスト。次には根城たるレッドラムに、復讐の意をしたためた書簡が、律儀にも投函されていたらしい。
「つまりオレが出張ってきた最大の理由は、フランシスカを見張る為だったって訳さ。――昨晩ついに、そのアンフェールは、ここエスベルカに姿を現した」
事ここに至り、ようやっと申し訳なさそうに眉をハの字にするリザ。報告が遅れたのは、単にそれを言うのが面倒だったからと聞くにつけ、おいおいそれじゃ隠密機関失格だろうと僕は頭を振る。
「で、私はどうすればいいんだ? そのアンフェール――、もといフランシスカをふんじばればいいのか?」
いったいどういう了見だが知らないが、死地を彷徨ったレストインピースでさえいっぱしに理性を保っているのだ。幾ら魔道に堕ちたからとは言え、元
「ま……そうなるな。フランシスカはエスベルカ全体が弛緩した今を狙っている。そんな中でバートレット・オヴニルが解放されたらどうなる? ――ヤツは格好の的になるだろう」
全くこいつは……こっちの話を盗み聞いて飛んできたのかと僕は毒づきながら、分かったよとぶっきらぼうに返事を返す。
「だがバートレットとて
そもそも
「――そこは
と、リザ・ヴァラヒアは、エメリアが彼女に敗北した一戦に言及する。確かにここ一ヶ月を顧みれば、エメリアに黒星が付いたのはアレが最初で最後だ。
「なるほどな。つまりフランシスカ……いや、ここはアンフェールと呼称しよう。彼女は単純な戦力差を埋めるだけの何かを既に有しているって訳だな?」
「そういう事だ。アンフェールとは地獄の業火。全てを燃やし尽くす煉獄の炎だ。――アイツはそれを体得した。ただ
時に嬌声を交える、リザの緊迫感の無いドヤ顔に僕は辟易としつつも、確かに同意する余地はあるなと頷いてみせる。
「状況はわかった。私も魔眼による監視を密にするとしよう。いずれにせよ、これから他の
魔力を加えながら続けられる被虐の果てに、リザが潮を吹いて果てるのを背に、僕は
――フランシスカ・D・グリーンファミリア。
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