五章06:拳銃は、義妹の手により生まれ
「センパイ、良かった、良かったよお……」
そうぼろぼろと涙を零しケイが現れたのは、僕とレストインピースが広間に戻って直ぐの事だった。
聞けばケイは、あの後たった一人で岩塊を壊し
「まったく無茶をするな……だがありがとう、心配かけて悪かったな」
すると抱きしめた腕の中でかくりとケイの膝が崩れ、そのままくーくーと可愛らしい寝息が続く。
「おいおい、アンタら一体なんなんだ……この嬢ちゃんも、ええと、どの嬢ちゃんも」
オープニングに担がれたケイを横目に呻いたのは、
「本調子じゃ無いだけでしょう? 最も私だって、どんな条件下でも負けるつもりはありませんけど」
涼しげな表情で答えるエメリアは、その実誰よりも負けず嫌いな本性を上手く隠しながら微笑む。そして微笑みながら「どう?」と僕にウインクして見せるのだ。当然僕には「よくやった」と頷く以外に道は無い。
そうしてまた破損した回路を、数刻の手ほどきで直してしまうフィオナな訳だから、この三人の少女の超然に、天下の
* *
「先刻は余り話も出来なかったな。アマジーグ・M・シリウス・ヴェニデ。私が新生エスベルカの皇帝、レイヴリーヒだ」
そう手を差し伸べる僕に、アマジーグは生身の片の手で応じた。
「たった今運ばれていったのが私の護衛、ケイ。君を伸したのが親衛隊のエメリア。そして直したのが
「
相変わらずバツが悪そうに頭を掻くアマジーグは、斯くて踵を返すや「すまん嬢ちゃん、もう一回俺と勝負してくれ」とエメリアに
「いいわよヴェニデ卿。ただし今度は、私をちょっとは楽しませてくれないと駄目だからね」
悪戯げに笑ったエメリアは、また細剣のスフィルナを抜くと構えて見せる。そろそろレベルも50を超え、あと一歩でレオハルトに並ぶ頃合いだろう。名だたる生え抜きの騎士とて、到底敵う手合ではなくなりつつある。
「随分と賑やかになったものじゃのう。時にヴリーヒ殿」
嬉しそうに自身の顎を撫でるアンサングは、ここで僕を向くと話題を変えた。
「
「ああ、構わないが」
答える僕を手招きしながら、アンサングは広間の奥の、研究施設じみた一室に先んじて至った。背後にエメリアとアマジーグの気勢を残し、重いドアがギイと閉まる。
* *
どうやらそこは実験室らしい。用途の知れない培養液に浮かぶ
「少々暇だったのでな。設えさせて貰ったぞい」
言うやアンサングは、目の前のユークトバニアの頭頂を踏みつけながら「こいつがリンクス39。フィオ君の調教した魔道士型の
案の定、ユークトバニアの陰茎を覆うチューブからは絶え間なく魔力が吸いだされている様で、水の
「――うんうん。今のところ経過は順調。おじいちゃんの手土産も、一応は新式の
マクミランに来てからというもの、
「じゃじゃん。オッツダルヴァ! 二十八連の速射型
鈍黒い銃身でジャグリングを見せるフィオナは「このサイズなら間違いなく過去最強のスペックだね」と意気も
「――面白い」
同意し頷く仮面の少女に、
「!!」
だが銃弾の着地したマントは見る間に穴だらけになり、レストインピースは即座に身を翻すとナイフを抜き出す。
「無駄無駄。
ケラケラと笑うフィオナは「ちょっと待つのじゃ!」とのアンサングの制止も聞かず試射を繰り返す。メガネのレンズにマズルフラッシュが瞬く様は、正にマッドサイエンティストのそのものだ。
「威力は中々だ。だがワタシのナイフは、銃弾とて切り裂くぞ」
今度は我こそが
「チッ」
レンズが割れたレストインピースは一歩引くと「どういう事だ、これは」と、空いた穴から覗く灼眼でフィオナを穿った。
「種は簡単。といっても、初弾はアーセナルの所為で不発だったけどね」
薬莢を拾いながらフィオナは「この銃弾は魔法そのものと言っていいんだ。対象に当たる、すると
「
「とまぁ、これが帝都制圧から今日までの、
論よりも雄弁に行動で示してみせたフィオナは「最も今の銃弾は、試射用に弱めてあるんだけどね」と付け加えた。
「ふふっ、ふはは……流石じゃのうフィオ君は」
場の空気を変える様に破顔したアンサングは「約束じゃ。
「お主の調べたい事は分かっておる。鍵はこれじゃ。これを使えば、さらに奥の部屋にそれはある」
不遜な笑みと謎の鍵を残し部屋を出るアンサングたちの後に、一瞬だけエメリアとアマジーグの気勢が響き、やがて不気味な沈黙だけが横たわった。
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