第4話 呪われた魂・上
その日の月は、消え入りそうな程細かった。
月は太陽の無い闇夜を照らし、影に潜む邪なものよりか弱き民を守ると言われている。しかし、今日に限って言えば、その力は全く当てになりそうになかった。
しん、と静まり返った夜の平原のど真ん中に、ぽつりと明かりが灯っていた。
明かりの主は、小さな商隊だった。
馬車一台分くらいの道幅しかない狭い街道の脇で、三台の幌馬車が停められていた。馬車はコの字型に陣を組み、陣の中心で火を焚いていた。
商人は馬車の中で休んでいるのか、外にそれらしき人物は見えなかった。
代わりに、二人の用心棒が火の番を行っていた。
「不思議……何が起こるか分からない闇夜なのに、全然怖くないや」
用心棒の片方が、膝を抱えてぽつりと呟いた。
町娘のような、可愛らしい顔立ちをした少女だった。
少女は、大きな耳当て、革のジャケット、厚手のズボンという典型的な銃士の格好をしていた。派手さのない服装であったが、豊満な胸元は程よく強調され、健康的な美しさを見せつけていた。
さらりとした黒い長髪も魅力を引き立て、町中ならば男がいくらでも寄って来ただろう。
しかし、右腰に吊るした拳銃の収まったホルスターと銃弾のぎっしり詰まったポーチ、そして座り込んだその陰に置かれた上下二連式の散弾銃<森狼>が、少女がただの愛玩動物などではないことを物語っていた。
「
もう一人の用心棒が、冷静に分析して言った。
こちらは、隣の少女と比較しても、浮世離れした美貌の持ち主だった。
みすぼらしい煤けた髪と、汚れのこびり付いた顔でも、素の均整のとれた顔立ちと元来の肌の白さが際立っていた。新緑色の瞳も、目を奪われそうになるほど美しい。
体格より二周り大きい外套を着ているせいで身体の線は分かり辛いが、細身であることは確かだった。
自分の左側の地面に突き刺した両手剣を振るうには、華奢な印象が否めない。そのさらに隣に置かれた片手剣の方が、まだ見合っているように思えた。
だが、どちらの剣も、この剣士の得物だった。
「もう、そういうことじゃないって。リーフがいるから安心できるって言いたかったの」
理知的な相方の言葉に、少女は少しむくれた。
ほんの少しだけ身体を寄せて、少女は相方——リーフに目を向けた。
リーフは浅く息を吐いた。
「リン、君は勘違いしているようだけど、ボクの感覚は万能じゃあない」
「だーかーら、違うってば——」
いきなりリーフは少女の肩を掴んで自分の胸元に引き寄せた。
突拍子もない行動に少女は一瞬胸を躍らせたが、側頭部を掠めた風切り音に冷や水を浴びせかけられた。
二人はお互いに身体を突き飛ばし合い、その場から転がるようにして離れた。間一髪、二人のいた場所をさらに二本の矢が素通りした。
「敵襲!?」
少女——リンは、咄嗟に森狼を掴んで馬車の影に隠れた。
もはや隠す気などない様子で、乱雑な足音と共に盗賊が闇の中から躍り出てきた。数は五、全員が剣で武装している。防具は鉄の篭手と胸部を守る鎧のみと軽装だ。
リーフは両手剣を地面から引き抜き、盗賊達に突貫した。
捨て身覚悟の勢いに気圧された先頭の一人を腹で分断、続いて円を描くように振るわれた両手剣が下段から二人目を斬り裂いた。
三人目はなんとかリーフの動きに対応し、振り下ろされる両手剣を自らの剣で受け止めたが、剣閃が止まったのは一瞬のみ。剣は負荷に耐えきれず諸共真っ二つにされてしまった。
瞬く間に三人を屠ったリーフを前に、残った二人はたじろいだ。実力に差があり過ぎた。
「うおおおおっ!」
「うああああっ!」
それでも、今更背を向けて逃げることなど不可能だった。自らを奮い立てるために雄叫びを上げ、一縷の望みを賭けてリーフに立ち向かった。
一人ずつでかかっては一方的にやられるだけだと判断したのか、二人は左右から同時に斬りかかった。挟み込むように同時に攻撃すれば、どちらかの動きに対応した瞬間に隙が生じる。
だが、リーフは斬撃の隙間をすり抜けると闇の中へと飛び込んだ。
「後は任せたぜ」
そう言うと、リーフは盗賊に背を向けて駆け出した。
盗賊達は逃げるリーフを追いかけようと、馬車に背を向けた。
盗賊の死角に滑り込んだリンが森狼を構えたことに、二人は気付かなかった。
重い銃声が二回轟き、対モンスター弾は盗賊の薄い鎧を貫いて肋骨を粉砕する。
走り出そうとした姿勢のまま、二つの骸が膝から崩れ落ちた。
銃声に驚いた馬が、嘶きながら馬車を揺らした。馬車の中にいた商人達も、馬車の中から注意深く顔を覗かせた。
「どうした!?」
焚き火の傍に倒れる五人の武装した男と、今も暗闇の中から聞こえる断末魔の声に、商人達は事態をすぐに察した。
軽い銃声も交えながら、通算四回目の悲鳴の後、ようやくリーフが馬車の元へと戻ってきた。
焚き火に照らされて、闇夜から浮かび上がったリーフの姿は壮絶なものだった。
右手にぶら下げた両手剣は、血と脂の織り成すぬめりのある光沢を赤みがかかった刃の上に化粧していた。血は手元にまで及び、手に嵌めた革のグローブにも斑模様が散っていた。漆黒の外套は夜目で見る限り変わりないようだが、血を浴びていないわけがなかった。その証拠に、リーフの白い顔に鮮血が付着していた。
行商をしている以上、荒事にも多少慣れている筈の商人でさえ思わず息を呑んだ。
「飛び道具を使う賊がいたので、掃討してきました。これでおそらく全員でしょう」
リーフは左腕に抱え込んだ弓と拳銃をばらばらと地面に落とした。弓は全部で四つ、悲鳴の数と合致した。拳銃は副装備のようで、一つしかなかった。
商人のうち一人が、恐る恐る馬車から降り、弓を一つ拾い上げた。
「これは、東方の軍で使われている弓だな。最近噂になっている傭兵崩れの盗賊がここまで流れ着いていたとは、いやはや」
外地に隣接する最西端の国家群は、軍事力をモンスター討伐に大きく割いているので、大きくいがみ合う余力がない。南の内海沿いの海洋国家も然りである。
そのため、人間同士の戦争というのは大抵、比較的安定している東方諸国が舞台になっていた。
大きな戦争が起こる度に西にも噂が流れてくるが、軍勢が雪崩れ込んでくるような大きな被害はない。寧ろ戦争の度に特需で穀類やモンスター素材が値上がりするので、戦争は西の商人や国家にとっておいしい話である。
しかし、一つだけ問題があった。傭兵の賊化である。
西では、傭兵は護衛として個人や隊商に散発的に雇われることが多い。対して、東の傭兵は戦時に国が一気に雇用する。
戦争に勝利した際、傭兵の一部は報償と共に国に召し上げられるが、大多数は解雇される。敗れた側は言うに及ばず、路頭に迷う人間が大量に出現する。
次の戦争まで酒場でくだを巻きつつ、小さな護衛仕事をこなしていく者もいるが、中には賊となって略奪行為を行う者もいた。
そして、賊の一部は獲物を求めて街道を西進し、西方国家の民を脅かしていた。
皮肉なことに、賊化した傭兵が護衛の仕事を増やし、西の傭兵の飯の種になっていた。特に、モンスターばかりを相手にする西の果ての傭兵にとって、人間など怖るるに足りない。
「証拠として、武器を持って行こう。エスペで賞金がでるやもしれん」
商隊のリーダーが指示を飛ばした。
「分かりました」
リーフは血に濡れた剣を地面に突き刺し、弓を拾い集めて商人に渡した。拳銃からは残った弾を抜き取っておいた。リンも、盗賊の死体から剣と鞘を奪い取って抱え込んだ。
弓と剣は商品の横に積まれ、他の刃物や金になりそうなものはその場の報酬としてリーフが物色して回った。
一通り死体の検分を済ませると、リーフとリンは金にならない残りを明かりの届かない道の外まで引きずって捨てた。獣が死肉を漁りに街道近辺まで寄ってきてしまうが、埋めるとなるとかなりの労力を要するので致し方なかった。
「これで終わりました」
「ご苦労、怪我はしていないか」
馬車の中で事の成り行きをずっと見ていた商隊のリーダーが、リーフに声をかけた。優しさからくる言葉ではなく、今後の護衛に支障を来さないかの確認だった。
「ご心配には及びません。最後まできっちりとお守りします」
「私も大丈夫です」
リーフに目配せされ、リンも勢い込んで言った。
リンが怪我をしていないのはリーフの手助けがあっての事で、本人の実力で切り抜けた訳ではないが、不安にさせないためにも黙っていた。
そして、一人で盗賊の大半を片付けたリーフはといえば、驚くべきことに全くの無傷だった。擦り傷一つ、外套の繊維の一本も断ち切られていなかった。
多人数、しかも飛び道具相手に剣のみで戦える者などそうはいない。リーフの戦士としての技量の高さが窺えた。
「引き続き警戒にあたるので、どうぞ休んでいてください」
卓越した腕前を目の前に、商人達はあっさりと馬車の中に引っ込んだ。
馬はリーフの全身に纏わり付く血の臭いを嗅いで、まだそわそわしていた。両手剣の血を拭い、汚れた外套と手袋を焚き火で乾かしてようやく、馬も安心出来る程臭いが薄まった。
外套を地面に広げ、リーフはまた地面に座った。初夏とはいえ、まだ夜は肌寒く、先程よりも火に近い場所に陣取った。
リーフが外套の下に身につけていたのは七部丈の白いシャツだった。シャツに覆われていない前腕には暗器の鞘が巻かれているが、左だけ、鞘の下に包帯が覗いていた。
リンもリーフの隣に座り、火にあたって身体を温めた。
「ねえ、左腕の調子はどう?」
商人の意識が向いていないのを確認して、リンがぼそぼそと尋ねた。
「まだ完全とは言えない。さっきも、両手剣を振るったら少し痛んだ。もう少し、君が当てになればよかったのだけれど」
リーフは手の調子を確かめるように、左手を開いたり閉じたりした。
「うー、それは反省してる……助けてくれてありがと」
リンは素直に自分の非を認めた。もしリーフが盗賊に気付いていなければ、リンは矢に射抜かれて命を失っていただろう。
「礼ならそっちに言ってくれ」
リーフは右脇の地面に突き刺した両手剣を指差した。
「あの距離じゃ、ボクには敵がいることしか分からなかった。弓矢に気付いて避けさせたのは、ギルの判断だ」
——おう、遠慮なく俺に感謝しろ!
軽薄そうな若い男の声がリンの耳に届いた。
それらしい者の姿はどこにも見えないが、尊大にふんぞり返っていそうな口調だった。
リンはリーフの肩越しに両手剣にちらりと目を向けたが、すぐにリーフに視線を戻した。
「でも、抱きしめてくれたのはリーフだよね、ありがとリーフ」
リンは満面の笑みを浮かべてリーフの左の二の腕に縋り付く。リーフは顔色一つ変えずに、黙ってリンの体重を支えた。
——だから、助けたのは俺だっての! おい!
ありがたく感謝しやがれ、と喚く声に、リンはあからさまに嫌な顔をした。
「うるっさいわね、乙女の夢を壊してんじゃないわよ。これだから、空気を読めないクズ鉄魔剣は」
——んだとテメェ! 由緒ある最強の魔剣をクズ鉄呼ばわりたぁ、細切れにして食ってやろうか、ああ!
「曰く付きの最低の骨董品の間違いじゃないの。持ち主の腕を切り飛ばそうとした奴のどこが、ポンコツ以上に見えるってわけ?」
普通の婦女子なら震え上がってしまうような怒声を、リンは涼しい顔で流した。加えて、相手の脅しも口先だけと分かっているので、軽い気持ちで言い返した。
リンと言い争っているのは、地面に突き刺さった両手剣に他ならなかった。
勿論、ただの剣ではない。モンスターを屠る事が出来る希少な武器であり、
魔剣は意思を持ち、魔戦士と交わした契約の下で力を振るう。
この両手剣に宿る意思はギルスムニルと名乗り、リーフに力を貸していた。
ギルは自称『最強の
ただ、一つだけ問題があった。
ギルとリンの馬が合わないことだ。
リンが一方的にギルのことを嫌っているようだが、一度ギルが挑発にのってしまうと、もうどちらが悪いのかがどうでも良くなる程喧しくなる。しかも、ギルはリーフの所有であるので、喧嘩の場にリーフがいることが殆どだった。
現に、リンは左腕に縋り付いている状態で、ギルは右手が届く場所にいた。間にいるリーフは自分に向けられていないとはいえ否応なく両側から罵詈雑言を聞かされるはめになっていた。
「大体、何で剣が喋るのよ。脳みそ無いくせに……あー、だから馬鹿なんだ」
——はっ、今更指摘するとかテメェの方が馬鹿じゃねぇの。それから残念だったな、俺は脳みそ有る無しに関わらず馬鹿だ! そしてテメェの方がもっと馬鹿ー。
「馬鹿だって認めるとか、本当に頭逝ってるわね、この骨董品」
——テメェに比べりゃマシだ、マシ!
「双方黙れ」
さすがに鬱陶しくなったのか、リーフは手を上げて二人の罵り合いに割り込んだ。
「一つ言っておくけど、ボクは本当に何もしていないから。ギルが咄嗟にボクの身体を使っただけだ」
「……え?」
リーフの告白に、リンは凍りついた。
「それから、盗賊を斬り殺したのも全部ギルがやったことで、ボクは意識の隅で眺めていただけだ」
リンの頭の中で薔薇色の情景が音を立てて崩れていくのを知ってか知らずか、リーフは衝撃の事実を次々と述べていった。
リンを助けたのは外側がリーフでも、中身は憑依霊の能力で乗り移っていた魔剣だったというのだ。
確かに、戦いの最中でリンに声を掛けたのはリーフではなくギルだった。
「まあ、ボクもリンがいなくなるのは困るから、攻撃に気付ければ守ってあげたのだろうけど、まさかギルに動きを先んじられるとは思っていなかったよ」
——テメェは一コの感覚に拘り過ぎだ。耳を澄ましてりゃ、弓矢ぐらい見切れんだろ。
「百年以上殺し殺されしているモノと同列に語られても、まだ出来るわけがないだろう」
——いつかはできんのかよ。
「会得するまで死ななければ、の話だけれど」
捻くれた返事をして、リーフは興味なさげに首を傾げた。
「リーフは力及ばずだったってことね……じゃ、クズ鉄が邪魔しても仕方なかったわけか」
無理やり納得出来る理由をこじつけ、リンはようやく大人しくなった。
——次クズ鉄呼ばわりしやがったら、モンスターの目の前に突き出すぞ。
悪態を吐いて、ギルも引き下がった。
ようやく静かになった一人と一本に、リーフは溜め息を零した。
「今は別に騒いでいても良いけれど、エスペに着いたら大人しくしていてくれ、絶対に」
リーフの言葉遣いは穏やかだったが、『絶対』に有無を言わせない気迫が込められていた。
二人が護衛している商人達は商業都市エスペに向かっていた。
エスペは東方へと続く街道の始点に位置し、交易の重要な拠点となっている。遥か昔には、外地との境界のさらに西まで街道が伸びていたらしいが、モンスターの蹂躙とそれを防ぐ為の植林事業で荒れ果てて使い物にならなくなってしまっていた。
「私だって、人前で武器に話しかける程頭悪くないもん」
リンは素直に了承した。
——えー、俺も黙んねぇといけねぇのか?
「当たり前だ。普通の武器は喋らない」
——でも、声が聞こえるのはテメェらだけだろ。
「町に他の魔戦士がいる可能性がある。お前のせいでこちらの正体がばれることだけは避けたい。だから、絶対に人前で喋るな」
魔剣は所有者の精神を食いつぶしたり、管理が甘いと周囲にたちの悪い悪戯を仕掛けたりするので、外地から一歩でも人の世界に入れば煙たがられることが多い。
実際、ここに来るまでの間、小さな村に立ち寄って魔剣持ちの魔戦士だとばれてしまったことがあったが、途端に村人からの視線が冷たくなった。
魔剣と意思疎通が可能な魔戦士の才能を持つ者は、数が少ないとはいえ確実に存在する。リンのように、才能に気付く機会に恵まれなかった卵の存在を考慮すれば、増々町中でギルが話すリスクは高い。
——もし喋ったら?
どうせ何も出来ないだろ、と高をくくってギルが挑発した。
だが、リーフはきちんと回答を用意していた。
「公衆便所の壺にお前を突っ込む」
リーフは真顔で言い放った。
便所というものは、水道が整備された都会の中の都会ならともかく、基本的にくみ取り式である。穴の開いた椅子に座って、下に置かれた壺で排泄物を受け止めるのだ。
勿論、排泄物を受け止める壺は汚く臭く、年中蛆虫と蝿がついてまわっている。
——……誠心誠意黙らせて頂きます。
常に砕けた口調のギルが、初めて敬語を使った瞬間だった。剣なので表情を窺い知ることは出来ないが、声色は恐怖で若干震えていた。
「うえー、さすがにエグすぎ」
いつもなら他人の不幸を鼻で笑うリンでさえ、リーフの宣言した仕打ちの残酷さに顔が引きつっていた。
「分かったのなら良い」
二人に注意が行き届いたのを確認し、リーフはおもむろに空を見上げた。
弱い月明かりの下で、真砂のような星が輝いていた。
「もうすぐ、だな」
まだ治りきっていない左腕をさすりながら、リーフは呟いた。
「あのさ、リーフ」
リンは少し目を伏せながら口を開いた。
「どうした?」
「……やっぱりいいや、先におやすみっ」
喉元まで出かかっていた言葉を飲み込んで、リンは地面に寝転がった。
エスペは二人の予想以上に活気のある都市だった。
町の入り口にいた兵士に賊を討伐したことを告げると、直ぐ様官吏の元へと通された。
戦利品は鑑定され、治安維持に貢献したとして報奨金が授与された。
程なくして、二人は宿屋通りの一角で護衛契約の満了を商人達に告げた。
「ここまでご苦労だった。賊の懸賞金は報酬に加えておいた」
商人達のリーダーは、尊大な口調でリーフに告げた。懐から麻袋を取り出し、リーフの手に落とした。
ずっしりとした貨幣の重みを手で感じ、リーフは袋の口を開けて中身を確認した。安い硬貨で水増ししている訳ではなく、重さに見合うだけの価値があった。
商人も懸賞金の取り分がある筈だが、盗賊の首に懸けられていた額はそれなりに高かったようだ。報酬は倍近くに増えていた。
「ありがとうございます」
リーフは軽く頭を下げた。こういった臨時の収入は黙って持ち逃げされることが多い。この商人達は、良心的な商売を行っているようだ。
「これから、どうするのかね。我々はこれから街道沿いに東へ向かうが、行き先が同じなら依頼を継続してもいい」
「折角の申し出なのですが、ボク等は南の、ギリスアンの方面に向かうつもりです」
リーフの言葉に、リーダーは空いた手を顎に当てた。
「ふむ、あちらは最近きな臭い噂が広がっている。見たところ、君はあちらの出身のようだが、気をつけ給え」
リーフは頭を上げてリーダーの顔を窺った。
「……何故、そのように思ったのですか」
「君の持っている剣に、
リーフは自分の左腰に目を落とした。
腰に巻かれた剣帯には、剣が挿してあった。特に業物というわけではないが、護拳に月の意匠が組み込まれており、それなりに目をひく品だった。
「確かに、ボクはあの国の出です。状勢が荒れているのは承知の上です」
「そうか。ならば、私からはもう何も言う事はない。良い旅路を」
商人は特に残念そうにするでもなく、二人に背を向けて立ち去った。
「——と、言うわけでお金頂戴!」
商人の姿が完全に見えなくなると、リンはいつも通りリーフに向かって両手のひらを突き出した。
「たくさん貰ってたよね、ちょっと多めにくれると嬉しいなぁー」
「武器の整備に余念が無いのは良い事だけれど、節制という言葉を知っておいて欲しいと思うのは、決してボクがケチだからでは無い筈だ」
リーフの遠回しな嫌味にも、リンは澄ました顔を崩さなかった。
「弾丸の予備に焼夷剤、それから各種罠。最低限これくらいは揃えなきゃ、いざっていうときに足元掬われるわよ」
「その前に財布に足元を掬われそうな気がするのだけれど」
愚痴を零しつつ、リーフは袋から硬貨を必要な分だけ取り出して自分の荷物に突っ込んだ。残りは全て、リンの豊満な胸元に押し付けた。
「余ったら返すように。宿を取ったら別行動をとろう」
「うん!」
都市の一家庭が三ヶ月は裕に遊んで暮らせる程の資金に、リンは満面の笑みを浮かべた。
それから半日が過ぎ、夜の帳が町を覆った。
ごった返していた通りは一転、人の姿は疎らになった。所狭しと並んでいた屋台もほぼ畳まれてしまい、本来の道幅を取り戻したこともあって、余計に寂れたような錯覚を抱かせる。
しかし、まだ多くの店の軒先には明かりが灯っていたし、多くの食堂では昼間以上に賑やかな声が中で響いていた。
さすがに地方都市では街灯が整備される程財政が豊かではないようだが、それでも民家や店から零れる光で明るく照らされ、市民に安心感を提供していた。
戦乱の続く東方諸国は遠く、外地のモンスターに脅かされる恐れがない——地理的条件に恵まれたエスペだからこその、平和な日常だった。
それとは打って変わり、エスペのとある宿の一室では穏やかではないやり取りが交わされていた。
「それで、何かまともな弁明はあるのかい」
リーフの指が、コツコツとテーブルを叩いた。
リーフは部屋に備え付けの椅子にどっかりと座っていた。
外套を脱ぎ手袋を外しているため、胸を潰していても女性だと判断するのに十分な程の線の細さと、滑らかで白い指先が露わになってしまっていた。
だが、その雰囲気と仕草には女性らしさなど欠片も無く、眉間に険のある美少年という印象しか周囲に与えなかった。
「それは、その……」
椅子に座ったリーフの正面に、リンが立っていた。
リンの様子は少し奇妙だった。普段の傲慢な態度は何処かに蒸発し、妙に居心地が悪そうにしてすっかり萎縮していた。リーフとも目を合わせないように、斜め下に視線を彷徨わせている。
リーフの爪がテーブルを叩く度に、怯えたように少し身体を震わせているようにも見えた。
突然、リーフはテーブルを叩くのを止め、振り下ろした指先でテーブル上に置かれた袋を摘まみ上げた。昼に、リーフがリンに渡した資金の袋だった。
潤沢な資金で膨れていた袋は、見る影も無くしぼんでしまっていた。袋の中に残っているのは僅かなおつりのみ。
たった半日の間に、リンが限界ぎりぎりまで使い切ってしまったのだ。
これには、さすがのリーフも物申さずにはいられなかった。
「どこで使い切った」
リーフの声には特に何の感情も込められていなかった。眉間には皺が寄っているが、いつも大なり小なり存在しているので心の内を推し量ることはできない。
謝れば良いのか、それとも涙を絞り出せば良いのか分からず、リンはただ怯えていた。
「し、新型のモンスター弾が出てたから、つい」
リンが銃器専門店で商売道具の整備をした際に、金の匂いを嗅ぎつけた店員が大々的に売り込んできたのだ。
勿論、リンの眼鏡にかなうだけの品質だったので購入に踏み切ったのだが、普段の弾の二倍以上の値段をするものをいつもの調子で買いつけてしまったのだから、有り金が無くなってしまうのも当然の理だった。
「思わず箱単位で買ってしまった、というわけか。成る程」
ふむ、とリーフは顎に手を当てた。淡々と状況を確認する様子が、更にリンの恐怖を煽っていく。
「その常軌を逸した金銭感覚に呆れてものも言えない、と言いたいところだけれど、つい多めに渡してしまったボクにも問題はある」
リーフがリンに金を渡した際、今後の旅費の分も抜いておくのをうっかり忘れていたのだ。しかし、それでもある程度は返ってくるだろうと高をくくっていたのが、此の様である。
「だ、だよね! 別に私だけの問題じゃ」
——いや、それとこれとは話が別だろ。
横からギルが口を挟んだ。ギルは、背負うための帯を付けたまま、寝台の上に置かれていた。
二人の他に人のいない場所なので、喋ったことについてリーフが怒ることもなかった。
——財布が空っぽになるのが分かってて買い物するとか馬鹿じゃねぇの。
「あんたに言われる筋合いなんか爪の先もないわよ!」
むきになってリンは言い返した。
ちなみに、ギルのせいで増えた出費といえば、リーフの腕の治療費と少々の食費程度で、リンの浪費と比べるまでもなく少なかった。
「確かに、君のせいで常に財布が軽いのは考えものだね」
「え、ちょっとリーフまでそんなこと言わなくても……」
リーフに食って掛かるのは抵抗があるのか、リンの勢いは急速に萎んでいった。
「でも、君の買い物で旅費が足りなくなったという現状は揺るぎないのだし」
「う……それは」
「全て一人で揃えろ、とは言わない。せめて半分は用意しろ」
「きついって、半分は。せめて四割で」
自分が浪費したことを棚に上げて主張するリンに、とうとうリーフは溜め息を吐いた。静かに、けれども大きく首を横に振って要求を拒否する。
「まあ、いざとなれば貞操の一つでも売れば足しにはなるだろうし」
さも当たり前のように言葉を紡ぐリーフに、リンは思わず目を剥いた。
「性別が同じなのにそういうこと真顔で言うのはどうなの」
「初めては特に高く売れるらしい」
「待ってちょっと冗談に聞こえない!」
リーフの視線が下腹部へと向けられているのに気付き、リンは顔を真っ青にして腹部をおさえた。
「……冗談だけれど」
「ちょっと本気だったでしょ!?」
蒼白だった顔を今度は真っ赤にして、リンは反論した。
リンは確信した。
リーフの表情はいつもと然程変化がなかったが、実はかなり怒っていたことを。
「いらっしゃいませ、お席にご案内させていただきます」
顔全体に営業スマイルを貼付け、リンは来店した客を案内した。
エスペ一の高級喫茶『野薔薇の園』は、本通りの一等地に位置し、豪商や貴族が利用する格調高い店だ。
比較的安価な糖蜜ではなく、十分に精製された希少な白砂糖を用いた上品な甘さの菓子と、南岸から輸入された茶葉を出せるのは、エスペではこの店しかない。
店舗は南向きで、大きな窓には曇りの無い硝子が嵌められ、差し込む光はぴかぴかに磨かれたタイルの床に反射している。天井には輝くシャンデリアが幾つも吊るされ、広間の壁際に置かれた白磁の花瓶から瑞々しい花が良い香りを振り撒いていた。
花模様が染め抜かれたテーブルクロスに染みはなく、使われている食器もよく磨かれていた。
勿論、広間で働く給仕も洗練されている。男性も女性も制服を着こなし、足音をしめやかにテーブルの間を歩く様は、客に負けず劣らず優雅に見えた。
この店に奉公に出された者は皆並み以上の器量持ちで、数年に渡る教育の末にようやく給仕として表に立つことを許される。
しかし、可愛らしい顔立ちと育ちのよさを両立したリンは、特例として即戦力で給仕を任されていた。
急いでそれなりの金を用意しなければ本気で色宿に投げ込まれる羽目になりそうだったので、リンは必死で稼ぎ口を探した。
そして、『野薔薇の園』の給仕が一人、失踪したことを知った。いなくなったのは若い娘で、流れの貴族に見初められたという噂が立っていた。人攫いに目をつけられたという話もあったが、どちらもこの界隈ではよくあることだ。
店にとって重要なのは、労働力が一人分減ったという事実のみ。
おかげで、リンは自らの貞操のためにも半ば脅すようにして職をもぎ取ることに成功し、短期の穴埋め要員となったのだった。
リンが自分の生まれに感謝したのは久しぶりのことだった。
「ご注文をお聞きしてもよろしいでしょうか……はい、かしこまりました。お煙草に火をお点けしましょうか」
客の片方が一服しようとパイプを取り出したのを目敏く見つけ、リンはここぞとばかりにサービスした。
リンは手早く煙草に火を点け、預かった外套の埃を落とした。外套を掛けてから注文内容を厨房へと伝えに戻ったリンのポケットには、小額ながらも心付けが収まっていた。
ちょっとしたコツで稼ぎが多くなるのならと、鳥肌が立つを抑えてリンは愛想を振りまいていた。
リンがリーフの提示した額を貯めるのに、五日を要した。
もうしばらく働いてくれないかという店の申し出を断り、リンは給仕の制服を脱いだ。
「はい、約束していた額ね」
宿で溜まった資金を数え直し、リンはテーブル上の硬貨の山をずい、と向かい合って座ったリーフに向かって押し出した。
それからふらふらと寝台まで歩いて倒れ込んだ。数日分の精神的な疲労を安いマットレスに吐き出し、幸せそうにシーツに包まった。
「これで、資金が半分は溜まったな」
リーフは手早く金額を確認し、もうなくならないように全額を袋に収めて紐で縛った。
「残り半分はどうするの」
「ボクに考えがある」
リーフの目が、空いている方の寝台の上に放り出されたままの剣へと向いた。
「本日お集り頂いた紳士淑女の皆々様方、今宵も闘技クラブをご存分にお楽しみください」
どこか安っぽさを感じさせる、貴族のような格好の進行役が声を張り上げると、会場のあちらこちらから拍手の音が響いた。
どんな町にも一つや二つはある賭博施設、此処はその中でも人同士の戦いに金を賭ける闘技場だ。元は古い劇場だったのを改装し、石造りの円形舞台を取り囲んで高い段の席が設けられていた。
客は主に富裕層だが、広間の影でせせこましく引き換え札を握りしめる貧相な姿もちらほら見受けられた。
リンは、購入した札を持って席の最後列に座っていた。
今日執り行われるのは、外部からの参加者も含めたトーナメント方式の闘技大会である。この大会では優勝者にも賞金がでるため、身内に金を掛けて一攫千金を狙う者が多い。
リーフが企んだのも、まさしくそれだった。
「さて、本日の第一試合は新参者同士の決闘となります。赤の陣、亡国の騎士ガンザ!」
右手の赤い幕が上がり、内から男が現れた。毛皮と鈍色の板金を組み合わせた、蛮族のような鎧を身につけている。北方の白兵戦用、それもモンスターと相対することを視野に入れた、機動性と防御性能を兼ね備えた鎧だ。
「対するは黒の陣、新進気鋭の傭兵リーフ!」
左手の黒い幕が上がり、リーフが前に進み出た。いつも通りの黒い外套姿で、髪は暗い色に誤摩化している。
「剣の貸与を執り行います」
二人の前に付き人が立ち、腰に挿していた剣を抜いて仰々しくさし出した。
剣闘士の無闇な死傷を避けるため、予選では運営側が用意したなまくらの剣を用いることになっている。刃は完全に潰してあり、裂傷や打撲を負うとしても致命傷になるような傷は極力抑えられるように考えられていた。
二人は、事前に選んでおいた、それぞれの体格に合う剣を受け取った。
付き人が下がり、舞台には騎士ガンザとリーフが残された。
「試合、開始!」
宣言と共に金属同士がぶつかり音を立てた。二撃、三撃と剣が交錯するも、ほぼ互角——否、膂力ではリーフの方が僅かに押し負けていた。
小手調べの打ち合いから、ガンザはすぐにそのことに気付き、強く剣を打ち払ってリーフの体勢を崩しにかかった。
「——くっ」
ガンザの目論み通り、剣を重ねるごとにリーフは押されていき、遂に身体を大きくよろめかせた。
がら空きになった上半身にガンザが袈裟切りを叩き込む。勝負が決するかに見えたが、ガンザの剣は大きく空を切った。
リーフは倒れるように身を沈め、自分の両足をガンザの軸足に絡めて力ずくで引き倒した。関節に過負荷が掛かったのかガンザの足からごきりと音がし、受け身をとる暇もなく地面に叩きつけられた。
お互いに床に倒れ臥し、しかしリーフの反撃はここで終わりではない。
腹筋で身体を跳ね上げ、リーフはガンザの反応よりも速く剣を腹部へと突き立てる。真剣なら致命傷の位置に剣先が食い込んだ。
「勝者、黒の陣リーフ!」
勝負はついたが、観客席の反応はまちまちだった。貴族の殆どは、魅せられるような剣戟の応酬を期待していたのだ。
リーフの、相手の隙を誘って一撃に賭ける戦い方は、実戦に傾倒しすぎて泥臭く、受けが悪かった。
次の戦いでは、なんと剣を放り捨てて相手が動揺している隙に組み付き、失神するまで締め上げてた。
観客席から野次までとんだが、ルール上、武器の無使用は反則にならないので審判は渋々リーフに勝ちの判定を与えた。
本戦にはリーフを含めた四人が勝ち進んだ。
本戦では持参した武器の使用が認められている。リーフは迷わず魔剣を手に取った。
魔剣ギルを使うということは、リーフではなくギルが戦うということでもある。
ギルの戦い方はリーフと全く異なっていた。一撃にかける威力は絶大、攻撃を止められたり流されたりしても滑らかに次の手に繋げて仕留める、相手の斬撃は躍るように躱し、返し技を叩きつける。
前半とは異なる戦いをみせるリーフの変わりように、観客は一瞬戸惑ったがすぐに歓声が沸き上がった。
魔剣を用いた戦いは鮮やかで、魅せる戦いを積み重ねた闘技場専属の戦士に勝るとも劣らない立ち回りの見応えは素晴らしいものだった。
観衆が唯一残念がったことと言えば、魔剣の打ち合いの強度に耐えきれず、相手の武器が駄目になってしまうせいで試合が長く続かないことのみだった。
大会は、リーフの文句無しの完全勝利で幕を閉じた。
決勝戦の相手は闘技場の花形闘技士だったが、壮絶な剣戟の応酬の果てに相手は膝をついた。
「いやあ、数日我慢した甲斐があったってもんだぜ! 楽しい上に飯にもなる、おまけにより馴染んできたしな」
控え室で
「そういうのやめてよ」
リンが顔を顰めた。
「そういうのって、何だよ」
「喉を鳴らしたり、乱雑に顔を拭いたり、それから下品な行動全部。リーフの格が下がって見えちゃうじゃない」
「別にいいだろ、リーフだって気にしてねぇし」
「え、リーフ意識あるの!?」
リンは反射的に口を両手で覆った。
「時々な。今は完全に引っ込んでるけど、ひょっこり覗いてたりするぜ。ま、お互いに疲れるからずっとやってるわけじゃねぇけど」
そもそも、憑依霊と一体化している状態で意識を自由に顕在化出来ること自体、かなり特殊なことなのだが、ギルはさらりと流した。
「つまり、今はリーフは聞いてないのね。じゃあはっきり言うけど、リーフが甘いからっていい気にならないでよね」
リンは人差し指を
「は?」
「あんたに好き勝手やらせているのは、リーフが戦力が必要だからっていうだけで、別に特別でも何でもないし、目的を果たしたらきっとすぐに捨てられちゃうわよ」
「え?」
「勘違いしないでよ」
「いや、その前に……あ」
急に呆けた顔になり、
なんとか踏み留まって顔を上げた。先程までどこか緩んでいた顔が引き締まり、へらりとした雰囲気が何処かに吹き飛んでしまっていた。
リーフが表に出てきた。様子からすると、ギルを無理やり押しのけたようだ。
「びっくりしたー。もう、替わるんなら言ってくれないと、こっちの心臓に悪いってば」
リンは、反射的にリーフの身体を支えようと出した手を引っ込めた。
「今のは交替が少し上手くいかなかっただけで、いつもならもっと自然に出来る。慣れればそんなことも無くなるだろうし、別に君に断りをいれる必要性を感じないのだけれど」
他人事じゃないか、と言わんばかりのそっけなさでリーフは言い切った。
「あー、そうなんだ……ちなみに、今どうして急に出てきたの?」
リーフの周囲に対するそっけない態度にはもう慣れっこだったので、リンは特に腹を立てなかった。それよりも、ギルが言いかけたことが少し気になっていた。
「そろそろ此処から出ないとまずい。徐々にこちらへの敵意が高まっている」
「此処で敵? 何で?」
「ボクのせいで大損した連中や面目を潰された花形闘技士、いくらでも考えられることさ。それにしては随分とじっとりとした敵意だけれど」
リーフには特殊な感覚があった。周囲から向けられる敵意や殺意を明確なものとして受け取る能力であり、本人は〈害覚〉と呼んでいた。
自分に向けられるもの限定という狭い範囲でしか感知はできないが、それでも索敵と危険予知の分野においてリーフの才は絶大だった。
「なら、注意して抜け出さないとね」
リンは腰のホルスターから拳銃を抜いて確認した。五連装式の小口径銃は全弾装填済みで、弾倉の動きも滑らかだった。
「金は?」
「勿論、ちゃんと受け取ってるわよ」
「よし」
部屋から出ようと準備をする二人の後ろで、扉を叩く音がした。
リンは拳銃に手を伸ばしたが、抜く前にリーフが押しとどめた。相手が明確な敵意を放っている様子はなかったからだ。
「どなたでしょうか」
リーフが静かな声で問いかけた。
「運営のものです。少しお話がありまして」
扉の板は薄いので、向こう側の声もくぐもらずに聞こえた。
リンが目で合図を送った。リーフは左右に視線を巡らせ、小さく首を振った。
リンはホルスターの上に置いた手を下ろし、ドアを開けに行った。
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