真ん中育ちの存在感の無さが夫を育てた(定年祝いを戴いた方へ御礼状)

夫が定年を迎えました。

すると、すでに退職された元上司から記念の品が送られてきました。

まだ若かった夫が神戸支店に勤務していた頃、この方は東京本社から単身赴任して来られました。

よく叱られました。東京の言葉なので一層冷たく感じたと言います。ところが、夫はくよくよしない気散じな性格で、翌日には何事もなかったかの様に、屈託なく接するものですから、上司は拍子抜けしたことでしょう。

良好な関係を続けられました。

時が過ぎ、夫が50歳代で東京に単身赴任することになりますと、今度は本社でこの方に、何かとお力添え頂きました。


夫には兄2人、弟1人、姉1人、妹1人がいる三男坊、家族の中では全く気付かれない存在です。知らず知らず、育ちの中で、手を差し伸べたくなる素直さや、かわいげ、を身に付けたかもしれません。


夫は、おとなしく気弱に見えるので、人によっては、いじめてくる人もいました。

ところが、人が変わったように、キツーい一言で、しっぺ返しをお見舞いします。相手はたじたじ、ぐうの音も出ません。


これも、子供の頃、兄姉との負けの喧嘩で悔し涙を流した経験が生かされているでしょうか。

姉は踊りのバレエを習っていたので、女の子の弱い力でも、高く上がる足で“蹴り”が入り泣かされていました。


頂戴したお祝いの品に御礼状を書きました。


…………


日暮れがすっかり早くなり、朝晩の寒さが身にしみる今日この頃でございます。


この度は夫の定年に際し、お心のこもった贈り物を頂戴しまして、誠にありがとうございました。長らくのご無沙汰で失礼していましたのに、夫をお心にとどめて頂き 心より御礼申し上げます。記念の品として大切に使わせていただきます。


思い起こせば三十八年前、会社の一翼を担うつもりで入社した若者でしたが、頭脳明晰でもなく早々に凡人と悟った後は、なんとか皆様に支えられてここまでこぎつけた、といったところでしょうか。


これからも嘱託職員として末席に籍を置かせていただきますが、新たな気持ちで励んでもらいたいと思います。


定年だ還暦だとの声に夫がすっかり潮垂れてしまうのでは、と心配しましたが肩の荷が降りた様にサバサバしてこれまでと変わらず忙しくしています。


皆様の御厚情の賜物と感謝の念に堪えません。


〇〇様もご健勝のご様子、何よりとお慶び申し上げます。お孫様も可愛い盛りでいらっしゃいましょう。


小さい人は未来を感じる嬉しい存在です。三才までは神の子、その後人の子になるそうです。三つ子の魂百まで、とも言います。人の心は三才までに育っていく大切な時間なのでしょう。今がお孫さんとの蜜月ですね。


どうぞますますご壮健であられます様お祈り申し上げます。

かしこ

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