その他の手紙
不良品のお菓子をメーカーへ。「そつじながら」
かりんとう、芋けんぴ、粟おこし…昔ながらのお菓子を、65歳になる夫は好みます。
一口大の菓子が入った小袋が、沢山詰められた大袋を買いました。
そのなかに、中身が入っていない小袋がありました。
私なら「こんなこともあるさ」と捨て置きますが、夫は「これをメーカーに送れば、新しい商品を一袋くれるかもしれない」と、悪知恵が働きます。
今は、消費者が不良商品の写真を安易にネットに流して、メーカーが大きな打撃を受けるご時世です。
単純明快な夫の魂胆が、悪質なクレーマー扱いされないか心配です。
夫は「大丈夫!『私はそんな人間ではありません』と思ってもらえる様、お母さんなら書けるよ!」…って、私が書くんかい!
はなから、自分で送付する気はなさそうです。
企業へ、苦情の手紙を書くのは、初めてなので言葉が出てきません。
相手が不快にならず、また夫の名前で送りますので、ビジネスライクに短い文にしようと思います。
ネットで探してみます。
【初めて企業へ書く手紙の前文】
「前略 卒爾ながら、謹んで申し上げます。…草々」
「卒爾」は初めて出会う言葉で、意味もわからず気取って書くのもどんなものでしょう。
それでも受け取る側からすれば、言葉を選び節度ある文章で書かれた手紙なら、常識的だと感じて安心して貰えます。
まして苦情文であればこそ。
漫画『サザエさん』の著者、長谷川町子さんが『新やじきた道中記』の中でこの言葉を使っています。
見ず知らずの人に声を掛ける時です。
タバコの火を借りるのに「そつじながら火をはいしゃく」
昔、当たり前に使われていた言葉のようです。
【卒爾】そつじ
にわかなこと。また、そのさま。だしぬけ。突然。
(例文)「卒爾ながら少々おたずねします」
男性的な言葉です。
例文にならって、書きました。
…………
前略 卒爾ながら謹んで申し上げます。
以前よりこの商品は好物でよく購入しています。
先日大袋に中身が入っていない小袋が一つございました。
封を開けずお送りしましたので、宜しくご査収ください。
草々
………
書いてみますと
「卒爾」は、簡潔明瞭な言葉でありながら、相手への敬意を忘れず、本題へスムーズに誘います。
一週間程で、夫が目論んだ通り、御菓子が二袋送られてきました。
丁寧なお詫びの文書と85円の切手と共に。
全く恐縮するばかり。
不良品といっても、異物が混入していた訳で無く、ただ小袋に御菓子が入っていなかった、という程度の事です。
機械の流れ作業の途中起こりうる事と、誰でも思います。メーカーに送り返す程の事ではありません。
こちらの方こそ ごめんなさい。と申し訳ない気持ちでいっぱいです。
そんな私など意に介さず、夫は送って頂いた御菓子をパクパク食べています。
時々、夫が子供に見えることがあります。
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