結婚前の二人を心配する手紙

悲しみ・抗議・謝罪の便りは書きにくいものです。


抗議したい気持ちを抑えながら、冷静に公平に、逡巡しては何度も書き直します。


しかし娘(長女)だけの言葉を真に受けていては失敗します。

当人に会い、話してこそ分かる人柄があります。言葉遣いや気立て、物腰、…私達両親だけでなく、彼も私達を観察しています。

お互い、かたくなになっていた気持ちが氷解していきます。


大阪育ちの私は、お節介なところがあって、何かと首を突っ込んでは失敗します。


………


前略 突然のお便りにさぞ驚かれた事と存じます。申し訳ございません。


実は、ご子息との結婚を前にして娘が苦悩しております。


「私達、距離を置いてみようかと思う…」と

娘が重苦しい様子で、呟きます。

何事かと聞き出しますのに、時間がかかりました。


親の出る幕では無いかもしれない、と迷いましたが、こうして打ち明けられた以上、思いきってご子息のご両親とも御相談し、この硬直した状況を打開出来たら、と思うばかりでございます。


事のきっかけは、式場探しで二人の意見が合わず、その場の勢いで売り言葉に買い言葉。

会うたび少しずつ、よそよそしくなっていった様です。

お互い冷戦状態が続いています。


もっとも、これらの顛末は娘からの一方的な言い分ですので真偽の程は分かりません。親の同情を得る為、身びいきした言い方もあって、自分は悪くないと言いたげです。


御子息からすれば、娘の方にも我慢ならないところが多々あったに違いありません。

胸の内に、その思いを溜めたままでは、お辛いでしょうし、申し訳ない限りです。


親の立場として「私達は二人をいつも応援している」と伝えたいと思っています。


どうぞ拙宅へ御運びくださいます様、御子息に御伝え下さいませ。


きっと二人の刺々しい気持ちも「私達は両親からいつも見守られている」という安心感へと変わり、結び付きも次第に強くなっていくものと確信しています。


なにぶん、若い未熟な二人ですから、親の力添えが必要な時もあって良いと思っています。


何卒御協力くださいます様お願い申し上げます。

草々

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