夫の親族へ書く手紙

剛毅で潔い大正生まれ 。句読点と段落のない手紙

毎年敬老の日には、夫の叔父(大正14年生まれ)へ好物の桃を送ります。子供がいないので、夫は小学生の頃まで何日も泊まりに出掛けて可愛がられていました。

実家では、6人兄弟の真ん中で、居るか居ないか分からない存在です。その点、叔父の家では、ただ一人、ちやほやされ居心地がよかったはず。とうとう「養子に」という話が持ち上がります。お母さんが「おじさんの家の子供になるか?」と夫に尋ねたそうです。

まだ小学生だった夫は、さすがに母親から離れることを思って「いやや!」の一言。

養子の話しは、ご破算になりました。


時々思い出しては「高校生か大学生の時に、養子の話があったら、ふたつ返事でOKするのになあ。もったいない事したわ」と計算高い自分を笑います。


叔父夫婦は桃を“水蜜桃”と呼びます。


叔父からは、はがきで御礼状を受け取ります。この便りを受け取ってから2年後、他界されました。


現役の頃は大手建設会社の支店長を勤めあげ、定年退職されました。


丁寧で力強く堂々とした楷書の字を書かれます。

『書は人なり』と言いますが

奥様にすれば、旦那さんはワンマンで強情。

奥様のご兄弟から馴れ馴れしい言葉遣いや態度をされると、眉を寄せる方です。


でも晩年にはご夫婦で台所に立ち、奥様は喜んでいらっしゃいました。


この手紙を受け取った時には、がんの宣告を受けていらした様ですが、亡くなる直前まで奥様以外、知らされませんでした。

最期の入院先に呼ばれ驚いたものです。


剛毅で潔い彼らしい最期の迎え方だと感心し、同時に私自身の最期に思いを馳せました。


この手紙に書かれた「今の処 年齢並みの体調と医者に言われて居ります」という言葉の中に、その意味が隠されているとも知らず読み過ごしていました。


手紙の文章には時代を感じます。

句読点が無く段落も無い上、はがきの狭い中に文字を閉じ込めるので非常に読みにくく難儀します。



…………


昨今は日々凌ぎやすく成りました

その後皆々様御健勝にて楽しくお過ごしの事と拝察申し上げます

今度は敬老の日に因み結構なる好物ご恵贈頂き有難く厚くお礼申し上げます

才(歳)月人を待たずと申します

八十二才ともなれば喜ばねばならぬと考え居ります

当方今の処年齢並の体調と医者に言われて居ります

過日実姉の四十九日の法要に金沢に出向きましたが時代は孫・曾孫の時代 会話はお坊さんとが主に成る始末 時代の移り変りは早い

先づは近況旁々お礼まで申し上げます 匆々

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