第6話

 ママはたしかに私のことも陸のことも心配してくれている。でも私への心配の気持ちと陸への心配は違う・・・私は世界に一人ぼっちなんだ。。。助けて・・・、誰か助けて・・・。


 「奈津!なっちゃん!」

 「わ!びっくりした・・・」

 「何度呼んでも起きないからちょっと焦ったぞ。なんか、助けて、とか言ってたしさ。」

 そうよ、助けて、とは言ったよ。でも。あれ?私って奈津、さん?杏じゃなくて?改めてくるっと横を向くと、ニコニコとしたかなとが川に向かって小石を投げている。

 「いい天気だな。時間がないのについつい奈津の寝顔を見て幸せに浸ってしまったぞ。」

 「時間がない・・・?」

 「そ。わかる?僕たち今4次元で会ってるんだよ。」

状況を呑み込めない私に、奏は少し急いだ口調で続けた。

 「僕ももうだいぶ忘れてきてるんだ。二人ともがすっかり忘れてしまったら、もうこの世界では会えないから。こうして会うのももう何回目なのかわからなくなってきたよ。奈津がしんどくなってるから、心配でさ。でももう時間はないよ。」

 「奏・・・。」

 「奈津、僕たちの子供たち、どちらももう子供を産んで育ててるよ。僕たちが大事に大事に育てた、あの何にも代えがたい、大切な宝物。どちらももう名前は思い出せないけど、お姉ちゃんは髪は縮れ毛で、笑うと目がくしゃっとなる、おしゃまさん。妹はさらさらのストレートヘアでスポーツ少女だった。僕たちが死んでしまったあと、二人はしっかりと生きていったんだ。どちらも同じくらい大事だったろ?どちらがなんてなかったろ?病気になったときは寝ずに看病したな。どちらかた40度の熱がでたときは救急車を呼んだよな。」

 「うん、うん。」

 「奈津、愛されてるよ。奈津も、僕も、今いる世界で。大丈夫。僕も・・・死んでも忘れることができず君を探し当てたんだ。あの子の力を借りて。」

 だんだん声が小さくなってきた。私も何かを喋ろうとするのに声が出ない。声が、出ないの。奏。奏。


 「お姉さん、ありがとう。重いでしょ。この子、もう15㎏あるのよ~。5㎏のお米、3袋分だからねー。ほら、ゆうた、こっちおいで~。」

 赤ちゃんをわたして軽くなった両腕をきゅっと抱き締めた。綺麗な瞳の赤ちゃん。何故か胸が締め付けられた。私も大人になったら、こんな可愛い赤ちゃん欲しいなあ。

 少し気分がスッキリして、ママと陸にパティスリー御影のチョコシューをお土産に買ってそのまま家路に着いたのだった。

「ただいまー。ママ。」

「杏~心配したよ。ん?大丈夫?」

「うん、なんか、もう大丈夫な気がする。」

「なに?それ~。」

 ママは呆れ顔なような、嬉しそうな、でもとにかく穏やかな顔をして私を見た。真っ直ぐに。そうだ、いつも見てくれてたよね。

 うん。


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翼。 秦柚月 @supermoon

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