第19話 『最終人格試験』


最後の試験。それも人格試験である。

しかし、それは最も重要で、最も過酷な試験。

人間である以上、本来ならば突破できない試験だ。

ある種の狂気。狂人でなければ突破できない。


皇帝はこの試験によって一人格を放棄し、超人となるのである。



「コッペさん!私は皇帝に……なるのですね。なれるのですね!」

「そうだね。君はとても優秀だった。

皇帝試験はほぼ合格だよ」


クラウスもコッペに同意した。

「そうだな。ほぼほぼ合格だ」


「ほぼ?」


メノンは首を傾げる。


「まず、採点をしよう。それが規則だからね」

「採点ですか。なるほど。今までの試験のですね」


それぞれの点数が発表された。

128個の能力試験と121の人格試験があり、

能力平均点は98.7点、人格平均点は95.8点だった。


「ここまでは史上最高得点だよ。

まあ、ここまで来た人間自体が史上でも15人しかいないけどね」

「全部記憶が戻っているのでわかるのですが……もの凄く大変でしたね。

私以外にも沢山の人間が受けていたんですね」


「メノンが受けていた期間では延べ3万人が受けていたぞ?

大抵が最初の能力試験でつまづいてるけどな。人格試験までたどり着くのはほんの一握りだ」


「そう。ほんと一粒の軌跡を探す試験だからね。少しでも瑕疵があれば不要なのさ。

何十年も最終試験合格者は出ないものさ」


「自分でもここまで来れた事は驚きです!」


メノンはにっこりと笑顔を浮かべた。

コッペは採点を続ける。


「『怪物から村を守って試験』では、自国を守る意思と力を測る試験だった。

もちろん、世界皇帝には自国を守る意思が必要だ。それは暴力によっても曲げる事があってはならない。

拷問にあったとしても国を売らない不退転の意思と、

実際に守る武力の両方が必要なのだ。

君は48時間不眠の戦闘後、

メノンは怪物に右腕をもがれても最後まで村人達を守った。

これは能力試験と人格試験両方なんだけどさ……。

ほんと長かった!

能力の合格点は1時間継戦なんだからさ!早く終わらせてよ!」


「す、すみませんでした……」


「傷を負ってから人格試験で、君は弱音も吐かず村人を守り続けた。

泣き喚く幼児に対して笑顔すら浮かべてね。

それから仮の死まで72時間戦った。

……なんで傷を負ってからの方が長いの!?」

「マジで長かったな。俺も怪物役で何度か出たけど、本当に粘り強かったわ」


「私は両利きなので意外と左手だけでもいけました!」

「頭おかしい!私はこの試験は能力71点。人格74点で合格最低点ギリギリの合格だったよ」

「コッペさんも皇帝試験受けてたんですか!?」

「俺は能力98点、人格82点だったな」

「クラウスさんも!?」

「皇帝陛下は能力82点、人格100点。

そして、メノンは能力100点。人格100点。文句なしの合格だった」

「わーい!」


「『罪なき親子の殺人依頼試験』では、名も知らぬ他人の命を大切に思えるかを測る試験だった。

もちろん、世界皇帝には名も知らぬ国民達を大切に想い、優しく守る思想が必要である。

君は自身にメリットがあったにも関わらず、親子を守った。それこそ皇帝の資質と言える。

実際の試験で君は混乱しながらも親子を守る事を決意し、

最底変態暴漢クラウス氏から親子を守った!」

「はい!最底変態暴漢クラウスさんから罪なき親子を守りました!」

「そういう役柄なんだから仕方ねえだろ!!」

「私はこの試験は能力100点。人格89点。全ての謎を解いた」

「俺はこの試験は能力78点、人格79点だな」

「コッペさんが得意な試験だったんですね」

「皇帝陛下は能力76点、人格97点。

メノンは能力89点、人格97点だったよ。高得点だが、迷いがあったのが減点だったようだね」

「確かに結構迷いました!どうすればいいのかわからなかったな~」


「『地下室に男女が捕らわれデスゲーム試験』では、重要な人物がどんな人物か見極められるかを測る試験だった。

もちろん、世界皇帝には重要人物がどんな人間であるか見極める必要がある。

その人間が本質的に敵なのか味方なのかわからなければ話にならないからね。

皇帝になった後で側近に暗殺されてしまっては終わりだ。歴史上それは何回もあった事だが。

仮に敵であれば味方にしないといけないが、いずれにせよ現在敵かどうかは見極める必要がある。

実は彼はメノンの敵だったが、途中で味方にした。

そして君自身彼が敵であることと、途中で味方になった事を認識していた。

試験中ではメノン君の慎重な姿が見て取れる。最後まで決して無防備になった事はない」

「はい!とってもドキドキしていました」


「それでも君は黒タイツ男の勧誘に負けず、

相方と信頼関係を結んだ。敵を味方にする能力はとても重要な能力だと言える。

私はこの試験、敵として扱って銃を撃ったよ。もちろん致命傷は外してあげたけどね。

能力74点、人格71点。ギリギリ合格だった」

「俺も能力70点、人格72点でギリギリだな。非常に難しい試験だった」

「地下室の中って怖いですよね。正常な判断ができなくなってしまうというか……」

「皇帝陛下は能力71点、人格94点。

メノンは能力96点、人格94点だったよ。おめでとう」

「わーい!」


「『二重スパイごっこ試験』では、自分の出身国と統一国家をどちらを取るか?

真に統一国家に貢献する人間かどうかを測る試験だった。

もちろん、世界皇帝は統一国家に貢献する必要がある。

これは外国人のメノン専用に作られた試験だ。だから私達が受けたことはない。

人格74点でギリギリだったぞ!愛国心が強いところが評価され、強すぎるところが減点だった。

統一国家を裏切る事はなかったが、祖国に対し感情的になることはあるかもしれないな。

「私の夢が祖国の孤立国家を救う事なので、それが出ちゃってましたね!気を付けます!」


「『戦争と国家運営試験』では、君は単純な暴力世界の中で戦争をして打ち勝ち、そして国家運営ができるかどうかの試験だ。

もちろん、世界皇帝には世界一位の戦争の腕前と国家運営能力が必要である。これこそ真の皇帝試験と言えるだろう。

メノンは見事に史上最短でルド・エーレン将軍を倒し、史上最速で魔王を打ち倒した。

君は戦争、国家運営どちらも歴代最高だった!

能力100点、人格90点。あの世界で何の知識もないのに、人道に目覚めて反省した事は非常に高く評価されたよ。

減点は兵站を魔物自身にすると言う鬼畜行為だね。

飢餓状態でもないのに共食い指示。近くで見ててびっくりしたので当然-10点」

「流石の俺もびびったわ」

「てへぺろ」

「そんなので誤魔化せないだろ……私もこの『戦争と国家運営試験』は思い出深いね。

ルド・エーレン将軍が強すぎて倒せなかった。何せ1万匹の魔物に包囲させても易々と一点突破してしまうものだから。

私が単騎で勝てる訳もないし、結局半年かけて工作し、毒殺した」

「そんな手段もありなんですね!」

「結果的に能力90点、人格83点。君以前の最高記録だ」

「俺はルド・エーレン将軍を倒せるように側近と自分を鍛えるのに一年かかった。

能力80点、人格86点」

「皇帝陛下は能力72点、人格90点。人格試験はここまでだ。

そして、気づいていると思うけど……」

「私と皇帝陛下は、人格試験の点数が全て同じなんだね?」

「そう!互角なんだ」


「『記憶の遊園地試験』は能力試験のみ。考える力を測った。まあ、おまけみたいな小試験だね。

自分の国家に疑問を抱く事。それはとても大事な事だ。

最後に筆記試験をやって終了。今に至る訳だ」

「反省会も長かったよ!」

「いや~ほんとに長い。試験監やるたびに思うぜ。まあ、これも必要な事だからな。

統一国家皇帝は世界の皇帝。一点の曇りもあってはならない」

「そう。一点の曇りであっても……」


コッペは遠い目をして、過去の何かを思い出していた。


「そういえば!皆さんも皇帝試験受かってたんですね!!」


メノンは明るい声を出して話しかけたが、コッペは対照的に自嘲じみた苦笑いをするだけ。


「ふっ」

「……途中まではな」


クラウスの表情も少し暗い。


「す、すみません!そうですよね。失礼な話をしてしまいました……」


メノンがお辞儀をして謝罪したが、二人のリアクションは薄い。

それが嫌な思い出だというだけでは無い様だ。


「……ふっ。そうそう。実はもう一つだけ試験がある。

最後の試験は、ほんのちょっとした人格試験さ。安心していい。

とっても簡単な試験だよ?」


コッペの台詞には異様な重みがあり、

教室の空気がよどみ始める。

メノンは雰囲気の変化に対し敏感に反応した。


(そ、そんな訳がない!最終試験は、コッペさんもクラウスさんも落ちた試験だ!!

そして、皇帝陛下だけが受かった試験……。

とんでもなく難しいに決まってるよ!!)


メノンは戦慄した。


「ははは。まあ、君ならわかってしまうか……」


メノンはコッペに友情を感じていた。親友の一人だった。

そしてコッペもすでにメノンの友人だと思っていた。

だが、彼女はその『義務』ゆえに試験監の一人として行動していた。


「最終試験に入るよ。

これだけは完全に非公開なんだ。対策されると機能しないからね」


学校の体育館へ移動する。


「ここで行われるのは卒業式なんだ」

「卒業式?一般人としての?」

「……まあ、そうとも言えるね」


体育館の中に入ると、中は真っ暗だった。


「何も見えませんね」

「メノンには壇上に上がってもらう。クラウスが案内してくれるさ」


メノンはクラウスに連れて行かれる。

その壇上まで上がる間、彼女は深く考えていた。

ここではなにかとんでもない事になるはず。自分はその試験をどうすればクリアできるのか?

必死になって想像し、頭を働かせる。



しかし、『これ』はそんなものに意味があるような試験ではない。

体育館には不穏な空気があった。


「メノン。そろそろ最終試験を始めるよ。」


メノンは壇上から祈るような気持ちで返事をする。


「はい!お願いしますッ!」


メノンはどんな光景であっても冷静でいられるよう心を落ち着けた。

体育館の室内照明がつく。そこで彼女が見た光景はとんでもないものだった。


体育館にいたのはメノンの家族であり、4親等以内の全ての親戚。

合計32人だった。

彼らは目を隠し口を塞ぐ不気味な機械装置に包まれている。

頭上には鋭く歪んだドリルが設置され、

この機械を起動すればドリルが頭に突き刺さり、ねじ込まれ、脳が破壊される。

そんな装置である事は見ればわかる。



「なななななな、なにこれええええええええええええッ!?」


「このボタンを押すと全装置が同時に起動するんだ。

そしてやって来るのは君の家族全員の確実な死と言う訳だね」


コッペはメノンの母親の隣にいて、手にはボタンが握られている。

母親は酷く怯えていて、小刻みに震えて何かを叫んでいる様だ。


「や、やめてよコッペさん!!なんて酷い事を……ッ!!」


メノンはすぐに家族のもとへ行こうとするが、

壇上は既に透明で特殊な強化ガラスによって閉じ込められており、

いくらメノンが蹴っても破壊されない。


「落ち着き給え。簡単な事だよ。君はすぐに家族を救えるんだ。

――――皇帝になる事を諦めればね?」


「な、なんで?どういう事ですか……?」



「これは簡単な試験なんだよ。君は二択を迫られる。

君が望むのは国家か?家族か?たったこれだけの選択。

しかも正解は教えてあげるよ。国家だ。国家を選択するのが正解。

国家を取れば君はすぐに世界皇帝になる。

同時に家族は皆殺しになる。

逆に不正解は家族だ。

家族を選べば家族の命は助かる。しかし君は最終試験に不合格となる。

どうだ?簡単だろう


「そ、そんな無茶苦茶だよ!?なんでこんな試験があるのッ!?」


重要な3つの人格試験なんだよ。

1つは『脅迫』の試験だ。



2つ目は『執着』の試験だ。

君は祖国を救いたいと言っていたな。そういうのが執着なんだ。

君は最終試験まで来た。ここで執着を捨てれば合格だ!

何事にも執着してはならないんだよ。そういうのは判断の邪魔になる。

世界皇帝になる人間は何も持ってはいけない。

持たざる人間になれ。孤独な人間になれ。そうでなければ純粋な判断はできない!

最後に『理性的判断』の試験だ。

少数を排して大数を助ける

1人の命よりも2人の命を大事にしなくてはいけない。

君が皇帝になり多くの人を助ける。統一国家の人口は100億人

そして東の孤立国家は1億人を超えている。

100億人を導き、

本当に祖国の1億人を助けたいなら家族親類32人を殺せ!

それが『世界皇帝』の資格だ!」



「なんて酷い……!本当に現在の統一国家の皇帝は試験受かったんですか!?信じられないッ!!」


間違いなく、歴代の皇帝は全員最終試験に受かっている。


「あ~~~~一応言っておくけど、『殺さないと言うのが合格』だなんて甘い想像はするなよ?

殺さないと言ったからと言って合格には絶対にしない!

殺さないと言えば絶対に不合格にする!

そして、君が殺すと言えば絶対に殺す!それは絶対だ!約束するよ!!」




私が嘘を言っていると思うか?

ここで家族を捨てる事を選択すれば絶対に殺すぞ!」


メノンはコッペの発言を聞いて目まいがした。

統一国家の皇帝になり祖国の孤立国家を救うのはメノンが幼い時からの夢だった。

そしてそのために人生の全てを賭けて毎日努力し続けた。

そうして、127の試験に合格した。夢まであと一歩の所だ。

なんとしてでも自分の夢を叶えさせたい!

しかしそれには犠牲が必要だ。あまりに大きな犠牲。

ここで家族を殺す事を選択すれば世界皇帝になれると……。




幼いメノンは小学校の作文で自分の夢を発表した。

そして、その作文を母親に持って行った。


「ママ……」

「なあに?」


メノンが作文を母親に見せる。


「これがわたしのゆめ。わたし、べんきょうしたい。

そしてとういつこっかのこうていになって、このくにをたすけたい」

「…………凄い夢ね」


母親はメノンの言葉を聞いて驚き、考え……そして肯定した。

メノンは貧しい家で長女だった。兄弟も沢山いる。

本来であればまず働き手として生きて行かなくてはならない。


「でっ、でも……わたしがべんきょうしたら。

そしたらとうぶん、びんぼうなままだよね……」


母親はにっこり笑って答えた。


「いいのよ。家族が貧しいのは私の責任だもの。私がなんとかするわ」


それでも母は行けと言ってくれた。


「貴方の夢を叶えなさい。それが夢を持つ者の特権なのよ」



メノンは泣きながら『家族』を選択した。


「こ、殺せる訳ないよ……。そんなこと、できる訳がない……!」


「はぁ~~~~~……やれやれ。がっかりだな。

君は国家よりも家族を優先し、人間としての自分を大事にしたという事だ。

間違いなく君には世界皇帝の資格はない。完全無欠で完璧であることが皇帝の条件だ。

君には国家の1装置として機能する覚悟がないのだ。皇帝試験失格だ!」


「ううぅ……わかりました。私は自分の未熟を認めます。

おとなしく帰宅いたします……」


「ちょっと待った。そのまま帰すと誰が許可した?」

「え?」


「試験は終わってないぞ」

「そうだぞメノン。君は『無力化』しなくちゃな。

そこまでが『最終試験』だからな」


メノンはその言葉の意味はわからなかったが、

何かぞっとした響きを感じた。


「む、むりょくか?無力化って何?

聞いてないですよそんなの!」


「おやおや?」


「それは最初に説明したよ。二年前の今日。始まりの日。

途中で不合格なら何にも起きない。ただ帰されるだけだ。

しかし最終試験に落ちた者だけはそうはいかない。

国家的効率化の名の下に、『無力化』されると言った筈だ。

君が『覚えてないだけ』なんじゃないかなぁー?」


「そそそそ、そんなわけありません!私は記憶力に自身あります!

全てを記憶していますよ!そんなこと絶対言われてな……」



「やれやれ。言った言わないの水掛け論か?」


「ち、違います!間違いなくそんな説明は……」


「統一国家は1人の有能な人間と100億人の無能で機能する国家だ。

過去の不完全な国家群のように、

多くの優秀な人間達が血と命を流してようやく維持できるような国家ではないのだ。

それどころか――――有能な人間はむしろ不要である」


「わ、私はどうすれば……」


「君は今や国家の脅威なんだよ」


コッペは腕を組み、メノンを見下ろした。


「君は統一国家の皇帝並に優秀な人間だが、

同時に人格試験に落ちた問題児である。

もし君をこのまま野に離し、

孤立国家に行って高い地位に着いてしまったらどうだ?

君はそこでどんな非道な事をするかわからない。

最も警戒すべきは軍事クーデター。君は戦争の腕前も確かだからね。何せ歴代最高得点だ!

さっきも言っただろ!?世界皇帝は戦争の腕前も世界一でなければならない!」

「そ、そんなことないです!!私は酷い事なんてしない!!

記憶があるんで、戦いなんてしませんよ!だから、戦争の腕前はゼロです!」


「それはどうかな?全ての記憶を失った君は怪物の軍隊を引き連れて、

君の思う正義のために戦っただろう。

そこでは酷い事もした。残虐な事も沢山したじゃないか。

すなわちあれが君の危険な本性なのだよ」


「そ、そんなこと……あるわけ……ないよぉ……」


メノンはうつむき、泣き出してしまった。

静かに泣き、涙を拭く。何度も拭いた。


「コッペ。もはや彼女と会話しても無駄だ。

彼女は試験に落ちた。そして処遇はルールによって決められている。

何も変わることはない。俺たちは義務を果たそう」

「うん。そうだね」


コッペはおもむろに手元にあるボタンを押した。

その小さく赤いボタンは、

下にいる人間を効率的に無力化する装置の起動ボタン。


メノンの体を冷たい金属の触手が絡みつく。

その動きは人間工学に基づいており、絶妙な形で人を縛る。

力の起点を押さえつけ、拘束された人間は指一本動かない。

メノンは強く恐怖した。

もがくつもりで力を入れても、拘束が外れる事はない。

自分の鍛え上げられた力が、まったく通じない事は初めてだった。


「ひっ、ひぃ!」

「はははははははは。無様な姿だね……メノン。

その機械は人間の限界の10倍を想定してあるからね。

抵抗は無意味だよ」

「な、なんで!なんでこんな目に!

私はただ!ただ……『夢』をかなえたかっただけなのに!!」

「『夢』を叶えたかっただけ?」


コッペは真顔になった。

クラウスは深いため息をつき、一言呟いた。


「呆れるなメノン」


「この国家では、身に余る『夢』を見る事こそ、最大の罪なんだ」


コッペは目を瞑り、冷たく言い放つ。


「なぜなら、それはとても『非合理的』な事だからね」


機械が動き出す。鋭利な刃物が高速で回転する音だ。

静かだが、不気味で危険な音だ。


「君は今や反乱分子。もはや『国家の敵』だ。

我が国家のために!メノン!君は無力化されなくてはならないッ!!」

「あああああああああああああああああああああああああああああ!!」



『無力化』によって、メノンの体がとても軽くなった。

『20キロ』ほどね。






統一国家は理想的で

歴史上、最も犠牲の少ない国家であった。

しかし、理想には代償がある。

最も犠牲の少ない事は確かだが、

その分、犠牲となる人間には苛烈な運命が待っている。


それは未来のどんな国家でも同じだろう。


犠牲となる人間を無くす事はできない。

どれだけ人類が発展したとしても、ゼロにはできない。

悲劇は決してなくならないのだ。




違いがあるとすれば、『納得できた』かどうか。

その犠牲が無為なものではなく、他者のためであると信じる事ができるか。

それで救われる魂もある。

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