全ての答え

第18話 128回も繰り返す記憶喪失の必然性について

私は何を根拠にしてそう言ったのかわからなかったが、

どうやらそれは正しいようだと感じている。


メノンは歩いていた。

開演前の記憶の遊園地。

その中の舞台の一つとして、学校があった。

メノンはそこで不思議と『やるべき事がある』と確信しており、

学校の敷地内に入った。

どうやら入学試験当日の様子がセッティングされているようで、

試験を告知する看板と、参考書を読みながら歩く沢山の生徒達がいた。


メノンはその中で見覚えのある人物を見つけた。


「あ、リオンさん!いやコッペさんでしたっけ!?」

「いや、私の本名はコッペだよ。リオンは偽名さ」


コッペは女子生徒用の制服を着ていた。


「コッペさんは女の子だったの?

私はてっきり男の子かと思ってたよ!」

「まあ、そういった膨らみがないものでね」

「今も火の玉はけるの?」

「はは。あんなの演出に決まってるじゃないか……私に吐けるのは毒くらいさ」

「あ、思い出した。そういえば、最初に統一国家に来た時に、

話しかけてくれたインテリ女性リオンさんもコッペさんでしたよね!?

その後地下室ではコッペさんはいなかったけど、次のスパイの統一国家の上司もコッペさん。

私の黒歴史である勇者やってた時もコッペさんはそばにいてくれましたよね!?」

「まだ記憶がほんの少ししか戻っていないようだね。だから混乱しているようだ。

まあ、それも計算通りだがね」

「えっ?どういうことですか?」

「もっともっと。何年も前からあっていたさ。君と私は…………」

「ええっ!?罪なき親子の殺人依頼が最初じゃないんですか!?」

「はは。あそこからでは不十分なのさ」

「どういう意味ですか?」

「これからわかるさ」

「教えてはくれないんですね。まあ、皆さんいつもそうでした。

今回は何をやらされるのかな?」

「さぁねぇ?」


メノンとコッペは教室に入り、自分の席に着く。

周囲には人形が置かれていた。そんな中でメノンは普通の筆記試験を受ける。

試験監もメノンが知る人物。

大柄な怪物、クラウスだった。今はどう見てもただの人間だ。


「やあ、メノン元帥」

「クラウスさん!や、やめてください。恥ずかしい……」

「はは、そうかい。元帥と言う階級では役不足だもんな」

「どういう意味ですか……?まったく意味がわからない……」



最初の教科は数学だった。

プリントが配られる。

一般的には非常に難しく、知られていない高度な数学の問題。

大学受験の最高峰ですら必要のない難易度。

しかしメノンはそれの解法が解っていた。

よく知った問題だった。


周囲の生徒はコッペを含め、問題など解く気はなかった。

(その気があっても解けるはずもないが)

みんなメノンを見ていた。見守っていた。

今までと同様に。


「外国人でここまで来たのは初めてだろうな」


一限目の試験終了時、メノンの答案を受け取りながら、クラウスは呟いた。

二限目の試験は物理学。

続いて工学、情報処理、哲学、歴史、法学。……。

どれもこれも恐ろしい難易度だ。

一問一問がかつての最難関の大学の入試試験よりも難しい。その上、配点は少なく大量にある。

配点が高いのはそれぞれの学問の中で歴史に残るような難問奇問。

普通の人間なら見ただけで思考停止になるだろう。


それほど過酷な二十の試験を終えてると、メノンは疲労していた。


「長かった……疲れたよぉ……」


コッペが話しかける。


「今までに比べれば楽でしょ?」

「まあそりゃ死んだりしないからね!」


メノンは教室の空を見る。

今は朝。夜明けだ。始まりだ。


「メノン君は『これ』が何かわかってるのかな?」

「わかりませんね!問題は解りますが」

「なんでこんな難しい問題が解ると思う?」

「うーん……なんでだろ。

そもそもこんな試験で一体何がわかるんでしょうかねー」

「ははは。くだらないと思う?

でも君は今までもずっと『これ』をしてきたんだよ」


「これ?これですか?」


「そう。もっと高度で重要な『試験』さ。

問題解決能力。適切な人格。そして国家運営能力。

人間としての力。本質的な能力。世界の変化を捉えるレベルではなく、

変容の主体となるべき人間だ。

そう!

効率的な統一国家では優秀な人間は一人でいい。

それ以外の人間は無能でも成立する安心安全で強健で完全な国家となるのだ!

それが、誰の事かわかるかい?」


試験終了のチャイムが鳴る。


『メノンの全ての記憶が戻った』



自分が幼い時の夢を思い出す。

それは小学生の時、クラスの前で自分の作文を読み上げた。


「わたしはいつもふしぎにおもってました。

わたしはめのまえに死にそうな人がいたら、助けます。

そのために、とてもがんばります。

でも、ニュースを見て、まずしい人達が死んでいっても、

助けませんでした。

それがとてもふしぎでした。


しなかったのは、それがとてもむずかしいことだったからです。

できもしないことだとおもったから、

とおい場所でのできごとだと思いこんで。

いいわけしてたのかな……。

わたしはにげていました。

でも、ほんとうはみんなを助けたかったんです。

そのきもちこそほんとうのきもちだってわかったんです。


だから、わたしは、

せかいじゅうの、かなしいみんなをたすけるために……。

『せかいのこうてい』になります」



「この試験が何の試験か……わかるかい?」


「コッペさん。その答えは簡単ですよ……。

それは統一国家の国家元首。『世界皇帝』ですよ」


全ては皇帝になるための試験だった。





統一国家では一つの命題として、

国家元首となる皇帝をどう選別すべきかという問いがあった。

国家元首は国家において最も重要な意思決定者であり、

統一国家においては完璧な人間でなくてはならない。

しかし、皇帝の適正と言うのは筆記のレベルでは問えない。


要求されるのは人間としての力。本質的な能力。

世界の変化を捉えるレベルではなく、

変容の主体となるべき人間だ。


試験内容は何度も有識者によって議論された。


第一に必要なのは国家運営能力だった。


しかし、これは国家運営そのものでしか測れない。

知識があろうと、交渉力があろうと、

それは一要素でしかない。

重要なのは国家運営した時に出せる、結果なのだ。


そこで統一国家では、

小さく疑似的な国家を作った。

そこには歴史上の様々な問題があり、

記憶を失った『受験者』が国家運営を行う。

国家の危機を解決し国家を繁栄させれば合格。

128の試験が行われた。


次に有識者が必要だと論じたのは、

人格の試験だった。


言うまでもなく皇帝には適した人格が必要である。

優しく、寛容で、国民を愛していなければならない。

同時にリアリストで、計算高く狡猾でなくてはならない。

そして有事には正面から戦える人間でなくてはならない。

このような、いくつかの矛盾した側面を持つ必要がある。

なので人格試験では、

高い難易度の128の試験が行われた。


名も知らぬ人を助ける事ができるか?

周囲の声に惑わされず、真実を持って人を判断できるか?

統一国家の思想を体現できるか?


これらの能力を推し量るために、皇帝試験に協力するのは、

『国民の義務』だった。


試験内容は公開されているし、

皇帝試験では安全が保障されている。

落ちたとしても本人にデメリットはまったくない。



ただし、『最後の試験』まで行った人間を除いて。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る