第15話 徹底的な暴力によって支配された魔物の軍隊

その後もメノン達は魔物を配下にし続けた。

魔物達が魔物を倒し、脅し、配下にする。

組織はどんどん拡大していった。百を超える魔物達。

彼らは高度に組織的な恐怖と暴力で支配されていく。

兵站は主に村々の人間に任せていたが、それでも足りない分は殺した魔物の肉を食べさせた。


「魔物を食べるのが真の魔物。頂点捕食者としての証!」


魔物達は今に比べればのんびりと生きていた。外敵はおらず、組織にも属していない。

自由に生きて、豊かに生きていたのだろう。

今は尊厳を踏みにじられ、規律と崇拝と恐怖によって命を懸けて戦うのだ。

兵隊として完成していく魔物の軍隊。全てが順調だった。


「あははははははははは!」


平地を行軍する異形の魔物達。

その一糸乱れぬ整った軍列を見て、メノンは笑っていた。

人間達の間では、新たな魔王の誕生と言われ恐れられた。



メノンとクラウスが高台に立っている。


「このままでは近い内に限界を迎えるでしょう」

「そうだろうな」


いつしか、魔物の軍隊は千体を超えていた。

大隊規模の軍勢であり、この規模になると様々な問題が発生する。

食料の安定供給と、長期的な宿泊施設の確保。

要は拠点が必要になるのだ。


「お城が欲しいですね」

「へえ~。メノンもたまには普通の女の子みたいな事言うんだね」

「現実の話ですよ」

「えっ。メノン何を言ってるの……?」

「この近くに大勢の魔物が住んでいる都市があると聞きました。

中心には立派なお城があるんですよね?」

「あの都市には、3万匹以上の魔物がいるんだけど……」

「戦うには敵が多すぎるな」

「私達はあれだけ派手に暴れまわったのです。

周囲の魔物にも、魔王にも十分に知れ渡っているでしょうし、

私たちを討伐しようとしているでしょう。

なので準備が出来る前に叩くべきです。こういうのはスピードが大事なんですよ」

「どうやってだ?」

「大体方法は決まっています。

無傷で取るのが華ですが、こちらが寡兵なので無理でしょう。

まずスパイが必要です。もちろんやってくれますよね?コッペ」


「ええっ!?なんで僕なの?やだよ……」


「子供の方がいいでしょう?逆らうなら軍法会議にかけて死刑ですよ」

「ひどい!結果が決まってるなら会議の意味がないよ!」

「やってくれますね?」

「うぅ~。死にたくないから、やるよ……」


魔物の都市は高い城壁に囲まれていた。

堅牢な都市だ。正攻法で攻め落とすのはまず無理だろう。

変装したコッペが都市への積荷に潜り込んで進入し、一週間ほど滞在する。

その間に握った情報は街の構造と、次に城主が外出するタイミング。

最後に城主自身と側近の情報だ。


「明後日の夕方に城から出て、西門近くの新兵の訓練所に行って夜まで視察するんですね?

ちょうどいい!すぐに準備しましょう」


メノンの指示にクラウスが口をはさんだ。


「待て。どうやって攻略するんだ?」

「町中に火を放ちます。

一週間で壁の下に穴を掘り終えましたので、そこから兵を20人潜り込ませます。

モグラっぽい部下がいて助かりました」

「なるほど。混乱に乗じて攻め入るのか」

「違いますよ!避難してもらうんです。城から出てきたところを捕虜にします。

すぐに捕虜にしてはいけませんよ?

その前に無茶苦茶に叩いて護衛を壊滅させ、強さを見せ付けて畏怖させなくてはいけません!

そうでなければ交渉はできない」

「おう。わかったよ」

「火を放つ際に重要なのは、

ここの魔物の城主が城にいない時に放つ事です。

また城主が火に対処できない事も確認済みです。

そのためにコッペに探ってもらいました。

せっかく火攻めをしても空を飛んで逃げられてはおしまい。

また、城にいる時に火を放てば、下手すると秘密の通路で逃げられる可能性があります。

本当はもっと深いところまで諜報したいのですが、

時間がありませんので、少々雑ですが速度を優先して実行します」


二日後の夕方。作戦実行の日。

メノンとコッペは高台に登り、都市を見下ろす。

二人の周囲には兵隊が潜んでおり、息を殺してその時を待っている。


「街中に放った放火工作部隊の役割は誘導です。

火の手は城までの道を塞ぐ様に放っています。

城主が近くの西門に避難しやすいような形が重要です。

偽装も行います。

誘導の意図がばれないように、部隊を誘導放火班と偽装放火班に分けて、

偽装放火班には広範囲で無作為に放つよう指示しました。

まあ、火の混乱の中、低地なのでまずバレないと思いますが……。

警戒は常に必要です」


話していると、都市から火の手が次々とあがってきた。

街中から叫び声が小さく聞こえてくる。


「うわあ!すっごい燃えてるよ。家も店もみ~んな燃えてる。

ただ普通に暮らしていた魔物達なのに、なんて酷いことを……」


「あなた達のような裏切り者を追手から守るためには先制攻撃しかなかった。

なので、大義のための仕方のない犠牲と言えますね」


「えっ……?そもそもメノンがいなければ僕達が裏切る事はなかったんだけど……?」


「過去の話をしても仕方ありませんよ。

今の私達は魔王に逆らった裏切り者として追われる魔物のはぐれものです。

そして、私は魔物達を守るために戦っているのです。いいですね?」


「名乗る時に勇者とか言ってたような気がしたんだけど……」


「おっと!無駄話もいいですが、そろそろ出てくる頃ですよ」

「ごまかされたよ!」


二人が見張っていると、

西門からぞろぞろと魔物達が出てきた。


「うおおおおおおお!どうなってんだ!?何が起きた!?」

「町中火事だらけじゃねえか!?」


顔には焦りと混乱の表情が浮かんでいた。

城主の外見はすでにコッペから外見の情報はもらっていた。

赤い猪のような姿をしているという。


「ちゃんと出てきましたね」


メノンは城主を発見した。

城主の周囲にいるのは側近と新兵で、武器を持って出てきていた。


「明らかに不自然だ!敵かもしれんから注意しろ」


訓練所にいた多くの新兵達が城主を護衛している。


「ふぅーん。想像より警戒してるみたいですね。

武器を持って出てきています。それでも私達よりずっと寡兵ですよ。

200匹ぐらいですね。

3万匹の魔物がいても、戦場にいなくては戦えません。

では、早速攻め込みましょう!」



メノンは周囲に潜ませていた兵に指示し、強襲させる。


「おおおおおおおおおおおおおおーーーーーーー!!」


ある程度警戒してたとはいえ、護衛しているのは新兵である。

経験豊富で多勢のメノンの軍隊にはひとたまりもない。


「クソ!この火事は、よりによってこいつらの罠だったか!

仕方ねえ一旦退くぞ!都市に戻って、なんとか火の手を掻い潜るしかねえ!

城で落ち合おう!!」


城主が西門へと引き換えし、撤退の指示を行った。


「やっぱり撤退の指示をしましたね。そして兵隊達が逃げようと反転し、

後ろを向く……そして、ここで門を閉じるように指示を出しています」


正門の裏では放火工作を行っていた20匹の兵が、

すでに門兵を始末して準備していた。


「このタイミングだ!門閉めるぞお前ら!!」


放火工作班が指示通り西門を閉じる。


「よくできました!

門を閉じると彼らは完全に包囲された形になる。

それだけでなく、撤退をしようとしてたので何匹かは私達に対して後ろ向きになりますし、

彼らの士気もガタ落ちです。とてもおいしい状況です」

「ひえぇ、かわいそうに……もう逃げ場がないんだね」

「今こそ攻め時です!思い切り叩いてください」


メノンが号令をかけると、およそ1000匹の魔物が城主の護衛に襲い掛かる。

城主側はなすすべもなく、一方的に壊滅していく。


「よし!いったん退いてください!!」


「後退!!!後退だァ!!!!」


大勢が決した後、メノンは軍隊を退かせる。

城主側の生き残りは30匹程度。およそ170匹が損耗していた。

一方、メノン側の損害は20匹ほど。

城主側はもはや殺されるのを待っていただけだった。


「おい!何のつもりだ。これから俺らを嬲り殺しにするつもりか!?」


「いいえ。違います。私達はあなたに太陽のような慈悲をかけるつもりです」


コッペは流石に口に出すべきではないと思ったので、表情にも出さずそっと呟いた。

(よく言うよ……)


「慈悲をかける?……どういうことだ?」

「私の名は魔物を守るものメノン!あなたの名前は?」

「俺の名前はロークスだ」

「裏切りを宣言してください。そうすれば命を助け、私達の仲間にしてあげましょう」

「そんなことできるか!俺はこの都市を預かるものだ!!」


「正直になりましょう。あなたが私の提案を断るのであれば、

ただ無駄に死ぬだけですよ。本当にいいのですか?

その後は?簡単です。都市は燃やし尽くされ、武力で制圧される。

考えても見てほしいのですが、あなたが私の仲間にならなければ、

あなたが私の仲間になった時より多くの住民が殺される事でしょう。

なぜならば、そうしないと完全に制圧できないからです。

ならばこの状況でこの都市を預かるものとしての義務は私の提案を受けることです!

そうすれば犠牲も少なく済むし、あなたが生かしたい魔物も生かしてあげましょう!」


「くっ……しかし俺は……」


「それに私の強さを見ればわかりますよ。

私こそ常勝の運命であり、私の敵は常に敗走するのが宿命であると。

合理的な判断をお願いします。

私の優しい提案を断り、ここで無意味に死ぬか?

あるいは今!私の仲間になり、古参の将兵として勝利の盃に酔うかです!!」


メノンは交渉のため、意識的に大げさに言った。

実際に勝利を見せつけた後には、相手にとって効果的に響く。


「……わかった。考えてみれば、俺に選択権はねえようだな……。受けよう。

俺の周りにいる新兵どもも殺さないんだよな?」


「もちろんです!!」


その後、残存している軍勢は城主の命により一旦武装解除され、

城主ロークスの家族は人質としてメノンの配下に預けられた。

そうした中で、城主達の持つあらゆる権限をメノンに譲渡させ、彼女の統治が始まった。

軍勢は都市を手に入れた事で大きく前進したと言える。



しかし、その一週間後の事だった。

メノンにとって大きな誤算が起きる。

まだ燃えた都市の整備すら済んでいないこのタイミングで、

敵の軍勢が攻め込んできた。


敵の軍勢は都市から東の方向へ30キロほど先にいる。

山から下りてきた敵勢の数は概算で5万ほど。とんでもない数だ。

メノンの手勢は1000ほどで、都市としての正規軍も3000ほどの規模でしかない。

他に住んでいる魔物が3万弱いるが、これら全てを徴兵する訳にもいかない。

当然、まだ反抗的な態度のものもいる。使い物にはならないだろう。


「……これはまずいですね。

こちらはまだ反抗的な魔物市民を粛清し、

制圧を完了しようとしている最中です」


メノンは元々城主ロークスが使っていた豪華な部屋にいた。

城の頂上で、遠くまで見渡せる場所だ。


「非常に動きが速い。情報封鎖しているのに、

どうやってこちらの動きを知ったのでしょうか。

魔物は一匹も外に出していませんよ?」


メノンの前にはコッペ、クラウス、ロークスがいた。

ロークスが声を上げる。


「逆に連絡を発ったからわかったんだろうぜ。工作をミスったなこりゃあ……」

「えっ?一週間で、ですか?私は聞きましたよ。6日周期で連絡を取ってると。

なら2日ぐらい連絡が途絶えても、猶予があるだろうと思って計画を立てていたのですが……」


「運が悪かったな。あの軍はルド・エーレンの軍だ。

ちょうど遠征から帰ってきてやがったか……最悪だぜ。

俺の予想より二週間は早えじゃねえか!!」

「どんな軍なんですか?」

「ルド・エーレンは無敗将軍と呼ばれている。

その名の通り、戦闘回数53回の中で一度も負けたことがねえ。

魔王の配下の中でも三指に入る名将だ。

ルド・エーレンの軍は人間討伐の主力中の主力部隊だぜ。

南にある人間の国が反抗的な態度を取っているので、見せしめに滅ぼしに行ったんだよ。

俺が知ってる限り、ほんの一か月前に出征したばかり。

目的の敵地までは片道2週間はかかる……」

「……ん?計算があいませんよ。なら移動だけでも今ここにいるのはおかしい」

「そうさ!おかしいだろ!?普通ではありえない行軍速度で敵地に入って、

数日……ひょっとしたら一日で国を滅ぼした!そのままの行軍速度で都市に帰り、

連絡が遅れた一日で判断して攻めてきたってことだぞ!!」

「なるほど……相当に厄介な相手ですね。

今までのように簡単に事は運ばないみたいです。

ならばリスクを回避しておかねばならないでしょう。

コッペ。クラウス。ロークス。耳を貸しなさい」

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