第9話 地下室の目的
「何をさせたいんだろ?」
「殺し合いをさせたいのか、謎を解かせたいのか……どっちなんだ?」
「そもそも『これ』ってなんだろ?」
「考えられるとしたら……恐らく、娯楽目的だろうな……」
「娯楽目的?」
「そうだよ。洋画でよく見た事がある。
頭のいい快楽殺人鬼とかが人を拉致して、廃墟に閉じ込める。
そして被害者同士殺し合いをさせるのを見て楽しむとかな」
「なるほど。確かにそうかもね……」
「しかしおかしいのはやってる事だよな。
医学は常に発展してるし、ある程度は知っているけど、
記憶操作ができるなんて聞いた事がない。
明らかにオーバーテクノロジーだ。
一体どんな奴ならこんな大掛かりな事ができるんだ?」
「想像もつかないね。
独自研究して、記憶操作という高難易度の新技術を作れる組織?
あるいは発表されてない技術を知り、使えることのできる権力者って事かな!?」
「絶対、一人の犯行ではない事は確かだな……」
「私達はどうすればいいんだろう?」
「恐らく、謎とかを解けばいいじゃないか?
娯楽目的なら、もがく俺達を見て笑うんだろう。
殺し合いを匂わせてるのも娯楽目的ならわかる。
果たして二人は謎を解くか?それとも、愚かにも殺しあうのか?」
「う~ん、なるほどねぇ。それ見て楽しむ人はいるかも」
「そうだとしたら、『これ』には答えが必要になる。
答えがあるのに解けないからこそ、解けない人間が愚かで笑いが生まれる。
もし絶対に死ぬだけの仕組みならば、あまり面白みはないだろうな。
絶対に死ぬ仕掛けで死ぬのは当たり前の事なんだから」
「謎?……いっぱいあるよね。
誰がやってるのか?動機は何か?どうしてできるのか?とかね」
「そういった大きな問題もあるが、これもいやな予感がするな」
トラシュは首輪を指差した。
「うん。私もすごい嫌な予感する」
「多分俺達を殺す道具じゃないか?爆弾とか埋まってたりして。
つってもあまり大きな首輪じゃないから、爆弾ではないだろうけど。
この首輪に仕込める爆薬の量では人を殺せない。
とはいえ弄るのは辞めた方がいいと思う。無理に外すととんでもない事になりそうだ」
「ふええ……そう考えると恐ろしいね!」
再び、部屋が暗くなる。
天井から映写機がゆっくりと出てきて、
映像が壁に投影された。
黒タイツの男だ。布団の中で寝ている様子。
しばらく待つと、目の位置を擦りながら、
けだるそうに画面の方を見て喋り出した。
「あ、結論出ました?」
「なんのだよ」
「そうだなぁ~~~~まずは『これ』が何か?」
「答えは、娯楽目的のショーだ」
「ほほ~ん」
「当たりだろ?」
「確かに統一国家の国民は娯楽に飢えてる。
彼らの人生は自由。よって退屈でもある。
……でもよぉ!?国民にこんなのは見せられないだろ!?
ガチの死体用意してんだからよぉ!?みんなドン引きしちまうだろぉ!?」
「そりゃ一般公開はしてねえだろうが……一部の金持ちの娯楽とかだろ。
でなければこんな舞台装置を用意する必然性がない」
「娯楽目的でこんな大掛かりな事やれるかよぉ!?馬鹿め!ハズレだ!!」
ズズンと重く響く音が隣の部屋から聞こえた。
「な、何をした!?」
「部屋の一区画を潰した。無慈悲な天井が部屋の四分の一を押しつぶした。
もしお前らがベットで寝ていれば、ぺちゃんこになって死んでいただろう!!」
「な、なんでそんな事を!?」
「そりゃ問題をハズしたからな。
当然、ハズレただけリスクがある。当たり前だよなぁ!?
そうでなければ答えまくればいいだけだからなぁ~~~~~~~?
ちゃんと正解を出せよっ!!」
「そ、そんなぁ……」
「お前らに教えてやるよ!
これは極刑だ。殺人鬼を処罰するための処刑なんだ!
だから問おう。次の問いは『殺人鬼は誰?』だ!よろしく頼むぞカス共」
「う~~~ん、全然わからないですね」
「すまんメノン。俺は話さなければならない事がある」
「なんでしょうか?」
「お、俺は……記憶があるんだ」
「なんのですか?」
「人を殺した記憶があるんだ」
「えっ!?」
「正確には、殺しに行こうとした記憶だな。
俺には強い恨みを持つ人間がいた。一人の男だ。
そいつに裏切られて、殺しに行ったんだ。
ダイナマイトを体に巻きつけて、そいつの職場へ向かった。
それが何の恨みだったのか?また、その殺人の成否はわからんが……」
「なら、殺しているとは限りませんよ!」
「いや、多分俺は多くの人を殺してると思う。
はっきりとは覚えてないが、そういった『記憶の断片』が無数にある。
この家族の死体を見たとき、少しほっとしたんだ。
この家族を殺した記憶はないからな。
でもこの事件は一つではないと言っている。
記憶の断片は、他の事件の記憶かもしれない」
「そ、そんな……」
「『これ』が何であろうと、君じゃなかったら俺が殺人犯だ。
俺が犯人じゃないなら君が殺人犯だ。
もしくは両方が殺人犯かもしれない」
「そういう事になるね」
「メノンは自分が殺人犯だと思うか?」
「……違うと思う」
「なら、消去法的に俺が殺人犯って事だな」
「うぅ……でも記憶はないんだよね?
トラッシュ君を見てると、とても殺人犯には見えないよ!」
「記憶を失ってるからおとなしいが、
取り戻したら凶悪になるかもしれないぞ」
「そ、それは……」
「その時は俺が君を殺すか、君が俺を殺すかだ」
「そういう可能性は無い事ではないけどさ……。
そんなの、悲しすぎるよ……」
メノンは涙を流した。
「ごめん!ネガティブな事を言い過ぎた。
そんな可能性ばかりじゃねえよな……」
先ほどと同様に、部屋が暗くなる。
天井から映写機がゆっくりと出てきて、
映像が壁に投影された。
黒タイツの男だ。黒タイツ姿のままシャワーを浴びている。
カメラが自分を映している事に気づくと、こちらを見た。
実にわざとらしい仕草だ。
「結論出ましたかぁ~~~~~?どちらが殺人鬼だ?」
トラシュが重い口を開いた。
「……おそらく、俺だろうな。俺が殺人鬼だ」
「ふーん。そう。
じゃあ、メノンはトラシュを殺しといて。処刑よろしくぅ!!
やらないと出れないから。出さないから」
凶器が落ちてきた。それは一丁の古い銃。
リボルバー式で、弾丸は二発入っていた。
これなら簡単に人が殺せる。
「待て!そんなのおかしいぞ!謎を解いたんだから出せよ」
「謎を解いた?本当に解けてんのかぁ??
全ての謎を!?じゃあお前がこの事件のなぜ犯人なのか言ってみろよ」
「記憶の断片があったから」
「答えになってませーーーーーーーーーーーん!バァカ!」
「クソが!」
「おい。何を答えたってちゃんと理由を説明しなきゃ認めねーからなぁ?
この事件の犯人はお前らのどちらか、あるいは両方なのは真実だ。
なぜそうだと言えるのか?そこが重要だぞぉ~~~~~!
理由ナシでいいなら1/3じゃねーかダボッ!そんな簡単な問題出すかよォン!?」
メノンが涙目になりながらか弱い反論を行う。
「わ、わかるようなヒントを貰えてないよ。
これじゃ問題として成立してない」
「誰もフェアな問題なんて出そうとしてねええええええええええよ!
解けないなら死ねッ!!殺しあえ!!!!!!無能どもがァ!!」
「くっ……そんな……」
「ちなみに、殺人鬼側がぶっ殺しても出してあげるよ。
現実は正義が常に勝つなんて、そういう訳でもねーからなぁ!?
一日時間やるからよっ!ちゃんと殺人鬼を処刑しとけよ!?」
映像はブツリと途切れた。
二人は再び、二人の間の問題と向き合う。
床に落ちている銃は、少なからず二人を動揺させた。
その凶器がある限り、
ひょっとして裏切られて殺されるのでは?
と言う問いは頭から離れないだろう。今はまだ体力がある。
しかし閉じ込められたままでは、いずれは体力も精神も衰退するのだ。
銃は非常に厄介な問題だった。
もし何も言わずに取りに行けばそれは宣戦布告に等しい。
かと言って、何を言っても嘘くさくなる。
「あの銃だけど……」
最初に口を開いたのはメノンだった。
「二人で無力化しよう」
「無力化?それはどんな方法だ?」
「二人で銃を持って、弾を抜くの。
私が弾を持つから、銃はトラシュ君が持ちなよ。
それで、夜も安心して眠れるよね?」
「……」
トラシュは少し考えた。
そこに何か落とし穴はないかと。
しかし同時で銃を持つとなれば、いざ銃の奪い合いになっても、
男である自分が腕力で勝つはず。そういう意味では安全ではある。
それに現時点でメノンが裏切るとは考えられない。
彼女は人並み以上に優しく、賢くて、正義がある女性だ。
人を裏切って殺すと言う薄汚い行為とはイメージが合わない。
やるとしたら精神が磨耗した、もっと後のことだ。
「わかった。まず銃を無力化しよう」
トラシュとメノンはゆっくりと銃を手に取り、
二発の弾を抜いた。
そして銃はトラシュの手に渡り、弾はメノンが保管する事となった。
「しかし悪趣味なもんだぜ。これで殺しあえって……そんな事するわけない」
「そうだよね!私達が争ったりはしない。そこまで愚かじゃない!
娯楽説は間違いだったけど、それでも謎を解くのが正解な事はわかる。
誘導に騙されないように気をつけないと……」
「頑張って推理しよう」
二人には互いに殺しあう動機がありながらも、
仲良く夜まで互いの推理を話し合った。
その後、最初の部屋に戻った。確かに部屋の四分の一が潰れている。
ベッドが潰れている為、メノンはソファーを廊下に持ってきて寝た。
トラシュは床で寝た。
おそらく朝。二人は目が覚めた。
起きてからしばらくは二人で推理を進めていたが、
突然部屋に声が響き渡る。
「おはようございます」
天井には穴が網目状に開いており、そこがスピーカーとなっていた。
「隣の部屋に移動してください」
声は黒タイツの男のものではなく、女性だった。
「新しいヒントをご用意いたしました」
二人は部屋を出て廊下に移動した。
そこで隣の部屋の、扉の上に書かれている文字が変わっていた。
「嘘、だろ……?」
そこには『保険金殺人』と書かれていた。
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