「傍らにあるもの」
家では紅茶、外出先では珈琲というのが最近の私のスタイルになってきた。
理由は、週に1回ほどの割合で通う図書館の近くに、珈琲専門店ができたからだ。私の通う図書館の辺りは、長らく喫茶店不毛地帯だったのでこれは喜ばしいことだった。
珈琲党のみなさんに申し訳ないが、本来は紅茶党である私。正直、「本を手にした後一杯ゆったりとできれば。まぁいいか。」というぐらいの気持ちで、図書館帰りにその珈琲店に通い始めた。
ずっと私にとって珈琲は、長い間ただの苦い飲み物で、それが一朝一夕で変わるわけもない。美味しいのだろうとは思うのだが、苦味と酸味を感じるくらいで、それ以上でもそれ以下でもない。手に入れたばかりの本を開く傍らにそっとある存在だ。
私は他の珈琲店をあまり知らないのだが、この珈琲店には器具などもすぐ手に取れて、買い揃えられるようにしてある。いくつかどのように使用するものなのか、私などには見当もつかないものもある。
好奇心旺盛な私は自分が無知であることも十分承知しているので、お客が少ない時など、最近では店主に質問もできるようになってきた。こうなると俄然面白い。
私にとって知らないことを知るのは、体に栄養を取り込むようなものである。店主はもちろん私より遙かに珈琲に精通していて、その話を聞くのは大変面白い。
客がいる時はおとなしく本を開き、いなくなると質問攻めにしてくる私のような客でも丁寧に応対してくれる店主の人柄も、だんだんと判ってきた。
「まぁ、いいか」で通い始めた店が、いつしか「ここじゃなければいけない」になった時、傍らの珈琲はどんな味がして、私にどんなことを教えてくれるのだろうか。今から楽しみである。
叶冬姫エッセイ集(2015年まで) 叶冬姫 @fuyuki_kanou
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