「駅の伝言板」
駅にある「伝言板」を最近の人は利用しているだろうか。携帯電話、メールが普及してきた昨今、最近の子供は存在すら知らないのかもしれない。かく言う私も利用することは皆無になった。
気がついたのは9月の中旬頃だった思う。私の利用する駅の伝言板に、「子供から父親」への伝言を見かけるようになった。文字や内容から推察して、高校生の女の子と思われる。
特に変わったことが書いてあるわけではない。「パパヘ」という文字ともに、「今日は部活で帰りが遅くなります」とか、「夕飯はなにがいい?」というような、たわいもない連絡事項や質問が書いてあるだけである。
私も毎日この駅を利用しているわけではなく、気がついた時期が夏休み以降だっただけで、実はもっと前からこの伝言板はこの親子に利用されていたのかもしれない。
メールや電話を使わないのは持っていないからであろうか。それとも、単に趣味であろうか。家庭で連絡をいれられないというのはすれ違いの多い生活なのであろうか。メモを利用せずに、駅の伝言板を使うというのもなかなかにセンスがいい。
短い伝言から空想する親子の姿は、微笑ましく、どこか懐かしい。いや、かなり懐かしい。
駅の改札のすぐ近くにありながら、ひっそりと置かれた黒板に白い文字を読むのは最近の私のひそかな楽しみである。
高校生の女の子というのも、ただの私の推察である。けれど、その白い文字を見るたびに、私の脳裏には制服に身を包み、少し背伸びをして文字を書く少女の姿が描かれるのである。
今日もその爽やかな文字はそこにあった。
私が目を留めていると、会社帰りの女性が同じように足を止め、その伝言を見て微笑んでいた。これだけで、人は微笑むことができるのである。
ひっそりとした改札口の伝言板の前で、見知らぬ人と、同じ爽やかさを味わう。贅沢な一分間の出来事である。
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