第20話 結末の果てに

「ちょっと、どうゆうことなの⁉︎ あいつ明らかに中級クラスよ⁉︎ もしかしたら上級もあり得るかもしれない……なんで私たちこんな強い霊力に気付かなかったの⁉︎」


 隣の木に隠れている早苗が、声を押し殺しながら、それでも動揺した様子で優花に話しかける。


「これはおそらく、奴の能力だろう。強い霊力を持つ悪霊は、鬼種までとはいかなくてもある程度なら霊力の放出を抑え、自分の実力を隠すことができる」


 その問いに答えたのは、優花ではなく木の上から悪霊を観察していた景だった。景はフットワークに自信があるのか、いとも簡単に木に登り、そして降りてきた。


「なるほど……確かに、鬼種にも自分の霊力を完全に断ち切ることができる個体もいるし、同じ悪霊なんだからできても不思議ではないですね……ってちょっと待って下さい。私の見当違いでなければ、今かなりの量の霊力を感じるのですが、これってもしかして……」


 優花は自ら分析をしている間に何かに気づいたようだ。その言葉を聞いて、早苗もハッとした様子で、驚きと焦りの表情を浮かべている。そして2人は、同時に景の顔を見る。


「ああ、十中八九、気付かれているな」


 景の言葉が放たれた次の瞬間、巨大熊の悪霊は優花たちの方を睨んだかと思うと、全速力で走ってきた。


「ちょっと、嘘でしょ⁉︎ とりあえず避けるわよ! その後私があいつに接近戦を挑むから優花は後方支援、いいわね?」

「う、うん!」


 早苗の指示に、優花は慌てながらも首を縦に振った。悪霊は、優花たちのいるところまで辿り着くと、その大きな腕を勢いよく2人めがけて振り下ろす。しかし優花たちは、悪霊をギリギリまで引き付けるとそれぞれ逆方向に跳んだ。悪霊は地面を強打し土を抉る。その反動もあってか、悪霊の動きが少し鈍ったように思えた。


「いくわよ、これでもくらいなさい!」


 その僅かな隙を突き、早苗が悪霊への反撃に移ろうとする。そこで優花は、衝撃的な光景を目にした。

 早苗は、人間では到底出すことのできない脅威的なスピードで悪霊に近寄ると、先ほどの悪霊の攻撃を上回る威力の回し蹴りを、敵の胴体に放った。


『グギャァァ‼︎』


 蹴りをまともに受けた悪霊の体は吹き飛ばされ、近くの木に激突した。しかし、流石は中級クラスの悪霊と言うべきか、フラフラとした足取りながらもその場に立ち上がる。


「すごい……」


 これはどういうことだろう。確かに早苗は格闘技においては優花を圧倒したが、ここまで超人的な動きは見せていなかった。これは明らかに、人間の身体能力を超越している。もしかしたら、本当に早苗1人で勝てるかもしれない。


「優花、あの悪霊を足止めして!少しの間でいいわ!」


 そんなことを思っていると、優花の思考を打ち消すように早苗から指示がかかった。今回の目的はあくまで早苗と2人で悪霊を退治することだ。決して早苗1人に任せていいわけではない。

 優花は考えを改めると、自分の頬を叩き気合いを入れ直す。


「分かった! さあ、行って!」


 優花は、早苗に応答すると周りに浮遊していた式神に指示を飛ばす。式神たちは悪霊に近づきその周囲を囲うようにして止まった。

 優花には考えがあった。これは優花が先週から密かに特訓していた戦法だ。


「契約に従い、悪しき力を縛る鎖となれ!」


 優花の言葉に反応した式神たちは、全てが一斉に悪霊に張り付いた。そして強力な拘束力を発揮し、悪霊の動きを封じている。


『グルルァァァァ‼︎』


 なんとか拘束を破ろうと暴れる悪霊だったが式神たちはその行動を阻害する。しかし、優花は優花で、暴れる悪霊を押さえつけるのにかなりの霊力と体力を消耗していた。


「早苗ちゃん、もう……」


 情けない話だが、30秒も経たないうちに優花の体力は限界に達しようとしていた。早苗に申し訳ない気持ちを抱きながらそう言うと先ほど早苗のいたところに目を向けた。

 しかし、そこに早苗の姿はなかった。


「よくやったわ、優花。あなた、やればできるじゃない」


 そんな声が聞こえたと思ったら、鈍い打撃音が森を震わせ、急に身体が軽くなる感覚に襲われた。見ると、悪霊は光の粒子となって消えかけており、その前には早苗が立っていた。

 そう、悪霊の討伐に成功したのだ。しかし優花には、何が起こっているのか全く見当がつかない。

 しかし、そんなことは今どうでもいい。まずは早苗と、この喜びを分かち合いたい。

 そんなことを思った優花は、振り返った早苗に大声で叫んだ。


「早苗ちゃん!」


 優花の声に、早苗は得意げに、それでいてとても嬉しそうな顔を浮かべ、


 そのまま倒れた。


「早苗ちゃん⁉︎」


 何が起きたの⁉︎どうして早苗ちゃんが⁉︎


 突然の出来事に思考が追いつかない優花だったが、とにかく早苗の様子を確認しようと思い走り出した。

 はずだったのだが。

 優花の全身が言うことを聞かなかった。そして早苗同様、一歩も動けないままにその場に崩れ落ちた。


「おい、大丈夫か!」


 優花は消えていく意識の中で、景の慌てた声を聞いた。


 片霧さんが慌てるなんて珍しいなぁ……


 優花はそんなことを思いながら、深い深い眠りについた。

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