第18話 後押し
それから20分後、1時半に優花は準備を終え一馬がいる事務室に向かった。念のため一馬にも今日のことを伝えておいたほうがいいだろうという優花の判断だ。
裏口から事務室に入ると、そこには書類仕事をしている一馬の姿があった。
「お父様、今から悪霊の討伐にいってまいります」
その言葉を聞いた一馬は、優花の方に振り返り少し嬉しそうな表情を浮かべた。
「そうか、気をつけてな」
「はい」
優花はそう返事をして一礼をした後、事務室を出ようとしたが、一馬がそれを呼び止めた。
「優花、ちょっといいか」
「? はい、なんでしょうか」
優花は再び一馬に向き直り首をかしげる。一馬はというと、穏やかな表情を浮かべながら優花に質問を投げかけた。
「お前に渡した器、まだ使ってないと思うが中は見たのか?」
「……いえ、まだ……」
優花はまだあの木箱を開けることができないでいた。優花の母、風花が使っていた器。実はまだ一度も見たことがない。風花は、優花が陰陽師として活動するようになったら見せてあげる、と言って、結局見ることは叶わなかった。
そのこともあってか、あの木箱の蓋がとてつもなく重く感じる。優花には、あの箱を開ける勇気がまだないのだ。
「そうか……確かに、使うのを躊躇うお前の気持ちもわかる。……実はな、風花は命を落とす前にこう言ったんだ。『私の器は、優花が立派になったら渡してあげて』と」
「お母さんが……そんなことを……」
一馬は、優しく諭すような声で、優花にそう伝えた。優花は、俯いていた顔を上げると懐かしいそうに、それでいて悲しそうにそう呟いた。
「お前はもう十分立派だ。それは俺が保証してやる。お前は着実に成長している。今日だって、学校1日目にしてもう友達を作ったんだからな」
一馬はそう言って、そのごつごつとした顔に爽やかな笑顔を浮かべた。優花も自然と顔がほころぶ。
「だから、気持ちに整理がついたら、その器を使ってみろ。大丈夫。母さんが護ってくれるさ」
正直優花はまだ、あの器を使う決心はついていない。どうしても母親のことを思い出してしまうのだ。
でも一馬は、弱気だった自分に大丈夫だと言ってくれた。
早苗は、こんな自分のことをパートナーに認めてくれた。
景は、死にそうになっていた自分に優秀だと言ってくれた。
だから優花は、自分を信じてくれる人のために、少しだけ前に進んでみようと思った。
「……うん。私、頑張ってみる!」
優花はとびきりの笑顔でそう言った。一馬もそんな優花を見て、
「ああ、その意気だ」
そう言って、満足そうに微笑んだ。
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一馬との会話を終えた優花は今、森に向かっている。正確にはまだ境内の中なのだが。
境内を抜け厳かな雰囲気を醸し出す門をくぐると、その先に一人の少女が立っていた。
「ようやく来たわね。わざわざここまで来てあげたんだから、感謝してよね」「早苗ちゃん⁉︎」
上から目線の小さな少女、橘早苗は、開口一番得意の憎まれ口を叩く。
しかしそんなことよりも、優花には気になったことがあった。
「早苗ちゃん……なんでこんな短時間でここまで来れたの?」
その言葉に、早苗の肩がビクッと揺れたのを優花は見逃さなかった。
今の時間は1時40分。仮に1時に家に着いていたとして、準備で少なくとも15分はかかるし、4駅離れた早苗の家からでは電車で約20分。歩きの時間も考慮するとなると、どう考えても40分でここまで来ることはできないだろう。
優花が早苗をじーっと凝視していると、
「なによ!ただ、電車に乗ってからやっぱり一緒にどこかに行きたくなって引き返して白峯神社の前まで来たのはいいものの、どんな風に入ればいいのか迷ってその辺をウロウロしてたら電話がかかってきて、門の前で待ってただけじゃない!」
……
全部暴露してくれた。
なるほど、だから電話に出た時あんなにおどおどしていたというわけか。
それにしても、やはりこういう性格は何かと不便そうだなぁ。
そんなことを感じた優花であった。
「……とりあえず、現地向かおっか」
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