『街バル』で街興し4 ー『情報』を届ける為の仮説と解析ー

『最初の壁』である参加店の確保は上手くいった。少なくともこれでイベントを開催することは出来る。すぐさま参加が確定した店舗の営業時間や席数のデーター、そしてメニューの写真の撮影に入った。


「こんにちは、『湯の街ほおバル』の実行委員の者ですが、、、」


一軒一軒、お店に電話を掛けてアポイントメントを取る。100店舗以上あるので、これが思っていたより大変だった。お店と時間のすりあわせがすんだら、お店に出向き、外観、店内写真、メニュー、の写真を撮る。お店によっては自分の仕事の一番忙しい時間帯しか空いていない時もあった。


初めての事なので要領もつかめない。あれが足りない、これを聞き忘れたと何度も何度も参加店舗を往復し、それをデーター入力する。


デザイナーに渡す資料を作ったり、その作業は多忙を極めた。あくびをかみ殺しながらパンを作った日が何日も続いた。


土谷さんは委員長の責任からか、自分のお店もちょくちょく休むようになった。まわりのみんなもかなり通常の業務に影響がでているようだった。それでもみんな愚痴一つこぼさずに、黙々と作業を続けた。やはりそれは『やらされている』という感じではなく、『自分達がやりたいことをやっている』といった所からだと思う。


[撮影なう。]


料理の撮影が終わるとそれをそのままインスタグラムやフェイスブックにアップした。これだって立派な宣伝になるからだろうという思いと、単純に楽しくてあげていた。


温泉街という土地柄か、気っぷのいい店主ばかりなので、一度参加を決めたら参加店のみんなが信じられないぐらいの料理とお酒を出してくれた。これがチケット1枚、700円で食べられたら、それはそれは喜ぶだろう。


「街興ししたいっていう、気持ちが届いているんだと思う。」


打ち合わせの時、興奮しながら土谷さんが言った。その通りなのかもしれない。


開催の一ヶ月前には全ての印刷物が完成した。ポスター、チラシ、マップ、を参加各店に届け、チケットの販売に協力してくれる参加店舗にはチケットも届けた。


さらに知り合いのお店にも協力してくれないかと、ポスターとチラシを配った。

ホームページにもチケットの販売ページをつくり、あとはお客がチケットを買ってくれるのを待つばかりとなった。


しかし、『二番目の壁』が立ちはだかる。お客様を集めるほうだ。


[400冊です。]


チケットを販売してくれている各店に問い合わせた結果と、ネットでの販売数を足した結果を寛和さんがフェイスブックに投稿した。『バル』まであと一週間。チケットの販売数の中間発表だ。1000冊売らないと赤字になる。


15人で割ってもかなりの金額になるだろう。大丈夫だと自分に言い聞かせても、不安がよぎった。その日の夜は眠ろうとしたものの、中々寝付けないまま夜が明けた。


次の日、


「情報の出し方が足りないのかな?」

店に来た三木に相談した。三木は一瞬考えて、


「そもそも新しいイベントなので『バル』を知っている人はほとんどいません。なので、バルを知るのは【PUSH情報】のポスター、チラシ、フェイスブックを見たとき、ほぼこの三つに限られます。そう考えると、確かに少ないといえば少ないのですが、フェイスブックに関してだけいえば、15人のメンバーが毎日『情報』をだしていますよね。」


三木は店のパソコン画面を覗きながら言った。


「この土谷さんや寛和さんにいたっては100人以上『いいね!』が付いている投稿もあります。ということは最低100人、実際はそれ以上に情報が届けられているわけです。


一郎さんだって彼らよりは少ないですが、30〜40の『いいね!』が付いている。少なく見積もって、一人が平均して30人に届けられるとしてメンバー全員の一回の投稿で450の情報、それが参加店を集めるときから始まって、一日数回。


何日も連続して出ています。約20日間で一万以上の『情報』がでていることは間違い無いでしょうね。数としては少ないのですが、これらは全部『捨てられにくい情報』です。以前お話しした情報を記憶するの話を覚えてらっしゃいますか?」


「忘れないようにそこに貼ってあるよ」


「その2番のほうを見てもらえますか?」


店の見えない所に貼ってある紙を取り外しながらもう一度目を通す。


A、その情報に【連続して触れる。】

B、その情報に【強烈に魅力を感じる。】

C、その情報を【発信している人に興味がある】

D、その情報に【関連した思い出がある・できる】

E、その情報に【感動する】

F、その情報に【共感する】

G、その情報が【相手の求めている物と一致する】

H、その情報に【触れることで高揚感を感じる】

I、その情報を【記憶しやすい状態に置き換える】


「今回の『バル』に関しては、沢山のスタッフが同時に『情報』を出しています。結果、この街にいる人は多方面から『バル』の『情報』が届くことになります。

一人が5回出す『情報』よりも、5人が1回づつ出す『情報』のほうが『届き・記憶』される率が多くなりますので。


この9つのうちのA、【連続して触れる。】が出来ていると思っていいでしょう。


『バル』は食べ物のイベントですし、万人に分かり易い魅力があります。Bも出来てると考えていいと思います。


また、土谷さん、寛和さん、その他のメンバーの写真にこれだけ『いいね!』が付いていると言う事を考えると【発信している人に興味がある】のCも同時に行われているといってもいいでしょう。『捨てられにくい情報』がいろいろな人から出ているわけです。


そう考えると、フェイスブックをやっている人には届いている可能性が高いと思います。フェイスブックをやっている人が『情報』を得たら、一番最初にやることは多分、検索でしょうね。【PULL情報】であるホームページの出番です。


サイトを管理されている方に、『google アナリティクス』が入っているか聞いてもらえます?」


「『google アナリティクス』って何?」


「アクセス解析のプログラムです。どうやって検索されたかとか、このページの次はどのページに行ったとかがわかるんですよ。」


「ええ、そんなの解るのかよ!」


「はい、解ります。しかもタダで使えます。と、いうことで聞いてみてもらえます?」


WEBを担当しているスタッフに問い合わせると、すぐに入っているという連絡が来た。


「じゃあ、このgoogleのアカウントを渡してアクセス出来るよう頼んでもらってもいいですか?」


言われたとおりにすると、すぐに追加してくれた。すぐさま三木は画面を食い入るように見始めた。それを横から見ていたが、気になる部分があった。


「これさ、もしかしてアクセス数?」

一番上の折れ線グラフを指さしながら言った。


「はい、そうですよ。」


「少ないねえ、、」


「まあ、始めたばかりのサイトですからね。」


「でもさ、それにしても少ねえだろ、昔の話だけど、前のコンサルタントにブログを書けっていわれて書いてたけど、毎日100とか200とか見られてたぞ。」


「ああ、それはですね。ブログのほうは実際より多い数を表示するようになっているんですよ。」


「ええ、マジかよ?」


「はい、本当です。はっきりとは言えませんが、ブログは検索ロボットもカウントしているようです。」


「検索ロボット?」


「ヤフーとかグーグルとかに代表される検索エンジンが、検索の計算を行うために必要な内容を収集するために自動でページに訪れるようになっているのですが、それを検索ロボットっていいます。


ブログはアメーバでも、ライブドアでも、ヤフーでも、『タダ』でブログのプログラムを使わせてその横に出る広告で稼ぐ、『フリーミアム』の戦略です。


だから、とにかく書いてもらわないとお金にならない。書いてもらわないことにはお金を生まない。その為、絶対とは言えませんが、少しでも書く意欲が沸くように、ロボットもカウントしてるようです。


まあ、もしかしたら単純にアクセス解析のソフトが悪いのかもしれませんが、とにかくブログは数が多くでます。『google アナリティクス』は基本的にロボットは数にいれません。なので比較的正確な数字がでます。数を取るならこちらを使わなければいけません。


酷い話になると、この『google アナリティクス』はどのサイトから来たかも見ることができるのですが、ブログでですね、文中に自社サイトのアドレスが入っている記事を何千人も見てるって表示があるんですけど、この『google アナリティクス』を使ってみるとブログからのアクセスがなかったりします。そんなのあり得ると思います?」


ありえないだろうな、と気落ちしながらと言うと、それを感じたのか、


「まあ、ブログを書くのは大事なことですよ。実際の数が少ないというだけで見られているという事には変わりありませんし、いろいろな角度から人を引き寄せないといけませんから。」


と慰めにも似た言葉を言いながら笑った。そのあと、しばらく三木は画面とにらめっこをしていたが、ある程度目処がついたのか、こちらに向き直りながら言った。


「検索している言葉は[湯の街ほおバル]とか[ほおバル][湯の街バル]で検索されてますね。これはまあ、思った通り。【PUSH情報】であるフェイスブック、ポスター、チラシはある程度届いているということですね。


それでですね、行動を見てみると、トップページに訪れた後、参加店一覧のページに行っています。

そしてその後、個店、つまりメニューを見てます。フェイスブックからの流入数も結構ありますね。皆さんが直リンク張って投稿してるからですね。

チケットの販売のページにも行っていることはいっているんですけど、購入に至っていない。この事から考えられる『心理』はなんだと思います?」


「ええ、なんだろう、購入画面まで来てるんでしょ、入力するのが面倒くさいとか?」


「そうですね、それはあるでしょうね。入力って面倒くさいんですよ。実際、購入画面でのお客様の離脱、、、つまり、そこで見るのを辞めてしまうことは良くあるんですよ。


企業なんかはとにかくその手間を少なくしようとしています。一番有名なのはアマゾンの『1クリック購入』ですね。あれは離脱率をさげる究極のテクニックですね。


お客様に一つのことをお願いするだけでも大変なんですよ。プロの世界だと、サイトでクリックする数や入力する項目を一つでも減らそうと努力したりもします。『ログイン』は、毎回自分の住所を入力しなくてよくなる、送り先の住所も記録してしまって、送り先の住所も入力が必要無くなる。そうすることによって、少しでも入力する場所を減らす。」


そんなこと気にしたこともなかった。


「そんなに入力ってめんどくさいかねえ、、」


「興味の度合いにもよりますけどね、どうしても欲しい物だったら何個項目があっても入力すると思いますが、『バル』は初めてのイベントなので、魅力が伝わり切っていないのだと思います。

ともあれ、お客様に入力が手間だと思われてしまっている。もっと簡単にチケットを購入出来るようにしなければなりませんね。お客様の気持ちになって考えてみると、例えばフェイスブック経由で情報を得た人はチケットの販売が店頭でやられていることを知らないんじゃあないですかね?」


「ああ!そうかもしれない。みんな『バル』をやるとか、メニューとかの『情報』はフェイスブックで投稿してるけど、チケットに関しては投稿してないから解らないだろうな。」


「では、このネット決済だけでなく、『街中のお店でも買える』という事を伝えましょう。別にどこで買ったっていいわけですからね。

販売店の一覧をリストにしてチケット販売のページに掲載してしまいましょう。それとフェイスブックの中でチケット販売所の一覧をテキストで流して、それをみんなで回しあいましょう。メンバーの皆さんにお願いして下さい。」


「解った」


「あと他に簡単にする方法はないですかねえ?」


「そういえば近隣の街でやってたバルはフェイスブックのイベントページで『参加』を押しただけで申し込んだことになって、チケットは前売りの価格で当日引き替えをやってたって土谷さんが言ってたなあ、、」


「それもいいですね。メンバーの皆さんに提案してみてください。」


「解った、これもすぐ連絡する。」


フェイスブックの[バルグループ]にその二つの内容を投稿した。ものの数分もしないうちに、土谷さん、寛和さん、その他数人のメンバーから意見が入った。この早さがフェイスブックの凄いところだと思う。


「次はアナログのほうを考えますか、、、フェイスブックをやっていない人達。この人達に『情報』が届いていないと仮説しましょう。ただ、予算の関係でこれ以上は印刷物は増やせない、、ならば、『情報』が届いた人を効率よく拾っていくしかないですね。少なくとも同じようにチケットを売っている場所が解らないっていうのはあるでしょうね。」


「でもよ、チラシの裏にチケットの販売場所は書いてあるし、販売を協力してくれているお店の店頭にはチケット販売中のシールが貼ってあるんだぜ。」


「それでも、そのお店が行きつけじゃなくて、入りづらい、買いづらいと言う人は沢山いると思います。そもそも『バル』は『お店に入りにくいを入りやすくするためのイベント』ってことはお店に入りにくいってことじゃないですか。」


「言われてみれば確かにそうだな、、、」


「チラシは多分店内におかれている可能性が高いですよね。そうするとお店の中に入った人しか『情報』が届かない。ポスターは何枚づつ配りました?」


「店の大きさにもよるけど、だいたい3枚ぐらいかな、、」


「そうすると、お店の中にも貼るでしょうが、外にも貼りますね。実際、何枚かはここに来るまでに目にしました。お客様が簡単に目に出来るのはポスターだけと考えるべきでしょう。この状態でチケットが動いていないという事実。」


「なんで動かないんだろうな、ポスターにネットでも販売中って書いてあるし、QRコードもアドレスも書いてあるのにな、、」


「ああ、それはよく間違えられるんですけど、『情報の出し手側の論理』ですね。アドレスはもちろん書かなければいけませんが、それで伝わるのは『ホームページがあるんだ』ぐらいの『情報』です。アドレスなんて打ちます?そうそううちませんよね?」


「確かに打たないな、でもよQRだったら、簡単だしやるだろ?」


「それだって、なかなかみんなやりません。」


「そうかなあ、、」


「そうですよ。『情報の出し手側』はどうしても自分達の企画に期待しているから、人間が簡単に動いてくれると考えてしまいます。けれど、たかが検索一回でも人間を動かすのはかなりの動機づけがいります。」


「そんなもんかね?」


「では、逆に『情報の受け手側』の心理になってみましょうか、『続きはWEBで』みたいなもの何度見たことあります?」


「確かに見たことない。」


「ですよね。情報を伝えるということにおいては上位に存在するテレビを使って、さらに見たくなるように、プロが一生懸命考えて魅力的なコンテンツでも見てもらえない。

ただでさえ『情報』が届けられない『情報弱者』は行程が一つでも増えるのは避けるべきです。」


「今思えば、ポスターにもチケットの販売をしてる所をそのまま載せるべきだったな、、、ポスターで興味をもってもらって、チラシやポスターでで詳しい情報を、と思っていたんだけど、、、」


「置く場所が離れるわけですから、極力ポスターだけで、、、チラシだけで、、完結すべきだったでしょうね。

昔だったら『情報』に飢えていたので、その戦略もうまくいったかもしれませんが、今は『情報』が捨てられる時代なので、、、。


でも落ち込んでいるヒマはありません。『情報』が一番伝わるのは『目』にしたとき、そこで、『チケットを売っている場所が解らない』という仮説が立てられるなら、ポスターの横にチケットの販売場所全部を書いたものを貼りましょう。【届いてない情報は存在していないも一緒です】」


届いてない情報は存在していないも一緒、『情報』というのはどれほど伝わらない物なのかと改めて思う。


すぐにワードでリストを作った。その日の夜、フェイスブックの[バルグループ]内に投稿した、イベントページもやろうという事で話は収まった。


すぐさまフェイスブックのイベント機能を使いイベントを作り、全員で『招待』を出した。その数は2000人以上にも登った。


イベントに招待された人は、『イベントに招待されました』と表示されているはずた。つまり、2000人以上に『情報』が届いたということだ。改めて三木がいった【仲間】の重要性を感じた。一人ではこんなに沢山の人を招待出来るはずもない。


あっという間に100人以上が参加の意思を示した。やはり、PCの入力は面倒くさいと、どこかで思っていたのだろう。[バルグループ]に[一人で5枚も使えないと言われました]とメンバーから投稿あった。

すぐさま、一冊のチケットを複数人で分けてでも使えるとワードで打つと、みんなでポスターの横に貼りに行った。貼りに行きながらこうやって『情報』を届けていくのだなと思った。【一行の手間を惜しまない】三木の口癖が頭の中をよぎる。


バルはあと6日後に迫っていた。メンバー全員が最後の力を振り絞ってチケットの販売に奔走していた。


友人に電話をしてお得だから、ぜひ参加してくれと頼み、会合に行ってはその場所でチラシを配り、ポスターを貼ってくれると言うところがあったら、飛んでいって貼ってもらった。


フェイスブックでも投稿は欠かさなかった。15人で動くので、15倍の力だ。その広がりはかなりのものだろう。三木が言うキーワード【仲間】がどれだけ大事かを心の底から感じた。


そうしてあっと言う間に5日間が過ぎバルの当日を迎えた。

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