『街バル』で街興し3 ー相手の心理になることとキャズム理論ー
次の日、パンを作り終えて一呼吸ついたころ慣れないWordを使って参加店用説明会のチラシを作った。
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第一回 【湯の街ほおバル】 参加説明会のお知らせ。
『バル』はBar(バー)のスペイン語読みです。 スペインでは気軽に立ち寄れる『飲み屋』『喫茶店』『社交の場』であり、人々の生活には欠かせないものです。 日本では函館で『バル街』として発祥し、新しい形の食べ歩き、飲み歩きイベントとして、いまや全国に広がっています。 参加者は事前に購入した5枚つづりのチケットを手に、5軒の参加店舗を「はしご」できます。各店舗は『1ドリンク1フード』の『バルメニュー』を用意し、参加者をお迎えします。
また、お菓子、ケーキ、土産等を販売している物販店の参加も可能です。
参加費用は無料です。ただし、チケットの販売金額700円から150円を引かせていただきます。
いただいた150円は全て販促費用に充てさせていただきます。
このイベントに参加してくれるお店を募集しています。
○月○日に商工会議所で説明会を行います。
ぜひ、皆さんご参加ください。
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打ち終わって、フゥーと一息つき、我ながら良く出来たと思って眺めていたらちょうど三木が入って来た。出来たばかりのチラシを見てもらうと、
「ふむ、『バル』を説明するチラシとしてはすばらしいですね。、だけど、これじゃあ人は集まらないでしょうね。」
と言った。
やっぱりそう簡単には褒めてくれないよねと思いながら
「どこがダメ?」
と聞くと、
「この文章には『相手の気持ちになる』が抜けていますね、今回の対象は飲食店の店主ですよね。それらの方が、何に『メリット』を感じるかといえば、一にも二にも『儲かるか?』ですよね。なので、相手に『メリット』を提供しないといけません。でも、これだとこういうイベントをやるというだけで、相手に『メリット』が全然伝わらなりません。」
「ああ、そうか、、」
「フェイスブックをやられている方はで実際に体験したり、フェイスブック上で楽しそうな写真を見たりと、『メリット』を身近に感じることができます。
しかし、飲食店でフェイスブックをやられている方はまだ小数でしょうし、このチラシが初めて『バル』に触れるものになるわけですよね。ただ、参加して下さいでは『心は動かない』と思います。」
「なるほどなあ、しかし具体的に『メリット』って言っても、、、何があるよ?」
「飲食店は、、というか飲食店もですね。今は『食べてもらうチャンスさえもらえない』状態になっているのです。以前、フェイスブックの説明の時に話した話なのですが覚えてますかね?『昔は商売屋の人も多く、そういう人達は必ず商工会議所等の団体に所属し、仲間内のお店に後輩を連れていきました。』の話ですね。」
「ああ、あれか、、」
「商売をやっている人も減り、ほとんどがサラリーマン化してきて『自分達でお店を開拓する人』が増えた結果『得体の知れない店』になる
あの時の繰り返しになりますが、特に80年代、90年代に出来たお店は『中が見えないつくり』になっています。
メニューも表に出ておらず、出ていても文字のみ。だから、みなさんそこ、、、つまり新しい顧客の獲得に苦労されていると思うんですよ。このイベントはそこを回避できるイベントだと思うので、その気持ちをくすぐると言うのはどうでしょう?」
「なるほど、そこの心理を考えて『新しいお客様は入ってきてますか?』って投げかけるのはいいなあ、『チケット1枚、700円以上取られないという安心感から、お店には入ってきます。お店の中に入れば雰囲気が解るので新しいお客様の獲得につながります』って感じかな?」
「そうですね、あと、何らかの販促物は作りますよね?」
「チラシが5万枚と、ポスターとマップが1500枚。あとはホームページ、ツイッター、フェイスブック、ブログといったところかな、、」
「いいですね。ならばそこも謳いましょう。各種印刷物に掲載されて、ホームページにも載るしフェイスブックにも投稿される。苦手なデジタルな分野や広告をやってもらえて、名前は出るわけじゃないですか、何万部というそこを広告宣伝費としてとらえてくれないかと説明してもいいですね。」
「なるほど、」
「あとは、飲食店の店主の気持ちになると、どんなの物を出したらいいのかと、本当にイベントが盛り上がるかを迷うでしょうから、他の街の料理の写真や盛り上がっている写真もいれたほうがいいですね。」
「わかった、作り直す!」
数十分後出来上がった物を三木に再度見せた。
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新規のお客様の獲得のチャンスです!
第一回 【湯の街ほおバル】 参加説明会のお知らせ
■『バル』とは
『バル』はBar(バー)のスペイン語読で、新しい形の『食べ歩き、飲み歩き」イベントとして、いまや全国に広がっています。 参加者は事前に購入した5枚つづりのチケットを手に、5軒の参加店舗を「はしご」できます。各店舗は『1ドリンク1フード』の『バルメニュー』を用意し、参加者をお迎えします。
また、お菓子、ケーキ、土産等を販売している物販店の参加も可能です。
■参加するメリット。
1.新規のお客様を獲得するチャンスです。
この企画はお試しのハードルを下げる企画です。お客様に『値段が決まっているという安心感』をあたえお店の中に入ってもらいます。
お店の中に入れば値段も、雰囲気もわかるので、バル後来店するお客様が増えるかもしれません。お店の中が見えない作りになっているところは特にメリットがあると言えます。
2.貴店のPRができます。
チラシ5万枚、マップ1500枚、ポスター1500枚、のほかホームページ、ブログ、フェイスブック、ツイッターを使って、このイベント及び参加店舗をアピールします。
参加費用は無料です。ただし、チケットの販売金額700円から150円を引かせていただきます。いただいた150円は全て販促費用に充てさせていただきます。
○月○日に商工会議所で説明会を行います。
ぜひ、皆さんご参加ください。
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プリントアウトをして三木に見せると、いいですね、と言った後、何店舗ぐらいに声を掛けるのか?と聞いてきた。
「チラシを撒くのはだいたい1500枚ぐらいかなあ」
「そうですか、、」
「何?」
「いや、なんでもないです。」
三木は何か言いたげだったが、その先は言わないので、こちらもそれ以上は聞かないようにした。
商工会議所に頼んで会議所の配布物に説明会のチラシを同封してもらった。飲食業組合の方にもチラシを入れてもらった。できることをやろうと自分のフェイスブックに投稿した。
しかし、これは反応が薄い。その事を三木に話すと
「この街は大分フェイスブックをやられている方が増えてきましたが、まだまだ、飲食店の方でやられている方は少ないですからね。でも、お客様となるほうには届いているとは思います。無駄ではないですよ。」
と言われた。
確かにそうだが、一抹の不安は残る。
チラシを撒いて一週間たった日の夜、寛和さんから、[バルグループ]に投稿があった。
[明後日の『湯の街ほおバル』参加説明会ですが、FAXでの申し込みは2軒しか有りません・・・。]
スタッフのみんなに衝撃が走る。
[説明会の案内を持って行ったら、説明会どころかバルをやる事自体も知らない店もありました。]
というコメントも入った。
――――やはりそうですか、
次の日店に来た三木は言った。
「解ってたのかよ?」
「いや、完全にそうなると思っていたわけではないのですが、だいたい1500枚ぐらいチラシを配ると言う話でしたので、それを元に考えると、今は『情報』が捨てられる時代なので、たぶん、その内でちゃんと見るのは多く見積もっても5%ぐらいかなと感じていました。つまり75人。
それでですね、マーケティングの世界の話なのですが、『キャズム理論』というのがあるのですよ。
新しいサービスや機械などに良く適用されるのですが、顧客は
【イノベーター】【アーリーアダプター】【アーリーマジョリティ】【レイトマジョリティ】【ラガード】の5つのタイプに分かれるという理論で、【イノベーター】は新しいものにすぐ飛びつく人2.5%、【アーリーアダプター】は新しい物を早い段階で採用する人13.5%。ここからは新しいものに慎重な人達、大多数の中の早い人達【アーリーマジョリティ】34%大多数の中の遅い人達【レイトマジョリティ】34%最も遅い【ラガード】16%で、この早い段階で採用する16%の人と、新しい物に慎重な残りの84%。
ここに谷=キャズムがあり、ここを越えられるかどうかが新しいサービスが広がりをみせるかどうかのポイントになるという理論です。
『バル』は新しいタイプのイベントなので、これが当てはまると思っていました。たぶん90~100軒程度のお店に『情報』が届いて、その中の、『すぐ飛びつく人』が申し込みをしたって感じですかね、、、」
「そんな理論もあるんだな、、、、」
関心した反面、急に不安が出てきた。
「とりあえず、知り合いの店に一軒一軒当たってみるよ。」
と言うと、それがいいと思いますと三木は応えた。
結局、説明会の参加は20名ほどだった。その場で申し込みをしたのは二人。三木の教えてくれた『キャズム理論』を当てはめると、いわゆる早い段階で飛びつく人達、【イノベーター】【アーリーアダプター】が来てくれて、【イノベーター】が申し込みをしたと言う感じか、、、スタッフのみんなも落胆の色は隠せないでいた。
その夜、寛和さんからフェイスブックの[バルグループ]に投稿があった。
[今後、最もポイントとなるのは、出来るだけ多くの参加店を、いかに口説き落とすかにかかっていると思っています。お知り合いのお店1軒でも2軒でも口説いて頂けないでしょうか、、。かなり根気と時間が必要な作業ですが、どうぞよろしくお願いします。]
次の日から仕事が終わると飲みに出かけた。もちろん、参加店を募るためだが、ただお願いに行くだけではダメだというのは解っていたので、行く店行く店で自腹を切って食事をしていた。
どのお店もみんなが一国一城の主である。交渉も一筋縄ではいかない。どこでも難色を示すのが金額の部分だ。
「550円でお酒と食べ物出すんでしょ、、喫茶店じゃないからなあ、、その値段じゃあね、、、」
と言われた。その他にも、“そんなイベントやったって人は来ねえよ”とか、いただいた150円は全て販促費用にあてると言っても、“お前ら、俺たちを使って儲けるつもりかよ”と、散々な事を言われた。
でも諦める訳にはいかない。落ち込みながら、次の店に向かう道すがら、手にしたiPhoneでフェイスブックを見ると寛和さんの投稿で
[寿司屋→焼肉屋→ラーメン屋、もうお小遣いも、お腹も、もちましぇん(涙)なう。]
というのがあって思わず吹き出した。スタッフの投稿は大変な事をしているにもかかわらず、悲壮感のかけらもない投稿ばかりだった。それはやはり自分達がやりたいことだからだと思う。
次第にスタッフの投稿は『バル』一色になっていった。知り合いに頼む者、行きつけのお店に頼む者、みんな必死でお願いした。そして、その熱意が通じたのか段々参加店舗が増えてきた。
[『モナコ』参加していただけることになりました!]
[やったー、また1店舗参加決定です。山本食堂参加です!]
[参加申し込み書いただきました]
日に日に参加店舗が多くなる。そして、ある日の夜、寛和さんから
[最新情報で、参加店100店達成!!皆様の熱いご尽力に厚く厚く感謝申しあげます]と投稿が入った。
「よしっ!」
思わずフェイスブックの画面を見ながらガッツポーズを取った。やった、、参加店を集めるという『最初の壁』はなんとか越えることができた。
毎晩毎晩飲んでいたので、胃も、肝臓も、カラダも、悲鳴を上げていた。しばらくは外食したくない。とりあえず、その日はどこのお店にも行かず泥沼のように寝た。
次は、お客さんの方だ、、、、
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