通販サイトで大儲けの罠 ー買ったお店の名前、覚えてますか?ー

「今日はホームページについてです。」


 三木がこう切り出すと、一瞬緊張した。また、あそこを改造しろとか、広告を出せとか色々言われるんだろうな、でもウソをつくタイプではないようだし、何を言われてもちょっとやってやるかと考えていたら、


「やめちゃいましょう」


「はあ?」

あまりの予想外の言葉に困惑した。


「ああ、すみません。言葉足らずでしたね。この大手のショッピングモールから抜けましょうって話しです。昨日一日かけて計算したんですけど、ほとんど利益出ていないんですよ。セールばかりで、利益が全然でてない。始められたのは2年ぐらい前ですよね。

所有しているメールアドレスも6000通ほど、広告費かけた割には購入率は低いし、何より一番気になるのは、リピートでの購入率がすごい少ないことです。」


ここで三木は一呼吸置くとそのまま続けた


「『セールをやりましょう。』『ポイントを十倍にしましょう。『無料プレゼントをやりましょう。』そうやって集めた大量のメールアドレスにメールを送りましょうっていうのが、このショッピングモールの教えてくれた戦略ですよね?でも、これを顧客の立場から考えてみましょう。

例えば、わたくしもこちらのモールに入っているお店で何度も買ったことがありますが、“お店の名前は一切覚えておりません。”」


「あっ」


思わず言葉にだした。確かに、、、、自分もほとんど覚えていないことに気がついた。単純にお得だったから買っただけで、お店の印象なんて微塵も残っていない。売っている方は安く出している分、きついはずなのだ。それなのに何も覚えてもらえてない、、、


「確かに覚えてない、、、」


「ですよね、、このショッピングモールを経営している会社の『戦略』は『全く知らない人』を大量に集めてそこで商売をする不特定多数を相手にするビジネスなんです。


しかしながら、この手法では『ファン』はできません。その結果、大抵の場合は『永遠の値段合戦』が始まって利幅が落ちる。

回転率をあげないと行けないから、また『セール』をやるの繰り返しになってしまうんですよ。


薄利多売になると、どうしても回転率をあげなければいけない。

少なくとも、今、一郎さんがとる方法ではないと思います。あと、さらにいうと、ここの会社のビジネスモデルは講習に参加してもらって、お金をとったり、自社のサイト内の場所を売って、広告費をとるというビジネスモデルなんですよ。


広告費は管理画面から見ることができたのですが、講習の費用はわからなかったのでなんとも言えませんが、一郎さんは講習に行かれたことはあります?一回3万円ぐらいですよね? 多分それを含むと赤字です。」


なんとなく感じていたけれどもはっきりと言われるとショックだ。言えはしないが、以前のコンサルに言われるがままに作ったサイトの制作費用も相当なものだった。


「メールアドレス6000通が惜しく感じられるかもしれませんが、これ、多分プレゼントで集められましたよね?はっきりとは言えませんが、フリーメールも多いでしょうし、あまり役にたたないと思います。『ファン』をつくるということは『自分を』『お店を』記憶してもらうことですが、そもそも世間の皆さんが、こういうメールをなんて呼んでいるかご存じですよね?」


 ああ、、、答えを思いついた瞬間なるほどと思った。


「迷惑メール」


「そうなんですよ。顧客の立場からみたら、そもそもが『迷惑』なんですよ。もちろんメルマガでも『自分』を『お店』を伝えられるかもしれません。


でも、それが出来たのは七年、、いや、十年前ぐらいが限界だと思われます。十年ぐらいまでだとSNSもなかったし、情報量がいくらか少なかったから、メールを開けたくなるようなタイトルとか工夫をこらせば、まだ、『情報』に目を通す余裕がありましたが、今は『情報』を捨てに入っている時代ですからね」


そういうと三木は検索窓に『総務省』といれた。そしてあるPDFを開き、その中の1Pを見せてくれた。


「これをご覧下さい。」


「なにこれ?」

 そこには情報流通インデックスの計算結果(1)と書いてあり、左に折れ線グラフ、右に円グラフがあった。ビットだ、テラビットだの文字が躍り、何を見ていいかわからない。それに気づいたのか、三木は左の折れ線グラフを指さしこういった。


「ここにある消費情報量というのが人間が実際に認知できる情報量です、、、平成19年の段階で「104」って書いてありますよね?」


 白い菱形の横に確かに104の文字があった。


「で、それに対してこれが世の中に流れている情報量です」


 と今度は青い菱形の横に書かれた155と書かれた文字を指さした。


「つまり、人間の処理能力を超えて情報が流れているって事です。

この平成19年の当時はツイッターも、フェイスブックも流行っていなかったので、今はもっと流通情報量は多いいでしょう。

10年前はまだ流れている情報量と、認識できる情報量はほぼ一緒だったし、そのころから通販サイトを始めていて、しっかり顧客との関係ができていれば、『メール』はまだ見てもらえます。

そういう人ならまだまだメールは重要なツールでしょう。


でも、一郎さんのように2年前に始めたばかりの通販サイトでは、お客さん側も智恵をつけてフリーメールを使ったりして『情報』を拒否している。


セールをやって集めたメールアドレスがフリーメール。フリーメールは開きはしない。いくらメルアドを集めても意味がないんです。このビジネスの元々の発想がいわゆる郵便の『ダイレクトメール』これが資本の関係で限界がある。

メールなら費用は0だからそれを使って、さらに上回る情報をだせばいいと言う発想で、『情報の絶対量を増やす』という考え。

ただ、皮肉なことにその結果『情報を無視する』状態になったのが今、、、顧客との関係が出来ていない一郎さんのメールは今『無視』されていると思います。」


思い当たる節がある。ショッピングモール運営会社のいうことを聞いてプレゼント企画をやったとき、あっと言う間に何千通ものメールが集まった。


嬉しくて、こんなに簡単な事かと思った。しかし当選者が決まってメールで連絡したけど、連絡が全然帰ってこない、、それでしょうが無く電話をしたら、気味悪がられて電話を切られた。悔しくて、ショッピングモール運営会社に連絡した。そのことを三木に伝えると、三木は微笑みながら、


「『よくあることです。』って言われませんでした?」


 と聞き返した。


 思わず目を見開いた、その通りだった。


「ですよね、不特定多数を大量に集めてする商売。『ダメだったら次がいる』ぐらいな感覚でしょうね。『人の扱いが軽い』ここのショッピングモールの仕組みを攻めるつもりはありませんが、ここまでくると大量に仕入れられて、大量に売れるほうが有利になってますし、一郎さんがこのまま続けて、ショッピングモール運営会社の言うとおりにやってたら、単なる値段競争に巻き込まれて、時間と、お金を取られるだけです。


以前お話ししたとおり、値段合戦は絶対やってはダメです。

同じような機能なら、今なら月額3000円ぐらいでありますし、もっとシンプルにすることもできます。

今はこの戦略はもう時代に合ってないと思います。少なくとも一郎さんのような小売店が行う『戦略』ではありません。ここに力を使うぐらいなら、今はもっと別なことに使うべきでしょう。」


「別なことって?」


「『人の扱いが軽い』ところと逆なことをやればいいんですよ」

 

そして三木は笑顔を浮かべこういった。


「『ファン』をつくることです。」


数週間後、新しい[柳原ベーカリー]のホームページが出来上がった。ショッピングモールに入っていた頃を考えればシンプルすぎるぐらいだ。お店の紹介のページと、通販のページ。通販のページはレンタルの買い物カゴの仕組みをつかって、注文があった時のみカード払いの5%を払う。サイトの維持費は月3,000円になった。ショッピングモールの1/10ぐらいだ。


それと同時に三木はハガキ大ぐらいの印刷物も持ってきた。印刷物には美味しそうなパンの写真と、ホームページアドレス、「柳原ベーカリー」+検索ボタン、ツイッター、フェイスブックページのアドレスがあった。


「ただ入れるだけではだめです。必ずお買い上げ時に『ホームページのアドレスを入れさせて頂きます。もし、お気に召しましたらよろしくお願いします。』と一声かけながらいれてください。なんでそんなことをと思うかもしれませんが、【記憶】につけるためです。」


「記憶?」


「はい記憶です。『情報』というのは出しただけだと意味が無いのです。【記憶】されて初めて生きてくるのです。


袋にチラシをいれるのは意識していないかもしれませんが、良くやられている事なのです。本屋さんや衣料品店、一郎さんも覚えはありませんか?」


「そう言われてみれば、よく見るなあ」


「でも、それらをじっくり読んだことはないですよね?」


「うん、そうだな、大概はすぐゴミ箱行きだな」


「紙のコストは大手にしてみれば正直大したことは無いんですよ。印刷は部数が増えれば増えるほど単価は下がりますし。

たぶん、一枚何十銭の世界だと思います。大量にだして一人でもひっかかってくればいいぐらいの気持ちでやっていると思います。


でも、一郎さんのところは違います。そんなに大量に印刷できませんし、それを捌くこともできません。大手と同じように配っただけでは、普通に考えて枚数が少ない分リターンは少ないです。


だから、すこしでも意識してもらう仕掛をしなければなりません。黙ってチラシを入れられるのと、一声かけて入れられるのと、どっちが印象にのこるかといえば、もちろん声をかけた方ですよね。


確実に街の人と解る場合には入れる必要はないと思いますが、でも、ここは観光客も訪れる土地柄ですから、観光客の方には必ず入れてください。


今までは大手ショッピングモールでセールをやったり、広告で場所を買っていたので、毎月何人かはサイトを訪れてくれていたと思います。

今度はそういう事はありません。だから何かしらの方法でサイトに人を呼び込まなければ行けません。【PULL情報】であるホームページは何かしらの【PUSH情報】とあわせる必要があります。そのための一つがこのチラシです。一見不利なようですが、そんなことありません。


サイトの維持費は1/10以下になっています。そしてなによりも実際買ってくれたお客様は『味』が解っているということです。食べた後にこのチラシを元に『検索する』、これはこの店の味が気に入ったという事の証明で有り、限りなくこの店の『ファン』になる可能性が高い人と言うことになります。


こういう人を一人、二人と増やしていくことが大事です。【買ったことの無い人=味が分からない人を大量にあつめて、差別化のポイントとしてセール、、つまり『値段』を使って、買い物をしてもらう。】というものとは根本から戦略が違います。」


 真剣な顔で、そう一息で言い切ったかと思うと、次の瞬間には


「一日300個とか500個とか注文が来ても捌けないでしょ?目の前の一人を大事にしていく戦略をとりましょう。」


と、表情を変えて笑顔で言った。

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