第14話・四人

 それが、四人で過ごした最後の季節だった。

 今こうして、残された三人で顔を突きつけ合い、あらためて感じる。一人が欠けただけでデコボコだ。お互いの間を、空気がうまく流れない。不定形な三角形。パズルのワンピースはもう戻らない。

 田舎に帰ってくるたびに、それぞれと顔を合わせてはいた。だけど卒業後に四人そろって会うのは、なぜかオレには気詰まりだった。その後の関係を聞かされるのも怖かった。そのうちに、ついに誰とも会わなくなっていた。思えば、愚かな態度だった。

 乾いた流木が必要だ。葬式なんて、空々しい。それよりも、また十年前のあの日のように焚き火をすればいい。四人がぎゅっと結びつき、そしてほつれたあの日のように。

 三人で浜に散った。どの背中も散漫だ。オレもまた上の空のまま、サイズの合わない革靴の踵をぱかぱかいわせて、焚き木を探した。唇のへりに汗がしたたる。

(しょっぱかったよう・・・)

 あの夜を、リアルに思い出す。

 そのとき不意に、それを見つけた。

「まさか・・・」

 おおいっ!と思わず声を上げた。砂に埋まっている。一台の自転車が。年季の入ったサビに侵され、潮と日光にやられてカサカサに干からびた車体。タイヤの空気は抜けきり、サドルは裂けてクッションが飛び出している。フレームの真っ赤な塗装も色褪せて、まったく見る影もない。ただ、フロントフォークの錠は、蹴り飛ばされたあのときのままだ。

「どうして・・・」

 あわてて掘り出した。まぎれもなくあのときのチャリだ。盗んでいったやつが返しにきたのか、それともあのとき、暗闇の中で見つけられなかっただけなのか。それにしても十年もの間、ずっとここで眠っていたとは。待っていてくれたとは。駆けつけた二人も、さすがに半信半疑だ。が、興奮を抑えきれない。ボロボロの、しかし愛おしいチャリにまたがってみる。砂を払うと、サビにまみれた車輪はまだ動きそうだ。不安げに歪むタイヤをだましだましに、ヨロヨロと進む。

「後ろに乗せてよう」

 あのあまい匂いのするひとを後ろに乗せる。もうひとりが乗り込んでくる。そして、もうひとりも。二人乗りをし、三人乗りをし、四人乗りをし・・・そしてハデに転んだ。四人で過ごした砂浜。あの日と同じだ。パズルがパチンとはまって、円が完成する。

 あの日の出来事は、この浜に埋められた。オレもそれきり口にしなかったし、いろはも秘密を通した。その相手も決して他言しなかったと思う。あの罪は、卒業まで、いや、現在に至るまで、この浜に埋められたままだ。いろはの想いは、ただただ相手に伝えられ、回答を得なかった。彼女には、それで充分だった。

 ニュートラルな関係は、今もつづく。ひとりは欠けてしまった。重要なピースだ。それでもなお、オレたちはずっと、四人なのだった。


 おしまい

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四人だった もりを @forestfish

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