day15:有心論

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彼女と別れるまで後43日


十五日目



いついなくなってもおかしくない人と一緒に暮らしてる

いつなくなってもおかしくない時間を過ごしてる

いつお別れが来たっておかしくないのに好きだってことを忘れて生きてる



今日は会う約束を破られた。



理由は「疲れたから」。



今日は彼女の卒業論文の発表会。

大学生活の集大成を発表する瞬間。


どれだけ緊張して、どんな質問が来て、どんな気持ちだったか?

うまくできただろうか?

しっかり、思うようにやり切れただろうか?


そんな話を聞きたかっただけだったのに。



最初は「お疲れさまディナー」を提案した。


発表が終わって、どうするか聞いたら「夜一緒にいる」の方がイイって。


お祝いを、労いをしたかったけど、あなたがそう言うなら・・・



嫌な予感はちょっとしてた。

悲しみは滲むものだから。


そして、彼女は「ごめんなさい」とメールを送ってきた。


壊れそうな気持ちに折り合いをつけて、少しだけわがままを言った。



数分後、花を持って彼女の家に向かった。


パジャマ姿の彼女。


見ようによっては具合が悪そう。


見ようによっては。


でも、今はそんなことどうでもいい。



私が持って行った花束は、チューリップと桃。

桃はほとんどが蕾。


2日後から、中国旅行に行き、それからすぐに卒業旅行でヨーロッパに行く。


帰ってきた頃には綺麗に咲くんじゃないかな。


そんなことを考えて選んだ花だ。


花束を渡し、少しだけ、今日の出来事を話し始める彼女。


発表後の質問を、まさか二人を結び付けるキッカケとなった恩師である先生がした、と言う話。

私の卒論発表の時も、その先生が質問をしたことを告げるとまた彼女はコッソリ泣いていた。


不思議な縁である。


好きじゃなかった。

もう愛情はない。

そう言い放ったじゃないか。


色々言っても、その涙が全てを物語ってくれた。

その涙が、彼女が私を「愛してる」ことを証明してくれている気がした。


だって、彼女は滅多なことじゃ泣かない。


私と別れることが、その滅多なことじゃないだけで、それだけで今は嬉しかった。


彼女の狭いマンションの玄関で、痛くないように、でも強く抱きしめてることが伝わるように、しっかりと彼女の小さな体を抱きしめた。


抱きしめると色々なことがわかる。

身体は本当に疲れていた。

柔らかい肌の下の肩の筋肉は、疲労と大き過ぎる負荷で硬くなっていた。

ゆっくりと、できるだけでも、身体をほぐす。


「働くようになったら、ちゃんとマッサージとか行くんだよ。身体のメンテナンスは大事だからね。」


「ええー、あなたにやってもらうからいいよお」


今の今まで我慢してた涙腺が静かに崩れる。


「そんなこと言うんだったら、“別れる”なんか言っちゃダメじゃない。」


彼女の真意はわからない。

その場しのぎのリップサービスなのか、今この瞬間は本当にそう思ってくれたのか。



握りつぶしてしまいそうな小さくて、柔らかい体を、一生抱きながら、一生を終えれるものだとばかり思っていたのに。



2秒前までの自殺志願者を

君は永久幸福論者に変えてくれた君はもういない

いないけど



涙が止まらなくなる前に、私は彼女の家を後にした。

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