第9話「脳内彼女」
童貞の侭30歳を過ぎると魔法使いになる。
と言う都市伝説が有る。
が、そんなのは只の
その日、僕は、童貞の侭40歳の誕生日を迎えた。
と言う訳で僕は、会社帰りにちょっと有名なケーキ屋で、売れ残っていたモンブランとエクレアを買占めし、
一人きりの誕生日パーティー会場であるアパート(注、トイレ風呂キッチン付2DK家賃5.8万円)へ、一人きりで帰宅する。
勿論、こんな僕の事情を知る友達は居ない、と言うか友達がいない。
白い手すりの階段を昇ると、不思議な事に、2階の真ん中の僕の部屋の前に、…
一人の女の子が体育座りしていた。
髪の長い、睫毛の長い、脚の長い、…
腰の細い、指の細い、脚の細い、…
瞳の大きな、胸の大きな、…
要するに世間一般で言われている美少女の類が、抱えた膝の隙間から、じっと僕の事を上目づかいに見つめている。
当然、こんな子は、知り合いでも何でも無い。
40年分の記憶を遡っても、こんな可愛い幼馴染とか、親戚とか、どこかで物の怪の類を助けた覚えも無い。
当然気の弱い僕だから、風俗とかキャバクラにすら通ったことも無い。
敏郎:「あのぉ、そこ、僕の部屋なんですけど、…多分、部屋間違えてますよね、」
何時だって誰にだって僕は敬語だ、
それなのに、少女は、じっと黙った侭、僕の部屋の前から動こうとしない、
敏郎:「ちょっと、御免なさいね、」
僕は仕方なく、強引に扉の鍵を開けて、…
少女の背中に触れるギリギリまでドアを開けて、…
脂肪肝に膨れた40歳の身体を、何とかかんとか部屋の中に滑り込ませる事に成功する。
こういう手合いには、関わらないに限る、何か新手の詐欺か、強請りかも知れない。
それから僕は散らかった部屋の電気を付けて、…
山盛りの
冷蔵庫からキンキンに冷えたシャンパンを取り出し、…
「保管庫」(注、趣味のコレクションで埋め尽くされた6畳の洋間)から、この日の為に取って置いたアニメのブルーレイの封印を解いて、…
40インチの液晶テレビのスイッチを入れる。
当然色んな意味で音漏れは許されない、
窮屈なシャツとズボンを脱ぎ棄てて、…
2か月以上洗濯していない寝間着代わりのTシャツを被り、…
一応、念の為に、…オナニーグッズも準備して、…
ビートの最高級ヘッドフォンを装着する、
この部屋で最も高価なブルーレイレコーダーが微かな吐息を垂れて、…
一つ目のエクレアから、二種類の甘いクリームが口内に溢れだす頃、…
僕は、さっきからずっと気になっていて、…
何とかして気にしない様にしようと努力はして、…
とうとう看過できなくなってしまった、…
暗黒面の理力の様な、キッチンシンク傍の窓(注、擦りガラス)に映る、怪しい人影に、…
いよいよ、声を掛ける決心をする。
恐る恐る忍び足で近づき、…
息を殺して慎重にドアの鍵を開錠し、…
決して気取られない様にノブを回して、…
そっと、ドアを開ける、
件の美少女は、つま先立ちして、キッチン前の窓から、
じっと部屋の中を伺っていた、
僕達は思わず目が合って、…
少女は、口を噤んだまま、ばつが悪そうに頬を赤らめる、
敏郎:「あのう、ウチになんか、用ですか…」
美少女が、口を噤んだまま、ばつが悪そうに紅潮する、
黒を基調にした、ちょっとゴスロリっぽいドレス、…
ひらひらで飾られたミニスカートからすらっと伸びる生脚、…
エナメルっぽいミッドカットのブーツ、…
見れば見るほど、…
メイド喫茶×100倍位、…
可愛らしい、…
女の子、
敏郎:「ウチには、僕しか居ませんよ、…何処か、他の部屋と間違えてるんと違いますか?」
それなのに、少女は、じっと僕の顔を見つめた侭、耳まで真っ赤に照れた侭、…
ふりふりと首を横に振る。
いや、そんな訳がない、…こんな現実は有り得ない。
きっと近くに
そう言う展開だけは、記念すべき40歳の誕生日にだけは、…御免コウムリタイ、
それなのに、僕のハートは、とっくの昔に鷲掴みにされてしまっていて、…
これは、きっと何かの運命なのだと、運命に違いないのだと、だから、ちょっと位酷い目に遭ったとしても仕方がないのだと、…
強硬に僕を、説得し始める。
途端に、…
甘いバニラの様な少女の匂いが、鼻腔から脳の底に取り憑いて、…
敏郎:「あの、夜中にこんな所で話してても、なんですから、…は、」
思わず、ドモッて、不可抗力的に言葉が紡げなくなる、
敏郎:「その、…入り、ますか?」
僕の部屋(注、玄関先に限定される)には、且つれこれまで、生命保険と宗教の勧誘のおばさん以外の「XX染色体」が足を踏み入れた歴史が無い、
それなのに、少女は、恥ずかしそうに、コクリと頷いて、…
僕は、年甲斐も無く狼狽えて、ドキドキと鼓動を早くして、でも、決して気取られない様に、…
蒸れた靴の匂いが散らばった僕の部屋の玄関に、
その少女が、佇んでいた、
僕は、急いでブルーレイを停止して、…
差障りの無い民放のクイズ番組に画面を切り替え、…
大急ぎでオナニーグッズを紙袋に詰め込んで、…
ぴったりと「保管庫」の襖を、絞める。
敏郎:「あの、えっと、散らかってるけど、…あ、」
思わず、ドモッて、不可抗力的に言葉が紡げなくなる、
敏郎:「その、…あがり、ますか?」
少女は、恥ずかしそうに、コクリと頷いて、…
僕は、少女がブーツのレースを解く仕草から、…目が離せない、
信じられない程綺麗な白い裸足の爪先が、こんな僕の部屋のフローリングに、触れる。
敏郎:「よか、ったら、…ケーキも有るけど。」
僕は、そこら中に散乱したゴミの山を掻き集め、…
少女の身体に触れない様にしながら、卓袱台の前の、いつもは自分が使っているクッションに誘導し、…
念の為に、玄関のカギと、チェーンの補助錠を掛けて、…
食器棚から、比較的きれいなグラスを取り出してきて、…
少女の前に、キンキンに冷えたシャンパンを、注ぐ、
僕は、少女がクッションの上にアヒル座りする仕草から、…目が離せない、
信じられない事に、きっと剥き出しの侭の真っ白な下着(注、妄想)が、こんな僕のクッション座布団に、直に触れている。
敏郎:「えっと、今日は僕の誕生日で、シャンパン開けたんやけど、よかったら飲んで、」
いつの間にか、理由は不明だが、緊張の余り、地元訛りの関西弁が台詞の端々に混じってくる。
それでもまだ、これが何かのドッキリか、性質の悪い悪戯である可能性を、僕は拭いきれない。
どこまでならOKなのか、何処から以上はNGなのか、…
僕は必死に、探り続ける、
少女が口を付けたグラスを後で使う事位は、…常識の範囲内だろう、
敏郎:「えっと、それで、…何でうちの前に座ってたんかな、なんか、理由あるんとちゃうんかな、」
それなのに、少女は、恥ずかしそうに、俯いた侭で、黙ったままで、…
敏郎:「もしかして、…行くとこない、とか、」
少女は、恥ずかしそうに、コクリと頷いて、…
僕は、年甲斐も無く狼狽えて、ドキドキと鼓動を早くして、…
敏郎:「もしかして、…ウチに、と、泊まりたい、…とか?」
少女は、耳まで真っ赤にして、僕の事を、上目づかいする、…
いや、そんな訳がない、…こんな現実は有り得ない。
もしかしたら、僕が眠っている内に、家の中を物色しようとしている泥棒かも知れない、
敏郎:「まあ、一日くらいやったら、…ええけど、」
いつの間にか、理由は不明だが、緊張の余り、地元訛りの関西弁が台詞の端々に混じってくる。
どこまでならOKなのか、何処から以上はNGなのか、…
僕は必死に、探り続ける、
敏郎:「ほな、…皺になるとあかんしな、…服、…これ、」
僕は、タンスの奥から、比較的綺麗なTシャツと、トランクスを取り出して来て、…
敏郎:「これ、…使こても、ええよ、」
それなのに、少女は、顔中真っ赤に紅潮させながら、コクリと頷いて、…
僕は、初めての体験に狼狽えて、最早心臓の鼓動は高血圧の限界を超えて、…
何が起こっているのか、置いてきぼりにされた侭ついて行けない侭に、…
少女は、徐に、ちょっとゴスロリっぽいドレスのボタンを外し、…
やはり恥ずかしいのか、僕に背を向けて、…
すっかり素肌の
僕から受け取ったワザと大き目のTシャツに袖を通して、…
綺麗な、長い髪を、たくし上げて、…
それから、ブラのホックを外し、…
つい今しがたまで直に少女の乳房に触れていたであろう薄いオレンジのブラを、…
僕は、少女が、Tシャツの下からそれを抜き取る仕草から、…目が離せない、
更に少女は、すくっと立ち上がり、…
今度はミニスカートの下から、…何故?だか、…
パンツを脱いで、…
僕は、少女が真っ白な下着から、艶かしい太腿を通して、可愛らしい踝から綺麗な爪先までをすっかり抜き取ってしまう仕草から、…目が離せない、
それから、少女は、僕の使い古しの(注、洗濯してあります)トランクスに、足を通して、…
最期に、ひらひらで飾られた黒いスカートを、すっかり脱いで、…
ちょこんとクッションの上に座りなおして、…
脱いだものを、きちんと畳む、
僕は、思わず生唾を飲み込んで、…
どこまでならOKなのか、何処から以上はNGなのか、…
必死に、探り続ける、
一体、この少女は何者なんだ?
僕を陥れようとする悪意の使者なのか?
それとも魔法使いに成れなかった憐れな童貞にもたらされた贈り物なのか?
何で、こんな美少女が、こんな所に居る?
何処にも、必然性の欠片が見つけられない、
考えられ得る妥当な代償として、もしかして僕は、いつの間にか死んでしまっていたのだろうか??
触ったら、…駄目だろうか?
もしかして、乱暴に触ったら、…正体を現すかもしれない。
それならそれで、お互いに取り返しのつかない事になる前に、事態を収拾できると言うモノだ。
それは、何一つ口を利かない少女に対して、もっとも正確に意思確認できる方法、…そうとも言える。
敏郎:「と、ちょっと、…さわっても、…ええかな、…君の事、」
これは、お互いの為の、まっとうな手続きなのだ、…
それなのに、その少女は、恥ずかしそうに上目遣いしながら、コクリと頷いて、…
僕は、渇くのに耐えられなくなって、何度も、みっともなく、唇を舐める、…
敏郎:「ほな、…ちょっとだけ、」
僕は、恐る恐る、少女の傍まで、いざりよって、…
少女の、その長い髪に触れて、…
少女は、ピクリ、と、…肩をすくませて、…
もはや、野生の侭に理性を失った僕は、…
何段階もの精妙な手続きをすっ飛ばして、…
乱暴に少女の肩を、抱き寄せて、…
その華奢な身体を、自分の膝の上に抱きかかえて、…
その暖かな、柔らかさを、全身の毛穴で、…噛み締める。
こんな、生き物が、世界には居るのだ、…
それは「発見」であり、「使命」でもある、
もしかして、もしかして、…この子が、何らかの罰ゲームを強要されているのだとしたら、
一刻も早く、そんな苦々しい状況から解放してあげなければならない、その為にも、…
僕は、少女の意思を、本当の気持ちを、浮き彫りにする必要が有るのだ、
敏郎:「あの、…、…ええかな、…き、」
これは、少女の為の、まっとうな手続きなのだ、…
敏郎:「き、…きす、…しても、…、」
そして僕はふと思いだす、…
エクレアを頬張る前、当然今朝家を出てからほぼ丸一日、僕は、歯を磨いていない。
それは、許される事なのだろうか?
勿論、歯槽膿漏とか、虫歯とか、そう言うのは無い、…
僕は煙草も吸わない、…
でも、乾ききってネトネトになった口の中の欲望を、…
こんな壊れ物の様な少女に触れさせたとしても、…
僕のこれからの人生は赦されるのだろうか?
それなのに、…
その、リアル萌え美少女は、少しだけ、ほんの少しだけ、困った顔をしながら、それでも、コクリと頷いて、…
目を閉じる、
僕は、…
……
………
気が付いたら、いつの間にか空が白み始めていた、…
既に、一糸纏わぬ姿に解けた、奇跡の様に美しい少女の裸体が、…
僕の布団の上で、すやすやと、寝息を立てている。
僕は、卓袱台に残ったシャンペンをラッパ飲みしながら(注、口の端からいささか溢しながら、)
会社を休む言い訳を、考え始めていた。
ところで、そんな回想から時は過ぎ、今日、僕は41歳の誕生日を迎えた、
と言う訳で、会社帰りにちょっと有名なケーキ屋で、売れ残っていたモンブランとエクレアを買占めする、
お蔭で僕の肝臓は、医者から余命宣言を拝領できるまでに肥大化し、
漸く僕にも、件の少女が一体何者なのか、理解できる様になった、
白い手すりの階段を上がると、2階の真ん中の僕の部屋の前に、…
一人の女の子が体育座りしている。
髪の長い、睫毛の長い、脚の長い、…
腰の細い、指の細い、脚の細い、…
瞳の大きな、胸の大きな、…
要するに世間一般で言われている美少女の類が、抱えた膝の隙間から、じっと僕の事を上目づかいに見つめている。
別に驚くほどの事でもない、…
よくある事だ、
敏郎:「ただいま、」
それから少女は、何も言わない侭、僕に向かってにっこりと微笑む、
勿論、こんな僕の事情を知る友達は居ない、と言うか友達がいない。
黄昏の境界線 ランプライト @lamplight
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
フォローしてこの作品の続きを読もう
ユーザー登録すれば作品や作者をフォローして、更新や新作情報を受け取れます。黄昏の境界線の最新話を見逃さないよう今すぐカクヨムにユーザー登録しましょう。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます